最下階層攻略(亀裂)
お久しぶりです。
久しぶりに更新する事が出来ました。
何も考えずに趣味なんかに没頭したいと考えるこの頃です。
「分かった。今回の最下階層攻略の協力の提案は引かせてもらう」
バイモール男爵、本人の口から提案を引くと言った。これで完璧に最下階層攻略の協力の提案を下げる事が出来た。
バイモール男爵は恨めしそうに、こっちを睨んでいるが、もし最下階層の攻略に参加したなら確実に魔物に殺されていただろうから協力の提案を下げさすように説得したのを感謝して欲しい。
まあ、知る事は無いから無理だろうけど。
「・・・アルナーレ男爵、協力の提案を引いたので貴殿達との話し合いは、ここまでにしたいのだが、ラーネルとは少し話したい事があるので、お借りしてもよろしいか」
「別に構わないが何を話すんだ?」
「なに、最下階層に挑戦するラーネルに魔法使いとしての助言を、と思ってね」
助言ね。風属性であるラーネルに水属性のバイモール男爵が何を助言するんだ?
魔法使いは属性が違うだけで助言出来ることなんて、かなり限られてくる。その限られた内容をバイモール男爵が知っているとは思えないんだがな。
「それはありがたい、良い助言を頼むよ」
アルナーレ男爵は簡単に許可を出しているが何を話すんだと疑問に思てるだろう。つい先まで睨んでいたんだ助言を与えるとは思えない。だが派閥上位者からの好意を無下に断ることは出来ないから許可を出すしかない。
「バイモール男爵、協力の提案の話は終わったので、私は、そろそろ失礼をする。コウセル君も仕事に戻ってくれ。リーゼはどうする?」
「私が話を聞いても分からないので、私も失礼させてもらいます」
アルナーレ男爵に仕事に戻れと言われれば、言う事を聞くしかない。多分、ロクでもない話をするとは思うんだ、それでも一応、話を聞いておきたかった。
神秘の研究という意味では価値はないだろうが、今世の魔法使いと魔法の考え方を知るにはいい機会だと思たんだが。
その後は俺とリーゼ、アルナーレ男爵は応接室から出て行き、ラーネルはバイモール男爵と話、執事は接客をする為に応接室に残った。
仕事に戻った俺は再びバイモール男爵と会うことなく、その日は過ぎていった。会えば見下して来るだろうか、それは良いんだが何を話したか内容が気になったのでメイドの仕事に戻っているラーネルに聞こうとしたんだが、やたらと機嫌が悪かったので聞くことが出来なかった。
何を話せば、あそこまで機嫌が悪くなるんだと疑問に思った。その答えは、おおよそではあるが次の日、訓練の時に知る事になる。
「もう我慢出来ません! どうしてコウセルさんの言うことを聞かないといけないんですか!」
バイモール男爵と話し合いをした翌日、訓練をするためにシビアから少し離れた林にやって来て、訓練の指示を出すとラーネルの怒りが爆発した。
「え~と? どうしたのラーネル」
疑問に思った、こちらの想いを代表するようにアスリラがラーネルに尋ねる。
「私はこれ以上コウセルさんの言うことを聞くのは嫌なんです」
アスリラとリーゼは困惑しているが、俺としては予想よりも爆発するのが早いなと思ったぐらいだ。
元々、魔術師である俺の言うことを聞くことが不満に思っているのは知っている。不満が溜まっていけば、いずれ爆発するだろうと分かっていたが予想よりも早い。
自分の予想が完璧とは言わないがそれとなくラーネルを観察していたんだ爆発しそうならわかりはずだ。
前に訓練をした時は俺に対して不満に思っている所があったがそれよりも訓練している内容が出来ない事を悩んで俺に負けるものかとやる気をだしていた。一昨日も特に不機嫌な感じは無かった。
昨日は機嫌が悪かったがそれはバイモール男爵と話をしたせいだと思っていたが、どうやら話した内容が俺に対する不満が溜まるものにもなっていたみたいだな。
