閑話 焦り走り・・・
コウセル視点ではありません。
迷宮で亡くなったタドーコア男爵視点です。
亡くなっているのでデッドエンド確実です。
クソッ!クソッ!クソッ!クソ―!
どうして俺がこんな目に遭うんだ。これからだっていうのに馬鹿にしやがって。
「ご、ご主人様」
「お前は黙ってろ!」
あー、イライラする。話かけて来るなよ。
「おいおい、男爵、響くんだから大声出さないでくれよ魔物にも気づかれて奇襲できなくなるだろ」
「そうだぜ、何したって起こった事は変わらねーんだから」
この探索者達もそうだ、全く俺を敬おうとしない貴族であり雇い主であるこの俺を。金が有ればこんな奴ら雇わなくても良いのに、どうしてこうなった。
チャンスなんだ第三王子が魔法に関係の人や物を集めている。 従魔を連れているタドーコア家の事を知ればお声を掛けてくれるかも知れないのに。
ギョンソ子爵家の長男は蛇の魔物を従魔にしているらしいがアレは魔法で従魔にしている、我が家のように誰でも従魔を連れられるものでは無い。
中央に進出するチャンスなのに、家の連中は俺が当主にふさわしくないと騒ぎ出す。
クソッ、家宝で召喚したのがコボルトでなければ、こんな事にならなかったのに・・・・
「準備は出来ているか」
「はい、出来ております」
普通よりも大きめの部屋に魔核を砕いた塗料で書いた魔法陣の上に大量に魔核を載せている。
我がタドーコア家に伝わる家宝の魔導書を用いて従魔を召喚する。
昔は力強い幻獣や精霊を呼び出せたそうだが今では醜い魔物しか呼び出せなくなっている。詳しくは知らないが王家から信頼を失ってからは醜い魔物しか召喚出来ないようになったと聞いている。
今なら第三王子が魔法関係の人や物を集めている俺もお声を掛けて貰えるかも知れない。そこで第三王子から信頼を得る事が出来ればきっと幻獣、精霊が召喚できるようになる。
召喚にはかなりの量の魔核が必要でタドーコア家の当主になる時に一度だけ召喚が許され二回目は出来ない決まりだが、出世して財も今以上に持つ事ができれば二回目の召喚をしても周りから文句は言われないだろう。
第三王子はまだ成人したばかりだ少し煽てれば気を良くして俺を重宝するはずだ、すぐに出世ができる。
俺はこんな田舎で終わるつもりはない、必ず中央に進出して見せる。
それには、まず今回の召喚で気持ち悪くても構わない珍しい魔物を召喚するんだ。俺なら出来る筈だ。
「では始めるぞ」
部屋の中に居る執事長に声を掛けてから家宝を使う為の『ケンゴン』を言う。
「●●●●」
『ケンゴン』は意味が分からない音を発せないといけない。これを知っているのは代々仕えてくれる執事長を務める家臣の家系の長かタドーコア男爵家当主のみだ。
だから当主に隠れて召喚をしようとしても出来ない、執事長に教えるのは万が一当主が不慮の事故で亡くなった場合の保険だ、失伝するのが一番まずいからな。
血族でないのは当主の座を奪おうとする者が出て来るかも知れないからだ、執事長が裏切る可能性は有るが彼は平穏な日常が好ましい筈だ、わざわざ問題を起こすような事はしないだろう。
『ケンゴン』を発すると魔法陣が光り、その上に置いていた魔核が溶けるようにして消えて行く。
召喚に使う魔核の量は多いのでそれだけでかなりの出費だ。だが他の貴族には無いものを持っている。それだけで格の違いを見せつける事が出来る。
必要な出費だ仕方がないと納得しておこう。
すべての魔核が消えると魔法陣が一際、輝き思わず目を瞑ってしまった。クソッ、こんなに光るとは聞いていないぞ。
召喚はどうなった、何が召喚された。お爺様は気持ち悪い色のしたスライム、父上は人面犬、この二つにかぶらなければ何でも良いが出来れば、まともな奴が良い。
王家の信頼を得られるまでは幻獣、精霊は召喚出来ないだろうがそれに近いものが良い。
視界が回復してきて目を開けるとそこに居たのは知っている物と少し違うが、間違いないこいつは・・・
「ふざけるな、コボルトだと!」
「お、落ち着いてくださいラエル様。折角、召喚したのです、とりあえず契約をいたしましょう」
「馬鹿を言うな! コボルトなんぞと契約すれば周りから馬鹿にされるだろ! もう一度だ、もう一度召喚をやり直す魔核を準備しろ」
クソ、コボルトなんて弱くありきたりな魔物だ、父上や弟が何を言って来るか。
何でコボルトなんだ、これなら人面犬の方がまだマシだ。お爺様はスライムを召喚したせいで苦労したと聞いている、気色悪い色だとしてもスライムには違いないからな。
「ラエル様、召喚をするには多くの魔核が必要です。今、タドーコア家には魔核もそれを買うだけの財も有りません。召喚をするのは無理でございます」
まさかこんな事になるとは、周りから何って言われるか。クソッ!
