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最下階層攻略(訓練2)


すみません、遅くなりました


 俺にかけられた殺人容疑を晴らす為にリディアの迷宮の最下階層に挑戦する事になったがリーゼ達を一緒に連れていく事が条件だ。

 俺とハチの一人と一匹なら簡単なのに足手纏いを連れていくのは面倒だ。


「お嬢様!」


「大丈夫ですか、クートゥリーゼ様」


 倒れているリーゼの元にラーネルが駆け寄って行き、アスリラはハチを抱えたまま歩いて傍まで行っている。

 

 駆け寄らなくても怪我なんてしてないと思うんだけどな。攻撃は木剣で防がせ、当てたのも防具の上からだから怪我をしても打ち身ぐらいだろ。

 多少は身体が痛むだろうが模擬戦闘だ、それぐらいは許容範囲だろ。


 単純に心配というのもあるんだろうがラーネルのは過保護的な物に思うな。


「コウセル君、見事な槍捌きだ、まさか娘があそこまで一方的に倒されるとは思わなかった」


 手を叩きながらアルナーレ男爵が俺の方に来る。この人は娘の方には行かないのか?


「しかし、あれだ私は娘がそれなりに強いと思っていたんだが違ったのかな? 君との手合わせを見ると弱いのではないかと思ってしまうな」


 まずいな、これはフォローしないと最下階層の挑戦を取り消されるかも。


「そんな事は無いですよ、クートゥリーゼ様が弱い訳ではありません。ここは私の強いと思っていただきたい」


「自分が強いから、そう感じると言いたいのかね」


「はい、そうでなければ最下階層に一人で挑戦させてほしいとは言いません。クートゥリーゼ様は人と戦う時の駆け引きなんかが出来ていません、対人戦闘の経験不足ですね。

 ある程度、人と戦うのに慣れている相手なら、さっきの私みたいに攻撃を防ぐ事は出来ます」


「では、人との戦いに熟練した者は、さっきのように簡単に娘に勝てるという事かね」


「いいえ、クートゥリーゼ様の攻撃を全部防いだのは私の槍の技量とクートゥリーゼ様が人相手の戦い方が知らないからです。攻撃に関してはキチンと反応していましたが多くの魔力を使った身体強化で強引に通しただけです。

 私と同じように多くの魔力を使った身体強化を使える者は少ないので相手によりますが簡単に負けるような事はないですよ」


 本当は槍の技量だけで勝つことが出来るけど、それを言うとややこしくなるから言わないで置く。


「なら、下層を探索している平均的な探索者が人相手の戦い方を知っているという仮定で戦った場合はどうなる?」


「あくまで私見ですが人相手の戦い方を知らないままなら苦戦をしますが、分かっていれば勝率は高いと思いますよ」


 リーゼは魔力操作の訓練をしているから普通の探索者達より魔力操作能力が高いので、殆ど剣の技量が同じと考えた場合、リーゼの方が有利だ。

 それ俺が見ている範囲だけだが他と比べてリーゼの剣の技量は高い方だと思う。


「そうか。では君は、その人との戦い方を教える事は出来るかね」


「基本的な物なら出来ますが、高いレベルを求めるなら何処かの道場に通うべきだと思います」


 高レベルのやり取りなども知識として知っているので教える事は出来な事もないと思うが俺自身は扱えないので、かなり効率は悪くなるだろう。

 それに槍と剣では武器が違うので細かい所が、どうしても曖昧になる。厳しい戦いの中ではそれが原因で死にかねない。


「道場か、シビアでは在るとは聞かんな。指導役を雇う必要があるかも知れんな」


 リーゼの今後を考えるなら必要になるだろう。騎士になるというなら仕事で人を相手に戦う事もあるだろう。騎士になる段階でも技術を求められるかも知れない必須の技術だ。

  

