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アルナーレ男爵家

二話連続投稿しています

こちらは二話目になります


投稿が遅くなりましたすみません

 子犬の寝床亭でアスリラから今日中にアルナーレ男爵に会って欲しいと言われて、アスリラと一緒にアルナーレ男爵家の屋敷を目指し歩いている。

 雑談をしながらも歩いて行くと段々と人気が少なくなり、周りは地球で言うなら西洋風の屋敷が目立ち始める。

 このあたりの地区が貴族が屋敷を構える貴族街なんだろう、道は広く他よりも整えられている。

 道を歩いているのもメイドなどの使用人で貴族らしい姿は見えないが馬車と何度かすれ違ったので馬車で移動しているんだろう。


 境界は無いが貴族街に入ってからはアスリラとの雑談を止めて黙々を歩いて行き、一つの屋敷の前でアスリラが止まる。


「コウセル、ここがリーゼが住んでるアルナーレ家のお屋敷よ」


 大きさは周りの屋敷と変わらないが他よりも歴史を重ねた屋敷だ、ただ単に古い建物ではない趣を感じる屋敷だ。


 アスリラの後に続き扉の前まで移動してからアスリラがドワノッカーを使い、来訪を知らせると、すぐに屋敷の中から中年のメイドが出て来た。


「あら、アスリラどうしたの、ずいぶん早く・・戻って・来て・・・・アスリラ、あなたの後ろに居る方は?」


「ケイッコー鳥の青羽の採取をお願いした冒険者のコウセルよ」


 俺が居る事に中年のメイドは酷く驚いているがアスリラが俺を紹介しているので、とりあえず自己紹介はしておくか。


「初めまして、私はコウセルと申します」


「ようこそ、お出で下さいましたコウセル様、すぐに旦那様とクートゥリーゼ様を呼んできますので中でお待ちください。

 アスリラ、コウセル様をお願いしますよ」


 アスリラが返事をする前に中年メイドは嬉しそうに屋敷の中に戻り、アルナーレ男爵とリーゼを呼びに行ってしまった。

 屋敷の中で待ていれば良いんだろうが槍を持っている俺が使用人が近くに居ないのに屋敷に入っていいのだろうか。

 

