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決断の勘

早朝、ヒンヤリとした空気の中、俺とザーインは、お互い訓練用の槍を持ち、対峙していた。


「は、はあ、はあ」


こっちは、肩で息して、汗を大量に流しているのに、どっしり構えたザーインは額に僅かに汗をかくだけ。


槍を何合交わしただろう、交わす度に、打ち突かれ転ばされ、槍を弾き打ち落とされる。


分かっていたが魔力を使わない、純粋な武術の腕はザーインには敵わない、けど、一矢報いた。


地を蹴り鋭く踏み込み、突きを放つ、速さ重さ現状、最高の一撃は―――――


ザーインの槍の一振りに簡単に弾かれ、大きく体勢を崩される。


振り抜いた槍をザーインが素早く引き戻し、突きを放とうとする姿が見えるが、大きく体勢を崩された俺は対応できず、ザーインの鋭い突きを受け、地面を転がる。






槍の訓練を始めてから半年が経っている。


槍の訓練を始めたのは、ザーインから出された、冒険者に成る為の条件の武器を扱えるようになるためだ。


さて、武器と言っても数多くある。槍の他にも、剣、戦斧、弓があり、そこから種類分けしたり、特殊な武器を含めればさらに多くなる。


そんな多くの中で俺が選んだのが槍だ。


今の俺、コウセルが槍を選んだ理由は前世で槍を使っていたからだ。


前世の地球にいた頃は神秘の研究ばかりで身体を動かすついでに護身術を学んでいたが、武器を持つ必要が無かった。


しかし、異世界モータルセンヌに召喚されると武器を持つ必要が出てきた。


モータルセンヌでは身近な脅威として魔物が居り、召喚された時代では大罪の大魔獣の顕現が間近で魔物の活動も活発化しており、顕現した後はさらに活発化し人々の命を脅かしている。街に篭っていれば戦う必要は無いのだが、返還魔術の研究用の材料を確保する為に魔物の討伐、魔物の生息地域に赴き薬草、鉱石等の資源を採取しなければならない。冒険者たちに依頼を出せば自分が行かなくても良いのだが、金と時間が掛かるので基本自分で集めるようにしていた。


そして、一番最悪の脅威が人だ。魔物の活動の活性化により世界各地で混乱があり、その混乱に乗じて国土を広げようと企む国家が多数あり、戦争の火種がそこらじゅうにあった。戦争が起これば街自体に攻撃をしかけてきて命の危険がある。それどころか異世界の魔術師と知れれば積極的に俺を狙って来ると考えた。


魔術のみで戦えない訳ではないが、基本、中距離、遠距離での戦闘がメインの魔術だと近距離の戦闘は苦戦は免れない。接近されないように立ち回る事はできるが、毎回うまくいくとは言えないので近距離でもうまく戦えるように武器を持とうと決めた。


武器を持とうと決めて、どんな武器にしようかと考えて最初に思い浮かべたのは剣と刀だった。年頃の男が最初に思い浮かべる武器といえば剣や刀じゃないだろうか、少なくとも俺はそうだった。年頃の男なら、聖剣、魔剣に妖刀に憧れを抱き振るてみたいと思うだろう、俺も同じように、いや、神秘を理解している分、余計に憧れを抱いていたから、自分が持つ武器は剣か刀と決めた。


プランマ王国には刀が無かったので剣を使う事になり訓練を始めたのだが、訓練をしていく内に才能が無い事に気付かされる。


剣や刀等の相手を切る武器は刃筋を立ってて振るうから相手を切ることが出来る、俺はどうも刃筋をうまく立てることが出来ず、峰で叩いているのと同じ状態なので何本も剣を折ってしまい、剣を使う事を諦めた。


改めて自分が持つ武器を考えて選んだのが槍だ。


剣や戦斧等よりリーチがあり、一方的に攻撃ができ、装飾をうまく施せば魔術師や魔法使いの杖としても機能する。使いこなすとなれば難しいが、素人でも敵を近づけさせないようにでき、近づかれるとしても時間稼ぎが出来る、僅かな時間でも稼げれば、俺なら魔術を使い相手を倒せる。


槍を選んでからの訓練は防御を中心に攻撃方法は全力の突きと大薙ぎだけにのみにしていた、俺の戦闘方法はあくまで魔術を中心にしたもので、槍は時間稼ぎと大技を放つ触媒だ。


