父の過去と夢
教会から帰る途中でノコモ村長に呼び止められ不愉快な会話をしたあと家に着いた。
―――――身内を貶されて怒らない奴は普通いないはずだ、ノコモ村長は何を考えてるんだか。
家に帰ると俺以外の家族は全員が帰って来ていた。父ザーインに魔導書をリムス神父に貸した事を伝えると、リムス神父なら良いだろうと許してくれた。
そのあと、家族全員で夕食を食べ、寝るまでの食休みで、みんなのんびりしている。マリスとシェッタは、もうすぐ来るはずの行商から何を買うか相談しており、ザーインは木を削り、矢を作っている。
ノコモ村長と話をしたせいか、ザーインが何を思い、冒険者を辞めてノキ村に帰ってきたのか気になった。たぶんだが、冒険者を辞めた理由は分かる。ザーインは自分の限界を早いうちに悟ってしまったのだ。
ザーインの魔力量はFランク、普通の魔力持ちより魔力量が少ない。
魔力量のランク分けは上からSからFランクまである。ザーインはランクが一番低いFランク、普通に暮らす分には問題ないが戦いを生業とするなら致命的だ、人が魔物と戦うには、いかに魔力を使えるかに掛かってくる。
魔力量が多ければ多いいほど良い、高出力の攻撃、頑強な防御、戦闘時間の長さ、これらを多く長く使える。ザーインは魔力量が少ないため、どんなに巧みに使おうともすぐに限界が来る。
しかし、それは強くなるという点だけだ、街で暮らしていくぶんには問題はない。
ザーインは文字の読み書きが一般の人より出来、算術も問題無いレベルで出来る。戦闘にしても長時間の戦闘や連戦は厳しいが、一戦、二戦程度ならザーインは強い、前世の訓練相手を務めてくれていた騎士達なら勝負しても勝つ事が出来るほど、槍術と身体強化の技術は高い。
だから、街で仕事を探せばいくらでも見つかり、不自由なく暮らして行けるのに、何も無い田舎の村に帰ってくるのが分からない。
親孝行の為と言われたら納得するしかないが、街で稼いだ金を送ったり、物資を送ってもいいはずだ、なぜ村に帰ってきた。
「お父さん」
「どうした、コウセル」
「お父さんはどうして、冒険者を辞めて、ノキ村に帰ってきたの」
ザーインは矢を作る手を止め、こちらに顔を向けるが、またすぐに矢を作る手を動かしながら聞いてくる。
「ノコモ村長あたりか、何か言われたのか?」
少し言い辛い、逃げて来たと疑っているみたいだ。
「どうせ、負け犬とか、逃げて帰ってきたとか言っていたんだろ」
ノコモ村長は普段から周りに、吹聴しているみたいだな、ザーインなんで怒らない。
「あながち、間違った事を言っている訳でもない」
「間違ってないて」
どうして、ザーイン、自分を貶すんだ
「私は夢を諦めたんだ」
今まで聞いた事もない。ザーインの諦めた夢。
「どういう夢だったの」
「お前と変わらんさ、魔術師ではないが、竜を倒す様な勇者や英雄に憧れて、何も無いこの村から飛び出して、冒険者になったがすぐに行き詰ってしまった」
ザーインは恥ずかしいのか、いまだに未練が残っているのか分からないが、少し顔を歪めながら話を続けていく。
「私の魔力量はFランクで魔力持ちの中ではランクが一番低いから、落ち零れ、弱者扱いされて誰もパーティーを組んではくれなっかた」
「お父さんは弱くないでしょ」
「ああ、今でこそ他人に教えられる程の腕前を手に入れたが、当時の私は槍術の技術も身体強化の技術も未熟だった。それでも夢を諦めきれず努力を重ねたが、焦って無闇みに槍を振っていただけで成長はしない、ギルドに居る指導員に指導して貰えれば良かったんだが、周りが見えずそんな事すら考え付かなかった、だが、私にとっては指導員に指導をお願いしなかった事が幸運だった」
幸運だったて、ギルドの指導員より優秀な指導員が見つかったのか? 何か楽しそうな雰囲気で話すな
「焦っていて周りが見えなくなっていた私は、強い人に強く成れる方法を聞けば良いと考えて高ランクの冒険者を探したよ、今思えばバカバカしいが当時の私は真剣でね、運よく二人の高ランク冒険者に会うことが出来た」
「いまだに有名な人?、ランクは?」
「二つ名持ちで、一人は小暴雨リトス、Aランク冒険者でトリプルの魔法使いだ、もう一人は剛閃ギウス、Sランク冒険者で剣士だ」
「小暴雨リトスは知らないけど、剛閃ギウスは有名だね、サーペントタートル(海竜亀)を一人で討伐して名を上げた人だよね」
小暴雨リトスはトリプル、魔法適正が三つも有り珍しいが聞いた事も無いな、剛閃ギウスは引退した冒険者だが、今だに有名な冒険者だ。
