殺人者コウセル?
遅くなりました。
この話を投稿する前に、何となく思いついた閑話を入れたかったんですが遅くなりそうなので先にこっちを投稿します。
近いうちに閑話ほうも投稿したいと思います。割り込みで投稿しますので、もし読んで下さる場合は気を付けてください。
11/10 43話目に閑話を差し込み投稿しました
クー・シーのハチと契約を結んでから三ヶ月の月日が経った。
すでに最後の階層である四十三階層を残して全ての階層の地図が完成している。
四十三階層に続く階段らしき物は見付けたのだが、それはリディア鋼で作られた扉に、これまたリディア鋼で作られたデカい南京錠で施錠されているので開ける事は出来ない。
扉を壊せない事もないんだが何らかの理由が有り閉ざしていると思い、そのままにしている。
酒場なんかで最下階層に何が有るのか聞いたりはしているんだが殆どの探索者は知らず、知ってそうな探索者もいるが知るのは最下階層に下りられた探索者の特権だと教えてはくれない。
最下階層に下りれないから色々と聞いているんだが、それを言う訳にはいかない。
最下階層、手前まで下りた事がバレると今でも勧誘などが多くなっているがさらに多くなる。特におこぼれに与ろうとする連中はしつこいので、あまり知られたくない。
まあ、そんな事も有り下層部(二十一階層から三十階層の事)と最下層部(三十一階層から四十三階層の事)を交互に探索している。
最下層部は一応、三十一階層と三十二階層までしか潜っていない事にしていて、下層部からは殆ど逃げ回っていて魔鉱石掘りを中心に活動している事にしている。
唯の探索でもハチは色々と動くための準備期間だと言っているので退屈だと文句は言わないだろうが、俺自身も地図を作り終えたので作業になる探索はつまらないと思ったので人が少ない最下層部の探索は実験中心になっている。
主に俺がハチに魔力提供をしたりとバックアップすると何が出来るかを色々と試している。
出来る事は多いから退屈はしない。本犬? も出来る事が増えて楽しんでいる。まあ、すべて有効な物ではないけれど実験としては楽しいもんだ。
そうやってハチと探索を繰り返しているといつの間にか二つ名が付いた。今の俺をそのまま表した『犬飼』という二つ名だ。
ハチがクー・シーとバレると不味いので普通の犬だと周りには言っている。まあ、だからこそ『犬飼』になったんだろう。
何と言うか微妙だ。有名になりたい訳ではないし特別恐れられたい訳でもないが、もうちょっと俺としては魔術関係の二つ名が欲しかった。普通に『魔術師』というものでも良かったんだが。
二つ名は第三者から付けられるものだから仕方がないか。
主に迷宮探索して偶に冒険者ランクを上げる為に冒険者ギルドから依頼を受けて日々を過ごしている。
そのおかげで冒険者ランクDになり、そして今日も今日とて仕事の為に迷宮探索をしようと探索者ギルドに来たんだが、あんなことになるとは思わなかった。
人の善意を利用して仕掛けてきやがった。必ず、すり潰してやる。
「コウセル様、申し訳ありませんが迷宮への入場は許可できません」
―――――何?
転移装置を使う為に探索者ギルドの男性職員にギルドカードを提出すると入場自体を拒否された。
「どういう事ですか問題を起こした覚えはないですよ」
実際は何日か前に強引に勧誘してきた探索者パーティを殴り飛ばした事はあったが、あれは酒場での喧嘩である意味、日常茶飯事の出来事だ。
問題と言えば問題だが迷宮に入場を拒否されるような出来事ではない。
それ以外に問題を起こした覚えが無いので困惑する。
朝から紺狼商店に卸す迷宮産資源を取りに来たのに迷宮に入れないと仕事が出来ない。
「コウセル様には殺人容疑がかかっています。殺人容疑が晴れるまでは迷宮への入場は許可されません」
殺人容疑ってなんだよ。まだ今世では人は殺してないぞ。
前世なら襲ってきた盗賊を返り討ちにしたり、戦争にだって参加した事がある。
数なんて覚えてないが十や百なんて数じゃない。下手すれば何千という数の人間、獣人、エルフ、ドワーフ、魔族、他にも細かく分ければ出てくるだろうが殺してきた。
人を殺す事に悩みもしたし苦しみもしたが、結局いつの間にか殺す事に慣れてしまったのを覚えている。
慣れてしまった事に寂しさや苦みを感じた事を覚えている。
今更、殺人を必要以上に忌避するつもりはないが好んでするつもりもない。
必要に迫られれば殺しもする。モータルセンヌでは吹けば簡単に飛んでしまうほど命は軽い。だからと言って命の尊さを忘れたつもりはないが。
今の所、必要に迫られていないので殺しはしていない。
もし殺したとすればそれはキチンと認める、どんな理由であろうと尊い命を奪ったのだから。しかし今回は冤罪だ何で俺に殺人容疑がかかるんだ。
「何かの間違いではないですか、詳しい事を教えてください」
「私は詳しい話は知りませんが上から入場拒否すように指示が来ています。早く迷宮に入りたいなら罪を償ってはどうですか」
嫌らしい笑みを浮かべた顔で男性職員が罪を認めろと言って来る。
この野郎。罪人を嫌悪するなら分からない訳ではないが、この男性職員の場合は俺の不幸が嬉しいといった感じだ。
今の俺は多くの人から嫉まれている。ソロで三十一階層まで下りる事が出来る実力を持っている事と多く金を稼げるからだ。
才能が有るからとか魔力量が多いからだとか色々と裏で陰口を言っている連中が居るのを知っている。
