残念な村長の血筋
伐採を父ザーインと終え、昼食を食べてから、教会へリムス神父に会いに行く。
リムス神父から魔術を全て習い終えている事にしているから、今では勉強だけになっているが、ほとんどが雑談になっている。
算術は地球の知識で十分モータルセンヌで通用するレベルであるから、これ以上、学ばなくていい。
カロンスア王国や他の色々な国の歴史や文化についても教わっているが、地球の学校のように教科書が無く、リムス神父の記憶に頼るしかなく、ほとんど聞き終えてしまった。
雑談は村での出来事が中心で他には定期的にノキ村に行商に来る商人から街の話を聞き、それをリムス神父と語り合うぐらいだ。
それでも、いまだにリムス神父の所に通っているのは薬学と薬の製作を学んでいるからだ。
リムス神父が持っている植物図鑑を使い、俺が山や森から取ってきた植物を調べ、薬を作っている。
今までは、唯の傷薬しか作れなかったが、解熱剤、頭痛薬、風土病の特効薬と様々な薬が作れるようになっいる。
前世の俺は魔術で回復、解毒などを行い、薬や魔法薬が必要な場合はプランマ王国に用意していて貰っていたので、薬、魔法薬の作成、知識と薬草に関する知識があまり無かった。
前世でも植物の収集はやっていたが、研究に必要な物意外は覚えておらず、後は魔力の宿っている植物を適当に採取していただけで選別などは他の人にやって貰っていた、まさか来世で困る事になるとは思わなかった。
魔法薬はリムス神父も作れないが仕方が無い、魔法薬は錬金術師の領分だ、普通は薬を作れるだけでもすごい。
「こんにちは、リムス神父様」
「こんにちは、コウセル君、先に庭の作業小屋に行っててもらえますか」
教会の庭にある小屋で普段は薬を作っている、今日もリムス神父は薬作りの続きをするつもりなんだろうが、今日は土の魔導書を持ってきている、魔導書の中にある魔術を覚えて貰おうと思う。
「リムス神父様、今日はちょっとしたおみやげが有るんです、庭のテーブルで待ってますね」
「それは・・・」
魔導書を掲げながらリムス神父に言うと、リムス神父は目を見開いて驚いている。
俺が庭に歩き始めると、後ろの方から慌しく動く音が聞こえてきた。
庭に出る、ここ数ヶ年で庭も変わった、一番の変化は作業小屋ができた事だろう、村の住人、総出で作業小屋が作られた。緊急時に薬が有ると無いとでは大違いだからな。後は薬草畑が広くなり、植えている薬草の種類が多くなった事か。
俺が居なくなると、山や森から薬草を取りに行く人がほとんど居なくなる、村の人は畑仕事が忙しく、森や山に入る暇が無い。数人の猟師が森や山に入るが魔力による身体強化が出来ないので行動範囲が俺より狭いから、あまり搾取できない。
その為、定期的に薬草を取れるようにする為に試行錯誤している、その成果で幾つかの薬草の栽培に成功している。
テーブルに腰掛ながらリムス神父を待つ、だいぶ寒くなってきたので作業小屋の方がいいかと思ったが、魔術の訓練をするなら外でないと都合が悪いので、そのまま待つとリムス神父が庭に出てきてこちらに来る。
「お待たせしましたね、コウセル君、それで先ほど持っていた書物なんですが」
「これの事ですか」
「おおっ」
テーブルの上に魔導書を置くと、リムス神父は驚き声を洩らした、希少な本物の魔導書があるなら仕方が無いか。
「コウセル君、これは本物の魔導書ですね、どこで手に入れたんですか?」
リムス神父が興奮しながら質問をしてくるが視線は魔導書に向けたままだ。
「お父さんが、ノコモ村長から借りてきたんです」
「ああ、なるほど、やはりノコモ村長は魔導書をもっていましたか」
理由を説明すると、リムス神父は少し呆れながらも納得した。魔導書を持っていることを知っていたみたいだな、どうして知っているんだ?