サーペントタートルが港町に現れて海産物や船を食い荒らし破壊し暴れていて、冒険者や港の警備隊が撃退しようと攻撃しても、サーペントタートルが甲羅に篭り攻撃をやり過し、攻撃が止むとまた暴れ出し手が付けられない状態だったが、ギウスがその膨大な魔力を使い、海を割ってしまうのではないかと言う、大威力の衝撃波を放ち、サーペントタートルの甲羅を打ち砕き、屠った事から剛閃と呼ばれるように成った。ちなみに衝撃波は斬撃としても飛ばせるが、サーペントタートルの時は打撃の方が良いから打撃にしている。
「小暴雨リトスは街の城壁を一部、魔法で崩してしまい、その責任を取るために国就きの魔法使いとして仕える事に成っていたな」
絶対、城壁を崩した責任だけじゃねえ、王侯貴族が難癖付けまくって、無理やり仕えさせたに違いない、街の重要度も有るだろうが城壁なら多額の罰金と何らかの刑に処せられるはずなのに、それが無い。
おそらく、小暴雨リトスに罪を無しにする事を条件に宮仕えするように待ちかけたんだろう、Aランクの冒険者なら戦力としては申し分ないからな。
「まあ、その二人に会うことが出来たんだが、最初に会ったのは小暴雨リトスの方だ、庶民的な酒場でたまたま豪遊している時にどうすれば強く成れるかと質問をしたんだが、まったく参考にならなかった」
「応えてはくれたんでしょ、なんて言ってたの」
「魔法の適性も無く、魔力量が少ない奴は才能が無い、一生、弱者だ諦めろ」
うわ~ぁ、完璧に才能に胡坐を搔いて、努力しないタイプだな、城壁崩したのも、制御能力が低いのが原因か。
「そんな事を、リトスに言われてショックだったが、それでも諦めきれずギウスの所に尋ねた、彼も酒場で酒を飲んでいる所で質問したんだが、彼なりに答えてくれた」
「ギウスはなんて答えたの」
こっちはきちんと答えたみたいだな、超一流の冒険者はなんて答えたんだ。
「今持っているものを、本当に使いこなしているのかと問われたよ、酒場で槍を振らせれて、恥ずかしい思いはしたが色々教えてくれた、瞬間部分強化の仕方や、魔力の無駄を無くす為の魔力操作。それでも納得いかないなら魔導王コウを参考にしろと」
「魔導王を」
なんで前世の俺が出て来る。
「ギウスは元々、不変の勇者フリーデンに憧れていたんだ」
フリーデンか懐かしいな。
アルクスと世界中、駆け回っている時に出会った。みんなの為に戦いたいとか、めちゃくちゃ青臭い事言って、俺たちに付いて来たんだよな、大量の魔力を持っていて、剣の才能も有ったから、俺とアルクスで鍛えてやって、聖剣の選定儀式を受けて、見事に聖剣に認められて勇者になった。
大罪の大魔獣との戦いの後、フリーデンがプランマ王国に仕える事になった事以外、俺は知らな、フリーデンの事も調べないとな。
「フリーデンも元は冒険者だったから、ギウスも冒険者になりフリーデンを追いながら調べていくと、彼には二人の師匠がいた事が分かった、魔導王コウと断罪の剣王アルクスだ、特に魔導王を尊敬していたそうだ」
俺? 確かに鍛えはしたが、特に尊敬される様な事したっけ、剣技を教えていたアルクスなら何となく分かるが。
「剣王よりも魔導王の方を尊敬していたの?」
「ああ、ギウスも疑問に思い、色々、魔導王の事を調べたそうだ。そしたら彼は魔導だけでなく戦技も革新的に推し進めた人だと言う事が分かった」
戦技? 特別何かした覚えは無いんだけどな。
「戦技の基礎の身体強化の原理を明解し、より効率のいい方法の発案。多くの戦技の基礎となる魔力操作の方法を惜しげもなく広めたらしい。だから、フリーデンは世界中の戦士の力量を上げ、魔物からの悲劇を減らそうとした偉人だと尊敬していたそうだ」
何と言うか、善良な奴だなフリーデンは、あの時代の戦技と言えば身体強化と衝撃波を飛ばすぐらいしかなかった、他は流派の奥義などで、高速移動の瞬動術もどきや、武器に魔力を通したり、覆たりするのがあったが、かなり拙い技術だったので俺が出来る範囲で洗錬した方法を周りの人に教えたが、広めるつもりではなかったし、周りに教えていたのは悲劇を少なくするためじゃなく、面倒ごとが出来るだけ来ないようにする為に教えていただけなんだが。
「ギウスは魔導王を調べていく中で、冒険者としてはフリーデンよりも魔導王を見習ったほうが良いと思ったそうだ、魔導王は目的を達成する為に有りと有らゆる方法を取っていた」
目的にもよるが全部、真正面からぶつかる事はしていなっかたな。
「だから、もう一度、自分をきちんと鍛えて強く成れ、それでも足りないなら強い武器を探せばいい、色んな方法で依頼をこなしていけ、そしたらランクを上げる事も出来るからとギウスに言われたよ」