まあ、陰口は甘んじて受けよう。前世の記憶とBランクの魔力量を持っているんだ他人よりは恵まれているのは違いない。だからと言ってイラつかない訳ではないが。
『ご主人様、どうするでアリマスか』
ハチから契約で繋いだパスから念話で気遣うように話掛けてくる。
『まず、俺が誰を殺した容疑をかけられているのかと、誰がその容疑を俺にかけたのか調べるつもりだ。だから今日は迷宮探索は中止だ』
『了解でアリマス』
ハチは俺があまり気にしていない事が分かったのか返事をするだけで多くは聞いてこない。
殺人なんてやっていないから、そのうち疑いは晴れるだろうが紺狼商店に迷宮産資源を渡さないといけないので出来るだけ早く疑いを晴らさないといけない。
全く何で俺がこんな目に遭うんだ面倒くさい。
「じゃあ、その上の人って誰です。話を聞きたいんで教えてくれませんか」
「さあ、知りません」
「知りませんって、ふざけているんですか」
「ふざけてはいませんよ。私に話してくれた上司もさらに上の人から話を聞いたそうです。
詳しい事を知っているのは幹部の貴族の方ぐらいじゃないですか。―――ああ、あとは殺った本人ですね」
「あんたな・・・」
男性職員の視線は、お前は殺しをしたんだろと語っている。
やばい、スゲー殴りたい。
しかし、こいつは馬鹿か。こんなに挑発して、もし俺が本物なら今晩にもぶっ殺そうと思うんだが、危機感とか覚えないのか。
「おい」
男性職員を睨みながら、そんな事を考えていると後ろから声を掛けられる、後ろを振り向くと苛立った顔をしている探索者がいた。
「良く分からねえがガキ、お前は迷宮に潜れないんだろ、なら、さっさとどけ後ろがつかえてんだ」
特別早い時間帯じゃないがそれでも転移装置を使おうとしてカウンターに並んでいる探索者はそれなりに居る。
何時までも、ここで話してる訳にもいかないか。それにこの男性職員は詳しい事は知らなさそうだし、とりあえずここを離れるか。
「すみません、すぐに離れます。――――ありがとうございました」
男性職員に別れの挨拶をしてカウンターから離れる。
男性職員は嫌らしい笑みを浮かべたまま挨拶を返さず仕事に戻っていく。
俺の後ろに並んでいた探索者の大半は多分、好奇心からの俺を見ているが一部は嫌らしい笑みと侮蔑するような顔で俺を見ている。
好奇心と侮蔑は分かる娯楽が少ない世界だし罪に問われるような事をしたんだ、そういう目で見られるのは分かる。
だが、嫌らしい笑みを向けてる連中は、そんなに人の不幸が面白いかね嫌になる。
さて情報を集めないといけないんだが、どうやって集めるかな。
探索者ギルドの男性職員の話だと探索者ギルドの幹部の貴族しか知らないと言っていたな。俺には探索者ギルドの知り合いはいないが冒険者ギルドにはラカムが居る。
探索者ギルドと冒険者ギルドは別組織だが犯罪者や、その疑いのある人の情報は共有しているだろう。
ラカムは貴族ではないが冒険者ギルドのサブマスターだ、詳しい話を知っているかも知れない訪ねてみるか。
探索者ギルドのスペースを離れて冒険者ギルドのスペースに移動する。
冒険者ギルドのスペースは忙しい時間帯のピークが過ぎているのか人は疎らにしか居ない。これならすぐにラカムと話が出来るかもしれない。
それからカウンターの列に並び少しして順番が来たのでラカムを呼んでもらおうとしてギルドカードを提示するとラカムが面会を希望していると受付嬢から聞いた。
向こうも俺が来るのを予想していたのかな。好都合なのですぐに面会に応じる事にした。
面談に応じると一つの部屋に案内される。部屋の内装は大きめのテーブルと椅子が何脚か有るだけの質素な物だ。会議室か何かだろうか。
椅子に座りラカムが来るのを待つと、すぐにラカムが部屋に現れた。
「こんにちは、コウセルさん」
「こんにちは、ラカムさん。俺と面談をしたいと聞いたんですが、どうしたんですか」
「コウセルさんの殺人容疑についてです。コウセルさんも、その事を私に聞きに来たんじゃないですか」
俺の事情は知っていそうだな、ここで変にとぼけても話は進まないから素直に認めて情報を貰うか。
「はい、そうです。探索者ギルドで転移装置の手続きをしようとした時にギルド職員に言われたんです。
詳しい話を聞きたかったんですが知らないと言われまして。探索者ギルドではありませんが冒険者ギルドのサブマスターであるラカムさんなら何か知っているではないかと思って訪ねさせてもらいました」
「こちらにもコウセルさんが殺人容疑がかかっているので冒険者ギルドでの活動をさせないように命令が来ています。
一応、正式なものなので冒険者ギルドが独立組織とはいえ従わなくてはいけません。だからコウセルさんは依頼を受ける事が出来ない状態になっています」
この状態はマズイな当分は溜めている金を使えば暮らしては行けるが何時までも金が稼げないのわな。
それに正式なものだとすればどこに行っても冒険者ギルドと探索者ギルドを利用できない可能性があるな。
「そうですか。それで殺人容疑の詳しい内容は知っていますか」
「はい、殆どこじ付けの様なものなんですが訴えている相手がジッフル男爵なので厄介です」
貴族が相手になるのか面倒くさいな、しかもラカムに厄介だと言われている貴族の中でも強い力を持っているのかな。
けど、今はアルナーレ男爵家に庇護されているから何とかなるか?
