第1話 ある異世界勇者の目覚め
少年は昨夜遅くにこの病院に救急搬送されてきた。救急隊員の話によると近くのビルの屋上から転落した人がいると通報が入り急いで現場へ向かったらしい。そこには少年が倒れていた、が 隊員が駆けつけて少年を確認すると傷一つ無くただそこに眠っているのではないかと思ってしまう。しかし現場には多数の目撃者がいて確かに上から少年は落ちてきたと。救急隊員は外傷が無くとも頭部や内臓などの損傷などがあるかもしれない、とにかく病院へ搬送しようと現場からさほど離れていないこの病院に搬送したのだ。
少年は病院で外傷が無い為に、様々な精密検査をされていた。
結果は異常無しである。
少年の身元はすぐに判明した。少年は身元を確認できる物は何も持ってはいなかったのだが、少年の母親が帰りの遅い息子を心配して警察署に相談をして捜索願を出そうとしていたからである。そして病院から連絡を受けた母親が飲み歩いていた父親にすぐに連絡、母親は家にいる家族に声をかけて急いで病院へ向かったのだ。
少年の父親は母親からの電話を受けて一緒に飲んでいた親友であり同僚である男に事情を説明し、すぐにタクシーへ乗り込んだ。また事情を聞いた親友の男もすぐに行動を起こした。少年は娘と幼馴染であり自分としては息子のように思っている、家に電話をかけ妻と娘にも病院へ向かう途中で拾うので準備をしていてくれと。少年の両親の事だからきっと何も準備もせず飛び出して行っただろうから少年の家から必要な物も用意しておくように指示をする。男も店をでてタクシーで家へ向かった。
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都内のある私大病院の一室
そこにはまだ早朝だというのに、決して広すぎる訳ではない病室という空間に実に7人もの人がベッドに横たわる人物を皆が心配そうに見下ろしていた。
ベッドに横たわるのは少年、年相応よりは大分幼く見える。小学生だと言われても違和感を覚えることもないだろう。
少年の名前は「結城 太一」14歳 中学2年生身長は138cm同学年ではかなり小柄な方だ。大雑把で豪快な父には似ず、どちらかというとのんびり屋な母親似。優しく暴力が嫌いで真面目、成績も良い方である。小学校は区立に通っていたが中学校は区内にある私立の進学校に通っている。中学1年の夏頃からイジメの標的になってしまっていた。運動は音痴でもなく抜群でもない、競争意識が低いのである。小学校時代は剣道と水泳に通っていたが中学入学時に勉強したいと理由付けて辞めている。趣味はもっぱらインドア派で読書、アニメ、ゲーム、インターネットと健全な中学男子のサブカルチャーは網羅している。
家族は両親と姉と妹、祖父の5人で3世帯家族である。
父親は「結城 将太」38歳 区内に古くからある地元に根付いた建設会社社長で将太は5代目になる。
母親は「結城 弘子」35歳 のんびり屋で天然気質な3児の母だ。
妹は「結城 奈菜」12歳 近所の区立小学校に通う小学校6年生、明るく元気でクラスでもそれなりに人気者である女の子。
祖父は「結城 瑛太郎」79歳 去年将太に経営を任せて隠居生活、頑固者であるが孫にはものすごく弱い。
姉は「結城 夏帆」16歳 区内では屈指の区立進学校に通っている。父親っ子で将太に似て大雑把で豪快、美人ではあるが性格はきつい。今はこの場には来ておらず家で留守番
病室にいる7人の残り3人は太一の幼馴染家族であり、将太の会社の専務で親友である
「沢木 惇」38歳 将太とは小学校からの悪友である。瑛太郎に大変世話になったので頭が上がらない。
惇の妻は「沢木 由香」36歳 学生結婚で惇同様に瑛太郎に世話になり、やはり頭が上がらない。弘子とは惇と交際当時からの親友である、惇を夜飲みに連れまわすのを快く思っていない。
最後に「沢木 美久」14歳 中学2年生身長は157cmで少しだけ大きいほうだ。太一と同じ私立の進学校に通っている。由香に似て美人で年齢相応のスタイルで男子生徒から人気がある。真面目で優等生、お人好しで押しには弱い。生徒会副会長で学級委員、この夏からは弓道部部長にもなったようだ。1学期期末考査では学年6位、小学校から近くの道場で弓道を習い6年生の時に【全日本少年少女弓道錬成大会4位】つい先日行われた【全国中学生弓道大会】では惜しくも予選通過ならずの5位で文武両道をしっかりとこなしている。
太一とはまさしく幼馴染だ。惇も由香も将太の会社で働いているので乳児の頃から昼間は太一と共に結城家で弘子に育てられた。今でも美久は結城家にはほぼ毎日顔を出している。
ベッドに横たわる太一を見つめているのは、将太、弘子、奈菜、瑛太郎、惇、由香、美久の7人である。しかし時刻は早朝5時過ぎ、日付が変わる頃に病院に着いた結城家の人々はそろそろ疲れてきている。すでに奈菜は窓際にある2人掛けソファで瑛太郎の膝枕でスヤスヤと寝ているし瑛太郎もゆらゆらと船を漕ぎ始めていた。
それを見ていた将太が声をかける
『惇、ありがとうな。太一も医者は検査上問題ないと言っていたし、こんな時間まで悪かったな。由香もありがとう、荷物助かった。夏帆に電話しておくから今日はお前ら二人会社休め。美久ちゃん、ありがとうね。こいつ起きたら速攻で美久ちゃんに連絡させるから。』
ベッド脇で太一の様子を見ていた沢木家の3人は一度どうしようか?と家族内アイコンタクトをとった後、病室に7人も居ては迷惑だろうしどちらにしても一旦家に帰って少し休んだら弘子と交代したほうが良いだろうと由香は考え頷く。
『そうだな、わかったよ。朝一度会社に寄って会社の連中には俺から話とくよ。夏帆ちゃんも心配で寝てないだろうし会社の方は俺がやっとくよ。太一君が起きたらすぐ連絡しろよ。』
惇はそう言って荷物をまとめだす
『弘子、惇ちゃんが会社に行くときに私乗っけて来てもらうから弘子も休んでね。』
由香が弘子に優しく声をかけている
『将太さん、私もお母さんと一緒に来ますのでその時に夏帆さん連れてきますね。それでお父さんが会社行くときにおじいちゃんと奈菜ちゃんを送って行ってもらえば……あ、でも奈菜ちゃんお兄ちゃんの傍離れたくないか。』
美久が将太に少し困った顔で話す
『そうだね、さすが美久ちゃん。まぁでも、それはその時の状況で考えよう。』
性格通り大雑把な返事で答える将太
荷物をまとめて奈菜達が起きないように小さな声で挨拶をし、部屋を出ようかという所で弘子の大きな声が上がった。
『太一!太一!わかる?わかる?お母さんよ』
太一はゆっくりと目をあけた




