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契約完了


アスリラと迷宮探索後の打ち上げをしている所に、俺に頼み事があるからと探していたラルベルグに声を掛けられる。

話を聞くことのなり、ラルベルグのパーティ〈黎明の剣〉のメンバー全員と一緒に食事をしながら軽く自己紹介した後、頼み事を聞いたんだが、その内容が魔法使いであるナーレンが魔術を教えて欲しいというものだ。

今世のモータルセンヌの魔法使いと魔術師の関係を考えれば、あり得ないと言ってもおかしくない。

頼みを聞く聞かないは別にしてナーレンから理由を聞かないといけないな。






「私に魔術を教えてください」


「本気ですか?」


「はい、冗談で言っているんではありません」


ナーレンの表情は真剣なものだし、周りを警戒していたりと冗談の雰囲気は無いが、まだ信じられないな。


「魔術を覚えたい理由は何ですか? ナーレンさんには魔法があるじゃないですか。

それに俺の知っている魔法使いと魔術師の関係上、魔法使いが魔術師にどんな形であれ、魔術を教えて欲しいと頼むのはあり得ないように思うんですが」


まあ、目の前に魔術を教えて欲しいという魔法使い(ナーレン)がいるが、それはちょっと置いておこう。


「あ~、確かにそうだよね。私はラーネルとコウセルしか知らないけど、そんな感じはしないね」


アスリラも俺とラーネルのやり取りを見ているせいか魔法使いが魔術師に教えてもらうということが無いんじゃないかと考えている。


俺も今世で会ったことのある魔法使いはラーネルだけだが、周りの話を聞くに格下という事になっている魔術師に魔法使いが教わるというのが想像できない。


「そうですね、一般的な魔法使いは魔術を覚えようとは思わないでしょうが、冒険者や探索者をやっている魔法使い、特に高ランクの人は魔術を覚えていますし、高ランクを目指す魔法使いにとっては必須の技術になっていて魔術を嫌う人は少ないですよ」


魔法使いなのに積極的に魔術を覚えようとする人もいるのか。嫌う人が少ないというのが現実味がある。


 単純に考えれば魔術は魔力を持っている人なら誰にでも使える技術だから不思議では無いか。


「ナーレンさん、詳しく話を聞いてもいいですか」


「はい、構いませんよ。魔法使いは、その名の通り魔法を使う事が出来ますが適性属性により出来る事が限られます。

 コウセルさんは簡単に光の玉を生み出したり、物を冷やしたりしてましたし、逆に温めたりする事も出来るとおっしゃってましたが私にはできません。

 お二人ならこの三つが出来る事でどれだけ迷宮の探索や外での活動が楽になるか分かりますよね」


 やっている事は大したことはないが(照明球)は暗い所で活動する時に松明などの照明器具を持たなくていいので助かり、(加熱)と(冷却)は迷宮探索や外での活動に直接的に役に立つわけではないが、休憩などの時に精神的疲労を和らげることが出来る。

 無くても問題は無いし、代用する物は有るが、この三つを使える使えないでは差は大きいだろう。


「そうだねー、コウセルと探索すると色々と助かるよね。前の三つもそうだけど(洗浄)と(消臭)も助かるかな」


 ナーレンの同意を求める問いにアスリラが答えるが、その答えに追加された二つの魔術に女性陣二人が素早く反応をする。


「コウセルさん、そんな事も出来るんですか」


「ええ……出来ますよ」


 確認を取って来るフォトルの声が怖いほど真剣だ。少しビビった。


 ナーレンが水属性を持っているので外でも身体は拭くことが出来るから、別に(洗浄)と(消臭)に反応しなくても良いだろうとは思うが、それを言うとここに居る女性陣三人に責められるだろうから黙っておく。

 

