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現場での殺人

翌日、欣司は午前十時前に学校に着くと、二階の奥のほうにある生徒会室に向かった。生徒会室前に着いたら、千代達女子四人組はもうすでに来ていた。

「もう来てたんだな」

「ついさっき来たばっかなの。あと石原君と宇治原君の二人だけよ」

奈津は腫れた目を欣司に向けて言った。

「中田、大丈夫か? なんか目が腫れてるけど…」

奈津を気遣う欣司。

「大丈夫よ。心配してくれてありがとう」

強がっている奈津に、欣司の中に一刻も早く事件を解決しなければという思いが、より一層強くなってきた。

「遅くなってスマン!」

良樹と匠が息を切らせて走ってきた。

「オレも今来たとこなんだ。隣の教室に行こうか。先に聞きたいことがあるんだ」

隣の教室に移った七人は、机をくっつけて話を聞くという形になった。

「聞きたいことってなんだ?」

匠が欣司に聞く。

「事件のことなんだ。警察の尋問みたいになってしまうけど、そこは許して欲しい」

「警察よりマシだって…」

昨日の取り調べと比較しながらの匠。

「一昨日、生徒会が終わったのが午後五時。その時、宇治原は一人で残って仕事をしていた。宇治原が生徒会室を出たのが、五時半だったよな?」

「うん。仕事が終わって、職員室に鍵を戻したってわけさ」

「五時からの三十分間、何かなかったか? 誰かに見られてるとかそういうこと。なんでもいいんだ」

欣司の質問に、しばし考え思い出そうとしている。

「いや、そういうことはなかったぜ」

「そっか。六時前に職員室に変な電話がかかってきて、山川先生と寺田先生が校内を見回った。その間に事件が起こったということか」

そう言うと、欣司は黙ってしまう。

「宇治原、お前が職員室に鍵を返した時間帯って、山川先生と寺田先生の二人しかいなかったんだよな?」

良樹は確認するように言った。

「そうだ。ほとんどの先生は帰ってたし、部活の顧問の先生は部活のほうに行ってたみたいだしな」

「二人に不審な様子は?」

次に聞いたのは欣司だ。

「それは全くなかった。二人仲良く喋ってたし…」

頬杖をつく欣司に、

「山川先生と寺田先生は犯人と違うんじゃないの?」

瞳は口を挟む。

「それがそうとも言えないんだ」

「えっ? どういうこと?」

欣司の一言に、一同は驚いている。

「寺田先生は中田と野上のモデルのことで色々と面倒を見ていた。それにウザくなった野上は生徒会室で寺田先生を襲おうとして、逆に殺られてしまった」

「なんで生徒会室なんだよ?」良樹は不思議な表情をする。

「前に友達に聞いたことがあったんだ。野上は寺田先生に“生徒会室に通うな”って言われてたって…。多分、それで野上は生徒会室に呼び出して、寺田先生を襲おうとしたんじゃないかって思ったんだ」