「ラーネルさん、どうして嫌なんですか。理由をお聞きしても良いですか」
「それは・・・」
ラーネルに理由を聞くと俺から目を逸らして俯いてします。
ああ、これは面倒くさいな。すぐに理由を答えてくれない所を見るに感情的な面で我慢できなくなったんだな。
今までは命懸けで最下階層に挑戦するという事で我慢出来ていたがバイモール男爵と話して我慢が出来なくなったんだろうな。明確な理由が有るなら直すなり改善する事が出来るが、ただ感情的に嫌だと言うわれると治しようがない。
どうすれば良いかな。
「あ、貴方は魔法使いではなく魔術師でしょう。どうして私が下の人間の言う事を聞かないといけないんですか。
それに貴方は自分の事を魔術師と言いますが本当に魔術師なんですか、私には貴方が槍を使う戦士にしか見えません。戦士の訓練をさせられて魔法使いとしての道が途絶えたらどうするんですか」
ラーネルが何とか感情面以外の理由を見つけて反論してくる。
う~ん、戦士にしか見えないか。それを言われると結構つらいな。表立って使える魔術で攻撃に使えるのは(投石)ぐらいだ。(土壁)も相手にぶつけるつもりで使えば使えない事はないが、どちらにしろ効率が悪い。
人が居る場合は魔術を使って魔物を倒すより、槍を使って仕留める方が効率が良いからな。
まあ、俺が何に見えるかはいい。それより俺の指示に従わないのが問題か。
別に今やっている事をしたからといって何も問題はないんだが、魔法使いでない、何も知らないという事になっている俺が何を言っても納得はしないだろう。
・・・・・・いや、今なら別に指示に従ってもらわなくてもいいか。
「分かりました。どうしても嫌だと言うならラーネルさんが自分で考えて訓練してください」
「えっ」
指示を聞かなくても良いというのが想定外だったのかラーネルは苛立ちで歪めていた顔が戸惑った顔に変わる。
「良いの、コウセル。必要と思ったから指示してたんでしょ?」
「構いません、嫌だと言うなら無理に従って頂かなくても良いです。唯、戦力にならない、死亡する可能性が大きいと判断した時は最下階層の挑戦から外れてもらいます」
俺が言った事が思いもしないことだったのか今度は俺以外の全員が理解できずに固まる。
「そ、そんな事が許される筈がない! 私をパーティから外そうとするならアルナーレ男爵が最下階層の挑戦を中止しますよ」
一番最初に気を取り戻したラーネルが慌てながらも否定してくる。
確かに他の貴族に最下階層の挑戦の話を通す前なら中止されたかもしれないが今では無理だ。
「誰が許さないと言うですか? それに、もうアルナーレ男爵様でも最下階層の挑戦を中止にする事は出来ませんよ」
「そんな事・・・・」
「あり得ないですか。確かに、つい最近まではラーネルさんをパーティから外すと言えばアルナーレ男爵様は最下階層の挑戦を中止にしたでしょうが今では無理です。
最下階層へ向かう扉の鍵を管理している貴族の方に挑戦すると鍵を借り、バイモール男爵様の協力の提案を断ってます。今、挑戦を止めると言えば虚言を吐いたと非難されます」
よっぽどの事が無い限り貴族が前言を撤回すれば周りから非難される。しかも今回は大きな利益を得られるであろう最下階層の挑戦だ。
鍵を管理していた貴族は多くの利益を得る為に動き始めているだろうし、バイモール男爵は協力を断った事を根に持っているだろうから中止した時は、特にこの二家は強く非難してくるだろう。
他の貴族の連中もこれ幸いとアルナーレ男爵家を叩きに来る。もう今の段階で挑戦を中止するには損失が大き過ぎるので中止する事が出来ない。
「しかし・・訳を話せば・・・それにバイモール男爵様は自分で提案を引いたではないですか・・・・」
自分でも無理だと分かっているのかラーネルの声は小さい。
