場違いな風の狼
10/9前話で三日後に再びリーゼ、ラカムと会うという約束をした事を加修しました
冒険者ギルドでラカムに非公式でエアウルフの討伐の依頼を頼まれて受ける事になった。
エアウルフを討伐する事、自体は問題は無いが、ラカムを信用出来るか出来ないかが問題だ。
まあ、魔力量についての情報を握られているんで信じるしかないんだけど。
シビアの外に出て、エアウルフが目撃された森の方へ向かう。
街道を離れて森の方へ歩くが、森に向かって歩いているのは俺だけだ。
時間的なものも有るかも知れないが、森に入ろうとする人は少ないみたいだな。これは思ったよりも目立つかも知れない。
だからと言って止める訳には行かないんだけど。
森に入り、まず熱源察知の魔術を放ち生き物が何処に居るかを探す。
ケイッコー鳥のみを察知できる魔術は無いので、とりあえず動物だけを察知できる魔術を使う。
魔物は魔力量の多寡で判断できるので反応しない様にして、大きさで鳥などの小動物だけを反応するようにしている。
ノキ村に居た頃に狩り用に生き物を探す魔術は作っていたがケイッコー鳥のみを探す魔術は作っていない。
今から作ろうとすると時間が掛かるので反応が有る所を地道に探していくしかない。
放った魔術の結果は、やはりと言うか反応が少ない。まだ森の浅い所に居ると言う事もあるだろうが奥に行かないと生き物とは遭遇しない。
反応が有った所へ行くと、そこに居るのは兎だ。ケイッコー鳥でない事は残念だが昼晩飯のおかずが増えたから良しとしておく。
その後も放った魔術に反応した所を受けた依頼の薬草を採取しながら、確かめて行くが、その日は青羽を生やしたケイッコー鳥を見つける事は出来なかった。
翌日は受けた依頼の薬草は数が確保できたので薬草の採取無しで、森を駆け巡る。
どれ位、森を駆け巡っただろう、ケイッコー鳥を見つける事は出来たが、どれも青羽は生えてはいなかった。
また、一匹見つけたが青羽が生えている個体ではない、精神的に疲れ溜め息が出てくる。
もうすでに、かなりの数を狩っているので今、見つけたケイッコー鳥は魔力を流しマーキングして熱源察知の魔術に反応しない様にして逃がして、次の反応した所に行こうとして気が付く。
三匹ほどのレッドアイウルフが遠くから俺を見ている。アレは斥候役か?
使う魔術を切り替え、周辺に居る魔物を探ると俺を中心に反応が三十二、その中で一際、大きな魔力の反応する個体がいる。
強い反応は、おそらくエアウルフだろう。ケイッコー鳥を探すのに夢中になっていたとはいえ、魔物の群れに囲まれるまで全く気付かなかったのは失態だ。
視界に入っている三匹のレッドアイウルフは、ジッとして動かない俺を、群れのリーダーであろうエアウルフの元に誘導する為か吠えながら走り、近付いて来る。
駆けて来るレッドアイウルフ達に魔術で生み出した風の刃を放つ。まともに風の刃を受け短い悲鳴を上げて崩れ落ちる。
レッドアイウルフ達が動かなくなるのを確認してから、これからどうするのかを考える。
このままジッとしていれば、多分だが配下のレッドアイウルフが居なくなるまで嗾けてくるだろう。
とにかく狩りをして金を稼ぐなら、それでも良いのだが今回の一番の目的はケイッコー鳥の青羽だ、レッドアイウルフとエアウルフを全部、狩っていたら時間が掛かる。
だからと言って無視して移動すれば何時までも群れで追いかけてくるだろう。それにエアウルフを討伐して欲しいとラカムに頼まれている。
時間を掛けたくないがエアウルフは討伐しないと行けない、なら、レッドアイウルフは最小限だけ倒しエアウルフを倒せば良いか。
やる事を決めれば、さっさと動くか。先ずは、すでに倒したレッドアイウルフ三匹の死体を魔術の炎で焼き消す。
魔核と毛皮を取らないのは勿体ないが、時間を優先するので取らない。死体を焼き消すのは、別の魔物が死体を食べない様にする為だ。
すぐに進化はしないだろうが、一匹の魔物が多くの魔核を食べると進化すると言われ、俺も実験はキチンとしていないが、おそらく間違いないだろうと思っている。
死体が燃えている事を確認してからエアウルフの元に移動すると、短い悲鳴を聞いたのか周りから数匹のレッドアイウルフが出て来て、付かず離れづ俺を追いかけて来る。
