最下階層攻略(訓練3)
皆さん、お久しぶりです。
私情の為、更新が遅くなりました。すみません。
今後も私情のゴタゴタで更新が遅くなってしまいそうです。
シビアから離れた林の中、温かい季節なら、のんびりとするのにも良い場所なんだが今は寒い季節なのが残念だ。寒さを気にならないハチは楽しそうに走り回っていいるが人には厳しい。
まあ、森林浴を目的に来たわけではないので別に良いんだけど。
空を見上げながら、他愛無い事を考えていたが考えるのを止めて、空を見上げていた視線をリーゼ達に戻す。
座り込んではいないが三人共、汗だくで肩で息をしている。つい先ほどまでリーゼとアスリラは俺を迷宮ボスのミノタウロスと見立てて戦闘訓練、ラーネルは身体強化を使い、素早く動きながら魔法を使える様になるように訓練していた。
リーゼとアスリラは身体を動かすのに魔力操作の能力が追い付けば問題は無いだろうがラーネルの方はあまり訓練の進み具合がよろしくない。
リーゼとアスリラは今まで、やってきた事を難しくしただけなので戸惑いなどは無い。ラーネルは今、鍛えている内容は思いもよらない物だったんだろう不満に思っている感じがする。
三人を相手に模擬戦闘をして、いざという時に素早く動けないとマズイ事は理解できたとは思うんだが訓練に身が入っていない。それに他の二人に比べて難しい事をやっているのも訓練が進んでいない原因でもあるな。
梃入れが必要なんだけど、どうすれば良いかな。
その日は何も思いつかず訓練が終り、アスリラ達は検問所からシビアに戻り、俺とハチは人に見つからない様にシビアを囲っている柵を飛び越えてシビアに戻る。
シビアから他の街に行くなら検問所を通らないといけないが再びシビアに戻るなら柵を飛び越えるのは有りだ。誰かに見つからば、ややこしい事になるが見つからなければ良いのだ。
アルナーレ男爵から最下階層に挑戦する事を許可を貰ってから十日が過ぎている。
許可を貰った、その日の内に「子犬の寝床亭」の大将に事情を話し部屋を出て、アスリラに頼み商業ギルドに「紺狼商店」当てに殺人容疑を掛けられている事と、そのせいで迷宮から取って来た素材なんかが納品出来ない事を伝言を伝えて貰える様にした。
「子犬の寝床亭」の大将は事情を聞いても気にせずに部屋に泊まってもいいし仕事を回してもいいと言ってくれたが、迷惑をかけるかも知れないしアルナーレ男爵の屋敷で世話になるからと断ったが気遣ってくれたのは嬉しかった。
アスリラに商業ギルドへ「紺狼商店」当てに伝言を頼んだのは、俺が今、ジッフル男爵に各ギルドの使用を禁止されているのと「紺狼商店」の繫がりを気付かれたくないからだ。
俺の事を調べてはいるから、もう知っているかもしれないが今、連絡を取ると変に迷惑が掛かるかも知れない注意して損は無いだろう。
訓練した日の翌日、十一日目の早朝、水汲みなどの振られた仕事をさっさと終らせてアルナーレ男爵の屋敷の訓練場で一人で槍の訓練をする。
基本、振られる仕事は力仕事が中心なので身体強化などを使えば早く終わらせる事ができる。
訓練の方は本当なら技術だけの模擬戦などをしたいのだが仕事をしている使用人以外、起きている人が居ないのと相手になる実力のある人が居ないので一人で素振りだけにしている。
槍の素振りをしていて時計で表せば七時を知らせる二の鐘が鳴る。シビアでは時間を知らせる鐘が一日十二回鳴り、最初の一回は六時頃に鐘がなり一の鐘と言い、そこから一時間ごとに鐘が鳴り二回目の鐘は二の鐘、三回目の鐘を三の鐘と言う。
太陽の位置と俺が起きてから二回目の鐘なので七時を知らせる二の鐘で間違いないだろう。それから大体、半時間位だろうか屋敷から両開きの窓を開けて訓練着姿で木剣を携えたリーゼが一人で出てくる。
「おはよう、コウセル殿。―――早い時間から訓練していたみたいだな」
