七年経過、只今勉強、修行中 2
リムス神父は、俺の異常な魔力操作と魔力放出能力は体質のせいだと、勝手に納得してくれた。
魔術師ではなく教会の神父だから仕方が無い、それに俺には好都合だ。
「魔術を学ぶ為の条件は揃いましたね、しかし、今日は魔術を教えられません」
何?どういうことだ、こっちは問題ないが、リムス神父は何か用事でも有るのかな。
「どうしてですか?僕は大丈夫ですよ」
ちょっと、子供らしくせがんでみる。こうゆう時は外見を最大限利用しなくては。
「はっはっはっ、そう急かさないで下さい。魔術だけを使うなら魔導書無しでもいいんですが、魔術を教えるには魔導書が無いと出来ないんです」
魔導書?何の魔術を教えてくれるか知らないが、普通、魔導書を使って教える魔術だと、上級魔術の類になる筈だが。
「リムス神父、何の魔術を教えてくれるんですか?」
「私が扱える魔術は、結界、魂撃、回復の下級魔術ですね」
「下級魔術ですか」
驚いた俺は思わず、聞き返してしまった。異世界モータルセンヌで分類されている魔術、よっぽど特殊ではない限り、それら全て中級魔術までなら魔導書が無くても俺は教えていけるからだ。
しかし、リムス神父は失望させてしまったと感じたらしく、羞恥心と劣等感がする苦笑を浮かべていた。
「すみませんね、きっと君はすぐに覚えてしまい、満足できず不満に成るでしょうが、私が教えられるのは、三つの下級魔術だけなんです」
「ち、違います、リムス神父様、僕はそんなつもりで言ったんじゃないです」
そうだ、決してリムス神父を貶したいわけではない、魔導書を作成出来るほどの力があるなら、中級までの魔術を記載できるはすだ。
リムス神父は中級までの魔術を覚えられる魔力を持っている。中級を覚えられないのは下級だけしか記載されていないからだ、そんな魔導書なんて末端兵に渡すもので、辺境の教会の神父とはいえ、渡すものじゃないぞ。
「いいんですよ、コウセル君、私も自分の才能の無さに失望しているんですから」
ああ、そんな悲しそうな顔をしないで下さい、きっと魔導書の中身が悪い。
「今日はこれで終わりにしましょう、何か質問はありますか?」
「すいませんリムス神父様、質問じゃあないんですが、魔力操作による身体強化を教えてくれませんか、お父さんにも教わって来いと言われたので」
「,,,,,,いいですよ、それなら魔導書が無くても教えられますから、コウセル君なら一回教えれば、すぐに出来るでしょう」
「はい」
返事が僅かに遅かった、俺が教わるのは迷惑なんだろうか、嫌な思いをさせたい訳じゃないのに。
「いいですか、強化させたい身体の部分に魔力を移動させて、その魔力を肉体に注ぎ込むんです、わかりますか?」
「はい」
「では、右腕だけ強化して見ましょう」
ここで変に出来ないふりをしても、同情していると思われかねない、身体強化を成功させる。俺も幼い子供に同情されたら、自分が惨めでならない。
本気の身体強化ではないが、右腕だけを強化する。
「やはり凄いですね、キチンと右腕のみ身体強化されていますね、では、今日はこれで終りです、明日は教える準備をするので明後日来て下さい」
「はい、分かりました。リムス神父様、ありがとうございました」
あと味の悪い終り方だ、リムス神父にはちゃんとした魔術を教えてあげたいが、何も知らない子供である俺が教える訳にはいかない。
俺は教会を後にして、家に帰った。
「ただいま」
家には誰も居らず、余計に気が滅入る。こんなときは不貞寝だ!不貞寝!
