最下階層攻略(説得)
遅くなりましたが投稿できました。
迷宮ボスの再出現するまで各々の方法で過ごしていると、時計を見ていないので腹の具合からの予想になるが晩ぐらいの時間に二組のパーティが俺達が居る部屋にやって来た。
二組のパーティはクラン〈迷宮の標〉のサブマスター、ロマンシアが率いるパーティと貴族に雇われただろうパーティ、ラルベルグが率いる〈黎明の剣〉だ。
他のパーティが集まってくるのは分かっていたから別に良いんだが、〈迷宮の標〉のロマンシアが迷宮ボスに挑むのを止めるように言ってきた。
リーゼ達が心配だからというが、あまりにしつこいので別の何かが有るんじゃないかと疑いたくなってくる。
何時までも終わらないロマンシアの説得を止める為に、リーゼの所に二人と一匹に見送られなが向かって行く。
「すみません、少しよろしいですか」
リーゼ達、三人の近くまでより話しかける。
表情が仏頂面になっていたが、行儀が良いせいなのかリーゼはロマンシアの話を強引に止める事無く、聞いていて、ラルベルグは落ち着いて来たのか、何時までも続くロマンシアの態度に戸惑いを浮かべていた。
「コウセル殿」
「『犬飼』」
リーゼは助けが来たと思ったのか、ほっとした表情を浮かべ、ロマンシアはほんの僅かだが顔を顰めたが、すぐに表情を取り繕い心配そうな顔に戻り、ラルベルグは俺の事が全く知らないからか誰だ? という疑問を浮かべた表情で俺を見ている。
「私はクートゥリーゼ様のパーティのコウセルと言います。〈迷宮の標〉のサブマスターをしているロマンシアさんと〈黎明の剣〉のパーティリーダーのラルベルグさんですね」
自己紹介の声が聞こえていたが二人は俺に名乗ったわけではないので確認という形を取って話しかけていく。
「ああ、初めましてだね、私がロマンシアだ。君の事は色々と聞くよ『犬飼』のコウセル君」
色々と聞くね。多分、俺の事情は全部、知ってるんだろうな。
「〈迷宮の標〉それもサブマスターに名前を覚えていただいているなんて光栄なんです」
全然、光栄とは思っていないが向うはシビアの有力クランだ、世事の一つくらいは言っておかないとな。
「初めまして、僕がラルベルグだ。よろしく『イヌカイ?』の―――コウセル君」
二つなの所で微妙に間があったな。二つ名の意味が理解できていないのかな?
二つ名の意味さえ分かっていれば簡単に理解出来るんだろうが、内容を分かっていないと『犬飼』は分かりずらいかな。
ただ、犬を飼っているだけの何て思いもしないだろう。
まあ、別に知らないからといって不都合が有る訳じゃないし、わざわざ教えなくても良いか。
知りたいなら、後からロマンシアか他の探索者に訪ねるだろう。
「こちらこそ、よろしくお願いしますラルベルグさん」
「あ~、さん付けで、呼ばなくても良いよ。僕たちは、そんなに歳は離れた無いだろ?