「(消臭)は俺も欲しいね。探る時には助かりそうだ」


ルウェインも(消臭)は欲しいと反応を示す。


スカウトという役割上、相手に気付かれないように近づいたり、探したりするから臭いを消せる(消臭)は役に立つからな欲しいんだろう。


「んんっ、話がそれて来ましたので戻しましょう。魔術は魔法では手に届かない所に手が届いたり、攻撃方法が限られますが適性に縛られずに様々な属性の攻撃が出来るようになります。

 …………魔力量が多い魔法使いは力押し出来るかもしれませんが、平均的な魔法使いや少ない魔法使いは力押しが出来ないので手段を増やしたり、体調を維持するために魔術を覚えようとするんです」


 魔力量について話す時は言葉を濁したが、まあ、自分は魔力量が多くないと自分の能力しかも劣っていると話すんだから仕方がないか。

 それにパーティ全員、魔力量が多い奴はいない、一番多いのでラルベルグのおそらくCランクだろう。


 ナーレンが高ランクを目指す魔法使いにとっては必須の技術と言っていたので、ナーレンは高ランクを目指している。

 そして、おそらくパーティ全体の意志でもある筈だ。自己紹介する前に「今回のお願いは主に私ですから」と言っていた。

 〈黎明の剣〉全員が上を目指すのに魔術は必要だと考えたんだろう。 


「パーティは今のところは順調にいっていますが、いつか大きな壁にぶつかる時が来ると思うんです。その時、壁を壊して次に進める様にと手段を増やしておきたいんです」


 壁っていうのは魔力不足による色々な事だろう。魔力量は多いというだけで強く、高い評価をされる。

 二代目剛閃を自称しているギランなんかが、その代表だろう。


「コウセルさん、お願いです。私に魔術を教えてくれませんか」


 再度、真剣な顔でナーレンがお願いをしてくるが「ん゛ー」と思わず唸って考え込んでしまう。


 別に魔術を教えるのは問題ない。ナーレンも真剣そうなので俺も魔術師の地位向上の一環として喜んで教えたいが、どう教えるのかが問題だ。


 教えるのは前世の知識を使えばいいのだが、今の俺は、そういった事は知らない事になっている。

 もし教えるとなれば今世のやり方で教えないといけないのだが、今のところ今世のやり方は魔導書を使って教える方法だけしか知らない。

魔導書が手元に無い今、今世のやり方で教えることは出来ない。


周りの事を気にしなければ前世の知識を使うのも有りなんだが、どうするかな。


「コウセル、教えてあげたら。何かが減る訳じゃないんだし」


「あ~、教えるのは良いんですが……」


「もしかして、魔導書をお持ちでないんですか」


「ええ、まあ」


(洗浄)と(消臭)が覚えられない事が、かなりショックだったのか、俺の言葉にナーレンは少し、フォトルは大きく落ち込む。


これでナーレンは諦めるかな。魔導書の有無を聞いてくるということは、魔導書がないと教えることが出来ないと思っているんだと思う。


「そうですか、(洗浄)や(消臭)を覚えられないのは惜しいですが仕方がありません。

コウセルさん。では、この魔導書(・・・)の魔術を教えてくれませんか。お願い事の報酬は新しい魔術です。コウセルさんも損は無いと思うんですがどうですか」


「それは―――」


諦めるかと思っていたナーレンが出してきたのは、ものすごく見覚えのある魔導書だ。


一番多く作られた魔導書だと思うんで不思議ではないんだが。


「驚いていますね。魔導書は貴重なんで教えてもらう魔術師の方が持っていないことも考えていたんです。

 まあ、自分で覚える事が出来なかったから魔術師の方を探していたというのが本当の所なんですけど」


魔術が衰退している今の時代では正しい魔術の覚え方を知らないのは仕方がないと言えるだろう。


ナーレンが魔導書を持っていたのは嬉しい誤算だ。これで俺も表立って使える魔術が増える。

しかも、あの魔導書には戦闘に使える魔術が記載されている。


「分かりました。お願いということですが報酬も頂きますので依頼としてお受けします」


俺が了承するとナーレンが一番だが〈黎明の剣〉全員で喜び合う。


本当にパーティ仲が良いな。俺も気の許せる仲間は欲しいが難しいだろうな。


「それじゃあ、簡単にですが依頼の内容を決めていきましょう」


「そうですね。でも依頼の内容と言いましても………あの、コウセルさん。こちらのお願いを受けてくれたのは嬉しいんですが、魔導書の中を読まなくても良かったんですか?