欣司は友達に聞いたことを思い出していた。

「確かにまどかは生徒会室に通うなって寺田先生に何度も注意されてて、私も知ってるよ」

「なんでそんなこと言うんだよ?」

「さぁ…私にもわからない」

奈津にもなぜ寺田先生が生徒会室に通うな、と言っていたかはわからないようだ。

「山川先生は…?」

「山川先生の場合は、寺田先生同様、“役員でもないのに生徒会室に来るんじゃない”って言ってたみたいだしな。これも友達から聞いたんだけどな」

「どっちかが変な電話をかけたってわけ?」

千代が信じられないという口調で聞く。

「多分な。状況的には無理なんだけど、もしどっちかだとしたら何か使ってやったんだろうな。それにオレらの中に犯人がいるかもしれないからな」

「そんな…。欣司君は私達を疑ってるの?」

佐紀は欣司の制服の袖を引っ張る。

「オレだって疑いたくはない。オレら以外に野上の友達が…ってこともあり得るけど、一応オレらも犯人の中の一人ってわけだ」

ため息まじりで言う欣司に、納得してしまう六人。

「そうだよね。警察からすれば私達も犯人の一人なんだよね。なんか悔しいけど…」

瞳は唇を噛み締める。

「とりあえず、もう一度…」

そう言いながら、立ち上がる欣司。

「どこ行くんだよ?」

「現場に行くんだよ」

「生徒会室に行くの?!」

千代の驚く声に、欣司は笑顔で、

「そういうこと。細かいことも見落としてるかもしれないからな。丸山、生徒会室の鍵貸してくれよ」

欣司は瞳から生徒会室の鍵を受け取ると、教室を出て行った。






それから二日が経ち、またしても事件が起こってしまった。再び、生徒会室で中田奈津が殺害されたのだ。

「次は中田奈津か…。野上まどかと一緒でモデルだったな」

相田警部は奈津の死体を見つめ言った。

「警部!」

「あぁ…小川君か。中田奈津が殺害されたよ」

「中田さんまでなんで…? あんなに必死で野上さんが亡くなった理由知ろうとしてたとこだったのに…」

瞳は涙目になりながら言う。

千代と佐紀も今にも泣き出しそうな表情をしている。

「野上と一緒だな」

「どういうことだ?」

「ほら見てみろよ。中田のナイフの持ち方も順手になってるだろ?」

五人に奈津が持っているナイフを見るように言った。

「じゃあ、中田さんも誰かを襲おうとしてたの?」

佐紀は聞くが、涙声になっている。

だが、欣司は何も答えずに黙ったままで、奈津の死体を見つめ、何か考えている。

「欣司君…?」

「ん? ああ…事件のこと詳しく聞きたいんだ。いいか?」

「こっちもそうしようと思ってたとこだ。さぁ、会議室に行こう」




「一昨日と昨日は、土・日で学校が休みだったが、一昨日、小川君達は学校に来ていた。何か用があったのか?」

相田警部は聞く。

「小川がオレらに聞きたいことがあるって言ったから来てただけだよ」

匠が不機嫌そうに答えた。

また疑われるのかと思っているのか、不機嫌に加え二人の警官を睨んでいる。

「宇治原君、そんなに睨まなくても…」

三宅刑事は苦笑しながら言う。

「刑事さんがオレのこと犯人だと疑ってるんじゃないかって思ってるだけです」

そう言うと、匠はプイッと顔を横に向けた。

「別に犯人だとは…」

相田警部はやれやれという表情をした。

「中田さんが殺害されたのって昨日なの?」

「そうだよ。昨日の午後四時から六時までの間だよ」

「日曜日でも校内に入れるんですよね?」

三宅刑事は山川先生と寺田先生に聞く。

「はい、部活動がありますので…。部活によって、始まりや終わる時間は異なりますけどね」

山川先生が答えるが、どこか疲れきった表情をしている。

それは寺田先生にもいえる。寺田先生にとっては、自分が担当していたモデルである二人の女子生徒が亡くなってしまい、心のダメージが大きいのは確かだ。

「正門が閉まるのは何時ですか?」

「大体、午後七時頃です。しかし、昨日は午前中で全ての部活動を終えていたんです」

寺田先生の説明に、二人の警官はえっという表情をした。

「昨日の午前十一時に竜巻が発生して運動場が危険な状態だったんです。体育祭は勿論、文化系の部活動の生徒にも早く変えるように指示していたんです」次に山川先生が昨日の出来事を話した。

「そうだったんですか。では、午後から生徒は誰もいなかったわけですよね?」

「そうですね。忘れ物を取りに来た生徒とかはいたかもしれませんが…」

山川先生はイスに深くもたれかかって答えた。

「正門の鍵は誰が…?」

「用務員の方です。用務室の奥のほうに鍵はあると思います」

「じゃあ、盗むことは…?」

「出来ると思います。用務員の方は、一日三回校内の見回りをしていて、それ以外は事務的な仕事をしています。見回りの時にでも用務室に入ることは可能ですね」

寺田先生は疲れきった声で答えてくれる。

二人の教師の説明を聞くと、相田警部はわかったという表情をした。

「さっき西岡さんが中田さんも誰かを襲おうとしていたのか、という質問なんだが、小川君はどう思っているんだ?」

相田警部も順手になっていたことを気になっていたようだ。

「野上の時は、野上が誰かを襲うつもりでナイフを持ってたんだって思ってた。でも、オレはとんでもない勘違いをしてたのかもしれない」

「どういう意味だ?」

「二人は誰かを襲おうとしてたんじゃなくて、犯人によってそうされた可能性があるんだ」

欣司は腕組みをして言った。

「あのケ―タイのストラップとハンカチタオルはどう説明するんだよ?」

「多分、宇治原を犯人に仕立てあげるだけで何の意味も持たないものじゃないかって思うんだ」

「なんでケ―タイのストラップとハンカチタオルなんだ?」

相田警部は顎をさわり首を傾げる。

そう聞かれると、欣司にもわからない。

「なんのために順手にしたんでしょうか?」

瞳は相田警部の顔を窺うように聞いた。

「それは小川君に聞いてくれ」

お茶を飲みながら言う相田警部。

「オ、オイ…丸山はオレじゃなくて警部に聞いてんのに、オレが答えてどうするんだよ?」

欣司は慌て気味になる。

「小川君なら僕らよりよく知ってるからな」

「知らない事が多いって。警部も冗談が過ぎるんだから…」

「何言ってんだ。実際、僕らよりも早く事件を解決してるじゃないか」

笑いながら言う相田警部。

「そりゃあ、そうだけど…。丸山の質問に答えるけど、野上の場合も中田の場合も、犯人は加害者じゃなく被害者になるようにする。そして、二人が順手によって死んでいれば、自分は正当防衛となる。そういうことだ」