それに何ていうか歳の近い人に丁寧な口調で話されるのは慣れないんだ、もうちょっと気楽に話してくれると嬉しいかな。
名前もラルベルグって呼び捨てにしてくれたほうがありがたい」
「分かった、ラルベルグ、そうさせてもらうよ。俺の事も呼び捨てでコウセルって呼んでくれ」
「うん。改めてよろしく、コウセル」
今のところラルベルグは好青年という感じで悪くない。
おそらく十八歳前後だと思うが、この歳でBランクの魔物を討伐出来ると判断されているなら才能が有る方だ。
若くして高ランクになる奴は知っている世界が狭いせいか自分が選ばれた才能が有る者だと勘違いする奴が多い。
あながち間違いとは言わないが、探せばいくらでも出てくる程度の奴が圧倒的に多く、すぐに本物の強者に鼻っ柱をへし折られるか、何処かで屍をさらす事になる。
ラルベルグは才能に驕らず、真面目そうだ。
性格ゆえか、それとも本物の強者が傍に居たからかは分からないが才能に溺れていないのは良い事だ。
「さて、自己紹介が終ったので尋ねるが、コウセル君。私達に何か用事かい」
本当は俺が何をしに来たかは分かっているんだろうが、ロマンシアが何をしに来たのだと訪ねてくる。
「用事というほどの事ではありません。何時までも話し合いが終らないので残った三人を代表して私が様子を見に来ただけです。
何を話しているんですか?」
「なるほど。気を悪くしないで聞いて欲しいんだが、君たちのパーティでは迷宮ボスに挑むのは無謀だと思い、挑戦するのを止めるように話している途中だ。
コウセル君。君の事情は知っている、無謀だろうと迷宮ボスに挑まなくてはいけないのは分かるが死んでしまっては元も子もない止めた方が良い」
俺の事情は、やっぱり知っているみたいだな。
死んだら元も子も無いというが、弱味を握られる形でジッフル男爵の私兵になれば、使い潰されるのが予想出来るので下手をすれば死ぬよりも辛い目に遭う可能性もあるので、どちらも御免被りたい。
「私達には私達なりに勝算が有るから挑むんですが」
「悪いが私には、そうは思えない」
俺が話し合いに加わった所で簡単には諦め様とはしないか。
ロマンシアを納得させずに無理やり話を終らせる事も出来るが、あまりそれはやりたくない。
他のクランや探索者パーティなら出来ないだろうが〈迷宮の標〉は順番を変える事が出来るからだ。
迷宮の標〉は"公正"に迷宮ボスに挑む順番を管理する義務がある。
なぜ義務かと言うと貴族達から押し付けられたからだ。
昔は最下階層の攻略に関して色々と探索者も貴族も問題があった。
その一つは雇われたパーティの案内役なのだが〈迷宮の標〉がシビアの貴族達と交渉して案内役を独占する事ができ、他の探索者達から不満が出るが迷宮ボスの討伐はしないことで解消する。
そこまでは〈迷宮の標〉にとって良かったんだが、その状態が迷宮ボスに挑む順番を管理するのに丁度良いと貴族達が気付き押し付けられという訳だ。
本来、順番は四十二階層の最下階層に続く階段がある部屋に着いた順なのだが探索者達にとって都合の良い順番というのがある。
主に雇われたパーティの次に迷宮ボスに挑戦するというもので、それを巡って争い怪我人を出していて問題になっていた。
〈迷宮の標〉は他の探索者達を抑えることができ、貴族との繋がりが多過ぎて何処の貴族にも贔屓に出来ないから非常に都合が良かったのだ。
〈迷宮の標〉としてはさらに他の探索者達から恨みを買うのでやりたくはなかっただろうがシビアの貴族の総意となれば断る事は出来なかったと予想出来る。
さて、あくまで押し付けられた役割とはいえ〈迷宮の標〉には順番を管理する義務があるので発言力と信用度は高い。
そんな彼らが一番最初に、この部屋に辿り着いたのは自分達だと言えば、俺やリーゼ達が何を言っても他の探索者達に信用されない可能性が大きく、仮に信じて貰ったとしても探索者達は黙っている可能性が有る。
順番からして三番手になる探索者パーティは、俺達が先に迷宮ボスに挑んで次に〈黎明の剣〉という順よりも先に〈黎明の剣〉が挑戦して次に俺達が挑むという順の方がチャンスが回ってくるんじゃないかと考えるだろう。
そして、他の探索者は俺達の話を信じたとしても黙っている可能性が大きい。俺達を助けても何の得にもならず、下手をすれば〈迷宮の標〉の言う事を聞かなかったという事で後ろに居る貴族に目を付けられるからだ。