読まないことには何の魔術が記載されているか分からないですし、魔導書に記載されている魔術を一度、使ってみてもらいたいんですが」


 俺が声を掛ける事でナーレンが喜び合うのを止めて話に戻ってくるが、条件を決める段階で一度も俺が魔導書を読んでいないのに気が付く。


「新しい魔術が覚えられるなら、どんな魔術でも構わないんです。一度、魔術を使ってみてほしいと言いますが、新しく覚える魔術を酒場で使うのは危ないので使うわけにはいきませんよ。

それで魔導書を読まないのは、一度でも読めば記載されている魔術は全部覚えます。それだと条件を決めていく時に不公平になるんで読まないんです」


一度、読めば全部覚えるという事があり得ないと思っているのか〈黎明の剣〉とアスリラは固まり、ハチだけはアスリラの腕の中から飯を食っている。


ハチの野郎、アスリラに肉ばっか強請ったな。テーブルから肉類が消えている。

あんまり食ってないのに、また頼まないと。


「コ、コウセル。一度読めば覚えられるの?」


「と、思う。魔導書は珍しいから見つけるのは難しいし、手に入れるとなれば、もっと難しくなると思うから一度読めば覚えられるようにしてる」


 ハチに対してみみっちくバカな事を考えていると、固まっていたラルベルグが動き出して、質問してきて出来ると答えるが、本当は覚える必要すらない。

 俺は唯、あの魔導書を読んだという事実が欲しいだけだ、あの魔導書に記載されている魔術は全部知っている。

 なにせ、あの魔導書を作ったのは俺だからだ。正確には俺を含めた地球の魔術師だが。


 ナーレンが持っている魔導書は(雷の書)という名の電気を用いた、モータルセンヌの人にとっては風の亜種属性、雷の魔術が記載されている魔導書だ。

 多分、(雷の書)は一番多く出回っている魔導書だろう。そうでなくても、電気を用いた魔術の魔導書は一番出回っていると思う。


 かなり珍しい亜種属性、しかも雷なので多くの人に魔導書を作ってくれと依頼され、報酬額が大きかったので寝る間も惜しんで作ったな。

 アレは研究費を稼ぐ良い仕事だった。


「じゃあ、本当に覚えられるかは分からないんだよね」


「まあ、根拠はないけど、そういう事を前提で依頼の話をするつもりだよ」


 ラルベルグは本当に覚えられるのが信じられないのか再度、聞いて来る。


 一度、魔導書を読んだのかもしれないな。ページ一枚一枚にびっしりと文字が書いてあるからな。

 アレを一度で覚えるのは、なかなか出来る事じゃないか。 


「コウセルさん。私は最初、魔導書を見せる事を条件に教えてもらおうと思ってたんですが、それでは駄目なんですか」


「……ナーレンさんがすぐに魔術を覚えられるなら、それでも良いんです。逆に魔導書を見せてくれたんでお礼をしたいぐらいです。

だけど、教える期間が長くなった場合は、どうしますか? ある程度の日数なら別に構わないですが、長くなれば金もそうですし、ある商会にリディアの迷宮で取れる素材などを納めないといけないので教える事は出来なくなってきますよ」