追いかけて来るレッドアイウルフを無視して、エアウルフの元に行くが周りからレッドアイウルフのものだろう遠吠えが周りから、いくつも上がり聞こえてくる、周りの魔物もエアウルフの群れのレッドアイウルフで間違いはなさそうだ。
移動しながら魔物の位置を魔術で確認すると俺を中心に囲むように魔物が移動していて、エアウルフの周りには何匹か魔物が固まっている。
俺が自分の元に移動していると向こうも気が付いたのか、それとも追い込まれてこっちに向かていると考えているんだろうか。
どちらにしても向こうは俺を待ち構えて迎え撃つつもりみたいだな。良い度胸だ犬ッころ、きっちり討ち取ってやる。
森の中を駆け、漸くエアウルフが視界に入る、エアウルフの周りには九匹のレッドアイウルフが脇を固めて待ち構えている。
魔術で石弾を放つ準備をしてから、スピードを上げてエアウルフ達に突撃すると、エアウルフ達は突っ込んでくるとは思っていなかったのか、驚いて僅かに立ち竦む。
立ち竦んだ僅かな時間だが、そんな状態を見逃さず待機させていた魔術を放つ。
放たれた石弾は九匹のレッドアイウルフを打ち抜き何匹かな即死、息が有る奴もいるが倒れこんで動けなくなっている。
そしてエアウルフは風を操り石弾を見事に防いで見せた。
エアウルフが超越種か変異種かは分からないが自分に備わっている力を扱えるみたいだな。
自分の配下を倒された事が気に入らないのか唸り声を上げて、吠えると同時に空気の塊を飛ばしてくるが槍の一振りで散らす。
エアウルフは自分が打ち出した空気の塊が簡単に散らされた事に腹を立てたのか、再び唸り声を上げた後、今度は複数の空気の塊を打つ出してくる。
もう一度、槍で散らしても良いんだが、槍で何度も散らすのは手間が掛かるので自分の風除けの魔術を施す。
飛んできた空気の塊は何をするまでもなく、勝手に俺を避けて行き後方に消えて行き、俺を後ろから追いかけていたレッドアイウルフに当たりでもしたんだろうか悲鳴が聞こえた。
エアウルフは余程、自分の能力に自信があったのか、自分が放った空気の塊が何故、逸れるのか理解できなかったのか驚き、今度は完全に動きが止まる。
「なんだ、お前、風除けを知らないのか?」
特に理由はないが口から言葉が漏れる。
こいつが本来、生息している大草原のエアウルフなら風除けの加護を施した魔導具を獲物が持っている場合が有る事を知っているだろうが、風除けは処か魔法的な力を自分以外の奴が使った所を見るのも初めてなんだろう。
進化した魔物に有りがちな事だが、本来の生息地域に住んで居た場合は自分の特性を潰される可能性を考えているので、エアウルフなら逃げるか自分の爪と牙ですかさずに攻撃に移る。
だが、こいつは何も知らず、自分の絶対的な力を無効化された事に驚いて固まってしまっている、そんな隙を見逃す訳がなく魔力で強化された槍を突き刺す。
エアウルフは甲高い叫び声を上げて僅かに、もがくが突き刺した槍が身体の中の重要な器官は破壊してる、次第に弱々しくなり、口から血を吐き最後には倒れて動かなくなる。
死んでいるのを確認してから槍を引き抜き、血糊を取り払いながら周りを探ると、倒したエアウルフの配下であっただろうレッドアイウルフがこちらを伺い・・・・
遠吠えを上げて散って行く。まあ、自分達のリーダーが何も出来ずに倒されたんだ襲おうとは思わないだろう。
エアウルフを木に吊るし血抜きをしている間、時間が有るので周りに倒れているレッドアイウルフから魔核を取り出し、皮を剥ぐのは時間がかなり掛かるのでやらず、燃やすことにする。
血抜きを終えたエアウルフと取り出した魔核を魔法の鞄に納めると、ほぼ満杯になったのでケイッコー鳥を入れる事を考えると、これ以上は何かを狩ったり採取する事は出来ないな。
この後、ひたすら森を駆け回りケイッコー鳥探す事になり、三日目の早朝に、やっと見つけて狩る事が出来た。
はぁ、疲れた。リディアの迷宮を踏破する力が有るのに、こうやって下層で自由に探索する為に労力を割かないといけない、何か間違ってないか。
