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第4話 ある異世界勇者の【進化】認定

『俺はマルク=カーリン

ロキソニア王国の南部防衛街ボルタニア辺境伯爵、またメーディス4国協定に選ばれた勇者でもある。まずは俺を助け運んでくれた事、感謝しよう。』

太一がベッドに立ち上がりいきなり大声で言い放った。


『なぁ?奈菜よ、確か今年の秋アニメに転生物の話があったよな?小説投稿サイトから書籍化したやつ。』

将太は奈菜に向け首を傾げながら囁きかける


『あぁ、あるね。でもあのアニメは勇者系じゃなくて確か内政チート物だったはずなの。』

奈菜が将太の耳元で同じように囁く


『じゃあ、前クールで不評だったあのアニメのセリフか?』

『ん~多分違うと思うの。あのアニメは私もお兄ちゃんも最後まで見なかったもん。』

親子二人は寝ぼけて新たなる、そして大いなる黒歴史を皆の魂に刻み込んでしまった目の前の【漢】をまるで二昔程前に流行った一発屋リズム芸人の某歌ネタのように全身全霊でその漢の発言を「右から左へ受け流そう」としている。


『え~と……太一君、それは君が意識を失っていた時に見た夢の話だよね?』

惇も腫れ物に触るかのように恐る恐るたずねた。


『太一、勇者になったのね~すごいわ~』

自称勇者の魂の叫びをそのまま正面からがっぷり四つ受け止める弘子


『太一ちゃん、それは無いわ、私はそこまで進化しちゃった太一ちゃんはあまり好きくないよ。』

ごく一般的な中学男子は大体一度は【進化】してしまうのだ、それを知らない由香は冷たい視線を送っている


『……』無言を貫くじじい様


『太一、喉渇かない?お水飲む?』

美久も聞かなかった事にするようだ


『それで、誰が俺を助け運んでくれたのだ?』


 先の発言によってその場を席巻した周囲の様々な反応や空気をマルクは気にすることなく話を進めていく


『えっと、救急隊員さん……かな?』

美久の呟くような答えに他の面々も顔を見合せ頷く。


(救急隊員?王国が専門の治癒術士を後発隊として送ってくれていたのか)


『王国の治癒術士達か?よくあの部屋から俺を助け出せたな。

(もしかして俺は脱出結晶で魔王城から脱出出来ていたのか?)

詳しい話を聞きたい、王国の治癒術士を呼んでくれ』

立ち上がっていたマルクが座りこみながら命令を下す


『その設定まだ続ける気か……』

『お父さん、きっと私達の反応が薄かったからなの。全力のボケが滑りまくったら開き直ってしまうしかないの……』

将太と奈菜はまだ互いの耳元で囁きあっていた


『王国さんの治癒術士さん達は来るかわからないけど~、病院さんの看護士さん達はもうすぐ来ると思うわよ~。さっき美久ちゃんがナースコールしてくれたから~』

ゆったりとした口調は弘子だ


『あ、はい。太一が目を覚ましたときに押しておきました』


『ん?太一が目を覚ましたとき か

太一が目を覚醒ましたとき かどっちだろう?』

『お父さん、美久ちゃんの事だから「覚ました時」だと思うの』

父親の意義同音を感情のみで理解してしまう十分に【進化】している奈菜、所謂「ニュー○イプ」か!


『お前らは……』

そんな【進化論】を続ける親子に呆れ顔の惇である



 ちょうどその時に病室のドアがノックされて女性看護士と疲れ顔の男性医師が入ってきた。


『結城さ~ん、目が覚めたんですね~。どこか~具合の悪い所とか~、ないですか~?』

キャラが被るからやめろ!と頭上で誰か(作者)の声が響きそうな、弘子同様に間延びしたのんびりした声で女性看護士が太一に声をかける


 男性医師が太一のあちこちを観察、触診していく


『お前達が俺を魔王城から助け運んでくれた者なのか?』

マルクが看護士と医師に視線をたっぷりと上から下まで何かを観察するかのように送りながら聞く


『魔王~?よくわからないけど~ここは病院で~、私は看護士さんで~こちらはお医者さんですよ~。それから~結城さ~ん、あんまり女の人の~胸やお尻を~、そんなにジロジロ見ちゃダメですよ~♪』

じっくり観察された女性看護士がくねりながら太一に言うと、太一とは違う方向から返事が聞こえた


『はい、スミマセン』

いつの間にか看護士のすぐ近くに短距離転移していた将太だ


「お前か!」と家族と家族同様の周囲からジト目を10個位浴びせられても、

彼の視線は女性看護士の胸元から動かない!彼はこの瞬間に己の全てを掛けるつもりなのだ!


 弘子や奈菜、由香に羽交い締めにされサンドバッグと化している将太を目の隅に追いやり美久が医師に向かって問う

『先生、太一はどうですか?』


『そうだね。検査結果も異常ないし、目も覚ましたし、今観察した所問題はなさそうですね。』

と太一を触診しながら美久に向けて話す医師


『良かった……ただ先生、どうやら太一夢を見ていたのか随分記憶が混乱してしまっているみたいなんです。』

と美久


『なるほど、結城さん?わかりますか?ご自分の名前言えますか?』

と医師は太一に声をかける


『だから、貴様が俺を助けてくれたのか?と聞いている!』

マルクも医師に聞き返す


『そうです。まぁ助けたといっても怪我も特にありませんでしたし、検査しただけですけどね。』

『怪我が無かっただと?俺は魔王の大鎌によって真っ二つにされたはずだが……では質問を変える、俺を癒した治癒術士はどこにいる?貴様は俺がこの「施術院」に運ばれて来てから俺の看病をしていた治癒術士なのであろう?俺を治し、ここまで運んだ優秀な治癒術士がいるはずだ』


『魔王に真っ二つ……、とりあえず結城さん。私が知っている状況を説明致しますね。』

と医師は説明を始めた


 マルクは半分も理解出来なかったがどうやら高い場所から落ちて意識を失い此処に運ばれたって事らしい。しかし何故かみんな俺を「結城 太一」と呼ぶ


 マルクはもう一度名乗りをあげる

『俺はマルク=カーリン

ロキソニア王国の南方防衛町街ボルタニア辺境伯爵でメーディス大陸の勇者でもある。』



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