閑話 ジルモルトの波乱万丈 (上)
お久しぶりです。殆どの方が忘れ去っているのではと思っていますが更新しに来ました。
この閑話は書いている途中で、コウセルがシビアに来てからの話の復習にしかならないんじゃないかと思いましたが中途半端に置いておくのは嫌だと言う事で完成させましたが、思ったより書くのに時間が掛かったり、現実の用事で書けなかったりと遅くなって申し訳ないです。
文字数が多めなので二話に分けています。次の更新は本編に戻り早めに更新したいと思っています。
私の名前はジルモルト・フォン・アルナーレ。アルナーレ男爵家の次期当主だ。
貴族として生まれたこと以外は私は平凡で、父も母も平凡な人物だ。
ただ、妹のクートゥリーゼ(愛称はリーゼ)だけは変わっていて騎士になりたいと言っている。
最初に聞いた時は何を言っているんだとリーゼの正気を疑ったもんだ。
貴族の男は物静かでおしとやか、そして夫を立てる女を好む。だから、そうなろうと貴族の女は礼儀作法などを学び、その家の者もそう教育をする。
内心がどうであれ、そういう教育を受けてきた貴族の女は物静かでおしとやかな、そして夫を立てる女っぽく為るもんだ。
リーゼも同じようにそういう教育を受けていたが、どうして騎士を目指すなどと言い始めたんだろう。
―――まさか、私が原因なんだろうか。リーゼとはそれほど歳が離れていないので一緒に遊んだ事がある。
その時の私は幼く自分のやりたい遊び、英雄、騎士のごっこ遊びばかりしていて、リーゼも付きあわせ、しかも、やらせていた役は囚われの姫なんていう役ではなく、英雄ごっこの時は仲間の騎士、騎士ごっこの時は従者の役をさせていた。
リーゼはこの時に英雄や騎士に憧れを抱いてしまって騎士を目指そうと思ったんじゃないだろうか。
……いや、何もこれが原因とは限らない。そういう教育を受けても物静かでおしとやかな女にならない者は多くは無いが確かに居る。
『雷風の姫騎士』がいい例だ。伯爵家という貴族の中でも上位に居る家の令嬢だが、きちんとした教育を受けているはずなのに、その性格は男よりも男前でかなりの実力者らしく、数年前に現れた狼の魔王種を倒したのは彼女でその時に『雷風の姫騎士』を呼ばれ始めた。
そういう例外も居るのでリーゼが騎士になると言い始めたのは私のせいではない……はずだ。
まあ、もう過ぎ去ってしまった事だ、原因が何かなど調べることに意味はない―――そう、今後一切する必要はない!
さて、リーゼが騎士になると言い出した時、父も母も当然反対をするのだが、なかなかリーゼも諦めず説得は難航し、そして最初に折れたのは父だった。
父はリーゼに条件付きで騎士になろうとするのを認めた。
その条件は細かくすれば色々とあるが簡単にすると一定以上の剣術を身に着ける事だ。
父としては、この条件で諦めると考えていたんだろう。
身体を動かす機会の少ない貴族の令嬢が魔物と戦えるだけの剣術をを身に付けられるとは思えなかったからだ。
しかし、リーゼは予想に反して剣術の腕を上げ、今も嬉々と訓練をして腕を上げ続けている。
これには父も驚き辞めさせようとするのだが途中で思いとどまり、リーゼに探索者をしないかと提案をし始める。
リーゼが探索者をする事によって得られる収入は小さいものだが、それでも収入は収入だ、とても助かり、何より剣術を師事する教官を雇わなくてもよくなるので出費が掛からない。
剣術の教官は特別だが、貴族の令嬢は出費をすることは有っても収入を得る事は殆どない、だから少しでも収入があるのは有難いのだ。
この提案を受けたリーゼは最初は嫌がっていたが、政略結婚をさせないのなら提案を受けても良いと言い、父は探索者をしている間は政略結婚をさせない事と得た収入の経費を除いた一部以外を家に納める事を条件を変えて提案し、リーゼはその条件を受け入れた。
私はその話を聞いた後、そんな約束をリーゼとして良かったのかと父に問うと予想外の事だったがこれで良いと言う。
リーゼが探索者をやり、野営や生き物を殺す事を嫌だと言い始めれば、それを理由に騎士になる事を諦めさせればいいし、探索者とやっていけるなら、その経験はもし騎士になった後の事を考えれば生きていく。
