最下階層攻略(その後)
文字数の調整が上手くいかない
迷宮ボスのミノタウロスの討伐を力を隠し通して達成する事が出来たが、最後の悪足掻きだろう自爆を阻止しようとして意識を失ってしまった。
最後の最後で気を抜いてしまった事を悔しく思いながらも意識が遠のいていくのを止める事が出来ない。
後をリーゼ達に任せる事に不安を抱きながら意識は沈んでいった。
気が付いた時にはベットの上に寝かされていた。
気が付いた俺は今、自分が何処に居るのか分からなかったので魔術で身体の調子を調べながら周りを見渡した。
高級そうな家具を揃えた一室だが、ここが何処かというのを判断する物はない。仕方がないので傍のナイトテーブルに置かれている呼び鈴を鳴らし人を呼ぶ事にする。
丁重に扱われているみたいだから悪い事にはならない筈だ。
人がやって来るまでの間、ハチに念話を飛ばして俺が気が付いた事を報せるのと気を失った後の事を聞かせてもらうか。
『ハチ。そっちは無事か? 今、意識が戻ったんだが、俺が意識を失ったからどうなったんだリーゼ達は無事か?」
『ご主人様!? 意識が戻ったでアリマスか! 良かったでアリマスが何であんな無茶をしたでアリマスか! 小官は心配で心配でたまらなかったでアリアス! もっとご自身の身体を心配するでアリマス。それから―――』
『おお、悪かった。だから少し落ち着け』
『分かってないでアリマス!』
「ちょっと!どうしたのハチちゃん」
ハチに念話が繋がると同時に驚き、喜ばれ怒られ心配されて、と感情がごちゃ混ぜになった状態で言い募られ話が出来ず、犬声で吠えて暴れているのか、窓の外からハチの犬声と、突然暴れ始めたハチに戸惑う女性の声が聞こえてきた。
世話をしている女性には悪い事したな、突然ハチが暴れ始めたら驚くか。だが今のハチを落ち着かせることは俺には出来ない。
ハチが大人しくなるまで彼女には悪いが我慢してもらおう。
「失礼します、コウセル様」
ハチが漸く落ち着いた頃に呼び鈴を聞いたのだろうメイドと共に白衣を纏った中年の男が部屋の中に入って来た。
―――様付けか。
部屋に入って来たメイドはアルナーレ男爵家の屋敷で働いていたメイドだ。
俺がアルナーレ男爵の屋敷で世話になっているときは下働きと同じ扱いで彼女からは君付けで呼ばれていた。
待遇が良くなっているのは分かるが、今の俺の扱いはどうなっているんだろう。
「お早うございます? イラネルさん。ここはアルナーレ男爵様の屋敷ですか? それと俺はどれくらい寝込んでいました?」
待遇についても気になるが、まずは此処が何処で、どれくらい意識を失っていたのかを聞く。
「お早うございます、コウセル様。こちらはアルナーレ男爵家の屋敷で間違いありません。そしてここは客室でございます。
コウセル様は屋敷に着いてから丸1日眠っておられました。現在はお昼を少し過ぎた時間でございます」
予想通りアルナーレ男爵の屋敷で間違いはないみたいだな。
リディアの迷宮の最下階層から転移装置を使っても地上に出るには約一日掛かるので、それとアルナーレ男爵の屋敷で寝込んでいた日数を合わせると二日間、意識を失っていたことになる。
「俺はどうして客室に寝かされているんですか? 最下階層に挑む前は下働き用の部屋を借りていたはずですが」
「以前はあくまで下働きの者として屋敷に居られましたが、今は迷宮の最下階層の攻略に貢献していただいた探索者でアルナーレ男爵家の恩人です。
旦那様から客人としてもてなす様に言いつかっております」
なるほど、結果を出したんで待遇を良くしてもてなすのは当たり前か。
「申し訳ないですが、そろそろ宜しいですかな」
何時までもメイドのイラネルと話して待たせていたせいか、白衣の中年の男が我慢できずに話しかけてくる。
白衣の中年の男は初めて見るので誰なのかは分からない。
「私は医者をしているニューアルと申します。
コウセル殿の意識が戻れば診察をするように仰せつかっていますので診察をさせていただきたい」
なるほど、医者か。俺が意識を失っていたんで医者に見せようとするのは分かるんだが―――来るのが早過ぎないか?