「おはようございます、リーゼさん。確かにそれなりの時間、やってましたが、分かりすか」
「この寒い中で僅かだが額に汗を掻いている、長い時間訓練したと誰でも分かるさ」
リーゼが自分の額を指さして汗を掻いている事を教えてくれる。手で額を拭うと少量だが汗を掻いている事が分かる。
「本当ですね、気付きませんでした」
「それだけ熱心に素振りをしていたという事でしょう。―――コウセル殿、私も今から剣の訓練をするんだが、後で手合わせをお願いしても良いだろうか、その、迷宮ボスのミノタウロスの為の訓練の方でなく普通に手合わせをしたいんだが良いだろうか」
断れるんじゃないかと不安そうな顔をしながらリーゼが訊ねてくるが、今はアルナーレ男爵家に雇われている身なので立場的にはリーゼが上なので、お願いされれば断る事なんて出来ない。
けど、迷宮ボスのミノタウロス対策の訓練で色々と指示したり、筋力ぐらいしか予想で真似れないが俺が迷宮ボスのミノタウロス役をして戦闘訓練をして叩きのめしているせいか精神的に俺の方が立場が上になっている。
そのせいでリーゼは俺に何かを尋ねたり、お願いしてくる時は下手に出てくる事が多い。
手合わせをしても良いんだがリーゼが相手だと、あまり訓練にはならないが仕方がない相手をしよう。けど手合わせをする前に周りに人が居ない今、ラーネルの梃入れについて何も思い付いていなかったのでリーゼに相談するのには丁度良い。
「構いませんよ、その代わりという訳ではないんですが訓練を始める前にリーゼさんに、ご相談したい事があるんですが良いですか」
「コウセル殿が私に相談? 何だろう出来る限り力になりたいと思うが何の相談だ」
リーゼが不思議そうに首をかしげながら聞き返して来る。そんなに不思議に思うかな。最近は相談に乗ったり教えたりする事が多いんで、そう思っても不思議ではないか? まあ、どうでも良いんだけど。
「ラーネルさんについてなんです。一応、俺の言う通りに迷宮ボス対策の訓練はしていますが、何というか、ただ訓練をしているだけで身に入っていません。
それでも最低限の実力付くなら、それで良いんですが今のままでは付きません。何とかやる気が付く方法はありませんか」
「ん~、それは難しいと言うより無理だと思う」
「無理? ですか、何で無理だと思うんですか」
気まずそうな顔をしながら視線を逸らされる。
ラーネルには嫌われているという事もあるので難しいとは思っていたが無理だと断言されるとは思わなかった。
「その、怒らずに聞いてくれるか? コウセル殿」
「はい、怒りませんよ。それで何で無理なんですか」
「ラーネルは・・・魔術師であるコウセル殿の指示に従わなければ、いけない事が気に入らないんだ」
「えっと、魔術師だからですか?」
魔術師だから? 何でだ理由が分からん。
「魔術というのは魔法の才能が無い人が、どうしても魔法を使いたいからと編み出した物だろ? ラーネルは魔法使いである事に誇りを持っていてな特別、魔術師を蔑んだりしている訳ではないんだが下の立場の者から色々と言われるのは嫌なんだそうだ。
それに自分も出来ない事をやれと言って来るのも、どうなんだと言っていた」
魔術が廃れているので仕方がないのかもしれないけど、伝わり方が酷いな。過去の魔法使いと魔術師の争いで魔術師が負けているので地位が下に見られるのは納得はしないが仕方がない、けど、魔法が使えないから魔術を編み出したという所は酷い。
前世でもモータルセンヌに来たばかりの頃は、そんな事をプランマ王国の宮廷魔法使いに言われた事があるな。この世界での情報伝達の在り方、魔法使いと魔術師の争いなど色々あり正確に魔術についての情報が残っていないな。
そう言えば演劇なんかでは前世の俺は魔法を使う事が出来ないと嘆いたりしたりする役だとリムス神父が言っていたけ。演劇を見た人が内容をそのまま信じて周りに話したりして間違った事が広まっているのかも知れない。