「犯人が正当防衛だと言わなかった理由は?」

これも瞳だ。

わからないことがあれば、とことん聞いてしまう性質なのだ。

「もし正当防衛だと言って、警察に自分のことを調べられたらバレてしまう。だから言わなかったんだ」

「そうだよね。下手に出れば自分が犯人だと言ってるようなもんだもんね」

千代の一言に、良樹は頷いた。

「小川の言ってることが当たってるんだったら、先生達も犯人の一人ってこと?」

「石原、余計なことを言うな」

山川先生は良樹に注意する。

「すいません…」

小さな声で謝る良樹。

「聞くの忘れてましたけど、みなさんのクラスを教えて下さい」

三宅刑事は思い出したように聞いてきた。

「オレと千代は佐紀はC組」

欣司はまとめて三人のクラスを言う。

「オレはB組だ」

匠の続きに瞳が、

「私と石原君はE組です」

六人のクラスを書きこんでいく三宅刑事。

「中田さんと野上さんは?」

「中田はC組、野上はD組です」

良樹が答えた。

「山川先生と寺田先生は、てのクラスをお持ちになっているんですか?」

「私は三年…この子達の学年主任をやっています」

山川先生は震えながら答える。

「どうしました?」

「少し寒くて…。職員室に上着があるんで取りに行っていいですか?」

「三宅に取りに行かせます。山川先生の上着を取りに行ってこい」

三宅刑事は返事すると、会議室を出て行った。

「寺田先生は?」

「一年D組です」

「あの…警部、ナイフのことなんだけど…」

佐紀は遠慮がちに相田警部に声をかけた。

「なんだい?」

「ナイフには中田さんの指紋しかなかったの?」

「そうだよ」

相田警部は手帳の前のページを見てから答えた。

「そっか。ありがとう」

気になっていたことがわかったせいか、佐紀はホッとした表情になる。

その時だった。三宅刑事が息を切らせて、会議室に戻ってきた。

「どうした? 三宅」

「寺田先生が中田さんに言い寄っていた、と他の先生方から聞いたものですから…」

三宅刑事は一気に言った。

「どういうことですか? 寺田先生」

優しい表情から険しい表情に変わった相田警部は、圧力をかけたような声で聞いた。

「そ、それは…一度だけです! 本当なんです!」

「ほぅ…一度だけ、ですか?」

寺田先生に疑いの目を向ける二人の警官。

「そうです。まどかが亡くなった翌日に二人で話し合いはしましたけど…」

動揺はしているが、言葉は確かな寺田先生。

「話し合いとはどのような内容ですか?」

「まどかが亡くなって今後についてのことです」

「今後についてとは…?」

三宅刑事は手帳に書き込みながら聞いてくる。

「まどかがいなくても活動していくかどうか、ということです」

「中田さんの答えは?」

「“私一人でもやっていけます。まどかの分まで頑張ります”って、きっぱりと言われました」

「そうなんですか」

まだ少し疑っていたが、一応納得したように手帳から目を外した三宅刑事。

「そもそもなんで寺田先生は二人に…?」

「校長先生に頼まれたんです。“二人はモデルとして活動するから、卒業まで面倒見てくれ”って…」

「校長先生に指名されたってわけですね?」

「そうです」

寺田先生の答えを聞くと、相田警部は三宅刑事の耳元で何かを言った。

それがなんなのかは欣司にはわかっていた。

「今日はここまでです。みなさん、お疲れでしょう。帰ってもらって結構ですよ」

相田警部は立ち上がり言った。

「やっと終わった」

良樹は伸びをして言った。

「もう五時になるんだね」

瞳は手元の時計を見る。

「警部達は署に戻るの?」

千代の質問に、

「いいや、まだ学校に残るよ」

「大変だけど頑張ってね!」

二人の警官に頑張れコ―ルを送る千代。

そして、二人の警官はそそくさと会議室から出て行った。

「さぁ、遅くなってしまったから帰りなさい」

山川先生は机の上を片付けながら言う。

欣司以外の全員は、きちんと返事をした。





会議室を出ると、全員は疲れきった表情でゾロゾロと廊下を歩く。

「欣司君、ホントに残るの?」

佐紀が心配そうな表情をする。

「うん。警部達ともう少し話がしたいし…」

「どこにいるかわかってんのか?」

「あぁ…大体はな」

「ホントに事件好きねぇ…」

瞳は呆れ顔だ。

「それは言えてる。小川、あまり事件に深入りすると、オレみたいに犯人にされてしまうぜ」

匠は友達として忠告する。

「大丈夫。オレは犯人の手に乗らないつもりでいるし…」

「ヤケに強気。まぁ、いつものことなんだけとね」

千代がそっと横目で欣司を見る。

「強気もオレの取り柄の一つだし…」

「オレらはこれで帰るけど、無理だけはするなよ」

「オゥ! じゃ―な!」

欣司は全員に手を振ると、二人の刑事がいる場所へと向かった。


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