俺は自分のベッドにダイブして眠りに落ちた。
うん?、誰かが寝室に入って忍び足で近づいてくる。この気配は姉シェッタだな。
お腹が空いているので、晩御飯の時間か、かなり長い時間眠っていたようだ。
シェッタは寝ている俺を驚かせようと忍び足で近づいてくるが、俺はとっくに起きている。
このまま、起きても面白くない。逆にシェッタを驚かしてやろう。
シェッタが俺のベットまで来た、布団を引き剥がす為に握ったせいか冷たい空気が布団の中に入ってくる。そのまま、シェッタが声を上げながら布団を引き剥がすが。
「おきろ「わわぁ!」きゃ!」
大成功だシェッタが尻餅をつきながら睨んで来る、こちらは勝者の笑みを浮かべる。
「コウ、目が覚めてるなら、普通に起きなさい」
シェッタは愛称で俺のことをコウと呼ぶ、前世と同じ愛称でちょっと嬉しい。
「お姉ちゃんだって、普通に起こそうとしてくれてもいいんじゃない」
「驚かせようとしてして逆に驚かせれたからて怒らないでよ」
恨めしそうに睨むが、まったく怖くない、それどころか可愛らしい表情だ。
弟の自分が言うのも何だが姉シェッタは美少女に育っている、村の男連中もシェッタを見ては鼻の下を伸ばしている。
幼い子供、男の子も女の子も憧れの的だ。シェッタ目当てで俺と遊ぼうと声を掛けてくる子供も居るくらいだ。
年を重ねれば、更に美人に成っていくだろう、そうすれば悪い虫が付くかも知れない、ザーインが居るから、なかなか付かないだろうが、隠れて会おうとする奴が居るかもしれない。
ザーインが怖くて、正面から会いに来れない奴が、シェッタに取り付こうとする。そんな卑怯な奴は事故に遭って貰おう、突然、雷に撃たれて寝込んでもらおう。
,,,,,,,,あれ、これてシスコンか?シスターコンプレックスなのか?
まあ、いいか、家族の幸せを願うのは悪くないはずだ。
「どうしたの、コウ考え込んで、晩御飯だから早く来なさい」
シェッタに呼ばれて思考の海から戻ってくる、お腹が空いたし、ご飯を食べよう。
シェッタに続いて寝室を出る。
寝室を出て台所に向かう、良い匂いが漂ってくる。今日の晩御飯は何だろう、楽しみだ。
台所のテーブルには父ザーインと母マリスが座っており、晩御飯の準備が終わっていて、パンと大きな鍋が鎮座している。
「おはよう、コウセル。あんまり昼間から寝ていると夜眠れなくなるわよ」
マリスから注意を受けたが、単純に眠るだけなら一日中眠れる、魔術を使えば飲まず食わずでも魔力が続く限り、眠り続けられる。やりはしないが。
「お母さん、コウに注意するのもいいけど、早く、ごはん食べよう。コウも早く自分の椅子に座って」
「はいはい、食欲旺盛なとこだけ私に似ちゃて。コウセル、夜眠れなくなってもベットで大人しくするのよ」
「うん、分かった」
素早く返事をして、さっさと椅子に座る。母よ、あきれた顔を向けないでくれ、俺もお腹が空いたのだ。
俺が椅子に座ると、マリスが鍋の蓋を開ける、中身は野菜スープだが、肉が入っている、たぶんイノシシの肉だ、今日は豪華だ。
「お父さん、今日は狩りに行ったの?」
シェッタがスープに肉が入っているのを不思議に思い、ザーインに尋ねている。俺との勉強の後に狩りに出掛けたのか?