「診察は構わないんですが、こちらに来られるのが早かったですね」
「ああ、アルナーレ男爵が恩人たる君が目覚めたら、すぐに診察できるようにと私を屋敷に滞在させていたのです」
胡散臭い。この世界《モータルセンヌ》で医者というのは数が少ない。
魔法や神官が使う方術などがあるので怪我や病気は比較的、簡単に治せるからだ。
だが、それでも魔法や方術で治すのが難しい病気や出来ない病気などが有るので、それらを判断して治すのが医者の役割だ。
腕にもよるがそんな数の少ない医者を屋敷に滞在させたんだ、それなりに金が掛かっているはずだ。
俺の為だけにそこまでするだろうか?
何か怪しいと思うが、診察はアルナーレ男爵の好意ということなので断る事が出来ない。
診察を受ける事にするが、一応、何かしてこないかと警戒しながら受けていたが特に怪しい行動はなく終了した。
警戒していただけに少し拍子抜けしたが良しとしておこう。
診察結果も自分で魔術を使って調べて何も問題無かったので、ニューアルも問題ないというと思たんだが予想とは少し違った。
「怪我は治っているみたいですが、まだ不安定なので今日合わせて六日間は絶対安静です。横になって過ごして下さい」
そう、やたらと長い期間、安静にするようにと言ってくる。
「様子見をする為に安静にするのは分かりますが、六日間は長すぎます。もう少し短くなりませんか」
「長すぎるかもしれませんが、貴方の身体の事を考えればそれぐらい必要です」
この後も何とか日にちを短くしようとするがニューアルは頑なに六日という期間を譲らなかった。
ここまでニューアルが頑なことに疑問が抱くと同時に、本当は俺の体調は関係がない事に気付く。
ニューアルの後ろに居るだろうアルナーレ男爵は六日間、何かをする為に俺を客室から出したくないんだろう。
これ以上、話しても日にちを短くすることが出来ないと思った俺は、渋々ながら六日間安静にすることを承知した。
承知した事にニューアルは安堵したように息を吐き、イラネルから何かあれば部屋を出る前に必ず呼び鈴を鳴らして呼んでくれと説明してから二人は部屋から出て行き部屋の中に俺一人となる。
仕方がないとはいえ六日間、客室に閉じ込められることにため息が出てくるが、何時までも嘆いても意味はない。
客室の中でも出来ることをしていこう。
まずはハチから俺が意識を失った後の事を聞くか。
念話でハチに話しかけるが、まだ機嫌は直っていないみたいだったが渋々ながら話してくれた。
俺が迷宮ボスのミノタウロスの自爆を阻止しようとして炎の球体を破壊して起こしてしまった爆発が治まっても、リーゼ達は何が起こったのか理解できず呆けていたらしいが、ハチが犬声で吠えつける事で漸く動き始め、三人は俺の傍まで駆け寄り、ハチも紺狼商店から借りている魔法の鞄マジックバックを咥えて俺の傍まで駆け寄ったらしい。
爆発は炎の球体を破壊した時に起こったもので本来の威力よりも落ちていた筈だが、それでも凄まじい威力が有ったのか俺の防具類はボロボロになり全身火傷を負い、特に槍を握っていた右腕は酷い状態だったそうだ。
話を聞いて右腕に視線を下ろすも、そのには怪我一つ無く違和感など感じない右腕があるだけなので実感は湧かず、キチンと治っているみたいなので気にせずに話の続きに耳を傾ける。
全身火傷を負った俺を治療するために持っている魔法薬を全て使い治療をしたのだが、それでも腕の火傷だけは完治せず、不安に思ったリーゼ達は俺達の次に迷宮ボスのミノタウロスに挑むために廊下で控えていた〈黎明の剣〉の神官に頼んで方術による治癒を施して貰ったそうだ。
方術の治癒により俺が完治する事で漸く落ち着いたリーゼ達は神官に礼を述べた後、戦利品と素材の回収を始めたんだが結果はあまり良いものではなかったらしい。
戦斧の方はこれと言った欠陥は無かったそうだが、魔核は魔力が抜けてしまって使い物にならず、角の方は爆発を受けてしまったせいなのか折れていたり、一部が欠けている所がある状態で買取値はあまり期待できない様な感じだったらしい。
