第26話 ある異世界勇者の登校
始業式・・・・・・それは学生にとって半数以上の人が「地獄」と答えるであろう。
隼人は嫌々目を覚ます。結城家にパートを変えてからは母さんは毎朝俺と同じ時間に出社になった。だから昔みたいに一人で朝飯を食べなくて済む。この辺りはたいっちゃん様様だ。たいっちゃんか・・・・・・
途端に頭がスッキリする。今日はたいっちゃんことマルク=カーリンの初めての登校である。これは何か起きるのを期待しない訳がない!さっきまでが嫌々だったのが既にワクワクに変わっている。隼人は急いで食べて支度をして結城家へ急ぐ。普段は母さんと一緒に行っているが今日は特別だ。
『ごめん、母さん今日は先にいくね~』
結城家では奈菜の指導により太一の支度が出来上がっていった。昨日から散々挑戦しているがこの「ネクタイ」というのが太一にはうまくできないのだった。『もしネクタイ外れたりしたら美久ちゃんになおしてもらうの!』と言って奈菜は出て行った。彼女も今日から小学校、自分の支度もあるであろう。
太一がリビングに行くと美久、隼人が来ていた。心配そうな美久となにやらニヤニヤしている隼人
『あのね・・・・・・太一、あなたはクラスでいじめられてて・・・・・・』
『あぁ、昨日も聞いたからわかっている。大丈夫だ問題ない。』
『ああ~、たいっちゃんとクラス違うのがざ~んねんだよね~。絶対面白いことになる筈なのにみれないのか~』
と失礼なことを言っている隼人を無視して美久が太一に昨日も行われた注意をする
『太一、まずいきなり暴力はだめだからね!それから周りの子達にも基本優しくね・・・・・・それと』
『2年後女、大丈夫だ。俺を信じろ。』
まっすぐ向けられたその強い言葉に「2年後女」という単語に怒るのを忘れて美久は
『うん・・・・・・でもなんかあったら私の所にくるのよ?』
『ああ、わかった。頼りにしているぞ。隼人もな』
『おっけ~、まかせておいてね。』
結城家を出た太一達、ちなみに絵里奈と亮介がいないのは家が反対方向なのである。
少し歩き「バス」という車の長くて大きいのにのるらしい、公共交通機関と教わった。なにやら知らぬ人々と相乗りするってことらしい。乗り合い馬車と同じだな!と太一は心の中でおもっていた。しばらくするとバスがきた。お金を払うらしいがカードのような物を指定された場所に押し付ければいいらしい。今朝美久に「私は部活の朝練や生徒会とかで毎日は一緒に登校も下校もできないからしっかり覚えて!」と何度も言われたのだ。うむ、覚えたぞと心の中でつぶやく太一。亮介も隼人も部活というのをやっているらしく太一はやっていなかったみたいだ。バスが動き出す。
太一は揺れていた、激しく揺れていた。
「それ」は美久と隼人の間で揺れ動いていたのだ。
自分では制御できないこの感覚。初めて感じる感覚であった。
「それ」は美久と隼人の間を行ったり来たり。
『もう!太一!ちゃんと掴まってて!』『たいっちゃ~ん、足踏んでるよ~』
文字通り揺れていたのだ。太一がだ。
太一は思う「こいつら、足に地面と繋ぐ金具がついているのか?俺はそれを使っていないから立っていられないのか?」周りを見ると掴まらずに平然と本を読んだり、スマホという連絡機器をいじっている者たちがいる!!何者だこいつら!勇者パーティーのシーフだってこんなことはできないであろう。
勇者の聖地の民の恐ろしさをバスの中で再認識した太一であった・・・・・・
バスが目的地に着いた。3人はバスを降りる。学校はここから徒歩3分程、通学時間は30分くらいでかなり短いほうだろう。バスを降りた道にはかなりの学生が歩いている。太一達と同じ制服を着た学生もいれば、別の制服を着た中学生もいるし、制服が違う高校生もかなりの数がいる。この辺りは私立学校が沢山あるのだ。太一達は多くの学生の波の中、自分の学校に歩いていく。
校門を抜けると綺麗な建物が見えてくる。中高一貫のその学校は5年程前に高等部の校舎、一昨年に中等部の校舎が建て直しされてまだ新しい。校舎に入りそれぞれ下駄箱へ向かう3人、上履きに履き替えて階段をのぼっていく。1年生は3階、2年生は2階、3年生は1階だ。
2階に着き2年B組の前に着く。
『太一、大丈夫?』
『ああ』
『たいっちゃん。な~んかあったら呼んでね!』
『わかった』
二人が見てる中教室へ入る。
異世界勇者の初登校だった。
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