第2話 ある異世界勇者の意識の覚醒
マルクは深い海の底のような場所にいた。それは暗く太陽の光も届かない深海での浮遊感何かに包まれているようなしかし締め付けられるような圧迫ではない、母親の胎内にいる胎児が感じるような安心感だ。そこからゆっくりと朝日が昇るかのように段々と明るく、そして水面に徐々に上がってきているような浮上感。やがて水面であろう場所に近づくと眩暈が起きるほどの閃光
。
マルクはゆっくりと目をあける
目を開けたマルクは天井を見た。それは見知った天井ではない、板でも土でも石作りでもない真っ白な素材、そこにまるで<ライト>の魔法を5~6個並列起動したような細長い光源が2列で1組、それが天井に全部で2組4列並んでいた。ということはこの光源を作り出した人物は少なくとも20個以上の魔法を並列起動させているということである。マルクも並列起動はできるが生活魔法という初級魔法に分類されている<ライト>だとしてもせいぜい10個位が限界、まがりなりにも勇者である自分が10個の並列起動が限界なのに20個以上起動させているというのは現実的ではない。但し、自分であればスキル<並列思考>と併用すれば出来なくもないが、ならばおそらくこの光源は魔石で起動させておくタイプのものだろう。
現に王都や商業都市では光源以外にも台所、風呂、トイレ、上下水道など魔石による生活向上便利家具というのは王族、貴族、豪商達には流通していて普及されていた。
かくいう勇者宅である我が家にもそれは使われている。
そんな事を考えていたら突然頭の上から大きな声がかけらるれ。
『太一!太一!わかる?わかる?お母さんよ?良かった。どこか痛い所とかない?頭は?腕は?足は?体は?』
一息にまくし立ててくる30代であろう女性、誰であろう?見たことが無い、それよりも一息にそれだけの言葉を吐き出せるこの女性の肺の大きさはどうなっているのだ?と呑気な事を考えてしまったマルク
『太一!目がさめたのね!良かった。』
声のするほうに目を向けると黒髪、黒目の少女がびっくりしたようなそれでいてどこか安心したような表情を浮かべていた。
少女はまだあどけなさの残るがしかしどこか大人っぽさも併せ持つ、自分の感覚から見ても美人のカテゴリーに分類されるであろう容姿にこちらからでは見えないがおそらく背中くらいまで長いであろうまっすぐできれいな黒髪、身体は見上げる形でみる限りで は見た目の歳相応よりは発育していそうなスタイル、服装がなんだかおかしいがそれで も十分に他人の目を惹き付けるであろう。
(若すぎるな……14歳前後か?あと2年程経ったら俺のゾーンに入るな。)
そんなことをぼ~っと考えていると今度はあちらこちらから一斉に声を浴びせられた
『太一!よう、空中遊泳ってどんなだ?』
から元気なようなトーンで複雑な表情で話しかけてくる30代後半であろう男性
『お前……今それ言うことか?太一君、無事でよかったよ。』
と半ば呆れた感じで先の男を睨んだ後、俺を見て優しい笑顔を見せるやっぱり30代であろうイケメン男性
(空中遊泳?中級風魔法<フライ>なら使えるが何故この男が知っている?ああ、まぁ俺は勇者だしな。そりゃ有名なのは当たり前か)
『太一ちゃん、目が覚めて本当に良かった……』
目に涙を浮かべながら俺の手を握る金髪でも茶色でもない亜麻色と表すのが一番近いであろう肩よりも少し長いであろう髪をサイドテールにしている女性
(この女は30代にかかったくらいか?いい女だな、目が覚めて?ん?俺はどういう状況だったんだっけ)
『ん~、むにゃむにゃ……、お兄ちゃん起きたの?』
目をこしこししながら人の輪から少し離れた窓際のソファに老年の男性に膝枕されていた10歳前後のかわいらしい少女
『……』
無言であるが何か含みがあるような眼でこちらを見ている老年の男性
肺の大きな女になんだか大雑把な男、イケメン男にいい女、2年後女と少女に雰囲気がある老年男性 観察すると概ねそんな感じだ。
(しかし、みんな変な恰好だな……例え室内着だとしても肌が出すぎですぐに鎧や装備を付けられないではないか。俺の領民であったならば説教だな。)
まず太一って誰だ?とマルクは思う。今までかけられた、いやいまだに浴びせ続けられている声は間違いなく自分に向けられた物だというのは間違いない、でも自分は太一などという名前ではない。よしまずは状況確認だ。
皆が騒いでる中、美久はそっとナースコールボタンを押した。