「まず殺人容疑の内容ですがコウセルさんが迷宮内で探索者を殺害したというものです。
コウセルさん、迷宮探索をし始めた頃、迷宮で亡くなった探索者の遺品とかを冒険者ギルドに持って来たのを覚えていますか」
「はい、覚えていますよ装備品だけが残っていたのとガリガリの遺体があった二つですね」
俺が迷宮で回収した事があるのは、この二つの場合だけだ他は遭遇した事はない。
怪我をして危ない状態だったのもリーゼ達ぐらいだ。深い階層に潜る探索者ほど経験も積んで慎重になっているんだろう。
「そのうちの一つのパーティに生き残りが居ましてね、彼がコウセルさんに仲間を殺されたとジッフル男爵に訴えて、ジッフル男爵は犯罪性があると判断して容疑が固まるか晴れるまで各ギルドに活動をさせないように指示を出しました」
「それ立証するのも疑いを晴らすのも無理じゃないですか」
「はい、そうですね。だから罪を着せるのが目的ではなく探索者や冒険者として活動をさせない事が目的だと思います。多分ですがシビアから出る事も出来ないでしょう」
面倒くさいぞ、これは、こっちが何しようと疑いを晴らす事は出来ない。シビアから逃げようにもシビアから出る事が禁止されているなら出る事も出来ない。密かに出る事は出来るが、そうすれば本格的に犯罪者にされるだろう。
訴えてる探索者を何とかするしかないか、でも時期的なものを考えると例の探索者は利用されているだけで俺に用が有るのはジッフル男爵みたいだよな。これはアルナーレ男爵に頼るしかないか?
「コウセルさん、おそらくですが近いうちにジッフル男爵から呼び出される事があるでしょうから気を付けてください。ジッフル男爵はシビアの貴族の中でも強い権力を持っています。何かあれば出来る範囲ですが力になります」
思った通り強い権力を持っているみたいだな。
「ありがとうございます、その時はお願いします」
それからラカムとの話は終わり探索者ギルドから出る。
アポイントは取っていないがアルナーレ男爵に会いに行くか。会えない可能性が高いが時間は嫌な事にかなりある、会えないならアポイントを取ると思えばいいか。
貴族関係の問題は同じ貴族であるアルナーレ男爵に頼るのが一番良いだろう。
『ハチ、今からアルナーレ男爵に会いに屋敷まで歩いて行くぞ』
『ご主人様、それは良いですが向こうから誰か近付いて来たでアリマス』
念話でハチにこれからの行動を話すと誰かが近付いて来ると報告をされる。害意が有るなら察知しやすいが何もないと分からないのでこういう所は助かる。
念話で示された方を向くと執事だろう初老の男が話しかけて来る。
「探索者、『犬飼』のコウセル様でしょうか」
「一応、そう呼ばれていますね。後、本業は冒険者のつもりです」
「それは失礼いたしました」
下に見ているのか謝っている感じはしないな。あくまで形の謝罪だ。俺の言っている事なんて、どうでも良さそうで無視をするつもりだろう。
まあ良い、今はこの執事の男が何を目的で話掛けて来たかだ。
「それで何かご用でしょうか」
「はい、我が主ジッフル男爵様がお会いしたいと申されております。馬車もご用意しています、お乗りください」
早速、接触して来たか。しかもこっちの返事を聞こうともしない。これは思ったより面倒くさい事になるかも知れないな。
ハチの存在感が薄くなってしまった。
今更ながらユーザの新着活動報告というのが有る事を知りました。
更新する時は報告していきたいと思います。出来るだけ多くの人に読んでもらいたいと思っているので。