「リムス神父様はノコモ村長が魔導書を持っていることを知っていたんですか?」
「そうですね・・・ノコモ村長が持っていることを知っていたのではなく、カロンスア王国の開拓村の村長が持っていることを知っていたからです」
リムス神父の話しによると、昔、カロンスア王国が建国したばかりの頃、未開拓の土地を早く開拓する為に、国王が開拓者の各リーダーに魔導書を下賜し開拓させた。
開拓には魔法も有効なのだが、魔法使い達は国防の戦力として開拓には参加しなかった。
魔導書の種類はバラバラで、開拓者のリーダーは何の魔導書を貰ったのか分からず、開拓が忙しいので、魔術を覚える事無く開拓に勤しんだ。
それなら、各開拓村、辺境の村には魔導書が有るのかと言えばそうでもないらしい。
開拓村の暮らしは厳しく過酷で辛いもので、何もかもが足りなかった所に貴族の使者が訪れ、魔導書を高値で買い取ると話を持ってきた、各開拓村の人間はその話に飛びつき魔導書を売り払った。貴族も開拓村の者も国王から下賜された魔導書を売買した事はばれると不味いので、売買した事は秘密にしていた。
そして、百数十年経った後に、魔導書の売買が発覚したが、責任追及が難しくなっていた。
開拓村の方は当時のリーダーの家系が途絶えていたり、魔導書が下賜された事を子孫に伝えていなかったり、大昔の知らない罪を問われても困惑するばかり、不満を募らせ、このまま裁けば暴動が起きかねない。
貴族の方は完全に証拠を消し去っていたりして、どの家が売買したのか分からないので裁く事ができない。
王家は苦渋の選択で魔導書の売買の問題を不問とし処理した。この事で王家の支持率が下がり、今もその影響が響いているらしい。
リムス神父は、この問題を起したのは貴族の魔法使い達だと思っている、開拓が始められた時代、魔術師と魔法使いの抗争の影響がまだ残っており、魔法使い達が魔術の知識を消す為に魔導書を買取、処分したと予想している。
俺は、それなら何故、ノキ村に魔導書が有るか尋ねると、リムス神父は持論を話してくれた。
全ての開拓村に貴族の使者が訪れたが、何人かのリーダーは魔導書を売却しなっかたと予想した。国王から下賜された魔導書を役に立たないからと言っても、売却するのは恐れ多くしなかった人は居るはずだと。
リムス神父はノキ村の教会に赴任するまでに、複数の開拓村や元は開拓村だった農村に訪れて魔導書が無いか尋ね回ったが、結局見つからなかった。最後に元開拓村だったノキ村の当時の村長、ノコモ村長の父親に尋ねた所、魔導書を持っているのは否定されたが、あからさまに嘘をついている感じだったらしい。
「そんなに、分かりやすかったんですか?」
「ええ、子供の嘘のほうが、まだ、まっしですね。目を泳がせながら、どもりながら否定してましたよ。ノコモ村長が村長を引き継いだ時にも尋ねましたが、父親と同じように動揺しながら否定してました、似たもの親子ですね」
どうやら、親子揃って小物のようだ、すこし哀れだ。
他の村だと、ほとんど魔導書が有った事を知らなかったり、大昔に売り払ったと、動揺などなく普通に話してくれたそうだ。
ノキ村に魔導書が有るみたいだが、村長に無いと否定されたので、貸して欲しいとは言えず、諦めていたが、俺が魔導書を持ってきたから、読む事が出来ると感謝された。
そういえば、リムス神父は複数の村に魔導書が無いか尋ねまわったそうだが、まだ、尋ねていない村は調べていないのか?
「リムス神父様、先ほど複数の村に尋ねたと言っていましたが、残りの尋ねていない村はどうしたんですか?」
「残りの尋ねていない村は、調べていません、赴任したこの教会を離れる訳にはいけませんから」
「リムス神父様が行かなくても、魔術協会の人に任せればいいんじゃないですか」
リムス神父が困った顔をしている、魔術協会てまともな組織じゃないのか。
「魔術協会の支部が王都オルゲウスに在るんですが、わたしが居た頃は支部の設立したばかりで、カロンスア王国民のメンバーが一人も居ませんでした。魔導書の売買の問題は調べれば分かる事ですが、カロンスア王国の醜態を他国民に話すのは抵抗がありまして話していません」
「まあ、何となく分かります、国といってもピンと来ないですが、愛着のある物の恥部を話すのはイヤですからね」
俺もカロンスア王国民の実感がないから、醜態を聞いても誰かに話しても何とも思わないが、プランマ王国の醜態は他国の人に話したくはないからな。
そうなると、まだ、尋ねていない村には魔導書が残っている可能性がある訳だ、これは良い情報を聞けた。尋ねていない開拓村、元開拓村の名前を聞かないと。
「リムス神父様、他に尋ねていない村の名前を教えて貰えませんか、冒険者になったら尋ねてみたいと思います」
「ふふふっ、相変わらず気が早いですね。安心してください、ノキ村を出るときには教えて上げますよ」
おっと、かなり気がはやってるな、落ち着かないと、けど、表立って使える魔術が増えるのは良い事だ早く行って魔導書を見たい。
