第0話 ある異世界での 勇者対魔王
小説というものを初めて書きました。書いてみて書き手さんの凄さが沢山わかりました・・・
『フハハハ、どうした?勇者君よ、君の力はそんなものか?』
漆黒のマントを羽織り、長さ170cm程もある鉄の長柄に刃渡り70cmはあろう大鎌を片手でひょいっと軽々と肩に担いだ身長2mは超えるであろう男がニヤニヤと笑みを浮かべながら言い放った。
俺は周りを見渡して共に【魔王】と呼ばれている目の前の笑みを浮かべた男を討伐しにきた仲間の状態を確認する。
両手に曲刀を持った双剣と呼ばれる武器を持った軽戦士の女は肩で息をしながらもボロボロに刃こぼれをしたその曲刀を胸の前で十字に構えて魔王の動きを注視している。
大きな盾だったモノを左手に持ち右手にはもう腕が上がらないのか大きなハンマーをダランとぶら下げているフルプレートメイルを着た大柄な男。
若草色のローブに身を包んだ女性は、柄頭に鉄製の竜装飾が施された両手杖をまさしく「杖」にして魔力枯渇状態なのであろうことが見ただけでもわかる。
戦闘前はその美しい銀髪の長い髪を絵元結で纏めていた巫女服の少女もその美しかった髪が肩辺りで切られてしまい右側半分はボブカット といわれる長さになってしまっている。
緑色の頭巾、黒いチューブトップに深い緑のベスト、白のショートパンツ姿の女はなんとか魔王の死角に入り込もうと隙を伺っているがもう彼女の支援アイテムも尽きる頃だろう。
(満身創痍ってやつだな……やはりまだ魔王に挑むのは早かったのか。)
心の中で俺はそう呟くと身体を魔王に向け手の中にある【聖剣】を握り直し仲間に大きな声で命令する。
『撤退だ!脱出結晶を起動しろ。時間は俺が稼ぐ。』
仲間に叫ぶと同時に俺は魔法を<並列起動>させて中級火魔法を6発色々な角度から魔王に放った。
魔王は連続で迫りくる中級火魔法を最初の3発は大鎌で一閃、残り3発はなんと素手で叩き落した。俺は一瞬戸惑いを感じたがスキル<並列思考>によってその逡巡は頭の中のみで身体は魔王に向かって動き出していた。
聖剣を振りかぶり力任せの上段からの振り下ろし、魔王は少しの焦りもなくこれを大鎌の柄で受けて流す。力任せの振り下ろしを受け流された俺は前のめりに魔王の横で背中に大きく隙を作ってしまった。そこに魔王の大鎌が薙ぎ払われる、俺は前のめりの勢いを殺さずにそのまま前転してすぐに立ち上がり再び魔王に向き直る。
と同時に<並列起動><並列思考>の二つのスキルを同時に使うことによって中級火魔法8発と中級風魔法8発と間髪入れずに叩き込む。今の俺の能力の最大の並列起動で撃てる魔法数だ。先ほどの火魔法を素手で叩き落す化け物に対してダメージは期待していない。今は脱出結晶が起動されるまでの時間稼ぎだけでいいのだ。
『ふむ……私としては君たちが逃げるのは構わないのだが勇者君、君だけは逃がす訳にはいかないのだよねぇ。』
魔王は高く上空に舞い上がり奴の居た場所に風魔法が叩き込まれる。地面がめくれ瓦礫となり舞い上がる、一方追尾機能のある火魔法は上空の魔王に向かって四方八方より襲い掛かる。先ほどと違い今度は魔力バリアを発動したようだ、そこに8発の魔法が着弾する。
空気を震わすような轟音と爆発による煙で一瞬魔王の姿が見えなくなる。しかし俺は魔王が無傷であろうことはわかっている。だからこそもう一度同じ<並列起動><並列思考>による16連発を発動させる。
ちょうどその時に緑色の頭巾、黒いチューブトップに深い緑のベスト、白のショートパンツ姿の女から待ちに待った声が聞こえた。
『脱出結晶準備完了です。急いで退避してください!』
巫女服の少女が重戦士の男に肩を貸し脱出結晶に飛び込む。続いて若草色のローブに身を包んだ女性も、その時魔王が動いた。
『先ほど申し上げたように勇者君は逃がす訳にはいきませんねぇ。』
発声と同時に魔王がバリアを解きこちらに真っ直ぐに向かってくる。その右手は大きく振りかぶられて大鎌による薙ぎ払いが来るのが予想できる。俺は発動させた16連発を魔王に向けて解き放つ。すると強い眩暈に襲われる、魔力枯渇だ。それでも16連発を制御してもう一度魔王にバリアを張らせる事が出来ればその刹那の時間に脱出結晶に飛び込めばいい。
後ろでは脱出結晶の前で今か今かと俺を待つ二人の仲間、魔王はさすがに16連発をまともに受ける事は出来ないのかまた先ほどのバリアを張る。今度のバリアは16連発用なのかサイズがさっきよりずいぶんと大きい。後方から悲鳴が混じった声が聞こえた。
『ダメ!早く戻って結晶に飛び込んで!』
双剣の軽戦士の女の声だ。俺はやっと気づいた、魔王は16連発の魔法防御のバリアを張った訳では無いと。それはバリアではなく俺を閉じ込めるための結界だったのだ。縦横十メートル四方程の結界の中で俺の魔法が爆発する。結界の中は煙で充満し外にいる彼女らからは何もみえないであろう。魔力枯渇にほぼ自爆の魔法16連発、結界は壊れる様子もなくヒビ一つ入ってないかもしれない、俺は絶望的な状態か。だが彼女らを巻き込むことはない。
『早く脱出結晶に飛び込め!』
俺は最後に彼女らの方を見てそう叫んだ。そのとき魔王によるまさしく死神の鎌は振り下ろされた。俺は遠のく意識の中で緑色の頭巾、黒いチューブトップに深い緑のベスト、白のショートパンツ姿の女が双剣の軽戦士の女を脱出結晶の中に押し込んでいくのを確認する。脱出結晶の中に姿が消えていくのと同時に双剣の女軽戦士の悲痛な叫びが響き渡る。
『嫌だっ!私は行かない。マルクと一緒にっ……』
スキル<頑丈>を発動させてみたがそんなものは無意味のごとく
大鎌により一刀両断にされた俺はこう思う。
(ああぁ……もし生まれ変われるなら次の人生は剣も魔法も争いもない、そんな夢のような世界に生まれ変わりたいな。もう鎌で切られるのも魔法で撃たれるのも嫌だ。)
こうしてある異世界での 勇者対魔王 の決戦は魔王の圧勝で幕を閉じたのだった。
勇者負けちゃいました・・・