迷宮は命の危険があるのではないかという不安はあったが、魔法使いであるラーネルを同行させるのでその心配もなくなる。
何年か後にリーゼから魔法使いがいるから、大丈夫という考えは甘いと聞いたときは肝を冷やしたが。
それに剣術を身に付けたリーゼは他の貴族の令嬢とは違って貴重な価値がある。それは戦える貴族の令嬢という事だ。
一番良いのはリーゼが望んでいるように騎士になる事だが、騎士になる事を諦めさせた場合や、騎士試験を落ちた場合でも戦える貴族の令嬢なら、他にも高位の貴族の令嬢に仕えるという道もある。
高位の貴族の令嬢の身の回りを世話する者は探せば出てくるが、身の回りの世話を出来て戦える者となると少ない。
身分や身元を考えなければ、そんな事はないだろうが公の場に出ることや信用の問題を考えると、どうしてもリーゼのような貴族出の者が望まれる。
まあ、その道をリーゼが納得するかどうかは分からないが、父の、アルナーレ男爵家当主の言う事だ従わなければいけない。
騎士試験の様な人生に大きく関わる事について、我儘を聞いて貰えるのが稀で、普通は当主の言う事を聞くのが絶対だ。もう、これ以上は父もリーゼを甘やかさないだろう。
一番いい結果となるようにリーゼには騎士試験を頑張ってもらいたい。
それから父とリーゼが約束を交わしてから数年が経ち、特に何かが起こる事なく平和な日々が続いている。
リーゼは迷宮の上層と中層の間を中心に活動しており、魔法使いがいるのだから下層で活動出来ないのかと私は思ったが、収入と安全を考えると上層と中層の間が良いらしい。
一度だけしか騎士試験を受ける事が出来ないのだから、リーゼが慎重になるのは分かるが、そろそろ貴族の女としては結婚適齢期を過ぎてしまうので父も母も焦りが出てくる。期限を設けなかったのは痛いミスだ。
こういったリーゼについての問題は有るが、平凡な日が続いていて、これからも続くだろうなと思っていたが突然、私の人生で初で、そしておそらく一番大きな波乱がやって来た。
波乱の始まりは代替わりしたばかりのタドーコア男爵が迷宮で亡くなった事からだ。
実際、噂されているのは帰還してこないというもので確証は無いのだが、迷宮に潜って戻ってくる予定日から何日も経つので死亡しているのは確実だろうと言われていて、私もそう思っている。
噂が流れはじめてから数日後、本当にタドーコア男爵が亡くなったと判断したのかタドーコア男爵家からタドーコア男爵の遺体回収の依頼が出されて報酬は金貨五百枚と破格の報酬だ。
貴族の者が迷宮で亡くなった場合は遺体回収をするのは当たり前だが、それでも報酬に金貨五百枚というのはあり得ない。しかも遺品を必ず全て持って帰ってくることと条件をつけている。
タドーコア男爵家の事情を知っているなら遺体を回収することが目的ではなく遺品を回収することが目的だと分かる。
おそらく、遺品の中にはタドーコア男爵家の家宝の魔導具があるんだろう。
タドーコア男爵家の当主ラエルと、その弟エラクレスの仲が悪い事は有名で、当主の座が固まっていない兄のラエルを弟のエラクレスが蹴落とそうとしていると聞く。
タドーコア男爵家の当主が変わった魔物を従魔しているのが当主の証みたいなものなのだが、ラエルが従魔にしている魔物はコボルトだと聞いた。
弟のエラクレスがコボルト以外の珍しい魔物を従魔にすれば、当主の地位が固まっていない兄ラエルはかなり危なくなるのが予想できる。コボルトという平凡な魔物より変わった珍しい魔物の方が特別感が出て、弟を当主にしようという声が出る可能性が有る。
だから、自分が迷宮に潜っている間に弟のエラクレスが従魔を得る事を警戒して魔導具を持って迷宮に潜ったんだろう。
まあ、現当主のラエルが亡くなってしまったので意味のない推測だな。
そして、遺体回収の依頼が出されてから数日後、タドーコア男爵家は男爵位を誰に受け継がせるかで騒動が起きる。
当初はエラクレスが受け継ぐことになっていたが、ダドーコア男爵家の親戚連中がエラクレスは相応しくなく自分の方がふさわしいと言い始めた。
これが親戚連中がただ騒ぎ始めただけなら、さほど問題は無かったんだが親戚連中の後ろには他家の貴族が付いているので難しくなっている。