 別にナーレンの言う条件でも構わないが、すぐにナーレンが魔術を覚えられるとは思えない。

 まさか、見せるだけで長い期間、縛ろうと思っているんじゃないよな。


「なあ、コウセル。お前の話だとナーレンが魔術を覚えるのは時間が掛かる事が前提みたいだが、そんなに時間が掛かるもんなのか?」


 魔術を覚えるのに時間が掛かる事が疑問に思ったのかルウェインが不満そうに聞いて来る。


 ルウェインが不満そうなのは俺がナーレンを過小評価していると思っているからかな。


「どれ位かと聞かれても調べないと答えられませんが、多分すぐには使える様には成れないと思います」


 多分、魔力操作も感知の訓練もしていないだろうから、そこから始めないといけない。

 前世の知識をフルに仕えるならかなり短縮する事が出来るが、厄介ごとに巻き込まれる可能性が大きいからな。


「今、ここで調べる事は出来ないの?」


「やろうと思えばできるけど、調べるなら静かで集中できる所の方が良いぞ」


「とりあえずやってみてよ。大体でも期間が分からないとこっちも決められないよ。ナーレンもいいよね?」


「はい、別に構いませんが何をするんですか?」


 ラルベルグに頼まれて酒場で調べる事になった。ナーレンも異論は無いのかすぐに了承している。

 

 好奇心が強いのかな、何か楽しそうな眼をしてるな。


「俺がナーレンさんの背中から魔力を徐々に荒くして流していきます。ナーレンさんは俺の魔力を感じ取れるよう集中して感じ取れたら言ってください。いいですか?」


「はい? 分かりました」


 ナーレンの疑問符を浮かべた様な返事を聞いてから席を立ちあがりナーレンの後ろへと移動する。

 ―――魔力を荒くするというのが理解しずらいのかな。

 移動してから背中に手を当て、「いきますよ」と声を掛けてナーレンの返事を聞いてから魔力を流し始めた。


 やっぱりと言うか最初の方は感じないのか反応がまるでない。

 それから段々と時間が経ち、違和感を感じ始めるとナーレンが言い始め、魔力の粗さがアスリラ達が魔力操作の訓練を初めてした時の三歩分ぐらい手前になると感じ取れたと言う。


 アスリラ達よりはマシだが、あんまり大差ない。

 これがキチンと感じ取れたなら俺が居なくても魔術を覚える事が出来るんだけどな。


 それから、その状態のまま魔力を循環するように指示をしてナーレンを観察する。

 循環するスピードは遅くはあるが、今のアスリラ達よりは早い。


 これなら思ったよりは早く使える様になるかな。


「もういいですよ、ナーレンさん」


 ナーレンに調べるのは終えたと声を掛けたから自分の席に戻る。

 全員の視線が俺に向けられているが、早く結果が知りたいのかな。


「それでコウセル、結果は?」


「―――毎日、訓練するとして付き切りで二、三ヶ月かな」


「……長いね。―――コウセル、何で二、三ヶ月ぐらいだと思ったのか聞いていい?」


「ああ、良いよ。今調べたのは―――」


 ラルベルグが結果を聞いて来るので答えたが、予想よりも期間が長かったからか渋い顔してから、理由を尋ねてくる。


 何を調べたのかは隠すような事ではないので説明していく。


 今回、調べたのは魔力の感知と操作能力だ。


 魔力感知は魔術を使えるようになるだけなら別に調べなくても良いのだが、操作能力を調べるついでに調べた。

 これがキチンと出来ると本物の魔導書を正しく読む事―――記載されている魔術文字一つ一つに宿っている魔力の流れを理解する―――が出来るので楽に魔術を覚える事が出来る。

 本当は魔術文字一つ一つの意味も知る事が出来ればもっと良いのだが、それは魔術を開発するのに必要で使うだけなら必要がないし、今の俺がそういう事を知っているのはおかしいので、これは説明から省いた。


