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赤の次は青


 リーゼ達を助けて、一緒に迷宮を出て来てから、それなりの月日が経ち。シビアに来てから、そろそろ三カ月ぐらいがになるだろうか。


 リディアの迷宮の二十階層までの地図を作り、二十一階層に転移できる様に転移装置に登録してからは中層を主に探索をしている。

 今でも少し目立っているが、これ以上、下の階層に潜るとかなり目立つことになり、パーティへの勧誘が多くなってきそうだ、今でも軽い感じでだが誘われたりはする。


 そういう理由があり下に潜らず、中層で探索する日々が続いていたが、ある日リーゼ達が俺に会いに子犬の寝床亭に訪ねて来た。

 訪ねて来たリーゼ達と子犬の寝床亭の店員と客が居なくなった食堂で話をすることになり、最初は近頃あった事や魔力操作の訓練について話しをしていたが、リーゼが漸く本題を話し始めた。


「コウセル殿は元々冒険者でしたね」


「今でも冒険者のつもりですよ、迷宮には潜ってますが」


 探索者として迷宮に潜っていて地上で活動する事は今は無くなっているから自分でも少し疑問に思う時は有るけど。

 それよりも冒険者としての俺に何か依頼があるのか?


「何か依頼があるんですか?」


「そうなんだが・・・」


 何かすごく気まずそうな顔をしているが、そんなに言い辛いのか。厄介ごとじゃないと良いんだけど。


「コウセルはケイッコー鳥て知ってる?」


 言いあぐねているリーゼに代わって、アスリラが代わりに質問をしてくる。


「ケイッコー鳥ですか、知ってますよ。故郷に居た頃は、良く捕ってましたし」


「それは本当か!」


 俺がケイッコー鳥を取っていたという言葉にリーゼが大きく反応する。ケイッコー鳥に関する事なら、おそらく色羽の採取かな。

 けど、わざわざ俺に頼むようなことじゃないと思うんだが、何か事情があるのか?


「本当ですよ。俺への依頼はケイッコー鳥の色羽の採取ですか」


「ああ、そうなんだが・・・」


 なんでそこで言い淀む、俺に依頼するのに何か問題が有るのか? まあ、何か事情が有るんだろうが俺にも色々と事情がある、依頼を受けるのは難しいな。


「何か事情が有るみたいですけど、基本、依頼は受けられませんよ」


「ど、どうしてだ!?」


「どうしてって、俺がある商会の専属だって事は話しましたよね。ケイッコー鳥の色羽を取りに行くと何日もかかるじゃないですか、そうすれば迷宮産の資源の収集に影響が出てきます。専属契約している商店を蔑ろにする訳にはいないですよ」


「それは、そうだが何とかならないか」


 何とかしようと思えばできない事は無いんだが。まずは向こうの事情だ。


「何とかしようと思えば何とかできますけど、まず事情を全部、話して下さい。ケイッコー鳥の色羽は珍しいですが俺じゃなくても取って来れるでしょ、何で俺に依頼しようと思たんですか」


 リーゼは数秒、難しい顔をして黙り込んでから、諦めたように溜め息を付いて話始めた。


「コウセル殿は今のシビア周辺の状態は知っているだろうか」


「周辺と言うと山の方とか森の方の事ですか」


「そうだ」


「俺が知っている話だと周辺には魔物が居ないから稼ぎにならないとしか知りませんね」


 周辺で何かあったのか、酒場なんかで話を聞いたりしているがそんな情報は知らないな。情報を集めると言っても簡単じゃないな。


「なら今からシビア周辺について話そう」


 リーゼの説明によりと俺の聞いた話のように周辺には魔物が居らず、食用になる動物も姿を消して、狩りをするなら森などの奥地に行かないといけない。

 しかし、奥地に行くと高いランクの魔物が居たり、数が多い群れに遭遇するので注意が必要らしい。 


 ここまではアンニーの周辺の町、村の状態を変わらないんだがシビアには他と変わった点がある。それが進化した魔物が居る事だ。

 ―――――また進化した魔物か、この頃、多く見掛けるし聞くな。

 

 進化した魔物が居るなら、そいつを目当てに冒険者が集まりそうなんだが、その進化した魔物が四年前ほど出た魔王種が連れていた眷属と同じ魔物の様で、すでに研究用に数を確保できているみたいで他と比べると価値が低い。

 そのせいかランクの高い冒険者や、深い階層に潜っている探索者は魅力を感じず討伐に向かう事は無い。

 何組かのランクが低い冒険者や、浅い階層の探索者は討伐に向かったが何組かは帰って来ず、帰って来た組は進化した魔物を見付ける事が出来ず稼ぎが少ないからと討伐に向かうのを止めてしまった。

 冒険者ギルドもCランクの討伐依頼として掲示板に張り出しているが、被害が討伐に向かった冒険者、探索者だけなので緊急性を感じづ、シビアの住人に被害が出ていないので報酬額は少なめだ。