 打算もあるだろうが娘の今後を考え始めたのかアルナーレ男爵は腕を組んで黙り込む。


 アルナーレ男爵に向けていた視線をリーゼ達の方に戻すと、リーゼが漸く立ち上がり、こちらに向かって歩いて来る。


「コウセル殿は強いな。少しは強くなったと思ったんだが結局、手も足も出なかった」


 近くまで来たリーゼの表情に元気がない。簡単に負けたのがショックだったのかな。


「色々と理由はありますけど、クートゥリーゼ様は人との戦い方を知らないのが差の原因ですね。魔物相手ならともかく人相手には剣筋が素直すぎます」


「剣筋が素直すぎるか。そんな事は初めて言われたな」


「魔物相手には不要な技術ですからシビアでは知っている人は少ないのかもしれませんね」


「でも、人相手には必要な技術なんだろ。また魔力操作の時のように教えていただけないか騎士になろうとしている私には必要な物だ」


「最下階層を攻略出来た後ならば良いですよ、簡単な物しかお教えできませんが」


「ああ、それで構わな。それで次はどうする、他に私がするような事はあるかな?」

 

 元気が無い表情に少し元気が出て来たかな。


 リーゼは戦士職なんで手合わせだけで良いだろう。次はラーネルの魔法の腕前を見せてもらうか。


「いえ、クートゥリーゼ様はこれで終わりです。次はラーネルさんの適性属性と魔法の腕前を教えていただきたいんですが宜しいですか」


「それは構いませんが、コウセル様、お嬢様との手合わせでもう少し手加減をする事は出来なかったのですか? あんなに打ち付けなくても良かったのではないですか」


 心情的に親しい人が一方的にボロボロにされるのは気分が良い物でないのは分かる、けど迷宮ボスのミノタウロスに挑戦する事を考えると加減なんかして悠長にしている暇はないぞ。

 それに、ゆっくりとしていて怪我をするのはリーゼなんだけどな。


「ネル、心配してくれるのは分かるが止めてくれ。それに十分にコウセル殿には手加減をしてもらっている」


「お嬢様が、そう仰るなら―――コウセル様、申し訳ありませんでした」


 リーゼは訓練だからと気にしていなみたいだな。それなら、この感じで鍛えていくか。


「別に気にしてませんよ、気分が良い物ではないのは分かりますから」


「ありがとう御座います。私の適性属性は風のみそれで魔法の腕前を見せてほしいという事ですが何をすれば良いですか」


 風の属性か。熟練だとかなり有能なんだけど未熟な魔法使いだとイマイチなのが多いからな。


「そうですね色々とあるんですが此処で魔法を使っても大丈夫なんですか? 駄目な事とかありますか?」


「それは大丈夫だ、気にせずにやっても構わない」


 リーゼが気にせずに、やっても良いと言うが、それは修練場または庭にとどまる範囲、威力の魔法しか使えないという事になる。

 今回は魔物一匹を相手にするので範囲は別に狭くても構わないが威力が弱いとなると戦力外だ。思った以上にラーネルはレベルが低そうだ。


「それじゃあ、先ず使える魔法で一番威力の高い物を見せてください。魔法が発動するまでの時間は気にしなくても良いですよ」


「・・・分かりました。一番威力の高い魔法ですね」


 少し嫌そうに了承したが、威力の高い魔法は苦手なのか。なんというか典型的な未熟な風属性の魔法使いかな。

 どうしても風というのは重さがないので戦闘には不向きな属性の一つだと言われている。切る事は出来るが断つことは出来ないと。

 まあ、一部間違ってはいないとは思うが俺には修行不足のようにしか感じない。感性や知識量の差があるから仕方がないのかも知れないが。


 ラーネルは了承した後、修練場に入り突き立ててある丸太から十五メートルぐらいの所に立ち魔力を練り始める。初めてラーネルが魔法を使う所を見るが練る魔力は少ないし速度も遅い。


「風の刃よ!」


 四秒ぐらい魔力を練り、持っている水晶の杖を丸太に向けて呪文を唱えて発動させる。ラーネルが発動させたのは(ウインドカッター)という、そのまま風の刃を放つ魔法だ。

 魔法はイメージを魔力を使い具現化する物なので特定の呪文という物が無いが、イメージをより明確な物にする為に呪文を唱えるのが一般的で、熟練になるほど何をするかバレるので段々と詠唱を無しになっていく。

