クー・シー
クー・シー
スコットランドの神話に出て来る妖精、妖精丘の番犬。長い暗緑色の毛を全身に生やし、尻尾は丸まっているが長く、牛並みの大きな犬と言われている。
普段は妖精丘に居て妖精たちを守っているが妖精たちと共に人間界にやって来る事があり、ごく稀に単独で人間界にやって来て、人を襲う事があるらしいが追いかけた人間の飼い犬に追い返される事もあると言われている。
まあ、基本は普通の犬と変わらないんだろう。
人を襲うのは野良犬になったからで姿、形、色合いは俺が知っている伝承ものとは違うが普通の犬でも品種が違ったり、同じ品種でも個体差が出るんだ不思議ではないはずだ。
人の言葉を話せるのは妖精だからと納得しこう、まあクー・シーではないが同じ地域の妖精、フェアリー達は人と喋ったりする事があるんだから不思議では無いはずだ。
さて目の前のクー・シー(仮)からは魔でも無く、神格的な物も感じない、自然的な力の塊であるから妖精と予想したが質問に何て答えるだろう。
「わ、分かるでアリマスか、小官の事が分かるでアリマスか」
質問にキチンと答えて欲しんだが向こうも混乱しているみたいだから仕方がないのか。
喋り方も何というか独特な喋り方をしているな、日本語の直せば軍関係の様な喋り方になるか。
姿を改めて見ると後ろ足二本で立っているがこれはコボルトじゃないな。コボルト(小型)より一回り小さいか。
犬の品種で言えばダックスフンドだな。全体的に黒毛で、四肢、両耳、尻尾の先、眉毛に位置する所と口周りから腹までは茶色の毛で覆われている。オークが居た部屋じゃチラッとしか見てないから分からなかった。
犬の品種なんてモータルセンヌでは特別詳しい人じゃないと分からないだろうから大半の人は変わったコボルトという認識しかしないだろう。
追いかけていた探索者や転移装置防衛の兵士も変わったコボルトだと判断しても仕方がない。
まあ、そう言っても俺も予想しているだけなんで確信が持ちたいので再度、クー・シー? に質問をする。
「あ~、分かってる、つもりだが確認の為にさっきの質問に答えてくれ。お前、クー・シーで良いんだな」
「はいでアリマス」
予想は当たってたみたいだな。それでも、まだまだ疑問は尽きない質問を続けてい行く。
「そうか。今から聞きたい事があるんで質問して行っても良いか?」
「大丈夫でアリマス」
「まずは、お前に名前は有るのか。何時までも、お前て呼ぶ訳にはいかないからな」
「名前でアリマスか。召喚された時に、ご主人様から与えられていないので無いでアリマス」
なんかスゲー落ち込んだぞ悪い事、聞いたかな、名前については深くは聞かない方が良いな。まあ、今、聞いた事から思うに元々、名前は持っていないんだな。
それにしても、こいつは自分から来たわけでもなく、何処かから迷い込んだわけでもなく召喚されたと言っているから、こっちに呼び出されたわけだ。
ならシビアの近くか迷宮内に妖精等を召喚できる何かが有るはずだ。
モータルセンヌの魔法では魔物や精霊、妖精等の召喚は出来ない。まあ、これは前世の知識だが今世でも出来るとは思わない。
モータルセンヌの魔法は適応属性のものを生み出したり操るというものだ。聖と闇の属性は色々と出来る特殊な属性だが、その二つと召喚を結び付ける魔法使いは、なかなか居ないだろう。
なら俺を含めた地球の魔術師を召喚した異世界召喚はどうなんだというと、あれは旧文明の遺産なので今の文明が生み出した訳ではない。
それに前世で禁術指定されており、召喚に関する研究は禁止されている。今世で解禁されている可能性は有るが確率的には低いと思っている。
魔術の方は今世では衰退しているので可能性はゼロだろう。
一番、可能性があるのは地球の魔術師が残した魔導具だと思っているがどうなんだろう。
「そ、そうか。じゃあ、次の質問だがどこで、どうやって召喚されたんだ」
「召喚されたのはご主人様のお屋敷でアリマス、ご主人様の手に本を持っていたので呼ばれたと思うでアルマス、大事に持っていたでアリマス」
その本が召喚をする為の魔導書か魔術書みたいだな。今世の魔術事情を考えれば多分、魔術書だろう。
持ち運びが出来るような本で召喚したのとコボルトに間違えられるクー・シーを連れている。
今、知っている情報から予想すると呼び出したのは――――
「その、ご主人様はダドーコアって名乗ってなかったか」
「はいでアリマス。周りの人はご主人様をタドーコア男爵と呼んでたでアリマス」