買取値が下がってしまったり、魔核が使い物にならなかった事は残念だが、俺の本来の目的はアルナーレ男爵家に箔を付ける事なので儲けの方はそこまで重視していない。
それよりも迷宮ボスのミノタウロスを魔核から魔力が抜けていたのが気になる。
自身の身体の中にある魔核を使い、自爆や最後の悪足掻きとして凶暴化する魔物は確かに居るがミノタウロスがそういった事をするとは聞いた事がないし、俺自身、遭遇した事もない。
迷宮ボスだからなのかとも思ったがアルナーレ男爵に聞いた話では、そんな事は一言も言っていない。娘が亡くなってたかも知れないんだ騙していたという事も無いだろう。
たまたま偶然、俺達が最下階層に挑むタイミングに遭ってしまったという可能性もあるが、それだと運が悪すぎる。
この場で考えても結論は出ないので放置するが動けるようになれば迷宮ボスのミノタウロスについて改めて情報を探らないと駄目だな。
それにしても今回、力を隠しながら戦っていたというのも有るが、戦いに関する心構えが弛み切っていた。
どれだけ強い魔物を倒せる力を持っていても俺は人間だ。油断を突かれれば、あっさりと命を落とす脆い生き物。
相手の死を確認するまで気を抜かないようにしていたのに瀕死だからと気を抜いてしまった。
誰も死ななかったから良かったものの下手をすれば全滅だった。今後は今回の事を戒めにしていかないと駄目だな。
素材などの回収が終り、地上に戻る為に〈黎明の剣〉と〈迷宮の標〉から監視役として来ていた男一人と一緒に四十二階層へ移動を始めて、気を失った俺はリーゼとアスリラが二人で担いで運んでくれたらしいが気恥ずかしい。女性に運ばれる男か……仕方がないんだけど情けないよな。
リーゼ達と〈黎明の剣〉、監視役の男が四十二階層に戻ると〈迷宮の標〉を含めた他の探索者パーティが戻って来た二組のパーティを凝視していたらしいが、少ししてロマンシアが監視役の男にどちらが迷宮ボスのミノタウロスを倒して来たのかと尋ねてきたそうだ。
迷宮ボスのミノタウロスの討伐に失敗したパーティは生きていれば四十二階層に一組で戻って来て、全滅だった場合は監視役の男が報告しに四十二階層に戻ってくるのだが、リーゼ達は二組で四十二階層に戻って来た。
彼らの中ではリーゼ達が失敗する事が確定していたから、そのうち一組で戻って来るか全滅の報告を監視役の男がしてくると思っていたんだろうが、実際は〈黎明の剣〉と一緒に戻って来たので混乱していたんだろう。
尋ねられた監視役の男は呆けていながらもリーゼ達が迷宮ボスのミノタウロスを討伐したと答えると、一部は嘘だと騒ぎはじめ、残りは信じられないモノを見るような感じでリーゼ達を見つめていたらしい。
そこから監視役の男の言葉が信じられない探索者達と少し口論する事なったらしいが、魔法の鞄から迷宮ボスのミノタウロスが使っていた戦斧を見せる事で口論は収まり、少し休憩した後、四十二階層に居る全員で地上に戻る為に移動を始めたそうだ。
全員で地上に戻るのは今回の俺のように気を失った者や怪我をした者が居る場合、迷宮ボスのミノタウロスを討伐したパーティが地上に戻るのは非常に難しくなり、戻る事が出来ない場合もある。
そういった状態なので迷宮ボスのミノタウロスを討伐するためにやって来ている、無事な探索者に護衛を依頼したりするのだが、法外な金銭を要求されることが有ったりするので、それを防ぐために迷宮ボスのミノタウロスを討伐しに来た探索者パーティは全員で地上に戻ることが決まっている。
地上に戻る道中は特に問題が起こることなく順調に進み、魔物と遭遇しても〈黎明の剣〉を筆頭に手こずることなく処理され進んでいったそうだ。
魔物との戦闘に手こずることなく進んで行ったことには特に疑問に思わないが〈黎明の剣〉の実力がどの程度なのか気になったのでハチに詳しく聞く。