「では、そろそろ、魔導書の開いていきましょう、どんな魔術があるか楽しみです」
その後は魔術の訓練を開始した、俺は一通り魔導書に記載されている魔術を呪文を詠唱しながら発動させ何度も繰り返し、リムス神父は各魔術の魔術言語を覚えようと必死に読んでいた。
時間が経ち、周りも暗くなり始めリムス神父は今日の訓練の終了を告げた。
「暗くなってきましたし、今日はこの辺にしましょう」
「分かりました、リムス神父様、荒らした所は魔術で戻しておきますね」
整地の魔術を使い、魔術で荒らした地面を綺麗にして終了した。
「コウセル君、また、教会に来るときは魔導書を持ってきてくださいね」
リムス神父はそう言って魔導書を返してくるが、今の俺が持っていても仕方がないのでリムス神父に持っててもらおう、リムス神父もまだ、魔導書を使いたいみたいだし良いだろう。ザーインにひょっとすれば怒られるかも知れないがまあいいか。
「リムス神父様、俺はもう魔導書の中身を全部覚えていますから魔導書を使いません、ノコモ村長に返すまで魔導書はリムス神父様が持っててください」
「もう、全部覚えたのですか、魔術の事になると色々と早いですねコウセル君は。わかりました、魔導書は此方で預かっておきますね」
欲しい物が手に入った子供のように、目が笑っていて嬉しそうだ。
その後、リムス神父に挨拶をして教会から出て、家に帰る。
周りが暗くなり、他の村人も仕事が終わり家路についている。
「コウセル君」
声を掛けられ、振り向くと男性が近づいてくる、ザーインと同じぐらい大柄だが、半分ぐらいが脂肪のようで締りがなく垂れている、顔は笑っているが、目が此方を値踏みしている、ノコモ村長だ。
「ノコモ村長、こんばんは」
ああ、早く帰りたい、面倒な事を言ってきそうだ。
「こんばんは、コウセル君、今日も教会に勉強してきたのかい」
「はい、まだまだ勉強するべき事はありますから」
「そうですか、君のような優秀な子がいれば村も安泰です」
ノコモ村長、俺をノキ村に縛りつけようとしているな、失礼になるがしっかり断っておかないと、後々面倒だな。
「ノコモ村長、俺はいつか村を出て、冒険者になります、ずっとこの村に居るつもりは無いですよ」
おいおい、惜しんだり、残念がったりするなら分かるが、不機嫌そうに顔を顰めるなよ。
「コウセル君、冒険者になりたいと言っていたが、冒険者になって活躍して金と女と地位を手に入れたいんだろ」
まったくいらないとは言わないが、それらは手段としてほしいだけで目的じゃない、あと女は厳選する容姿が良いだけじゃ選ばない。
「冒険者になったとして、必ず成功すると言えるかい」
どれ位、活躍すれば成功かは分からないが、形はどうあれ、俺は必ず成功できる。
「私なら、ある程度は与えて上げられる。ビッテの婿にならないか、親の私が言うのも何だが、あの子は美人だ」
その代わり、性格が悪いけどな。てか、ビッテの結婚相手がいないからて押し付けようとしてないか。
「そしたら次の村長は君だ地位も手に入るし、金は君が魔術を使えば直に稼げるだろ、魔導書をザーインに貸してある君が使っているんだろ」
田舎の村長の地位なんて、面倒ごとだけで魅力を感じないし、結局自分で稼ぐのかよ。
「どうだい、冒険者になるのはやめて村長にならないかい、悪い条件じゃないだろ」
いいや、悪い条件しかない、こんな条件呑めるか、早く諦めてくれ。
「ノコモ村長、悪いですが、俺は外の世界を見て周りたいんです、冒険者になるのはその手段の一つです。お金が欲しいとかじゃないんです」
「いいかい、コウセル君、夢が必ず叶う物じゃないんだよ」
説教を始めるつもりか? それと世界を見て周りたいと言ったの無視しやがったな。
「たぶん君も夢が叶わず、村に帰ってくるだろう」
俺の夢が叶わない時は、何処かの貴族の専属の冒険者にさせられた時だ、余計に村に帰れなくなる。
「君の父親ザーインがいい見本だ」
「お父さんがですか」
「そうだ、ザーインも昔、村を出て行き冒険者になったが、負け犬ように村に帰ってきた、君もザーインのようになるつもりかい」
イライラしていた頭の中がクリアになる。殺意を込めてノコモ村長を睨む、ノコモ村長は顔を青ざめ、身体が震えている。
「ノコモ村長、身内を悪く言われた機嫌を損ねない人はいないと思います、今、俺も怒っています。お父さんが何を思って、ノキ村に帰ってきたかわ分かりませんが、今、お父さんは幸せに暮らしています、負け犬呼ばわりは許さない止めてもらいますか」
殺気を当てられて怯えて声が出ないのか頷く事で返事をして来る。
「分かってくれましたか。周りもずいぶん暗くなって来たので失礼します」
視線を外し返事を聞かずに家路に付く。後ろから重たい物が落ちた音がしたが振り向かず家に帰った。
ノコモ村長も、娘のビッテも能力や容姿がよっかたりするのに、欠点が多い、ノコモ村長の前村長も嘘が下手とか、残念な血筋なのだろうか。