「ご、ご主人様」
うん? 誰の声だ執事長と俺しかこの部屋には居ない筈だがそれ以外の者の声がするぞ。声の聞こえる方に向くとそこに居るのはコボルトだ。
「ご主人様、召喚に応じて参上したでアリマス」
喋るコボルト? 確かに珍しいが周りの連中は納得はしないだろ、弟など俺の粗探しに熱心だからな確実について来る筈だ。
「ラエル様、確かにコボルトですが喋る事が出来ます、これは成功してと言っても良いのでは」
「喋る事が出来たとしてもコボルトである事に変わりは無い、弟がその点をついて騒ぐだろう、召喚は失敗だ。
―――部屋で休む片付けておけ」
コボルトが後ろで何か言っているが魔物が言う事だ碌な事ではないだろう。
今後どうするか考えないといけないな。
『聞いたかタドーコア男爵がコボルトを連れているらしい、あの家はもうダメだな。
前タドーコア男爵が立て直したと思ったが迷宮に居るコボルトを従魔にしているようじゃあ』
『今のタドーコア男爵はかなり態度がデカいな、あんなのが当主で大丈夫なのか』
『今のタドーコア男爵様になってから雰囲気悪いわよね。弟のエラクレス様の方が良いんじゃないの?』
『兄上はダメだ、弱いのは仕方がないが平凡な魔物であるコボルトしか呼べないんだ選ばれた存在で有る貴族としては相応しくない』
コボルトを召喚してからは何日か経ったが俺では不満だという声がそこらで上がっている。
聞こえていないとでも思っているのか全部聞こえている。父上も励めと言っているが明らかに落胆していて蔑んでいる。
コボルトは自分は妖精だと意味の分からない事を言って俺を騙そうとしているのか。喋る事が出来るからと言って、そんな嘘に騙されると思っているのか、ふざけやがって。
契約しろと、うるさいから黙れと命令すれば喋らないようになった。最初からそうしていろ、全く気が利かない奴だ。
まだ俺を当主の座から降ろそうとしているのは弟のエラクレスだけだが、その内、親戚連中も声を上げ始めるだろう。
早く地位を固めないといけない、その為にはまずリディアの迷宮に潜って二十一階層まで行く必要があるな。
シビアの貴族ならどこの家でやっている事で特別な事ではないが一応、当主として一人前と認められる、周りの声もある程度は抑えられるだろう。
執事長はまともな探索者を雇えないと反対しているが今はリディアの迷宮の中層は魔物が少ないと聞く、質が悪くても下りる事は出来る筈だ。
冒険者ギルドで雇えたのは二人組の探索者だ、あまり強そうには見えないがまあ良いだろう。
執事長は最後まで止めるべきだと言っていたがそんなに悠長にしている暇はない。いや、執事長も他の奴を当主にするつもりで俺の地位が固まってくるのが邪魔だと思ったんじゃないのか。
クソッどいつもこいつも俺の事を見下しやがってイライラする。俺が迷宮に潜っている間に執事長が当主にしようとしている奴が家宝で従魔を召喚するかもしれない家宝は迷宮に持って行くか。
迷宮に潜るのは俺と雇った探索者の二人、最後にコボルトだ、不満が有るが肉の盾はなるだろう。
召喚したコボルトを紹介する時に喋れる事を言うと探索者二人は珍しがっていたが所詮はコボルトだと馬鹿にしたような顔をしやがった。やはりコボルトでは駄目だ別の奴を召喚しないと。
探索者ギルドで転移装置で十一階層に行くまで周りがジロジロと見て小声で何かを話している。俺を馬鹿にしているのか、雇っている探索者も俺を敬わない明らかに舐めている。
転移装置で転移した先の兵士達も最初はコボルトが突然出て来た事に驚いていたが、俺の従魔だと分かると馬鹿にしたような視線を向けて来る。
何で俺がこんな馬鹿にせれた目で見られている、もっと羨望と嫉妬を含んだ目で見られるはずなのに。
「おい、さっさと案内しろ、その為にお前たちを雇ったんだぞ」
「分かってるよ男爵、そんなに吠えんなよ」
「そうそう、きちんと連れて行ってやるよ」
早く案内するように探索者二人に言うが返事は貴族に対する言葉遣いではない、雇うやつを間違えたか、だがここまで来れば後には戻れない進むしかない。
探索者の案内の元、迷宮を進んで行く。殆ど魔物には遭遇しないが全くと言う訳でない二回ほど遭遇した。
二回ともコボルト(小型)で三体と四体の集団だ、探索者は少し手こずりながらも倒していくがもう少し早く倒せないのか。
怪我をしないようにしているんだと言うが実はかなり弱いんではないか。今度、探索者を雇うような事があっても、こいつらは雇わないようにしないとな。