「それじゃあ、屋敷の中で待ってようか」


「アスリラさん、俺、槍を持ってるんだけど屋敷の中に大丈夫なの、何か文句言われない」


「大丈夫だよ、私が見てるし、預ける時に渋らずに預ければ文句は言われないよ」


 さっきの中年のメイドの態度から見るにアスリラはアルナーレ家の使用人に信用されているみたいだな。


 アスリラの後に続いて屋敷の中に入り、玄関ホールでアスリラと一緒にアルナーレ男爵とリーゼが来るのを待つ。


 それから少しして二階の通路の奥からドレス姿のリーゼが小走りで出て来る。ドレスは薄緑色で纏め上げていた髪を下しているので大分、印象が違う。

 そしてスタイルは見る限りでは大きすぎず小さすぎずでバランスが良いと言う感じだ。


 その後からラーネルと中年のメイドを従えた中年の男性が出て来る。ラーネルは変わらずローブ姿だ。


 ラーネルと中年メイドを従える中年の男性がおそらくアルナーレ男爵だろう。

 立派な口髭に貴族服を着こなしている人だと思うが運動不足のせいか小太りなのが少し残念な感じがする人だ。


 アルナーレ男爵の姿を見ていると、いつの間にリーゼが二階から一階に降りて来て、小走りの勢いをそのままで抱き着いて来る。


「コウセル殿、ありがとう本当にありがとう」


 抱き着かれたまま、お礼を言って来るんだが場所を考えてくれ。美人に抱き着からるのは嬉しいんだがラーネルとアルナーレ男爵の視線が痛い。

 アスリラと中年メイドさんは面白そうに笑うか微笑んでいるだけだ。助けてくれ。


「クートゥリーゼ様、とりあえず離れてくれますか、周りの視線が厳しいです」


「リーゼ、彼の言う通りだ。何時までも抱き着いてないで離れなさい、はしたない」


「すまない、コウセル殿、うれしくて、つい」


「気にしませんよ」


 助かったんだけど残念と思ってしまうのは仕方がないんだと思うだ。


「初めましてだな、私はアルナーレ男爵家、当主のジロモルト・フォン・アルナーレだ」


「初めまして、冒険者兼探索者をやっておりますコウセルと申します。本日はお招きいただきありがとうございます」


「ああ。早速だがケイッコー鳥の青羽の報酬について話し合おう」

 ―――よし。


「お父様、私も話し合いには、ご一緒させていただきます」


 約束通りにリーゼは交渉する時に力になってくれるみたいだな助かる。

 まあ、リーゼの力を借りずにスムーズに話が進むのが一番良いんだけどな。


 アルナーレ男爵が歩き案内を始めると中年メイドから槍を預かると言われたので槍を預けてからアルナーレ男爵の後をリーゼとラーネルと一緒に付いて行く。

 アスリラは一緒には来ないみたいだな。


 アルナーレ男爵が二階にある一つの部屋の多分、応接室だと思うがそこでラーネル以外は座り、ラーネルはお茶を用意してからアルナーレ男爵とリーゼの後ろに控えている。


「さて、コウセル殿は娘のクートゥリーゼから依頼を受けてケイッコー鳥の青羽を採取しに森に狩りに行ったと聞いている。間違いないか」


「依頼では無く、お願いと言う事になります。短い期間、森に狩りに行くだけで必ずと言う約束はしていませんでした」


「そうか、だがケイッコー鳥の青羽を手に入れたんだろう」


「はい、今からお出ししても宜しいですか、まだケイッコー鳥から青羽を抜いていないんでケイッコー鳥をそのまま出す事になりますが」


「ああ、構わん」


 許可を得てから魔法の鞄マジックバックからケイッコー鳥を取り出す。

 血抜きをして血なんかを垂れないようにしているが布をテーブルに敷いてから青羽を生やしたケイッコー鳥を置く。


「ふむ、確かに本物みたいだな」


「お父様これで」


「ああ、約束通り婚約の話は無かったことにしよう。約束を破って悪かったなリーゼ」


「そんなお父様、頭を上げて下さい。仕方がない事と言うのは分かっておりますから」


 おお、自分の娘とは言え、貴族の一当主が頭を下げて謝るなんて珍しいな。リーゼも頭を下げられるとは思っていなかったのか慌てている。

 しかし、捻くれているせいか打算的な物なんかじゃないかと俺は思ってしまう。


「ありがとうリーゼ。―――それでコウセル殿、報酬の話になるんだが何かがあった時に力を貸して欲しいと言う事で良かったのかな」


「はい、具体的には下層部の探索をしようと考えていますので、その時に探索してからの利益の横取りや、私個人を私兵しようと他の貴族の方が権力を使い、理不尽な事をした場合止めて頂きたいんです」