やっぱり、そうか。迷宮探索の指導してくれたバラックも言っていたなタドーコア男爵家は魔物を魔物を呼び出して従魔にする魔導具を持っているかも知れないって。
前タドーコア男爵が連れていたコボルトは目の前のクー・シーの事か。何も知らない人が見れば変わったコボルトにしか見えないか。
バラックは魔物を呼び出す物だと予想していたみたいだけど実際はクー・シーも呼び出しているから魔物以外も呼び出せる物みたいだな
うん? 今、周りがタドーコア男爵て呼んでいたって言ってるが――――
「なあ、呼び出したタドーコア男爵はお前に名前を名乗らなかったのか?」
「はいでアリマス、ご主人様は小官の事がお気に召さなかったようで小官が召喚されると何でコボルトなんだと、お怒りになられたでアリマス」
自分で呼び出しておいて気に入らないって、どういう事だよ。
そういえばタドーコア男爵家の歴代当主も自分の従魔に不満を持っていたって言っていたな。
もしかして自分で召喚する対象を選べないのか? だとすると何を基準で対象を選んでるんだ。
「どうして、お前は召喚に応じたんだ。召喚したタドーコア男爵は、お前を召喚しようとしたんじゃないだろ」
「召喚する時に召喚者の心の内を感じる事ができるでアリマス。ご主人様は野心的ですが上位者の為に頑張ろうとしていたでアリマス、だから、お力になりたいと思って召喚に応じたでアリマス」
心感応の術式を使っているのか。召喚する側が選ぶんじゃなくて召喚される側が心情を感じ取って選ぶ。
目の前のクー・シーは前タドーコア男爵の向上心などを気に入り召喚に応じ、歴代当主が召喚したゲテモノ達も心情が気に入ったから召喚に応じたか。
ゲテモノ達に気に入られる心情って、どんな心情だったんだ。類は友を呼ぶと言うから、あんまり綺麗なものじゃなかったと思うが確かめようがないか。
「なるほど。それでタドーコア男爵は名乗ってないみたいだが従魔契約はしたのか?」
必ず必要とする訳ではないが主従関係を結ぶ契約は主側が自分の名を名乗る事が多いが話を聞く限りはタドーコア男爵はクー・シーに名前を告げていないので契約を交わしていない可能性がある。
「契約はしてないでアリマス。それでもご主人の力になりたいと思ってついて行く事にしたでアリマス」
忠義者? なのか。いや、この場合は、お人好し過ぎると言った方がいいか。
契約しなければ魔力の提供も受けられなかったはずだ身体を維持するのに力を使って、本来の力を発揮出来なかっただろう。
クー・シーは妖精と妖精丘の番犬だ戦闘力もそれなりにあり、役に立つはずだ。従魔契約をしていれば死ぬ事も無かっただろうに。
「そうか、契約もしてないのに良くやるな、お前」
「はいでアリマス」
クー・シーが嬉しそうに尻尾を振りながら、頭をかいて照れている。
別に褒めてないんだけどな。何でそこで照れる忠誠心を褒められたと思ってんのか。
純粋と言う単純と言うか、深く考えてないなー、こいつ。まあいい、次の質問だ。
「次の質問だが、お前は何でリディアの迷宮に未だに居るんだ。その、なんだ、お前のご主人様であるタドーコア男爵は亡くなっただろ。もう現世に居る理由が無いはずだ、どうしてだ」
「ご主人様が埋葬されたか確認したいからでアリマス。ご主人様を守り切れずに、ご主人様が死んでしまってからは遺体が自然に消えるまで、お守りしようと部屋に生み出される魔物に食べられないように守っていたでアリマス。
それから探索者が来て小官を追い払ってからご主人様の遺体を持って行くので、その探索者を追いかけて途中で臭いが消えたので地上に戻ったと判断したでアリマス。
そこでご主人様の遺体は持って帰って埋葬されるんだと考えたでアリマス。だから小官も地上に戻って、ご主人様が埋葬されたか確認しようと思っていたでアリマスが、地上に戻ろうと迷宮を進んでいると探索者に見つかってから追いかけられてるうちに道に迷ったでアリマス」
目の前に居る獲物を見逃す探索者は居ないからな、それに魔物が枯れ始めていた頃だと思うから余計にだろう。
道に迷うのも仕方がない。探索者に命がけで追い掛け回されて地図も持ってないんだ。
さて、このクー・シーに関するは大体聞いたかな。他にも訪ねたい事も有るけど眠くなってきたな。
とりあえず通路を塞いだ土壁を解除してから、ひと眠りしたいが最後に、これだけ聞いてから終わりにするか。
「埋葬されたか確認したいなら俺が連れて行っても良いぞ」
「本当でアリマスか」
「でも、その前に、お前にお願いと言うか提案かな」
「提案でアリマスか?」