地上に戻ってから迷宮ボスに挑む順番について〈迷宮の標〉に抗議をする事も出来るが、それだと最下階層の攻略が終った後なので意味が無い。
このまま、ロマンシアと話していても平行線を辿るだけだな。やっぱり、別の方向から攻めていかないと駄目か。
「そうですか―――話は変わるんですが、もし魔物に苦戦しているパーティと遭遇して助けを申し出ますが、それを断られたらロマンシアさんとラルベルグは、どうしますか?」
「コウセル殿?」
いきなり話を変えた事にリーゼは困惑した表情で俺を見ているが、今は無視をする。
「え?―――僕は……その時の状態にも依るけど、多分、その場を離れるかな。近くに居ても気を散らすかだけかも知れないから」
「……私は近くで見守るだろう、何時でも助けに入れるようにしたいからね」
ラルベルグも、いきなり話が変わった事に戸惑いながらも真面目に答え、ロマンシアは俺の考えが分かっているのか顔を歪めながら答える。
助けを呼び掛けて断られたら戦闘には強制的に介入しないという言質さえ取れれば良かったんだが、ラルベルグから、その場を離れるという言質まで取れたのは行幸だ。
「そうですよね、お二人とも、その後の行動に違いはありますが戦闘に無理やり介入する事は無いですよね。無理やり戦闘に介入するのは探索者や冒険者のやる事じゃない。
それはその名を騙るクズ、盗人の所業だ」
「いや、まあ、クズかどうかは分からないけど褒められた行為じゃないよね」
クズという表現は酷いせいか戸惑っているがラルベルグは否定はしない。
その時の状態にも依るが、先に戦闘しているパーティの許可なく戦闘に介入するのは、禁忌に近いと言ってもいいほど嫌われている。
常に魔物との戦闘は命懸けなのに、横からしゃしゃり出て来て助けたのだからと素材を要求してくるので分からなくもない。
俺も、もし、そんな事をされたら殺しはしないが気が晴れるまで、叩きのめすだろう。
「ここで話を戻しますが、俺達は迷宮ボスが再出現するまで待っているだけで、本当なら俺達はとっくの昔に迷宮ボスに挑んでいます。
今回は戦闘をする前に落ち着いて話す事が出来ていますが、迷宮ボスが出現しているなら戦闘中に、お二人が加戦を申し出て、それを俺達が断るという形です。
これ以上は止めるように言うのは獲物を横取りしようとしているのと同じになるんじゃないですか?」
「コウセル君。私は決して、そんなつもりで止めようとしたのではない」
「ええ、もちろん分かっています。ですが少し、しつこ過ぎるのではないかと言っているんです」
ロマンシアが少し慌てながら弁解をしてくる。
実際の思惑がどこに有るかは知らないが善意という形で止めるようにしていたのに、悪意を持って獲物を横取りしようとしているんじゃないかと言われたんだから焦りもするだろう。
向こうはシビアの有力クランだ、それに合った誇りを持っているだろうし、周りに対する評判もある。
俺だけなら強引に話を持っていたかも知れないが、貴族の娘であるリーゼが居るので強引に話を持って行く事は出来ない。
「ご心配は有難いのですが、私達は迷宮ボスの討伐を止めるつもりはありません。ここら辺で引いてはいただけませんか」
「しかし……」
「ロマンシアさん、もう止めましょう。これ以上、止めるように話をすれば、迷宮ボスを横取りしようとするのと変わらなくなります。
それに横取りじゃないかと言われれば僕はクートゥリーゼ様に止めるようには、もう言えません」
不利だと分かってはいるみたいだが、諦めきれないのかロマンシアが言い紡ごうとするが、ラルベルグが、それを止めに入る。
ラルベルグがロマンシアを止めに入ってきたなら、ロマンシアも諦めるだろう。
実際に迷宮ボスの討伐を行うのはラルベルグ達〈黎明の剣〉だ。あくまで迷宮ボスに挑戦する順番を管理するロマンシア〈迷宮の標〉は強制をする事は出来ない。
ロマンシアが強引に順番を変えたとしても、ラルベルグ達は納得をしないだろうから先に挑戦せれるという心配は、もうしなくても良いだろう。
「―――クートゥリーゼ嬢、先程からの無礼、申し訳ありません。どうかお許しを」
「構いません。私達を心配しての事です。問題にするつもりはありません」
「温情、感謝いたします」