目立たない様にする為には仕方がないんだが、それでも面倒くさい。他人からの干渉を避けるならランクを上げるかクランに所属、それか何処かの貴族のお抱えになれば干渉を避けられるが。
ランクを上げるの以外は、しがらみが出来る。と言うか既に出来ているか。
紺狼商店のシューバにシビアに戻ってからはアルナーレ男爵家に庇護を頼む事になる。
まだ、しがらみ、と言うほどにはなっていないとは思うがシューバもアルナーレ男爵家も、この縁を活かそうとは思うはずだ。
ああ、本当に面倒くさい、どうにかならないかな。
ケイッコー鳥の血抜きをした後は急いでシビアに戻る、十一の鐘が鳴るまでには間に合うだろうが先にエアウルフの死体をラカムに引き渡したい。それなりに時間は食うだろう。
森を出るとシビアが遠くに見える。太陽の位置を見ると、大体時間にすれば十一時ぐらいだろうか、シビアに入ろうと多くの人が並んでいる。
入るまで時間が掛かりそうだ、六の鐘、十二時までに入れると良いんだが。
実際にシビアに入ったのは六の鐘が鳴り終わってから大分経ってからだ、七の鐘は鳴っていないが鳴っていると二時間以上、待っている事になる。
シビアに入り、先ずラカムにエアウルフの死体を渡しに探索者ギルドを目指す。
探索者ギルドの辿り着き、中に入ると時間帯のせいか人は疎らだ。
冒険者ギルドスペースに足を向け、カウンターの前に移動する。
カウンターの前まで行くと事務スペースに居たラカムが俺に気が付き、カウンターまで来る。
「いらっしゃいませコウセルさん。依頼の方は、どうでしたか」
「普通に受けた方も、ラカムさんにお願いされた方も何とか達成する事が出来ましたよ」
「そうですか、それは良かった。では、普通に受けた依頼の達成手続きは他の者にさせて奥に行きましょう」
ギルドカードと依頼書、そして採取した薬草を他のギルド職員に渡した後、ラカムの後を追い冒険者ギルドスペースの奥に行く。
奥に在る、一つの部屋に入ると血生臭いにおいが漂っている。周りを見ると数は少ないが吊るされ皮を剥がされた獣か魔物の死体が有る。冒険者ギルドの解体部屋かな。
「コウセルさん、こちらの台の上に出していただいても良いですか」
ラカムに呼ばれて部屋の周りを見るのを止めて、台の上にエアウルフの死体を魔法の鞄から取り出す。
「素晴らしい、綺麗な死体だ、これなら高い値で売れるでしょう。コウセルさん、ありがとう御座いました。報酬の方なんですが密かに処理を行わないといけませんから、また明日来ていただいてもよろしいですか」
「構いませんよ、明日の何時ぐらいに処理は終わるんですか」
「明日であれば何時でも構いませんよ」
「分かりました、明日の昼ぐらいにお伺いします。それとエアウルフの角だけは売りたく無いんで置いといて貰えますか」
「構いませんが、値がかなり落ちますよ。エアウルフの価値のほとんどが角ですから」
エアウルフの角は、風を操る重要な器官なので価値は高く魔導具の材料になったりしていて、風除けの護符の材料なんかでもある。
その他は部分は魔核を別にして、レッドアイウルフと変わらない価値しかない。
「はい、構いません」
「分かりました、角だけは残しておきます」
明日は報酬とエアウルフの角を冒険者ギルドに取りに行くだけで、ゆっくり休みベッドを堪能しよう。
「それでコウセルさん、検問で騒がれたんじゃないですかエアウルフを持ち込んだんですから」
「魔法の鞄の隅の方に寄せていたんで検問の兵士にはエアウルフに気付かれずに検問を通る事が出来ましたよ。内心、気付かれないかとヒヤヒヤしましたけど」
もちろん嘘だ、そんな運任せにはするはずがない。魔法の鞄の術式を弄り一時的にエアウルフの所だけ空間を切り離した。
魔法使いでも、そうそう気付く事は無いように誤魔化していたので、ただの兵士では疑問に思う事すらないだろう。
本当に隅に寄せていただけだと流石に気付かれるだろう、検問所の検査は雑だがそこまで酷くは無いと思う。
「そうですか、依頼を受けていただく事ばかり考えていたんで後から、どうしようかと思っていたんですがバレずに済んで良かったです」
本当かよ、自分が迂闊だって事は分かるが、この人、何か腹黒そうなんだよな。本当に貴族に売られないか心配になってきた。