俺に文字を教える時間を作る為に、いつもの倍の量、仕事をしているのに迷惑掛けたかな。
「ちがう、畑を荒らそうとしていた、イノシシが居たから駆除したんだ、スープに入っている肉は、その時のイノシシだ」
そうか、良かった。あんまりザーインには負担を掛けたくないからな。
身体強化を習ったという事実があるから、身体強化を堂々と使い、畑仕事や力仕事を手伝って行ける、親孝行しないと。
マリスがスープを配り終わると、ザーインがみんな、食事できるのを確認してから、手を合わせて食事の挨拶をはじめた。
「いただきます」
「「「いただきます」」」
前世ではモータルセンヌには食事前後の挨拶は殆ど無かった。信仰深い人は自分の信仰している神様に感謝の祈りを捧げていたが、普通はしない。
食事前に手を合わせて食事の挨拶をしていると、みんなによく不思議がられていた。アルクスに何をしてるんだと尋ねられ、食事前後のあいさつを説明すると、アルクスは「それ、いいな」と一人納得して、頂きますとご馳走様を言う様になった。
王様がやっているんだから、臣下の我々もしないといけないと貴族も食事前後の挨拶をする様になり、戦場で貴族の人間や将軍待遇の俺が食事前後の挨拶をしているのを一般兵が見て、上級階級の人がしているんだから、きっと良い事だと真似をして、プランマ王国では広く普及していた。
今、住んでいる国はプランマ王国なのかな?まあ、急いで確認する必要も無いか。食事の挨拶で前世の事を少し思い出して、思考に耽るが、考えるのをやめ、食事に集中する、食欲旺盛は家族共通みたいだ。
「コウセル、リムス神父様にきちんと教わってきたか」
俺が食事に集中していると、ザーインが今日の成果を尋ねてきた。それを聞いた、シェッタとマリスはいじの悪い笑みを向けてくる。
俺がザーインに文字を教えて欲しいとお願いするのを二人は止めていた。
ザーインの教え方はかなり厳しく、昔、マリスとシェッタはザーインから文字を教わっていたのだが、厳しすぎる為、ザーインから教わるのをやめて、頼めば、優しく文字を教えてくれるリムス神父の下に二人は通っていた。
二人は俺もザーインの授業から逃げ出し、リムス神父の所に通い始めたと思ったんだろう。
俺が、止める二人の意見を聞かずにザーインに頼み、逃げ出したと思い、それをネタにからかってくる。
「コウ、せっかくお父さんが勉強教えてくれるのに、逃げちゃ駄目じゃない」
「そうよ、コウセル。ザーインに教わりなさい、あなたが自分でお願いしたんだから」
人の不幸は甘いのか、母よ姉よ、だがしかし、それは苦い良薬だ。
「僕ちゃんとお父さんから教わって合格貰ったよ、リムス神父様の所には魔術を習いに行ったんだよ」
「「えっ?」」
俺の返答が予想と違ったので呆然としている、そこからザーインが爆弾を投げ込む。
「そうだな、逃げずに勉強しなくてはいかんな、マリス、シェッタ、時間が出来れば勉強を見てやる」
「ザッ、ザーイン」
「えっえ~と、お父さん」
「逃げずに、ちゃんと勉強しないといけないんだろ」
マリスとシェッタが暗い顔で沈んでいる、どうやら苦い良薬(文字の勉強)はよほどイヤらしい。
ザーインの表情が殆ど変わっていないが、雰囲気がマリスとシェッタをからかい、面白がっているのが分かる。
「それで、コウセル、リムス神父様から、何を教わってきたんだ」
「最初にね、魔力量を測ったんだ、僕の魔力量はBランクぐらい有るんだて、すぐに魔力の感覚も掴んで、魔力操作も出来るようになったんだ、魔力に関する才能が有って褒められたよ。身体強化も出来るように成ったし」
「,,,,,,,そうかBランクの魔力量が有れば、戦士として活躍出来るだろう」
戦士?いやいや、俺が成りたいのは魔術師だぞ、接近戦が出来ない軟弱な魔術師になるつもりは無いが、あくまで魔術が主体だ。
「お父さん、僕は魔術師になりたいんだけど」
「コウが成りたい魔術師て、本の英雄譚に出てくる魔術でドラゴン吹き飛ばすような、魔術師?」
「うん!そんな魔術師」
実際は違う、俺はそのレベルに、もう達しているからそれ以上のレベルの魔術師を目指す。それに家にある英雄譚の本に出て来る、ドラゴンは知性が無い、でかい蜥蜴だ、綺麗に首を切り落として身体全部、研究材料にしてやる。
「コウセル、英雄譚のに出て来るような、魔術師にはなれん、戦士として力を付けた方が良い」
「お父さんなんで、成れないの?」
何でそんなに否定的なんだ?
「何でも、魔術の術式が高くて中級までしかないそうだ、ドラゴンを吹き飛ばすに上級が必要だ」
「えぇ!」
術式が無い?、どういうことだ。無いなら無いで、術式を作ろうと思わないのか。
「コウセル、リムス神父様に、魔術を教わるときに、歴史の勉強も受けて来なさい、そうすれば分かるだろう」
「うん」
俺が亡くなってから、何があった?上級魔法に匹敵する上級魔術の術式は教えた筈だ。
俺が教えた術式が無くなっても、基礎知識から編み出せるはず。上級魔術の記載した魔導書もある。
覚えるのが難しいや、秘匿されているなら分かるが、無いと言うのはどういうことなんだろう。