 魔力操作については一定の速さで魔力を動かせないと魔術は発動しない事を、そのままラルベルグ達に伝える。


「では、魔力操作の訓練さえすれば、コウセルさんに長い間、付き合ってもらわなくても、魔術を使えるようになるんじゃないですか?」


「そうですね、使える様にはなれるとは思いますけど、何時使える様になるかは分かりませんよ。

 二、三ヶ月という期間はあくまで俺が訓練に付き合った場合の話ですから」


ナーレンの問いかけには、その通りだと答える。


ナーレンに足りないのは魔力操作の速さだけだ。

別に俺がいても、いなくても魔力操作の訓練をするなら魔術は使えるようになるだろう。

俺が手伝えば効率が良くなるというだけの話だ。


「コウセルさんに訓練を手伝ってもらわなかった場合は、どれくらいだと思いますか?」


「………訓練をサボらず真面目にやれば五、六ヶ月ですかね」


俺が手伝わなかった場合の予想期間をナーレンが聞いてくるので答えるが、これははっきり言って当てにしないで欲しい。


別にナーレンが訓練をサボったり不真面目にすると言いたい訳ではないが、たぶんどんなに真面目な奴でも一月もすればだれる。


俺が手伝わなかった場合は訓練方法は一つ。それは―――


「ねえ、コウセル。コウセルが訓練を手伝わなかった場合の訓練方法って、瞑想?」


「そう、瞑想」


「うわぁ、瞑想かぁ」


アスリラの質問に答えれば一番最初に反応したのはラルベルグで、その顔は嫌そうな感じだ。


瞑想を訓練としてやったことが有るのかな?

魔力を感じる事が出来ない場合の瞑想は訓練をした実感の無さと、これで良いのかという生じる疑問は大きくやる気を削ぐからな。

知っているなら積極的にやりたいとは思わないだろう。


「コウセル、サボらず真面目にって言ってたけど毎日どれくらいするの?」


「町にもよりだろうけど、間が長いので一鐘、短いので二鐘(二時間)くらいの時間かな」


「あー、一日サボったりしたら、どれくらい延びると思う」


ラルベルグは瞑想を訓練としてやったことが有るな。サボったりする事を前提に話し始めている。


「正直言って分からない。瞑想は毎日やらないと意味が無いと思うから、やったりやらなかったりとまちまちになると殆ど意味が無いように思う」


俺の回答にラルベルグは頭を抱え、他の〈黎明の剣〉のメンバーは不思議そうにラルベルグを見ている。


他のメンバーは瞑想をやったことが無いか、精神統一の為なんかに短い時間やったことが有るくらいだろう。

あと、アスリラがしまった、という感じの顔をしているが魔力操作の訓練をサボっていたな。


「ラルベルグ、そんなに頭を抱えるような事なんですか? ラルベルグも剣の訓練をするときは短いめですが瞑想をしてるじゃないですか」


「いや、僕は短い時間だけしてるんじゃなくて、短い時間しか集中して瞑想が出来ないんだよ。

ナーレン、君が思っている以上に長い時間、瞑想するのって難しいよ。やっている意味が少し違うかも知れないけど、アーク流の鍛練で精神統一をして魔力を感じ取って身体に巡らせろ、ていう修行が有るんだけど、やる意味が有るのか、て思うぐらい成果も実感も無いし流派の先輩に出来ていないて言ってきて叩かれる。

最後の所は関係無いけど五、六ヶ月間サボらず真面目にやるのは無理だと思う」


やっぱり、ラルベルグはちょっと違うが瞑想による魔力操作の訓練をしたことがあったか。

 話を聞き限り方向性は間違ってはないが結果が出るまでやる気が持たなかったみたいだな。

 もう少し魔力について訓練をしていれば、もう一段階強くなっていたんじゃないだろうか。


アーク流の剣術が本当にアスクルの剣術と同じものなら魔力操作の技術は必須だ。

どれくらいなのかは分からないが僅かな期間、瞑想による訓練をしただけで使えるようになっているならラルベルグには才能がある。


 まあ、それ故に先輩連中からイビられたという可能性が有るが、勿体ないことだ。






あらかた俺からの説明が終えると〈黎明の剣〉のメンバーで、どうするかの相談を始める。


魔術を覚える事は確定みたいだが俺から教わるか教わらないか、教わるとした場合は何時まで教わるか。

 〈黎明の剣〉がしている相談に耳を傾けて結論を出るのを待つ。

 時々、俺の方に質問をしてくる事があるが決まらないまま時間が過ぎていき、今日は決まらないかなと思い始めたがアスリラの一言で最初より大事になったが結論が出る事になる。