「あれ、強く成ることから、ランク上げる事に変わってない」
ザーイン、今度は楽しそうな雰囲気から厭きれている感じだな。
「そうだな、ギウスに会ったのはその一度だけだから聞いてないが、ランクを上げられなくて焦っている奴だと思われていたんだろう、だから遠回しに強くならなくても依頼はこなせると言いたかったんだろう。私はそれに気付かずに訓練をはじめた、ギルドの指導員に教わりながらも、ギウスに教わった瞬間部分強化や魔力操作の訓練をしていき、受けた依頼をそれに適した方法でこなしていった。冒険者の平均ランクのDになれたが、それでも周りからは弱いだ何だと言われて悔しくて、無理をしてランク上げに勤しんだ、心配してくれる人も居たが聞く耳持たず依頼をこなしていき私はCランクに成る事が出来た」
すごいぞ、ザーインと同じ条件でCランクになれる人はそういないはずだ、少なくとも俺には自信がない、途中で諦めるだろう。
「それでも周りの奴は認めてくれなくてな。今思えば、大半が嫉妬していたから認めなかったんだろうが私は気付かず、さらにランクを上げようと依頼を受けようとしたが、ギルドサブマスターから呼び出されて、面談する事になった」
「ギルドのサブマスターと何を話したの」
「どうしてそんなにランクを上げようとするのか質問された、強いと証明する為だと答え、次に何故強いと認めさせたいんだと聞かれると私は答えに詰まった、答えられずに居ると別の質問をされて、どうして冒険者になろうとしたか聞かれると、英雄みたいに活躍したいんだと答えたが、私は呆然としたよ何時夢を忘れたんだと、そして呆然としているとサブマスターから今のお前は英雄じゃなく狂人に見えると言われたよ」
夢を必死に追いかけすぎて、いつの間にか夢を見失って手段ばかり求めるようになってしまったんだな。
「それからサブマスターに数日休むように言われ、その間に夢に命を懸けてでも成さなければならない事か考えろ言われ面談は終了した。そのあと気付けば泊まっている宿のベットに横になっていたよ、何も考えたくないから、そのまま寝る事にしたが、疲れが溜まっていたのか丸一日眠り込んでいたみたいだ。眼が覚めてから夢の事を考えたが、結論はすぐに出てきた、夢を諦める、そう思うと張り詰めた物が緩んだせいか色々な事を思った、一緒に街に出てきた仲間はどうしてる、村に残した両親はどうしているだろうと心配になった。とりあえず、街に出てきた仲間は一緒の宿に泊まっているから、宿の女将に聞いたがとっくの昔に村に帰ったと言われて、どれだけ思いつめて視野が狭くなっていたか思い知らされたよ」
そんなに視野が狭くなって、よく仕事を失敗しないで行けたと感心するんだがな。
「それからすぐに、サブマスターに夢を諦めてとりあえず村に帰ることを告げて、翌日には街を出てノキ村を目指した。サブマスターが街から去るのを惜しんではくれていたな」
たぶんザーインは低ランク冒険者の希望的な存在に成っていたんじゃないか? 努力すればあそこまで届くと。
「ノキ村に帰ると両親に怒られたが、快く向かい入れてくれた。その後は村で暮らしていく為、両親と一緒に畑仕事して、マリスを結婚し、両親は死別したが、シェッタとコウお前たちをもうけて今に至るわけだ。つまらない長い話になったな」
「つまらない話じゃなかったよ、いい教訓になったよ」
「そうだな、つまらない話ではなく、情けない話だったな」
ちょっと、答えずらいな。
「コウセル、お前は魔力も才能も有る、冒険者になっても私のようにはならないだろうが夢が叶わなくても良いんだ、疲れたらいつでも帰ってきなさい」
そういえば今世の俺には帰る場所がきちんと有るんだな、前世ではあくまで帰る家は地球に有る近坂邸で、異世界モータルセンヌではサティアの元へ帰りたいと思ったが、帰りたいと思った場所はない。
ザーインは死ぬまで家を、帰る場所を守ってくれるだろう。うん、それはすごく嬉しい事だ、きちんと帰るべき場所が有る。お礼と言うわけじゃないが父親の夢を引き継ぐのも悪くない。
「お父さん、俺の今の夢は世界中を見て周る事なんだ」
「そうか、もうコウセルと私の夢は違うんだな」
ザーイン、あんたそんなに子煩悩だったか、悲しそうな顔をしないでくれ。
「でも、旅先でもし英雄、勇者が必要になったら俺がなるよ英雄、勇者に、お父さんの夢は俺が叶えるよ」
「ははははっ、そうかその時は頼むよ、わたしの代わり夢をかなえてくれ」
そんなに嬉しいのかね、何時も無愛想なザーイン笑顔でが笑っている。