魔法使いの貴族の思惑を少し感じる。魔法と魔術では方向性が違うので、どちらが優れているという事は無いし、魔法より魔術が下というのは気に入らない。
今は声高に優劣は無いと言うと面倒くさい事になるので言わないが自分を守れるようになれば意識改革に乗り出さないといけないな。とりあえず今は目の前のリーゼには違いを知ってもらおう。
「理由は分かりました。ラーネルさんに手本を見せていなかったのは俺の不手際ですね、今度、訓練する時は手本を見せる事にします」
「・・・・コウセル殿は出来るのか? コウセル殿の場合は魔法ではなく魔術になるが身体強化を使いながら魔術を使う事が」
「出来ますよ。場合によりますけど、自分が出来ない事を短い期間でこなせとは言いませんよ。それに今、リーゼさん達に教えている事は戦いを生業としている物の最低限の技術ですよ出来ないと困りますよ」
「いや、コウセル殿、あんな高レベルな技術を最低限と言うのはコウセル殿ぐらいだと思うぞ」
リーゼが困った顔をしながら違うと言うが、あれくらい出来ないと困るだろ。武術の方も三百年の進歩が見られない、知っている範囲が狭いせいかも知れないが未だに強いという基準が魔力量の多寡にのみ依存しているみたいだな。
「そうですか。まあ、強くなるのに必要な技術ですし、迷宮ボスに挑むには必要なんで覚えてください。それとリーゼさん、魔術の事ですけど魔法が使えないから魔術を生み出したというのは違いますよ」
「えっ、違うのか? ラーネルは魔法が使えないから生み出された物だと言っていたし、本なんかでは魔導王コウが魔法を使えないと嘆いて生み出したと書かれたりしているぞ」
うわっ、気持ち悪い。ノキ村に居た頃もリムス神父から前世の自分の事を聞くと、よく気持ち悪いと思った。
前世の自分は一人前の魔術師だという自負はあるが一流の魔術師とは言えない、それなのに魔導王なんて言われている。本当の一流や頂点を知っている身としては滑稽に思える。
「・・・違いますよ。元々は学問や研究の類です。それに今、残っている魔術の殆どは外の世界から持ち込まれた物ですよ」
「外の世界?」
「そうです。甲や他の魔術の進歩に貢献した魔術師達が異界の魔術師と呼ばれているのは知っていますか?」
「そうなのか? 初めて聞いたな」
この世界の情報の伝達と保存能力を考えれば興味が無いと知らないのは仕方がないか。しかし、俺達、地球の魔術師を無理矢理、召喚した過ちを忘れられているのは問題があるんじゃないか。
俺を含めた地球の魔術師を召喚したせいで、あの時代の混乱は加速して幾つもの国が滅んだというのに。まあ、調べれば、すぐに禁止されているのが分かるとは思うが密かに何処かの国が強制召喚を行わなければ良いんだけど。
「じゃあ、俺が知っている事を説明しますね」
僅かに戸惑いながらもリーゼが頷いて説明を聞こうと姿勢を整える。リーゼとしては剣の訓練をしたいんだろうが魔術の事を間違ったままにするのは俺が気に入らない。手合わせをする対価として話を聞いて貰おう。
教える内容は全部リムス神父から聞いた話のみする。あんまり詳しく説明すると面倒くさい事になりそうだ。今の説明でも少し不味い感じもするが魔法より下に置かれるのは我慢ならない。
最初は聞く姿勢になっていたが面倒なという感じだったが意外と面白いと思ったのか途中から熱心に俺の話にリーゼは耳を傾けて説明が終ると―――
「なるほど、では私が聞いた話は間違っていたのか」
リーゼはあっさりと俺の話を信じて頷く。
我儘な話かも知れないが俺個人は話を信じてもらえて嬉しいんだがもう少し疑う事もしてほしいかな。何か簡単に騙されるリーゼが思い浮かんでくる、大丈夫かな。
「リーゼさん、話を信じてくれたのは嬉しいんですが、そういう話も有るという程度にしておいてくださいね」