「アルナーレ家に庇護して欲しいと言う事かな」


「はい、もちろん何か探索者、冒険者に入用が有りましたら、お話しください優先して依頼をやらせていただきます」


 お抱えの冒険者、探索者なんて言うのは本来こういう、優先的に依頼を受けるだけだ、なんだが周りの話を聞く限りは殆ど私兵かになっているからな。

 お抱えになれば大抵は言う事は聞くが拒否する事が出来る、しかし今の有り方だと私兵と変わらない。自由に動く事が出来なくなると考えると、それは避けたい。


「娘の恩人でもあるが、その条件は飲めない」


「お父様!」


「リーゼ黙っていなさい。その代りだが冒険者ギルドに出してある依頼を受けた事にしよう報酬もギルドポイントも手に入るようにしよう悪くはないだろ。

 それでも庇護が欲しいと言うなら対価を貰う事になるが、どうかね」


 変なリスクは負いたくないし、あくまで主そっちで、お前は従だと言いたいのかね。しかも断る理由はなんだ言ってないぞ。

 対価については、どれくらいの物か分からないが色々と言って来るだろう、一度形にならば抜けるのも難しくなる。

 向こうはどうしても俺が貴族の庇護が必要だと思っているんだろうな、間違ってはいないんだけど。


「お父様、どうか考え直してくれませんかコウセル殿は迷宮探索を一時的に止めてまで私の依頼を受けてくれたんです」


「リーゼ、そうは言うがな彼を何からか守る時に家を動かせばそれだけ疲弊する事になる、アルナーレ家を危なくする事は出来ない。

 それにアルナーレ家が危なくなれば、もう一度お前を無理な婚約をさせなければいけなくなるかも知れん」


「ですが、お父様」


「はぁー、恩人に報いたいお前の気持ちも分からない訳ではないが無理な物は無理だ、それに守るのはお前ではなく当主である私だ控えなさい」


 声を詰まらしてリーゼが黙り込んで仕舞う。

 リーゼも頑張って約束を守ろうとしていたが説得するのは無理だったか。


 家が危なくなると言っていたが一人の探索者を守るのに、どんだけ力を使うつもりなんだ。俺には方便にしか聞こえないんだけどな。

 内情を知っている訳ではないから何も言う事は出来ないんだけど。

 仕方がないか、あんまり、こういうのやりたく無いんだけど交渉事だからな。


「分かりました、大変失礼なんですが庇護していただく話は無かった事にしていただいてもよろしいですか」


「―――そうだな、そちらが嫌だと言うなら仕方がない、その話は終わりだ」


「すまない、コウセル殿、約束を守れなくて」


 アルナーレ男爵は自分の思い通りにならなかったのか面白くないのか顔を顰め、リーゼはすまなさそうな顔をしている。

 リーゼに対して罪悪感を覚えるな。でも、こっちも今後が掛かってるんだ容赦は出来ない。


「ありがとうございます、では失礼します」


 別れの挨拶をしてからテーブルの上に置いてある青羽を生やしたケイッコー鳥を掴んで立ち上がる。


「待て、何故ケイッコー鳥を持って行こうとする」


 アルナーレ男爵が少し怒り気味に立ち上がった俺に待ったを掛けて来る。

 せっかく手に入れたケイッコー鳥の青羽を持って行こうとしたんだ怒るのは分かるが、まだこれはアルナーレ男爵の物じゃない。


「何故と言われましたも交渉は決裂したじゃないですか、アルナーレ男爵様も話を無かったことにしても良いと仰いました」


「それはアルナーレ家のお抱えになるかどうかの話だろう」


「何を仰っているんですか、私は一度もケイッコー鳥の青羽の報酬について納得はしていませんよ」


 俺は、まだ一度もケイッコー鳥の青羽の報酬については了承はしていない。

 二人が勝手に口論していただけだ。


「だが、お前は我が家に売りに来たのではないのか、リーゼの依頼も有るだろう」


「そうですが依頼と言うより口約束です書面を通した訳ではありません」


「コウセル殿では青羽は渡しては下さらないのか」


「はい」


 リーゼに返事をすると、すごい悲しそうな顔をされたな罪悪感が半端ない。けど、こっちにはこっちの事情がある簡単に渡す訳にはいかない。


「私達を騙したんですか」


 ラーネルは怒り心頭で今にでも魔法を放って来そうだ。顔が怖いな。


「騙すって変な事、言わないで下さいよ。クートゥリーゼ様が必ず約束させると言ったから先に取りに行く事にしただけです。

 対価が払えないなら商品が売れないのは当たり前でしょう」


「だから依頼の報酬を渡すと言っているではないか」


「アルナーレ男爵様、提示された報酬ですがそれでは私は満足できないのです。ですからケイッコー鳥の青羽をお渡しする事は出来ません」


「物を売りに押しかけておいて、納得できないからと何も売らずに帰れると思っているのか」


 俺を脅す様にアルナーレ男爵が言って来る。

 確かに押し売りをしておいて、買おうとする側が何も買わないと言うなら問題は無いが、売る側が押しかけておいて何も売らないと言うの貴族と平民の間なら十分問題に出来る事だが、今回は違う。