「ねえ、もう全員、コウセルに魔力操作を教われば解決するんじゃないの?」


「は?……アスリラさん何言ってんの」


「だって、問題なのはナーレンさんが魔術を覚える為だけに長い間シビアに居られない事なんでしょ」


 アスリラの言葉に驚き、思わず俺が訊ね返し、〈黎明の剣〉のメンバーも何を言っているんだとアスリラに視線を向ける。


 アスリラの言っている事は間違いじゃないが大部分の事情を省いている。

 〈黎明の剣〉がシビアに長く間、留まりたくないのは自分達に合った依頼がないのが一番の理由だ。


 シビアはリディアの迷宮が在るものの辺境の町であることに変わりは無く、リディアの迷宮も迷宮としては小規模、辺境の町では冒険者ギルドにランクが高めの依頼が出されることも滅多にない。

 少し前にCランクのエアウルフ討伐の依頼が出されていたが、アレは稀な事だ。

 〈黎明の剣〉はシビアで活動するより拠点を構えている王都に戻って活動した方が良いと考えているんだろう。


「コウセルに教われば全員強くなれるしナーレンさんは魔術を覚えられる。コウセルの仕事の都合もあるから二、三ヶ月以上かかるかも知れないけど強くなっていれば今後は楽になるよ」


「ナーレンは分かるが他の俺達がやる意味は有るのか? 有るとしてもラルベルグぐらいだろ」


 アスリラの言う事が懐疑的なのかルウェインは納得できていないみたいだ。


「そんなこと無いよ。戦う人なら必須技術だもん。ねぇ、コウセル」


「う、うん、そうですね。鍛えといて損はないかな」


アスリラが俺に同意を求めてくるが肯定しづらい。

肯定すれば、おそらくCランクの〈黎明の剣〉に基本が出来ていないと言う事に等しくなる。


「そんなことはないよ。私はコウセルに鍛えられたから強くなったんだよ。中層でうろうろしてたはずなのに、いつの間にか迷宮ボスの討伐をすることになってたし。

―――給仕さーん、おかわり!」


最初の方は俺を持ち上げてるが途中から愚痴になってないかアスリラ。

それに言動も態度も少しおかしい―――もしかして酔ってるのか?


何度か(冷却)を頼まれたが〈黎明の剣〉の話を聞くのを優先してたから数えていない。

何杯飲んだ?


『ハチ、アスリラは何杯飲んだ』


『六杯でアリマス』


ハチに念話で聞けば、すぐに返答が帰ってくる。


アスリラが酒に強いか弱いかは知らないが六杯も飲めば酔いもするか。


「コウセル、冷して」


「アスリラさん、ちょっと飲みすぎです。今日はもう終わりです」


「あー!? あたしのエール取った。返してよ~」


『ご主人様、苦しいでアリマス』


 酔っているせいか羞恥心も抱かずアスリラが、俺に抱き着くようにして木の杯を奪い返そうとしてくる。

 抱えられたハチは俺とアスリラに挟まれて苦しそうだ。


 抱き着くようにアスリラが迫ってくるので身体の突き出た部分が当たったり、良い眺めを拝めたり、アスリラの匂いが漂って来る―――のは好きな人は得だと思うだろう。

 これでもう少し色気のある状況なら俺も嬉しいんだけどな―――手は出さないけど。


「おい、お二人さん。イチャつくのは後にしてもらっていも良いか」


「変な事言わないでください、ルウェインさん。周りの視線が怖いんですから」


 まともに答えずにほったらかしにしていたせいか苛立った口調でルウェインが責めてくるが本当に止めてほしい。周りの視線が痛い。


 大部分がアスリラに引っ付いている事に対しての嫉妬だが殺意を向けてくる奴もいる。

 ヒールックみたいにアスリラに惚れている人もいるのかな、やたらと強い殺意を向けてくる奴がいるな………これ本当に嫉妬だけか?

