第5話 ある異世界勇者の診断結果
マルクの名乗りに女性看護士と疲れ顔の男性医師は驚きを隠せない
医師は少し考えてから未だにサンドバッグと打ち手の関係にある太一の両親に話しかける。
『お父さん、お母さん。どうやら記憶の混濁は間違いないようですね。脳波もCTも異常はなかったので、事故のショックによる一時的な物だとは思うのですが。太一君は元々こういった中二……いや、夢のある言動や妄言など口にするような残念……コホン、ファンタジーな子供でしたか?』
医師として、むしろ人としてどうなのか?という本音駄々漏れの質問に対して弘子はいつから装備していたのかオープンフィンガーグローブを外しながら答える
『いいえ~、確かにインドア趣味でアニメやゲームは好きでしたが~、現実との線引きはしっかり出来ていたと思います~』
10オンスグローブを外しながら奈菜も
『確かにねくらでオタクなお兄ちゃんだけど、まだ【進化】はしてなかったの。机の中に「俺の書(始動篇)」っていう題名のかかれた大学ノートはまだなかったの!』
『アンダー70トップ92のEかFか……メーカーによってだな……』
と将太は男の夢について語っている。
医師の様々な質問に太一《マルク》は「王国が……」とか「4国協定勇者が……」とか会話のキャッチボールというよりは医師の投げ掛けた質問を全て場外ホームランで弾き返している
しばらく問答を続けた後に医師は決断を下す。
『解離性同一性障害、所謂多重人格症候群ですね。』
と病名を発表した
『性同一性障害って女の子が自分の事を男の子だと思っている。とかその逆とかそういう感じの病気じゃなかった?』
羽交い締めからチョークスリーパーホールドに以降していた由香が呟くように質問する
『性同一性障害はそうですね、こちらは解離性同一性障害という別の病気ですね。健忘症も疑ったのですが忘れているというよりは、別人格が存在しているような感じなので』
『先生、それは治るのですか?』
美久が不安そうに問いかける
『一過性のものもあれば、このままという場合も……とにかく様子見しましょう。ご家族の皆さんはとりあえず何度も現状の説明をして、こんな中二な塊を世の中に……っと、失念しました。彼に世間一般常識を教えてあげて下さいね。』
『それでは~今後のお話と事務手続きが有りますので~ご家族の方どなたか~ご一緒にお願いします~♪』
女性看護士が言うと、いや……言う前には動き出していた将太が
『看護婦さん、さぁ参りましょう。』
と病室のドアを開けてジェントルなエスコートをしている
由香がおもむろに仰向け寝そべり足をあげる、そこへ奈菜が飛び乗るとまるでカタパルトで発射されたかのように奈菜が将太に向けて宙を飛ぶ、スカイラブ〇リケーンだ!
奈菜の頭突きを喰らった将太はその場に崩れ落ちる。その隙に弘子が看護士、医師と共に出ていく。
『さてさて、困った事になったね。どうしようかね』
惇はお手上げと手をあげた
医師との会話後から一人でブツブツ言っている太一を見ながら美久が
『とりあえずお父さん、お母さんとおじいちゃんは一度戻ったら?会社と夏帆さんにも説明しなきゃでしょ。流石に1人では大変そうだから奈菜ちゃんと一緒に太一から色々話聞いて見るよ。』
『そう……だな、うん、わかった。そうしよう由香。』
『そうね。夏帆ちゃん心配してるわよね。じゃあ英太郎さん帰りましょうか』
『……ああ』
チラリと太一を見ただけで英太郎は立ち上がり病室を出ていった
『じゃあ美久、よろしくな。弘子に後でまた来るって伝えておいてくれな』
『太一ちゃん、また来るわね。奈菜ちゃんばいばーい♪』
惇と由香も病室を出ていった。
人口密度の減った部屋に美久の声が反響する
『あ~!将太さん持って帰ってもらうの忘れた~』
『グスン……持って帰るって、美久ちゃん俺荷物じゃないよ』