他家の貴族たちはタドーコア男爵家の勢力を削ったり、持っている利権を奪おうと考えていて、上手く行けば珍しい魔物を従魔にする秘密を知り、従魔を手に入れられると思っているんだろう。
ここまでなら貴族一家の御家騒動だけで済むのだが、タドーコア男爵家は大きな勢力を誇っていたので好機とばかりにある派閥がタドーコア男爵家そのものを潰そうと動き始める。
それを阻止しようとタドーコア男爵家が所属する派閥が動き、大きく動き始めた二つの派閥を攻撃しようと別の派閥が動きと段々と事が大きくなっていき激しい権力闘争に発展し、アルナーレ男爵家の所属している派閥も動いている為、アルナーレ男爵家も動かなければならない。
幸いリーゼが家に納めてくれていた金銭がある分、我が家は他の家よりも優位に立つことが出来ていたが一番仲の悪い貴族に一歩遅れを取る事態が起きた。
ケイッコー鳥の青羽を使った装飾品がシビアで流行り始め、特に青羽を使った扇がシビアのトップの位置に居る貴族のご婦人たちが気に入ったので皆、挙って手に入れようと動き始める。
一番仲の悪い貴族の奥方は何かと服飾品を購入していたの流行前からケイッコー鳥の青羽を手に入れていたり、流行り始めてからも服飾を扱っている商人に顔が効くので定価に比べて高めだが他よりも安く多くを手に入れてケイッコー鳥の青羽の扇を作製して手に入れていた。
我が家は流行り始めてから手に入れようとしたので他の貴族と争いながら高値で購入する事になったのでリーゼが納めてくれていた金銭が有ってもケイッコー鳥の青羽を扇を作れるほどの数を揃える事は出来なかった。
普段の権力闘争なら不利にはなるがそこまで問題ではなかったのだが、今回の権力闘争は激しいものとなっている、僅かでも不利になれば大きく家の勢力を削られるかも知れないので大きな問題だ。
父もそれが分かっているから、将来の利益を無視して目の前の問題を解決するためにリーゼに政略結婚をさせようとしている。
父も一貴族の当主だ。時には私情を殺して決断するのは珍しくない。
リーゼも約束が違うと父に抗議をするものの、事の重大性を理解しているから強くは言えないでいる。
それでも政略結婚させられるのは嫌なのか自分でケイッコー鳥の青羽を採ってくるとシビアの外の森へと行ってしまったが、数日後、リーゼが森から帰ってくるが、ケイッコー鳥の青羽を手に入れられないどころかケイッコー鳥自体を見つける事が出来なかったと落ち込んでしまっていた。
幼い頃からの夢に挑戦する事が出来るはずだったのに、挑戦する事も出来ず夢を潰されたんだ仕方がないか。
だが、リーゼのあまりにもな落ち込み具合を見て、私は何とか慰めようと無責任にも冒険者ギルドに依頼を出しているから大丈夫だと言ってしまった。
冒険者ギルドに出した依頼は達成されるどころか依頼を受けてくれる者がいるかどうかも怪しい。
何せ経済的な問題で通常のケイッコー鳥の青羽の採取依頼よりも報酬額は低く、森には進化した魔物が住み着いているので誰も行きたがらないのは知っているからだ。
言ってしまった後にリーゼに変に希望を見せて、より大きく失望させてしまんじゃないと自分の失言に悔いたが、リーゼは私の言葉を聞いて何か閃いたのか「そうだ!?」と言って飛び上がる。
リーゼに「どうしたんだ」聞けば知り合いの冒険者に直接依頼すると言い出す。
詳しく聞けば知り合いの冒険者とは前に迷宮で助けてくれた魔術師を名乗る変わった男の事らしい。
前にリーゼから話を聞いた事がある。魔術師と名乗っているのに魔術ではなく槍で戦い、下手をすれば武術の奥義や秘伝になるような魔力を扱う技術を簡単に教える男、確か名前はコウセルだったか。
リーゼとリーゼのパーティを組んでいるアスリラは警戒していないみたいだが、ラーネルは何かと疑いの目を彼に向けている。
魔力操作の訓練をする為に一度だけ地上で会って、それ以来、特に接触していないのでラーネルの警戒し過ぎのようにも思う。
ラーネルが警戒しているのは魔法使いと魔術師の間にある蟠りが問題なんだろう。魔法使いとして魔術師、魔法使いモドキの事など気にしないでいれば良いと思うのだが、そうはいかないのだろうか?