〈黎明の剣〉は迷宮ボスを討伐するために呼ばれたパーティだ。
ランクは幾つなのかは知らないがBランクの魔物を討伐するために呼ばれたんだ、最低でもCランク、高くてBランクはあるだろう。
そこからラルベルグや残りの〈黎明の剣〉のメンバーを見て感じた強さと年齢を考えるとCランクのパーティだと俺は予想している。
まあ、実際にランクが当たっているかどうかは後日、確かめるとして、今世の(多分)Cランクのパーティの実力を知っておきたい。
今後、行動や判断する時の基準の一つになる。
ハチの話を聞く限りでは〈黎明の剣〉は個々の実力も優れているがパーティとしても優れているみたいだ。
神官以外のメンバーは個々でミノタウロスを倒す事が出来、それぞれの役割が決まっているので無駄のない連携で魔物を倒し、特にリーダーのラルベルグが強く、振るう剣が僅かの停滞もなく振り抜かれミノタウロスを切り裂いていたらしい。
実際に見た訳でないので判断できないが、ひょっとするとラルベルグはBランクに近い力を持っているのかもしれないな。
ついでに他の探索者パーティも聞いてみたが、特に突出したパーティは無く違いがあるとすれば魔法使いと神官の有無だけだったそうだ。
〈黎明の剣〉についての話を聞き終えたので、地上に戻る道中の話に戻したが特に何も起こらず地上まで戻れたらしいが、報告したい事が有るらしく、聞いてみると一人の探索者が地上に戻るまでの道中、常にといった感じで俺を含めたリーゼのパーティを睨んでいたらしい。
ハチにどんな奴だと特徴を聞いたが最下階層の攻略に来ていた探索者の殆どの名前も知らないので分からなかったが、最下階層に挑む前に一番大きな声で騒いでいた探索者だと聞いて何とか思い出し分かった。
顔も姿も曖昧にしか覚えていないが姿を見れば多分分かるだろう。装備をコロコロと変える事もないだろうから覚えている姿のままのはずだ。
ハチから睨んでいた探索者の事を聞いてから続きを聞くが特に気にすることは無かった。
転移装置を守る兵士、探索者ギルドの職員など人に会うたびに驚かれたそうだが業務の手を止める事は無く行われていき、探索者ギルドの職員に迷宮ボスのミノタウロスから回収した素材や戦斧を渡すと、後の手続きはアルナーレ男爵が手配した従者に任せて屋敷に戻り、俺が屋敷の中に運ばれて今に至るそうだ。
ハチの話で気を失った後の出来事は大体、分かったが貴族達の政争、主に俺の扱いについてはハチに訊ねたが分からないというか調べてすらないみたいだ。
まあ、ハチからすれば人の社会情勢など、どうでもいい話だし俺の警護を考えれば離れることは出来なかったので仕方がない。
ハチに頼んでという事になるが自分で情報収集を行うか。
情報収集の結果次第では客室から出ていかないと行けなくなるかも知れない。
出来れば暇になろうがアルナーレ男爵の指示に従ってられる状態であればいいんだが。
「ハチ、悪いんだがお使いを頼んでいいか。貴族の屋敷や探索者クランのホームに情報収集をしたいんで忍び込んでほしい。視覚と聴覚を同調させるから忍び込むだけで良い」
「ご主人様、反省しているでアルマスか」
落ち着いてはいるみたいだが、怒りは治まっていないみたいだな。
「ああ、反省しているよ。けど、大人しくベットで横になっている訳にもいかないんだ。お前が行ってくれないと部屋を抜け出して自分で行く事になる」
「ううっ、分かったでアリマス。行って来るでアリマス」
「悪いな、頼む」
俺が大人しく休んでいない事に不満を隠してはいないが、動かれるよりかはマシと思ったのか頼みを聞いてくれた。
早速、ベットに横になりながらハチの視覚と聴覚を同調させて情報収集を始める。
ハチが姿を消した事で焦る女性の声が聞こえるが気にしない。悪いとは思うが、こっちも動かないといけないので我慢してもらおう。
最初はアルナーレ男爵を探ろうと思ったが屋敷には居らず、留守みたいなので後回しするしかない。