師と訓練相手には困らなかった、師は一人の近衛騎士が勤めてくれ、訓練相手は近衛騎士団や騎士団の騎士が訓練相手を勤めてくれ、防戦ならば格上相手でも長時間持たせる事が出来るようになった。


―――――誰にも一度も勝つ事が出来なかったが。


コウセルに転生してからは、攻撃に関する技術も鍛えている、今の時代、表立て多くの魔術とそれに関する技術を乱用すれば、権力者達に目を付けられ、自由を奪われかねない。


冒険者に成れば、戦闘の機会が増え、共闘、護衛、救出など人目が付く所で戦う事になるだろう、人の命が関われば魔術を自制するつもりは無いが出来るだけ隠して行きたい。






槍の訓練が終わり、水がめに溜めてある水で汗と転がされた時に着いた土を洗い流す。


今朝もザーインには勝つ事が出来なかった、ザーインからは防御はうまいが攻撃が下手だと指摘されている。


ノキ村を出るまでに、ザーインに魔力無しで勝ちたい、体格、筋力の差は時間が経てば縮まるが、十五歳なっても差は大きいままだろう、それでも勝つには技術を付けるしかない。


今はザーインに勝つのに足りない技術が分からない、とりあえず自分が自覚している未熟な所を訓練していこう、防御から攻撃に移る流れが今は特に悪い、訓練していこう、短所を無くしていけば見えてくる物があるかもしれない。


汗と土を洗い流し終え、朝食を取る為、家に戻る。


朝食はパンとスープだが、スープに必ず大きめに肉が入っており贅沢だ。


「お父さん、今日の仕事はどうするの?」


食事をしながらザーインに仕事の予定を聞く、麦や野菜の収穫を終え、畑はずいぶん寂しくなっている。


「今日、冬小麦を蒔くために畑を耕す、堆肥は撒き終っているからマリス、シェッタは畑には来なくていいぞ」


「じゃあ、私は麦を挽いておきますね」


「私は家で縫い物を縫っておくね」


俺とザーインは畑を耕し、マリスは麦を粉挽き、シェッタは家で縫い物、冬に向かい準備が進んでいく。


今から畑を耕していくと冬までに冬小麦を蒔くのは間に合うがそれ以外何も出来なくなってくるな、土の魔導書が有るし魔術で一気にやるか。


「お父さん、畑を耕す以外に、やりたい仕事てある?」


「冬を過ごす為の薪がほしいが、それは時間が無いから木こりから買うつもりだ」


「わかった、斧を持っていこう、畑を耕すのは俺が魔術でするよ」


俺は魔導書を掲げながら、ザーインに言うと、少し驚いた顔をする。


「昨日、渡したばかりだろ、使えるのか?」


「大丈夫だよ、魔導書を持ってきちんと詠唱すれば出来るから」


「・・・・わかった、耕すのは任せるが、失敗すえば山や森への立ち入りは当分禁止だ」


なんとういうプレッシャーの掛け方だ、マリスとシェッタの視線が怖い。


「コウ、大丈夫なの!」


「コウセル、失敗しそうならやめなさい」


山や森に入れなくなると狩りが出来ないので、肉が取れなくなる、食いしん坊家族である我が家では死活問題だ。


魔導書が無くても問題なく耕作の魔術が使えるが、背中から冷や汗が止まらない。


「大丈夫だよ、姉さん、お母さん、失敗なんてしないよ」


大丈夫だと言っても二人の顔は疑わしい顔をしている。


しかし、これは当然なのかもしれない、ノキ村で見かける魔術は俺とリムス神父が使う下級の回復魔術ぐらいだ。普通に暮らしている分には結界、魂撃魔術は見る機会がない。


単純に魔術で畑を耕すと言っても、想像できないんだ。物珍しいから、娯楽代わりなるかも知れないし見せてみるか?