魔法使いでない私にはわからない感覚だから、あまりきつくは言えないが気を抜くように言っておこう。
止めろと言ってもラーネルは聞かないだろうから出来るだけ疲れないようにしてやらないとな。
それからリーゼは何度かコウセルが利用している宿屋に赴き、ケイッコー鳥の青羽採取の依頼を受けさせる事を出来たそうだが依頼の報酬に我が家に庇護を求めて来たらしい。
はっきり言って、面倒極まりない話だ。金銭なら払えばそれで終わるが庇護だと何時までも付きまとい下手すると報酬金よりも大きく我が家に負担が掛かるかも可能性もある。
父もリーゼから話を聞いて、その可能性に気が付いているのか前向きに考えておくと言って、しつこく庇護するように言ってきたリーゼをとりあえず納得させて部屋から退出させた。
「父上、その冒険者に報酬として庇護を約束するのですか?」
「馬鹿を言うな、庇護などする訳がないだろう。あのままではリーゼが納得しないから考えておくと言っただけだ。
もし、その冒険者が青羽を持ってきたら、その時は冒険者ギルドに出している依頼を受けた事にして依頼書に記載されている報酬を払う」
「分かりましたが、その冒険者に何もしないというのは惜しくはないですか」
「勧誘はする。私に仕えるというなら配下として庇護はするつもりだ」
私はリーゼが優秀と言う冒険者に対して何もしないというのが惜しいと思い、父にこのまま何もしないのかと訪ねたが後から思うと胆の冷える。
ここで父が強引な手段を取ると言っていたら今頃どうなっていたか。
この時はコウセルがいかに優れた冒険者であるか私も父も知らなかった。ソロで迷宮を探索をすることがどれほど難しいか、リーゼが強いと言っているのがどの程度なのかよく理解していなかった。
ここでコウセルを見下し強引な手段を取っていれば、アルナーレ男爵家は大きな損害を受けていただろう。
貴族として甘く見られるのはいけないが、だからと言って傲慢なのもいけない。
この地にアルナーレ男爵家が左遷されたのは、平民を何も出来ないと見下して侮っているところで足元を掬われたのだから。
リーゼから冒険者のコウセルが依頼を受けたという報告を受けてた翌日、リーゼは再び森へと赴き、父と私はリーゼの政略結婚の相手を探すのを続けた。
父も私もコウセルがケイッコー鳥の青羽を取ってこれるとは思っていなかったからだ。
リーゼの結婚相手探しは思ったよりも多く出て来て結婚相手がいないという状態は避けられたが、どうもリーゼに好意が有るからではなく、リーゼと一緒に魔法使いのラーネルを取り込めるんじゃないかと話をしている時に感じた。
政略結婚なので仕方がない部分あるが、こちらに悟られるほど露骨なのが気に入らない。
まあ、それでもお転婆で結婚適齢年齢ギリギリのリーゼに結婚相手がいるだけマシと考えよう。
リーゼから話を聞いてから多くの結婚相手候補の選別と、より良い候補を探しをしながら過ごし、三日目の晩、外出から戻ってくるとケイッコー鳥の青羽を冒険者が持ってきて手に入れたとメイドから報告を受けた。
冒険者というのはコウセルの事だろうと思いながら、確認のためにとメイドから父の居る場所を聞いて父の元に向かう。
父は執務室に居るらしく、さぞ機嫌が良いだろうと思い執務室の中に入るが、そこにいたのは不機嫌そうな父だった。
「ジルか」
「はい、ただいま戻りました父上。青羽を得ることができたとメイドから聞いたのですが」
「ああ、例の冒険者が持ってきた」
父の言う例の冒険者とはコウセルのことだと思うが、わざわざ名前を言わず、さらに不機嫌そうに顔を歪めたのだが何があったのだ。