「ああ。お前、俺と従魔契約をするつもりはないか。別に、これを断っても地上にはキチンと連れて帰るから、そこは心配しなくても良いぞ」
何て答えるかな、俺としてはクー・シーと従魔契約を出来るのは、かなり好都合だ。
話相手の居ない迷宮探索に気が滅入り始めていたし、魔術を気兼ねなく使える仲間が居るのは助かる。それに本来のクー・シーの能力に加え、俺がバックアップすれば戦力以外にも色々と助かるはずだ。
周りからもソロでの活動についての言い訳にもできる。
「どうして小官と契約をしたいでアリマスか。貴方は何を目指して生きるでアリマスか」
クー・シーの雰囲気が変わる。感情が無くなったような目で俺を己にとっての善か悪か見極めようと視ている。犬っぽいと思っていたが、やっぱり違うんだな。
さて、質問の回答が気に入らなければ契約は出来ないだろうが、だからと言って嘘もつけない。
目の前に居るから無理やり契約する事も出来るが、長い付き合いになるんだ今後を考えると無理やりは辞めておくか。俺も嫌だし。
「どうしてかというのは色々と役に立つからだよ、野営の時の見張りに獲物を追跡できるだろ」
「はいできるでアリマス。理由は分かったでアリマスが貴方は何を目指して生きるでアリマスか。唯、生きるというなら面白くないでアリマス」
判断理由の一つが面白いか面白くないかか、ある意味、妖精らしい理由なのかな。
面白いという理由で悪戯を多くして伝承に残るぐらいだ。まあ、笑い話で済むような事だけじゃないけどな。
「俺は魔術師だ魔術師が目指すところは決まってる。俺は俺の研究を完成させて神になる」
「正気でアリマスか? 貴方は確かに、ご主人様たちとは違うのは分かるでアリマス、けど人間の身で神になろうというのは無理でアリマス」
クー・シーは予想を超える答えだったのか、目を見開いて驚いた後、否定してくる。
「確かに無理かも知れないな、けど、それはやらない理由にはならない。俺は目指さない、つもりはないが目標に目指す過程で研究する神秘が面白いからやるんだよ。多分お前がこっちに来た理由と同じだ面白いからやるんだよ」
俺にとって神になるのは結果だ目的じゃない。研究が完成すれば神になれるから目指すだけだ目的ではない。
「・・・・・・貴方は辿り着くまで走り続けるでアルマスか」
「休憩は挟むけど止まるつもりはないぞ」
「面白そうでアリマス! 小官は貴方についていくでアリマス」
よし、クー・シーゲット!
これで迷宮での活動も寂しくないし、魔術を使わなくても簡単に魔物の位置を確かめたりできて楽が出来る。
「では、契約と一緒に名づけをお願いするでアリマス」
―――何、名づけ?
「名づけって、俺がするのか」
「はいでアリマス。小官、名が得られるというのも小官に応じた理由でアリマス」
どんな魔導具だが知らないがあんまり性能は良くなかったのか?
多分だけど名づけをする事によって契約の結びつけを強固にするのが目的じゃないか。
いやいや、今のは現実逃避だ。魔導具の性能に関係なくクー・シーが名づけを望んでいるんだ応えないといけない。
キラキラとした期待の籠った目を向けて来る。ど、どんな名前が良いだろう。
簡単に思いつく犬の名前はポチ・・・・は駄目だ安易すぎる他に、他に何かないか。
召喚に応じた理由はともかく忠誠心は高そうだだから・・・・・
「ハチ!・・・・すまん、今のは「ハチ! 小官の名前はハチでアリマスね」えっ」
あれ? 何かスゲー気に入ってる?
思いついて思わず声に出してしまったけど、無いと思い変えようしたが本人は気に入ってるな。
「名前は・・・ハチで良いのか?」
「えっ、違うでアリマスか」
目に見えて落ち込みはじめたぞ。ハチがそんなに気に入ったのか。
う~ん、本人が気に入ってるんだから、これで良いか?
愛玩用じゃないんだから、あんまり可愛らしい名前もどうかと思うし、外見はどっちかと言うと勇ましいと言うより可愛らしい姿だから勇まし過ぎるのも何か合わない。
他に案もないしこれで良いか。
「よし、お前の名前はハチだ」
「はいでアリマス!」
尻尾振ってかなり嬉しそうだな。そんなに気に入ったのか、う~ん妖精のセンスは分からん。
「それじゃあ、今から契約を結ぶぞ良いか」
「はいでアリマス」
人ではないが旅仲間が出来たのは嬉しい事だ、今はまだ大きく動けないが冒険者ランクなどを上げて動けるようにならないとな。
裏切る事は無いだろうがハチが退屈だと文句を言われないように動くとしよう。
行方不明の名前センスが消滅してしまいました。名前を考えるのって難しいですね。