ハチがアルナーレ男爵の屋敷を抜け出して、その日は一日中、情報収集を行ったが俺の処遇に関しては分からなかったが他の事は色々と分かった。
色々と分かった中で俺が情報収集出来て良かったと思った事は主に二つ、ジッフル男爵の状況と、迷宮ボスのミノタウロスの討伐をした俺とリーゼ達の評価についてだ
まずジッフル男爵の状況についてだが、元々、ジッフル男爵は他の貴族には嫌がらせを、探索者達には罪を捏造し擦り付けてから私兵にするなど悪さをしていたので殆どの者に嫌われている。
それでも政治センスが良かったのか、今まで排除されることも攻撃されても勢力を落とすことはなかった。
だが、今回の俺に関する事件は致命的ではないが勢力を削る事の出来る出来事で、アルナーレ男爵の動きに合わせて他の貴族、探索者クランが今回の事に同調したり別の出来事を訴えたりして勢力を削りに行っているみたいだ。
ジッフル男爵の屋敷にも忍び込んで様子を見てきたが、目の下に隈を作り疲れ切った顔をしながらも執務机に張り付いて書類を処理したり紙に何かを書いているジッフル男爵が居た。
内容は分からないが、俺に殺人の罪を被せたこと以外にも対応しなければならない案件が訴えられることで山ほど出て来たんだろう。
今まで訴えられていなかった事を考えれば一つ一つは簡単に処理できる内容だったんだろうが、執務机の上にある書類は多い、かなりの手間が掛かるのは容易に想像できる。
ジッフル男爵が忙しいのは自業自得なんだが、彼からしてみればこの忙しさは俺とアルナーレ男爵のせいだと思ってるのか時折、悪態をついたりしている。
別に反省するのを期待していたわけではないが、まさか逆恨みされているとは思わなかった。
まあ、ジッフル男爵とは敵対しているのでどう思われても構わないし、勢力が削られているのでちょっかいを掛けてくることはないだろう。
それに、もしちょっかいを掛けてくるような事があれば、その時は人に気を掛けていられないほどの事故にでも遭ってもらうつもりだ。
事故なんってものは起こらない方が良いんだが起こる時には起こるもんだ。
もう一つの俺とリーゼ達の評価については、情報操作をしているのが分かった。情報操作により俺の評価を酷く低く、リーゼ達の評価は高くなって広がり始めている。
アルナーレ男爵が俺を屋敷の客室から出したくなかったのは情報操作の邪魔を俺にされたくなかったからだと予想できる。
俺としてはあまり高く評価されたくなかったが、だからと言って必要以上に低くされるのは腹が立つ。だが、これはアルナーレ男爵も予想外の出来事だったと思う。
元々は俺の評価を出来るだけ抑えてリーゼ達を高くするつもりだったんだろうが、情報操作して流した噂が尾ひれが付いて広まり始め、俺への評価が酷く低くなり、リーゼ達がそれに比例して高くなったのだ。
その証拠に俺が酷く低く評価されているの酒場などに居る一般の人達だけで、貴族や探索者クランの幹部、マスターなどはそれが誤解だという事をハチを通して見聞きする限りでは理解してる。
けど、彼らはその誤解を解こうとは思っていない。解いたとしても何の得にもならないし彼らとしてはシビアの住人の方が優れているとなった方が面子などを考えるとその方が都合がいいからだ。
俺も腹は立つが誤解を解く労力と解いた時のメリット、デメリットを考えると誤解を解こうとは思わない。
それでもこれをネタにアルナーレ男爵を責めさせてもらうつもりだ。
アルナーレ男爵はしらを切って責任を逃れたりするかも知れないが俺が怒っているという事を示せればいいだけで、何らかの譲歩を引き出せなくても構わない。
アルナーレ男爵も自分に利益となる探索者が離れて行くのは嫌だろうし、これで負い目を感じてくれるなら儲けものだ。
まだまだ、注意は必要かも知れないが、これで漸く今回の出来事は落ち着くだろう。後は五日間客室から出れない事が憂鬱だが、ゆっくりと休めると割り切っていくしかないか。