「そんなに心配なら、魔術を使う所見てみる? たぶん直に終わるだろうし」


「私はやめておくは、粉挽き場が混むといけないから」


「私は見に行く、どうゆう風に成るか見ておきたい」


どうやら、マリスは予定通り麦を挽きに行き、シェッタだけ着いて来るみたいだな。


「わかった、姉さん一緒に行こう」


「うん」


シェッタが返事した後、マリスがシェッタに耳打ちしている。たぶん半端な結果になった時にフォローして成功した事にするよう言っているんだろう、信用無いな。


そういえば、ザーインが失敗すれば罰を与えるなんて珍しいな、どうしたんだ? 聞いてみるか。


「お父さん、失敗すれば罰を与えてくるなんて珍しいね」


「コウセル、ノキ村を出て冒険者に成るんだろう、冒険者をやっていると情報不足の中で命を懸けた決断を迫られる時がある、その時に正しい決断を取れるように勘を養っておかないといけない。今回はそこまで大袈裟ではないが、勘を養う分にはいいだろう」


マリスとシェッタは理解出来ていない顔をしているが、俺は分かる。すでに前世で幾つも決断を強いられて来た、モータルセンヌに召喚されてレイザー帝国の研究施設から逃げるか戦うか、一人で行動するか誰かと一緒に行動するか。


地球に居た頃も知らずに決断を強いられていたはずだ、一つでも間違えばアルクス、サティアに会わずに過ごしていただろう。


結局、前世の俺は二十代で死んでしまったので、俺は正しい決断をして来たか分からないが、無二の親友と恋人と会えたのだから間違った決断していない。


前世と今世の十二年でどれだけ勘が養えたかは分からないが、多少マシになっている事を願うばかりだ。


「勘を養えて難しいよ、お父さん、成長が見えない」


「そうだが仕方が無い、後は善行を重ねろ、間違った決断をしても神様が助けてくれるかもしれん」


まあ、情けは人の為にあらずと言うから人が助けてくれるかも知れないが、モータルセンヌの神様は、あまり当てに出来ない。


モータルセンヌの神様は基本的に直接、奇跡を起し人々を助けるのではなく、神の力を受け止める適正の有る信者に力を与え、力を授かった信者が人を助けている為、信者でもない人を直接、助けるのは、まずありえない。




どの神様も信仰するつもりが無いから、情報と力を付けて、ギリギリの決断を避けていくしかない。


朝食を終えて、俺、ザーイン、シェッタは畑に行き、マリスは村の粉挽き場に向かった。


畑に行くと何も植えていない土地が広がっている。


「今から、魔術を使って耕すから見てって」


「ああ」


ザーインは短く返事し、シェッタは不安そうな顔をしていた。分からないのは不安だからな・・・・・いや、肉が食えなくなるかも知れないから不安なのだろう。


魔導書を片手にしゃがみ、畑に残った方の手を付け魔術の詠唱を始める。


呪文は意味ある言葉ではなく、意味ある音といった感じだ、魔術言語を理解していれば分かるが、理解していないと奇妙な音の羅列にしか聞こえない。


「●●●●●・●●●●●・●●● 耕作」


詠唱を終えると、畑に付いていた手から土が盛り上がり柔らかい土にしながら畑全体に広がっていく、土は鍬で耕すよりも柔らかくなっている。


ついでに前に使った農業魔術も二人に分からないように使っておく、病原菌と害虫は完全駆除、魔力による栄養補給を無詠唱で行い立ち上がる。


ザーインは少し目を見開き、シェッタは驚きで固まっている、驚きの大きさに差はあるがここまで出来るとは思っていなかったんだな。


「お父さん、姉さん終わったよ。どう、俺の魔術はすごいでしょ」


「コウ、すごい!、すごい!ねえ、もう一回やってくれない」


「シェッタ、今はもう耕す所が無いから春まで待ちなさい。コウセル、ご苦労、この後はどうする、すぐにリムス神父様の所に向かうか?」


驚きで固まっていたシェッタは動けるようになると興奮して魔術を強請ってくる、そんなシェッタを諌めながらザーインがどうするか聞いてくる。


俺としては、木を二本ほど切り倒すつもりでいた、身体強化を使えば二本の程度すぐに終わる。斧がもっと丈夫なら、もっと早く切り倒せるのだが全力でやると斧が壊れてしまう。


「薪が必要なんだよね、木を切り倒すの手伝うよ」


興奮するシェッタを家に帰し、ザーインと一緒に木を切り倒す。


そろそろ、行商人が村に来る頃だ。丈夫な斧・・・いや、豪農計画の為に農具を良い物を揃えて増やしていくか、あと、頼んだ魔核は入手しているかな?


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