 最初から詠唱無し方が良いと思うんだが、それだとなかなか思い通りに発動しなかったり威力が弱かったりするので詠唱無しから始める人は殆どいない。


 ラーネルの(ウインドカッター)は丸太を大体三分の一ぐらいの深さまで切り裂き霧散する。俺の感想は威力が弱い、それだけだ。

 予想していなかった訳でもないが、改めてそうだと見せられると頭が痛くなってくる。


 それから発動速度、連続発動などを見ていくが、どれもイマイチだ。操作性はまともだが他と比べてという物なのでそれほどレベルは高くはない。


「ありがとうございました、ラーネルさん、もう結構です」


「ネル、前より色々と成長しているんじゃない」


「そうだな以前よりも全体的に向上していると思うぞ」


 俺が終了を告げるとアスリラとリーゼがラーネルを労っている


 あれでも以前よりも向上しているのか。向上しているのは魔力操作の訓練を教えたからだろうな。

 師が居らず魔力も人並み程度なら、あの程度か。Bランクの魔物を討伐に同行させるには弱すぎる。

 こっちも鍛えないといけないが魔法使い相手だと苦労しそうだな。


「コウセル君」


「はい」


「私は仕事があるので失礼する。ラーネル、アスリラ、最下階層に挑戦する際はリーゼを宜しく頼むぞ。リーゼ、最下階層に挑戦するまで時間は、まだある、それまで精進しなさい」


 仕事があるからと挨拶してからアルナーレ男爵は屋敷に戻っていたが、あの人、アスリラを強制的に最下階層の挑戦に参加させたぞ。

 アスリラに宜しく頼むと言っているが実際は命令だろう。アスリラとアルナーレ男爵の関係は良く知らないがアスリラが無視できるとは思わない。


 アルナーレ男爵の近くでアスリラに事情を話すのは間違いだったかな。でも、どの道、アルナーレ男爵は言いそうだな。

 俺と一緒に挑戦するんだ必ず成功させるし、死ぬなんて事はさせないけど、それを分からないアスリラの心労はすごいだろうな。俺も心労が増えるけど仕方がないか。


「えっと、その、リラ? 別に強制なんかはしないからお父様が言った事は気にしないで考えてね」


「だ、大丈夫よ、リーゼ。二人が挑戦するのに私だけ挑戦しないなんて、そんな事しないよ私も挑戦するから。あっはははは」


「その、ごめん、リラ」


 リーゼも気にしないでと言っているが、それが無理なのは分かっているから、すぐに諦めている。

 思ったより早くアスリラに貴族の我儘が降りかかったな。同情してても何もならない進めていくか。


「アスリラさん、一応、俺と手合わせしときます。最下階層に挑戦する事になったんですから」


「え? あ~ん~、私は戦いの時は囮にしかなれないと思うから、いいよ。それより作戦を考えよ」


 今の段階だとアスリラ達、全員、囮にしかならないんだけど言わぬが花だよな。


「リーゼさん、どうします?」


「そうだな屋敷の中で話でもしようか」


「ねえ、リーゼ、ここで話すのはダメ?」


 アスリラがハチを少し持ち上げながら庭で話さないかと言っているが、そんなにハチが気に入ったのか?


「コウセル殿、外で話し合っても良いかな、お茶会をする時のテーブルと椅子があるから話をする事はできる」


 今さっき自分の父親が理不尽な事を言ったから断りづらいか。あんまり外にはバラしたくない情報だが、すぐに噂になる事は無いだろう屋敷の使用人さえ気を付ければ大丈夫か。


「分かりました、それで構いませんよ」


「それじゃあ、私が案内する。ネルはお茶の用意をして来てくれる」


「かしこまりました」


 ラーネルはお茶の準備の為、屋敷に戻って行き、俺とハチを抱えたままのアスリラは庭に在る、お茶会用のテーブルまでリーゼに案内される。


 テーブルまで案内されて全員、座ってラーネルを待つ、アスリラは椅子に座りながらもハチを抱えたままだ、本当に気に入っているんだな。


 お茶の準備が終わったラーネルがティーセット一式を持って、こちらまで来て全員に配り終わってから席に着く。

 話を始める前にお茶を一口いただく、茶葉を扱う店はそれなりに在るがお茶を出す店は少ないし値段が馬鹿高いので、なかなか飲むことが出来ないので是非ここで飲んでおきたい。