 

「コウセル、さっきアスリラさんがコウセルに鍛えられて強くなったて言ってたけど、僕たちもコウセルに鍛えて貰えば強くなれるの?」


 何とかアスリラを落ち着かさせ席を座り直すとラルベルグから強くなれるかと問われる。


「………多分、劇的に強くなる事は無い。アスリラさん達とラルベルグ達ではレベルが違うんだよ。

 言い方は悪くなるけど、アスリラさん達はラルベルグ達と比べてレベルが低かった。だから魔力操作の訓練をすることで劇的に上がった」


 ラルベルグの問いに少し考えてから答える。


 アスリラ達とラルベルグ達では年齢は同じぐらいだが才能も有るが環境の違いが力の差になったと思う。

 アスリラ達、シビアという狭い世界で目指す人もいず、強い人もいない。

 ラルベルグ達は王都で色々な物、人、情報が多く入って来て、目指すべき人も強い人も多くいるだろう。

 それにシビアでは切磋琢磨するような相手がいないだろうからアスリラ達はモチベーションを保つのも上げるのも苦労する。

 あと、リーゼとラーネルは強くなろうと思っていただろうが、アスリラは日々の糧を得る事が主なので二人もそれに知らずに合わせていたかも知れないな。


「ラルベルグ達でナーレンさんは魔術を覚えると言う事もあるけど、魔力をより細かく扱う事が出来るようになるから魔法を使うのも上手くなるから強くなると言えるかな。

 フォトルさんはどうなんだろう。方術も魔力を使うと聞いた事があるから、ナーレンさんと同じように上手くなれると思うけど俺じゃあ、ちょっと分からない。

 残ったラルベルグ達は魔力操作の練度にもよるけど強くなると言うより戦いが上手くなると言った方が良いかな」


 アスリラ達とは違って劇的に強くならない事を説明してから、俺から訓練を受けた場合の説明をラルベルグ達にしていく。


 神官であるフォトル以外は前にアスリラ達に説明した事と同じことを説明し、フォトルについてはあくまで推測として説明をする。


 推測として説明したのは前世である神官に激怒されたからだが、特にフォトルは機嫌を悪くしたようには見えない。

 何とも思っていないのかな? それなら今後がやりやすくなるので良かった。


「戦いが巧くなるていうのは?」


「魔力操作が上手く出来るようになると身体強化の強化速度と魔力効率は確実に良くなる。

 それを強くなると言うより巧くなると言った方が合ってる気がしたから、そう言っただけだよ」


「じゃあ、コウセルが強くなったと思うぐらい魔力操作が上手くなったら何が出来るの?」


 ラルベルグが積極的に質問して来るが俺から訓練を受けるつもり何だろうか?

 ラルベルグが、どう考えているかは分からないが訓練を受ければ一段階強くなれるのは確実だろう。


「まず部分強化、次に瞬間強化で魔力放出、後はどっちを覚えたいかで別れるけど武器に魔力を込める(通し)か武器に魔力を覆う(覆い)かな。

 それ以上は武術の技になるから俺が教えることは出来ないかな」


「コウセル。俺も(覆い)を出来るようになるのか?」


 何が出来るようになるかを説明すれば一番大きく反応したのはモートロだ。

 

 (覆い)は盾なんかで行えば単純に防御力が上がり、攻撃による傷や特殊な攻撃による酸化や劣化に対して簡単な保護もなるので壁役としては気になる技術だろう。


「魔力を持っている人なら誰でも訓練すれば(覆い)も(通し)も出来るようになりますよ」


 俺が出来るようになると保証すると再び〈黎明の剣〉のメンバーで相談し合っているが、さっきとは違い日数をどうするかではなくラルベルグとモートロが中心にしっかりと訓練を受けようと他のメンバーを説得していて。

 そして、出た結論は―――


「コウセル。ナーレンが魔術を覚えるまで全員、お世話になるね」


 Cランク冒険者パーティ〈黎明の剣〉に魔力操作を教える日々が始まった。



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