「それは構わないが、何でだ? 魔術の事を勘違いされているのが嫌だから教えてくれたんだろ、他の人にもこっちが正しいと言うべきではないか」
「そうですけど、他の人が今の話を聞いてリーゼさんみたいに納得してくれるとは思えません。それに怒ってくる人もいるでしょう。唯、怒るだけなら良いんですが何か嫌がせをして来る可能性も有ります。それが一番嫌なんです」
特に魔法使いを多く輩出している貴族の家なんかは色んな意味で激怒して潰しに掛かってくるのが容易に想像できる。
「まあ、怒る人はいるかも知れないが、それで嫌がらせをしてくる者はいるのか?」
「そうですね、リーゼさんに分かり易く例えるなら・・・貴族と平民ですかね。リーゼさんは平民であるアスリラさんと同じ人間だと言われたら、どう思いますか」
「別に、そうだな、と思うぐらいだが」
「じゃあ、リーゼさんでなくプライドの高い貴族の方に平民と同じ人間だと言ったら、どうなると思います」
「それは激怒するだろうな侮辱するなと」
リーゼは貴族だが爵位が低く、平民であるアスリラや平民の冒険者達と付き合いがあるので同じ人間だと言われても怒らずに納得できるだろうが、プライドの高い貴族は自分は特別で選ばれた存在で平民とは違うと思っているのが多い。
身分制が無い世界で生きてきた記憶がある身としては、唯、運の良いだけと思うが、そういう風に教育を受けているプライドの高い貴族は平民と同じと言われるのが我慢ならない。
リーゼも容易にそれが想像できたのか納得する。
「魔法と魔術の関係も殆ど同じですよ。特に魔法使いを多く輩出している家は我慢できない物だと思いますよ」
「確かに、そうだな。話をする時は相手を考えないといけないな。ラーネルも話を聞くと怒りそうだ」
それはそうだよな、魔法使いである事に誇りを持っているなら怒るよな。
今まではラーネルが俺に対して不満に思っていたのは嫌っていた相手に指示されたり、今までやってこなかった事をやれと指示されるのが嫌なんだと思っていたが、そこに自分より地位が下と思っている魔術師のから指示されるというのも追加されるんだ、かなり鬱憤が溜まっているだろうな。
まだ三ヶ月弱も時間がある。その内、我慢しきれなくなってラーネルが不満を爆発させるんじゃないだろうか。
鬱憤が溜まらない様に改善をした方が良いのは分かるが、どうする事も出来ない。ラーネルに指示している訓練は俺が出来る事を見せるので、その点の不満は解消する事が出来るが他は無理だ。
ラーネルと友好的になろうにもケイッコー鳥の青羽を素直に譲らなかったり、最下階層に挑戦するのに巻き込んだりと色々とやり過ぎたので今更、友好的な関係になろうとするのは無理。
訓練の内容も俺が一人で迷宮ボスのミノタウロスを倒す事にすれば何でも良くなるんだが、流石にそこまで実力をリーゼ達に見せるつもりはないし、Bランクの魔物を一人で倒せる事を知られるのは不味い。秘密にしてもらっても思わず喋ってしまうという事があるかもしれないので知られるのは避けたい。
最後に俺が魔術師である事だが、嘘でも魔術師である事を否定するのは、あり得ないので改善する事はない。
殆ど俺が折れれば良いのだが俺にも譲れない物がある。ラーネルが不満を爆発させれば嫌いな相手から天敵として認識されて関係が修復不可能になるがデメリットは、まあ、それぐらいだろう。
進んで嫌われたい訳ではないが不満が爆発した時はデメリットを受け入れよう。不満が爆発しない事が一番なんだけどな、どうなるんだろうか。
一抹の不安を抱きながら月日が経って行き、そのまま月日が経って行けばラーネルの不満が爆発せずに最下階層挑戦当日まで過ごせたかも知れなかったがジッフル男爵とは別の貴族が絡んできた事でラーネルの不満が爆発する事になる。
はぁ~、なかなかうまくは行かないもんだ。あと貴族、面倒くさい。