二人のモデル
もうすぐで暑い夏から風が涼しくなる秋になろうとする頃、二人のモデルの撮影が行われていた。撮影現場は二人が通う反岡高校の中庭だ。
いつもなら他の場所で撮影を行うのだが、二人のモデルがどうしても自分達が通う高校で撮影がしたい、と申し出たため、校長に許可を取り、特別に撮影が許されたのだ。
「奈津ちゃん、そこの木の側で寄り添うように立ってみて」
「まどかちゃんは五m先から歩いてみて」
スタッフの声が飛び交う中、小川欣司達はスタッフの後ろで見ていた。
「二人共、すごいよね。背は高いし、カメラの前に立つと嫌な事あっても笑顔だもん。さすが、プロのモデルだわ」
欣司の幼なじみの林田千代は、感心しながら言う。
「そうだね。高校生でモデルになろうたってなれるもんじゃないもん」
欣司のもう一人の幼なじみの西岡佐紀も同感したように言う。
一枚一枚に刻まれる二人の表情は、時に楽しそうだったり切なかったりとくるくると回る。二人が出ている雑誌は、中高生向けの雑誌で、恐らく二ヶ月後には、今回の撮影した写真がのせてあるだろう。
「お! 小川!」
「石原達じゃね―か! どうしたんだよ?」
「オレらも見に来たんだよ。なっ? 宇治原」
「そうだ」
欣司達の高校の生徒会長の石原良樹と、副会長の宇治原匠の二人が、欣司の隣に立つ。
「ホント、二人は綺麗よね」
背後から三つ編みをした小柄な丸山瞳が言った。
瞳も副会長である。
「丸山も来てたのか?」
「うん。自分のやりたい事が出来るなんてすごいことじゃない? 自分のやりたい事を認めてもらうなんて難しいことだもん」
瞳は二人のモデルを見つめて言った。
「まぁね。二人は中学時代からモデルだけど、きっと辛い事もたくさんあったんだろうな…って思うな」
千代は中学時代に自分が買っていた雑誌を思い出していた。
「そういえば、宇治原君、さっき山川先生が探してたよ」
瞳は思い出したように匠に言う。
「マジで?」
「職員室に来るようにって…」
「わかった。サンキュ、丸山」
瞳に礼を言うと、匠は小走りで職員室へと向かって行った。
「宇治原君ておっちょこちょいだけど、意外と人気あるんだよね」
千代は匠の後ろ姿を見ながら言う。
「確かにね。前からカッコイイって声があったけど、副会長に当選してから下級生にもモテるようになったんだよね」
「そうそう。モテる奴はいいよな」
良樹は羨ましげに言った。
「石原君だって優しそうだって言われてるじゃない」
佐紀はフォローしてみせるが、
「所詮、優しいだけではモテないんだって」
と、遠くを見つめて呟いた良樹。
「オイッ! 君達うるさいぞ! 撮影中なんだから静かにしてくれないか?!」
二人のモデルの担当教師で、ヘアアレンジにやけに詳しい寺田先生が、欣司達を睨みながら怒った。
「すいません」
代表で良樹が謝る。
「今後、気を付けてもらいたい」
そう言うと、寺田先生は前を向いた。
「校舎の中に入ろうっ!」
瞳は踵を返して、校舎の中へと入っていく。
「なんだよ、アイツ…」
欣司は怒りをあらわにする。
「仕方ないって…。寺田先生は二人の担当してるんだし…」
佐紀は欣司をなだめる。
「そうだけどアイツはどう見てもロリコンでセクハラ教師としか思えね―よ。そんな寺田の肩を持つんだよ?」
怒りを佐紀にぶつける欣司。
「肩なんて持ってないよ。そうやって決めつけるとこが、欣司君の悪いとこなんだから…」
「小川君もそんなに怒らないの」
瞳の一言にシュンとなる欣司。
「まっ、二人の撮影が見れたんだしいいじゃないか」
良樹はその場の空気を変えるように、笑顔で言った。
翌日の昼休み、欣司達三人は瞳に一緒にお昼をしようと誘われて、生徒会室にやって来た。生徒会室には役員以外にも二人のモデルの中田奈津と野上まどかも来ていた。
「西岡さんと林田さんて仲良いよね」
ストレートのセミロングを耳にかけながらまどかが言う。
「うん、幼なじみだからね」
「小川君もだっけ?」
奈津は玉子焼きを口にしながら聞く。
「そうよ。なんでこんな奴と幼なじみなんだろ…」
千代はボソッと嫌味のように呟いた。
「なんだよ? 仕方ないだろ?」
「嘘よ、冗談よ。ちょっと嫌味のように言ってみただけ…」
千代はフフフ…と不敵な笑みを浮かべる。
「なんだ…」
ホッとした表情を見せた欣司。
「お前、面白がられてるよな」
ケラケラと笑いだす良樹。
「うるせ―な。幼なじみだからこういうこともあるんだって」
「それにしても、中田さんと野上さんてよく生徒会室に来るよね?」
瞳は女子達だけで話を出来る話題に変えた。
「まどかがこの生徒会役員の中に好きな人がいるんだって。ねっ?」
奈津はまどかのほうを見る。
「まぁね。一方通行の片想いだけどね」
「え――っ?! ホントにっ?!」
頬を赤くするまどかに、驚く女子一同。
「誰なのっ?!」
少し興奮気味の瞳は、身を乗り出してまどかに聞く。
「内緒よ。そのうち告白するつもりよ」
まどかはウィンクをしてみせる。
「私達の学年以外にも、下級生もいるからいつかわかるか。人数少ないしね」
佐紀は弁当箱を片付けながら言った。
「オイ、石原…」
欣司の隣に座る良樹が、女子を見ながら悔しそうな表情をしていたのに気付いた匠は、良樹の顔を覗きこむ。
「え? なんだよ?」
「なんかボ―ッとしてる」
「あ、いや、なんでもないんだ」
良樹は顔を横に振りながら下を向く。
「あの五人の中に好きな女子がいると見たね」
欣司がそう推理すると、良樹は顔を赤くさせながら、
「好きな人なんでいね―よ」
身ぶり手振りが大きい。
「小川、図星みたいだぜ」
「そうみたいだな。赤い顔が証拠ってわけだ」
「お、お前ら…」
良樹は苦笑してしまう。
「今日、生徒会サボってみんなで遊びに行こうか?」
突然、匠が提案する。
「今日は山川先生に何か用頼まれてるんじゃなかった?」
「あぁ…そうだった。じゃっ、明日は?」
「明日もダメなんじゃない? 明後日に検定があるって言ってたし…。勉強しなくちゃ」
「検定あるの忘れてた。全然、勉強してない。なんとしてでも検定に合格しね―と…」
バツが悪そうな表情で頭をかく匠。
「検定が終われば、みんなで遊びに行こう。来週、私達仕事ないから…」
奈津が匠に気を遣ってくれる。
「えっ? いいのかよ?」
「いいよ。たまにはみんなで遊びに行きたいもん」
「そうよ。私達だって普通の女子高生なんだからね」
奈津とまどかは交互に笑顔で言った。
「じゃあ、週明けの月曜日ってことで! 石原、お前が貸して欲しいって言ってたマンガ貸してやるよ! オレの教室にあるんだ。行こうぜ!」
「オゥ!!」
良樹は立ち上がりカバンを持つ。
「宇治原君、山川先生の用が終わったらちゃんと生徒会室に来てよ」
「ヘイヘイ。言われなくても来ますよ、副会長の丸山さん」
適当に返事して、匠は良樹と出て行った。