「なんて話すつもりですか。配下の者が思ったより強くならなかった? 挑戦するパーティのメンバーが不仲になったから。そんな事を言えばアルナーレ男爵様は配下も管理出来ないのかと周りの連中から言われるだけですよ。
バイモール男爵様については提案を受け入れなかったというだけで、もうこちらを敵視してます。こちらの都合なんてどうでもいいんですよ、自分の思い通りにならないのが気に入らないんでしょう」
ラーネルは反論出来なくなり顔を俯けて黙り込む。
さて、ラーネルはどうするんだろ。多分、俺の指示に従うか、自分一人で訓練するのか悩んでいるんだろう。
前言を撤回して俺の指示に従うなら何も問題ないのだが、それは彼女のプライドが邪魔して簡単には認める事が出来ない。
だからと言って自分一人でやる訓練は効率が悪いのもラーネルは分かっている、最低限の力が身に付かないとパーティを外されるから悩む。
でも実際は俺の意見だけではラーネルをパーティから外す事は出来ない可能性が大きい。最終的な決定権はアルナーレ男爵が持っている。
アルナーレ男爵が必ず連れて行けと言われれば戦死する可能性が大きくても連れて行くしかない。その時はラーネルが死なない様に立ち回りをするつもりだが、力を隠したい俺としては最低限の力を付けてパーティに問題なく参加してほしい。
「ねえ、コウセル」
ラーネルがどういう結論を出すのかを待っているとアスリラが身を潜めるようにして周りには聞こえないように小さい声で話かけてくる。
「え~と、その、なんとかネルがコウセルの指示に従うように出来ない。
私もそうだけどリーゼもネルには一緒に来てほしいと思ってる」
パーティメンバーが、しかも魔法使いが抜けるのは不安か。
アスリラの表情は困惑と不安が混じったものでリーゼの方を見ると難しい顔でラーネルを見ている。
リーゼはラーネルの判断次第では主として命令するつもりかもしれないな。命令されれば内心はどうであれ俺の指示には従わなくてはいけない。
このまま放置していても問題ないんじゃないのか?
「俺が何か言わなくてもリーゼさんが何とかするんじゃないですか。今は黙ったままですけど何か考えてる感じですよ」
「そうなんだけどね。でもリーゼが何か言ってもネルは納得しないと思うの」
「それでもリーゼさんから言われれば従わないといけないんですから問題ないんじゃないですか」
「そうかも知れないけど、そうじゃないかも知れないの」
――――何言ってるんだ?
顔に何を言っているか理解できないと出ていたのかアスリラが説明をしてくれる。
「ネルは魔法の事になると物凄く頑固なの。だからリーゼの言う事を拒否して屋敷を出るかも知れないの」
「屋敷を出るって。別の家に仕えるってことですか」
ラーネルが別の家に仕えるとなるとかなりマズイ。ラーネルの抜けた穴を埋める為にアルナーレ男爵が俺を取り込みに掛かってくる。
「それは大丈夫だと思うけど、リーゼの言うことを拒否しちゃうと屋敷出てい行くのは確実だと思うからラーネルが結論出すまでに何とかしてくれない。お願い」
別の家に仕える事は無い事にと安心したが、何とかしてくれとアスリラが手を合わせ軽く頭を下げてお願いしてくる。俺にどうしろって言うんだ。
仕えてる家の一族の言う事を聞かないのは確かに良い事じゃないけど、それで屋敷を出ていくのは早計じゃないか。
詳しい話を聞きたいけど聞いている間にラーネルが一人で訓練すると結論を出されると取り返しがつかなくなる。話を聞いている暇が無い、早く説得しないといけないな。
だけど、どうやって説得する。魔術を魔法は平等だとか、俺の言った訓練しても大丈夫とか言っても納得はしない、どうする?
・・・・・無理やり分からせるか。けど、これをやると下手すればラーネルの心を折ることになりかねない。う~ん、折れたとしても後でも軽い暗示をかけてやる気を出させる方にすれば大丈夫か?