 普段飲むのは水ばかりでなのでお茶はかなりおいしく感じる。出来れば、より深く味や香りを楽しめれば良かったんだが、そこまで興味を抱けないのが残念だ。


 お茶を一口飲んで一息吐いた所でリーゼが話しかけてくる。


「それでコウセル殿、どうだった私とネルの力が分かって」


「誤魔化しても仕方がないんでハッキリ言いますがレベルが低いんでレベルの底上げが必要です。幸い、あと三ヶ月の時間があります迷宮に潜る事を考えれば丸々使える訳ではありませんが十分、鍛える事は出来ます」


「やはりレベルが低いか。―――鍛えてもらえるなら、それは有難い今回の件を無しにしても私は強くなりたいからな宜しく頼む」


 リーゼはとことん前向きだな、弱いと言われて怒らないのか。プライドを傷つける事を言ったと思うんだけどな。まあ、やる気があるなら出来る限りは鍛えてみるか。


「レベルが低いなら、やっぱり止めた方が良いのでは。コウセルさんが思ってたより私達は弱かったのでしょ。貴方の計画は崩れているんじゃないですか」


 ラーネルは元々反対だったからやめた方が良いと言って来るのは分からないん訳ではないけど、怒ってる感じはしない。弱いと言われた事は何とも思ってないのか。


「幾つかの方法はダメになりましたけど、全てでは無いですよ。それに、その方法になるだろうなと思っていたんで支障は無いですよ」


「どんな方法なの」


「俺がミノタウロスの正面を受け持ちます。リーゼさんとアスリラさんは側面や後ろに回って気を散してもらいます」


「それで私が魔法で攻撃するという事ですか」


 それが出来れば、まだマシなんだけど・・・。


「そうしたいんですが。ラーネルさん確認ですが身体強化を使って素早く動く事は出来ますか」


「身体強化は出来ない事は無いですが、あまり得意ではないですね。素早く動くというのもイマイチだと思います」


「そうですか・・・それだと今の段階ではラーネルさんは最下階層に挑戦に参加させる事は出来ませんね」


 それほどラーネルを参加させないという事が想定外の事だったのか、何を言ったかを理解できないという顔をして三人共、俺を見ている。

 そんなにも以外に思う事か。


「ネルを参加させないの?」


「そうです」


「その攻撃役はどうするんだ、魔法が無いとかなりマズイと思うんだが」


「威力が弱すぎます。これで素早く動けるというなら、まだ良いんですが動けない上に魔法の威力も弱い。役目が無いんです」


「それは仕方ないじゃないですか、風属性なんです攻撃向きではないんです。それに攻撃役は誰がするんですか」


 A・Sランクの魔物相手になら理解できない訳ではないけれどBランクの魔物を相手に、そんな事を言われても修練不足としか取れないんだけどな。


 ラーネルの普段使っている感じで(ウインドカッター)を使っている所を見せてもらったがアレならコボルト(小型)なら一発当てれば倒せ、コボルト(中型)は二発は必要だろう。

 オークと普通のミノタウロスなら五、六発当てないと倒す事は出来ない。これがCランクまでなら通用するとは思うんだがBランクのしかもミノタウロスとなると通用しないだろう。

 迷宮ボスのミノタウロスの皮膚は切り裂く事は出来るだろうが筋肉が切れない、鬱陶しいだけで致命傷にならない。

 囮役ならそれでも、いいが素早く動くことが出来ないとなるとラーネルを守る事を優先しないといけなくなるので俺の動きが制限されてくるので効率が悪い。


 本当に面倒くさいな。隠すの止めて全力を出せるなら簡単なんだけどな。


「攻撃役は俺がします、多少時間が掛かるでしょうが問題はありません」


「貴方は私の魔法よりも威力のある魔術が使えると言うんですか」


「魔術でも槍でもラーネルさんより威力のある攻撃は出来ますよ。まあ、参加させないというのは現段階での話です。まだ時間があるんで三人には訓練してもらいます」


 三人共、不安げな顔だ。もう少し包んで言った方が良かったか。でも現状を確認してもらわないと困るからな苦労するかも知れないが三人を鍛えるのを頑張りますか。



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