「父上、何かあったのですか?」
「……少し腕の立つ程度の冒険者と思っていたが駆け引きも出来る曲者だったよ。まんまと一杯食わされて彼を我が家で庇護する事になった」
「我が家に対して何か仕掛けてきたのですか!」
冒険者というよりも平民が貴族である父に一杯食わせたということが信じられず驚きの声をあげてしまう。
まさか裏で糸を引いている者が居るのではないか疑ったが、すぐに父が否定することでその疑いは消えたが驚きが続くことになる。
「いや、私が迂闊に言質を与えたのがいけなかった。それにリーゼを切り捨てても自分の利を取る冷たさも持っていた」
「依頼を放棄しようとしたのですか?」
父から説明を受けて私は二つの意味で驚いた。
冒険者が特別な理由なく依頼を放棄すると違約金が発生し、信用も無くなってしまうので無理をしてでも達成させようとするのが普通だと聞いている。
それに今回はリーゼが困っているから依頼の報酬が低くても受けたと思っていたので、リーゼを見捨てた事も信じられなかったのだ。
「短い期間、森に狩りをしに行くという願いを聞いただけで、正式に依頼を受けた訳ではないと言いおった。実際に書面は無いので、依頼を放棄したところで冒険者に何の罰も課せられる事は無い」
想定外だ。まさか、只の冒険者に此方と交渉する知識と知恵が有るとは思わなかった。
本当に只の冒険者なのか? どこかの貴族の回し者と言われたほうが、まだ納得できる。
まあ、本当にどこかの貴族の回し者なら、こんな回りくどいことはしないだろう。
すでに庇護することは公文書を作ってまで約束している。今さら反故にすることはできない。
彼を庇護する事で大きな問題が我が家を襲わなければいいんだが。
コウセルを庇護する事を約束してから時間が過ぎていくが、特に大きな問題が起きる事なく時は過ぎていく。
コウセルが犬を飼いはじめて『犬飼』という二つ名が付いたり、他家の貴族や探索者クランの強引な勧誘、手柄の横取りなど細々とした事は起こったが、それは予想の範囲内なので面倒だが問題という程ではないし、面倒事をこなした分以上の見返りをコウセルから得られているので苦痛ではない。
このまま何も起こらないんじゃないのか、何も起こらなければ良いなと思い始めた時、気が緩んだタイミングを狙うように大きな問題が起こった。
ジッフル男爵がコウセルに殺人容疑を掛けてきた。
はっきり言って難癖もいいところだがジッフル男爵の権力は強い。無理やり容疑を固めて捕まえる事は出来ないが、それでも何時までも容疑を掛け続けて身動きを封じる事は出来る。
父からこの話を聞いた時にはジッフル男爵は勿論、コウセルにも苛立ちを覚えた。
コウセルがリディアの迷宮でな亡くなった探索者の遺品を冒険者ギルドに持って行かなければ殺人容疑を掛けられることは無かったんだ。
人として正しい事をしているのは分かっているが苛立ちを覚えずにはいられい。
そして、ジッフル男爵に対抗するために、リディアの迷宮の最下階層に挑むと聞いた時は何を言っているのか理解できなかった
私の中では、最下階層に挑むのは外から呼んだ探索者なり冒険者が挑むもので、シビアの者が挑むという考えがなかったからだ。
漸く理解してから詳しく話を聞けば、言い出したのはリーゼで、この時ほど深く妹の正気を疑ったのは初めてで、父にも何を考えているんだと怒声を上げないモノの口論になり最後は当主の決定だと押し切られる事になる。
はぁ、我が家の命運もここまでなのだろうか。