元々、負けず嫌いな所もあるみたいだ簡単には折れないだろうし、得意でない暗示系の魔術でも心情の方向性を変える程度なら何とかなるだろ。
「分かりました。一応やってみますけど、かなり強引な方法なんで後からラーネルさんをフォローしてあげて下さいよ」
「えっホント! 了解了解、後の事は任せて。何するか分からないけど説得よろしく」
時間も無いし、方法を聞かれても止められる可能性が有るからいいんだけど、何をするのかを聞くぐらいの事はした方が良いと思うんだが。
前に迷宮で死にそうになってたのも何も考えずに突撃したのが原因だ。今回の事も含めて今度アスリラには、もうちょっと考える事を覚えて貰おう。
「ラーネルさん!」
俺がラーネルに声を掛けるとビクッと身体を震わせてからラーネルが顔をこちらに向け、リーゼも顔を向けてくる。
「もう分かってるでしょう。俺の指示無しで目標にしている力を身に付ける事が無理だと言う事は」
「そんな事は・・・」
「有るでしょう。一人で力を身に付ける事が出来ないと分かってるから一人で訓練すると即答せずに今も悩んでいる。
俺の指示を聞いたからと言って魔法使いの道は途絶えませんよ、魔力操作は魔力を使いものの全ての基本です。それに騎士になるリーゼさんの付き人になりたいんでしょ、ある程度動けるようにならなくてどうするんですか」
「・・・・」
だんまりか。これで納得して指示に従ってくれたら楽だったんだけど、やっぱり、そうは行かないか。
なら、無理矢理分からせる必要がある。頼むから折れてくれるなよ。
「そんなに魔術師の言う事を聞くのが嫌ですか? 本当は魔術師と魔法使いの間に立場が上とか下とか無いんですよ」
「それはリーゼから聞きました。けど、下である魔術師が平等に扱って欲しいから言ってるんじゃないんですか」
リーゼはラーネルにこの話をしたのか。訓練を始めた頃に話した話だし特別秘密にしてくれと言った訳ではないから誰かに話していても不思議ではないがラーネルに話していたのは少し驚いた。
ラーネルがいつ話を聞いたかは知らないが態度が大きく悪くならなかったから良しとしておこう。
「まあ、今の話を簡単には信じられませんよね。俺も信じてもらえると思ってないんでそれはそれでいいですけど。
ただ、ラーネルさん。貴方に一つ聞きたい事があるんですけど、いつ魔術師コウセルが魔法使いラーネルより下だって決まったんですか」
「? 何を言ってるんですか?」
「だから何で貴方は俺を下に見ているんですか。俺より優れた所を一度も見せた事が無いのに何で貴方が上なんです。俺は団扇より優れていますよ」
俺が言い終えると同時にラーネルを中心として強い風が吹く。リーゼとアスリラは咄嗟に顔を腕で庇い、ハチは突然の強風に「キャン」と鳴き地面を転がっている。
「言いましたね、学者もどきのごく潰しのクセに!」
ラーネルは、さっきまでの困惑した表情ではなく怒りに染まった表情で俺を睨んで魔術師の蔑称を叫ぶ。
リーゼとアスリラは険悪な空気になって戸惑い、ハチは『ご主人様、ひどいでアリマス』と俺に念話で抗議してくるが抗議するのは強風を吹かせたラーネルに言って欲しい。
ラーネルを中心に強風が吹いたのは怒りのあまり魔力が制御できず外に漏れだし風に変換されたからだ、リーゼとアスリラはその事に驚いているが俺からすれば魔力を制御できていない未熟な証拠だ。
ラーネルが怒ったのは風属性の魔法使いの蔑称の『団扇』と言ったからだ。これはその道具程度の働きしかできないと役立たず貶している事になる。
殆どの魔法使いは魔法に関する事だと貴族のプライドと同じぐらいプライドが高い、だからどんなに能力低い者でも蔑称を言われると激怒する。ラーネルも例に漏れずプライドが高いみたいだな。
その怒ったラーネルから魔術師の蔑称を言い返されたが、こっちは怒る気はせず、だからどうしたという感じだ。
『学者もどきのごく潰し』というのは研究ばかりして何一つ実用的な物を作らなかったから言われるようになった蔑称だが、魔術師側からすれば研究はあくまで自分と一族の為の物で他人に公表するものでは無いし、実用的な物を作る為に研究をしている訳ではない。
俺も前世でごく潰しと言われた事はあるが仕事が有ればキチンとやっていたし、研究で使っていた道具、材料は自分で稼いだ金を使っていたのでかなり不愉快な思いをしたのを覚えている。
「そういう文句が言われるような生活を俺もしてみたいですよ。――さて、ラーネルさん。どっちも自分が上だと思ってるみたいですし、どっちが上かハッキリさせましょう。
もし貴方の方が上だと分かったら強かろうが弱かろうがパーティから外す事はしません。けど、俺の方が上だと分かったら訓練では俺の言う事、必ず聞いて貰いますよ」
「良いでしょう。どうやって上と下を決めるんですか」
こっちは即答か。怒り心頭で碌に考えてないな。まあ、プライドを盛大に傷つけたんだ仕方ないか。
「ここは分かり易く模擬戦で決めましょう。使えるのは魔法と魔術だけの模擬戦です」
ある程度、隠していた力を見せる事にもなるけど仕方がないか。これで上手くいけば良いんだけど。