二回ほど休憩、一度横になり睡眠を取って、やっと十六階層まで辿り着くことが出来た。
飯はマズイは地面は硬いので碌に眠れやしない。しかもイライラしている所にコボルトが命令を無視して話掛けてきた余計にイライラする、命令も碌に守れないのか。
ここまで来るのにかなり時間が掛かった道を間違えてるじゃないよな、確かめる術はないがかなり怪しい。地上に戻れば探索者達を問い詰めてやる。
そして再び移送を再開して三つめの部屋で魔物に遭遇する、しかもコボルト(小型)が一匹だけだ。
「ラッキーだな、さっさと殺して魔核をいただこうぜ」
「ああ、そうだな」
契約上、倒した魔物は全部、探索者二人の物になるようになっているから魔物が出ると嬉しいんだろうが俺としては迷惑だ。
こんな雑魚の魔物を倒すのは下賤な者のする事だ。いずれ俺は力強い幻獣か精霊を従魔にして強力な魔物を倒せるようになるんだ、こんな所で躓いて堪るか。
「ま、待でアリマス。ご主人様、アレは罠でアリマス、迂回すべきでアリマス。迂回しないなら計画を立てるべきでアリマス」
部屋にコボルト(小型)が一匹だけなので止まらずに進もうとするとコボルトがまた命令を破って喋りやがった。
しかも魔物が罠を張っている? コボルトみたいな下級の魔物が罠なんぞ張れる頭など持っているはずがない、探索者二人にも視線で問いかけるとあり得ないと首を振るう。
「なんだお前、仲間が殺される所は見たくないてか。さんざん見殺しにして来たくせに今になって言うのか」
「あのコボルトはお前の好みなのか、悪いが番探しは俺達の仕事じゃない諦めろ」
コボルトに諦めろと言い放ち部屋に進んで行く探索者二人の後に続いて俺も部屋に入る。部屋に入ろうとした時にコボルトが足に縋り付いて罠だと言って来るが邪魔なので蹴り飛ばす。
余計な時間を掛けやがって。喋るコボルトだから生かしておいたが、いっそ、ここで殺すべきか。従魔が居なくなればもう一度、召喚する理由にはなる。一つの手段として頭に留めて置くか。
考えながら探索者二人の元に近づくと部屋の角の岩陰からコボルト(小型)が左右二匹ずつ飛び出してくる。
「やばい、前からコボルト小型が岩陰から出て来たぞ!」
雇った探索者の片方も飛び出してきたコボルト(小型)に気が付いて、もう片方に知らせる為に声を上げる。
「何! 仕方がない逃げ、あークソッ、後ろからもコボルトが二匹出て来たぞ! しかも中型だマズいぞ」
探索者の片方が後ろからもコボルトが出て来たと言う。まさか本当に罠だったのか? コボルト風情に罠にかけられたのか。
クソッ!ふざけやがって屈辱だ!
「さっさとコボルトを殺せ! その為にお前たちを雇ったんだぞ」
「無理言うな逃げるぞ!」
何、逃げる? コボルト相手に?
「ふざけるな、俺の命令が聞けないのか!」
「聞けねーよ。殺したきゃ、自分でやれ」
あの探索者二人は雇い主である俺の命令を無視しやがったのか。
振り向こうとすると横から召喚したコボルトが俺を押し倒してきやがった。
「ご主人様、危ないでアリマス!」
押し倒されて地面に転ぶ羽目になったが迫って来ていたコボルト(小型)の攻撃を避ける事が出来た。
攻撃を避けられたコボルト(小型)の内、二匹はそのまま走って行き、コボルト(中型)と対峙している探索者二人を後ろから襲っている。
残り二匹は召喚したコボルトが剣で対峙している。あの剣は俺の腰に佩いていた物か勝手に使いやがって。
怒りに任せて怒鳴ろうとすると悲鳴が上がる。そちらを向くと探索者二人がコボルト共に殺されている。
おい、待って、そいつらが死んだら誰が俺を守るんだ、どうやって進むんだ。しかもコボルト共を倒し損ねているじゃないか。
マ、マズイこのままでは、ここで死ぬ。どうにかしないと、だけど何をすれば良い。
「ご主人様!」
召喚したコボルトの声が聞こえるのと同時に激しい痛みを頭に感じ、視界が赤く染まりグチャグチャに歪む。
俺は殴られたのか? 召喚したコボルトが対峙していたのは二匹のコボルト(小型)だ一匹通したな、しっかり足止めをしておけよ。
クソッ、俺はこんなところで死ぬような、おと――――――――――
ラエルは色々と追いつめられて悪い方へと考えて被害妄想がすごい事になってしまっています。
能力的には平凡で特に優れた所はありません。
雇われた探索者二人の実力はあまり高くなく、殆ど上層でしか活動した事がなく中層は高値で買った地図を使って下りていました。
『ケンゴン』は正しくは『鍵言』です。
ラエルは意味を正しく知らないのでカタカナ表示しています。