「おかしな事を仰いますね。私はお招きいただきありがとうございますと言った時、返事をしてお認めになられたではありませんか。

 私は明日なら時間を割いていただいても、お会いしたいと考えておりましたが今回はアルナーレ男爵様が私をお招きしたんだはないですか」


 揚げ足を取っているだけだが、こういうのは貴族には地味に効き目がある。

 交渉事を有利に進める話術は持っている訳ではないが、前世でこれよりひどい魑魅魍魎を相手にしてたんだ油断している相手なら何とかなる。


「では、そのケイッコー鳥の青羽をどうするんだね。君が着飾るのに使うのかね」


「そうですね、ケイッコー鳥の青羽を使った装飾品が貴族の方の間で流行っていると聞きましたから、こちらより良い条件を出してくれる貴族の方を探します」


 アルナーレ男爵とラーネルはすごい形相で睨んでくるし、リーゼは絶望している。

 商人なら多少値段が高くても何とかなるが貴族に売ると駆け引きが有るので、よほど金を積まないと買い取る事は出来ないだろう。


 アルナーレ男爵家としては、それほどダメージは受けないがアルナーレ男爵は平民に良いようにしてやられたのが気に入らないのかな。

 リーゼは何処かの貴族と婚約する事が確定するので騎士と言う夢が潰れるので一番ダメージを受けているだろうな。


 アルナーレ男爵が俺を睨んで居たが腕を組んで目をつぶり黙り込む。怒りを飲み込んでいるのだろうか。

 キチンと飲み込んで欲しい、実際に他の貴族に売ろうとは考えていない。

 アルナーレ家はリーゼと言う味方が居るから交渉しようと考えたんだ、他の貴族だと味方が居ないしアルナーレ家のようにケイッコー鳥の青羽を求めてはいないだろうから交渉自体が出来ない。


 時間にした二、三秒ほどか結論が出たのか出していたお茶を一気に飲み、ティーカップをソーサーに叩きつける様に置き、顔を俺に向けてくる。

 怒り心頭だったせいか作法を完全に忘れている。


「分かった、君の望み通りにしよう」


「ありがとうございます。出来れば公印が入った書簡をお願いしても良いですか」


「良いだろう。全く今日は厄日だ」


 怒りながらアルナーレ男爵は応接室を出て行く。


 厄日とは酷い、金を使わずにケイッコー鳥の青羽を手に入れて、娘を無理に婚約させずに済んだのに。

 プライドは傷ついたかも知れないが、それ以外はダメージは受けていない筈だ。


「一時はどうなるかと思ったが、ありがとうコウセル殿、これで夢が断たれずに済んだ」


「お礼は要りませんよ、俺はアルナーレ男爵と取引をしただけですから」


「そうよ、リーゼ。彼は貴方を見捨てようとしたんだから」


 ラーネルには敵として認識されたかな。

 まあ、見捨てたと言えば見捨てたんだろう。けど知り合って、あんまり時間が経ってない俺に頼られても困るぞ。


「ネル、それは仕方がないよ。コウセル殿は仕事として私の依頼を聞いてくれたんだ報酬が用意出来ないなら物を渡せないのは当然だ」


「・・・・・」


 顔を顰めてえ黙り込むか。理屈は分かるが納得は出来ないと言う所か。

 でも、この場合はリーゼが寛容に許している方が珍しいか、理屈はともかく心情的には相手を嫌うだろう。


 とりあえずアルナーレ家の庇護を受けられるようになった。これで漸く下層部を探索する事が出来る。


 はぁ、迷宮の事で魔物や潜る事でなく人間相手の交渉の方を悩んでいるのは間違ってるよな。


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