ラルベルグが止めに入ってきたことに僅かに驚いたのかロマンシアは口を止め、鼻から息を吐き出し謝罪を口にする。
リーゼはあっさりと謝罪を受け入れ問題にしないと言った。
リーゼとしては長々と止めるように言われていたので、早く終わらせたかったんだろうな。少し疲れた顔をしている。
ロマンシアは、建前とかはどうあれ、さんざん文句を言っていたので問題にされたら、どうしようかと思っていたんだろう。
問題にしないと聞いて安心した表情で感謝を口にしている。
まあ、リーゼが今回の事を問題にしようとしても、アルナーレ男爵は、その後に起こる諸々の問題の方が面倒な事になるので、おそらく黙っていると思うから問題にはならないだろう。
「挨拶も終わりましたし、私達は仲間の元に戻ります。そちらも、この部屋に着いたばかりで疲れているだろう、ゆっくりと休むと良い」
「お気遣いありがとうございます。それでは私達は失礼いたします」
仲間の元に戻って行くロマンシア達を見送り、リーゼが戻るのに合わせて俺も後ろを付いて行く。
「助かりました、コウセル殿、なかなかロマンシア殿が諦めてくれなくてな。全く、心配をしてくれるのは有難いがしつこ過ぎると思うんだ」
リーゼは俺に礼を述べてから、むくれた顔でロマンシア達の愚痴を喋りながら歩いて行く。
リーゼはロマンシアに裏が有るとは思っていないみたいだな。リーゼは疑う事を知らなさすぎる。
少し心配だが注意をするのは俺がする事ではない。ラーネルなり、アルナーレ男爵がするだろうから彼女達に報告して任せよう。
ロマンシア達との話が終ってからしばらくすると、続々と他のパーティが部屋にやって来ては落胆した顔をしている。
特にロマンシア達の後に来たパーティ何かは、かなり落ち込んでいて挨拶をして来た時には運が良かったなと羨望と嫉妬が混じった愚痴を零しながら離れて行った。
訂正をする暇もなく離れて行ったが、もし彼らが一番最初に迷宮ボスに挑戦するのが俺達と知ったら、どんな顔をするだろう。
自分達に番が回って来る可能性が絶望的になったとより深く嘆くだろうか。まあ、どちらにしても彼らに順番が回って来る事は無い、俺達が確実に迷宮ボスを仕留めさせてもらうからな。
そして、最後にやって来た五組目のパーティを迎えると部屋の中は手狭に感じるほど狭くなった。
最下階層に続く階段の鍵は七本しかないので今、部屋に居るのは迷宮ボスに挑戦する為に来た七組のパーティと、それらを監視、管理する〈迷宮の標〉の八組だ。
ラルベルグ達〈黎明の剣〉以外のパーティはすべてシビアの探索者達で他は外から雇われたパーティは居ない。
貴族達がシビアの探索者達の面子を立てる為と自分達の過度な争いを塞ぐために、シビアの外から雇えるパーティは順番が回って来た貴族の一家、一組と決まっている。
じゃあ、俺はどうなのかという疑問も湧いては来るが、Bランク等の高ランクの冒険者ではなく、Dランクの冒険者が一人という事で許容範囲らしい。
手狭になった部屋の中は男くさい臭いが漂っている。
リーゼ達とラルベルグの〈黎明の剣〉に居る二人の魔法使いらしき女性と神官の格好した女性以外は男だけなので仕方がない。
アスリラは男臭い事、愚痴を零しているのをリーゼとラーネルが仕方がないと慰めている、彼女達も辟易としているのが分かるので少し罪悪感を感じる。
俺とハチは密かに魔術を使って臭いが来ない様にしている。リーゼ達に臭いを来ない様に魔術を掛ける事も本当は出来るんだが、そういう魔術は使えないという事にしているので彼女達に使う訳にはいかない。
後、僅かな時間なので我慢してもらおう。
そして少しの罪悪感を感じながら過ごしていると、チリチリチリという小さな鐘を打った様な音が部屋に響き渡り、音の鳴る方に視線を向けると、懐中時計を持ったロマンシアが立っており音は懐中時計から響いている。
「時間だ! これより最下階層への挑戦を始める。一番手のパーティは準備をお願いいたします」
漸くだ。漸く迷宮ボスの討伐を行う事が出来る。
冤罪を着せられ自由に動くことが出来ず、下手をすれば使い捨ての私兵にされるところだった。
それもあと少しで終わらせられる。
立ち上がってからリーゼ達に視線を向けると緊張をした面持ちだが怯えの色は見えない。
よし、迷宮ボスの討伐を始めよう。