 魔物の価値が低いのと同じ理由でランクの高い冒険者や探索者は受けず、低いランク冒険者、探索者は討伐よりも迷宮の方が安定して安全に稼げるので受けずにいる。


 まあ、いつまでも進化した魔物を放置する訳にはいかないので、シビアの行政を担う貴族達から討伐依頼を高額で出されるので、いずれは討伐されるらしいが当分、先の事で、そうなるとリーゼの家、アルナーレ家が困るらしい。


 その困る理由がケイッコー鳥の色羽が取れない事だ。周辺の浅い所は魔物、動物が狩りつくされて奥地に行かないと狩りが出来ないのだが、今は進化した魔物が住み着いているので討伐でなくても誰も行きたがらない。

 報酬額を増やせれば依頼を受ける者も出てくるだろうが増やす事が出来ず、それどころか報酬額が通常時のケイッコー鳥の色羽採取よりも少ないのだ。


 かなり恥ずかしそうにリーゼが話す、話だと今のアルナーレ家の財政は悪いようだ。でも、これはアルナーレ家だけの話ではないそうだ。


 最近まで大きな権力を振るっていたタドーコア家の当主が突然亡くなったので、お家騒動があり、それに便乗してタドーコア家を潰そうとする派閥や守ろうとする派閥、また、この混乱時に権力を得ようとする派閥が出始めて、今はシビアの貴族達の権力闘争が激しい時期になっている。

 

 アルナーレ家も所属している派閥が有るので権力闘争に参加せざる負えないし、下手に静観しているといつの間にか食い潰されるという事になりかねない。

 そういう理由で情報収集に色々な対策、根回し、かなりの金が飛ん行き、どこの家も財政が悪いらしい。


 けど、何でそんなに財政の悪い時期にケイッコー鳥の色羽が欲しいかというと、これも権力闘争を生き抜く為だそうだ。



 シビアの周辺の魔物、動物が居なくなるほど狩られている時にそれなりの量のケイッコー鳥の色羽、青羽が出回った。 

 そのせいか、今、シビアの貴族の女性たちの流行はケイッコー鳥の青羽を使った装飾品で、特に青羽で作られた扇が一番人気だそうだ。

 美的感覚は良く分からないが、希少なケイッコー鳥の青羽で作られた扇は、その美しさ? と掛けられる財力、得るために使った力を周りに示し、これを持って社交界に出ると他の貴族よりも優位に立てるらしく、アルナーレ家と仲が悪い貴族の家が持っているので対抗するために、ケイッコー鳥の青羽の扇がどうしても必要で製作するのに、あと一枚、青羽が必要で何とか報酬金を絞り出し冒険者ギルドに依頼の掲示をしたらしい。


 何時の世も社交界は変わらないみたいだな。言葉の戦争、装備は豪華絢爛な礼服に装飾品、言質を取ろうと海千山千の魑魅魍魎の貴族達の話術。


 前世で何度か参加させられたが疲れた記憶しかない。

 何も知らずに見ている分には華やかで憧れの場、そのものだが、内情を知っていると血が出ない醜い戦場だ。

 一概に酷いものだけではないが、ひどい場合は貴族の家が一言で消えてなくなる。

 今世では後ろ盾が無いからな参加はしたくない。有っても嫌だが。


 ここまでならリーゼも必死に青羽を持つケイッコー鳥を探すが誰かに頼もうとは思わなかったんだが、ケイッコー鳥の青羽の扇を製作出来ないなら、この権力闘争を勝ち抜くためにアルナーレ家の当主、リーゼの父親が、扇の分をカバーする為にリーゼを政略結婚させると言っているそうだ。

 

 リーゼは政略結婚が嫌で、政略結婚をさせない事を条件に探索者になり稼いだ大部分を家に納めている。

 本当は騎士になりたいそうだが自分の実力が足りないと思っていて、あと少し腕が上がれば騎士になる為に王都に行こうと考えているらしい。


 リーゼの父親も嫌々、政略結婚させるよりも、娘の我儘を叶えるのと王都に伝手が出来るので構わなかったんだが、今のシビアの情勢がそれを許さないらしい。


「私達も森などに入って色羽を持っているケイッコー鳥を探しているんだが、ケイッコー鳥を探すのも苦労しているんだ。私はシビアに住んでいるから探索者の知り合いは多いが冒険者の知り合いはコウセル殿ぐらいしかいないんだ、どうか力を貸してくれ」


 リーゼが頭を下げて懇願に近いお願いをされた、どれだけ必死なんだ。


 リーゼの話が全部、本当なら、シビアの主権が変わるほど大きな権力闘争になっているんだろう。

 リーゼを見る限りは腐った貴族では無さそうだから気高さを持っているだろうが、それでも約束を破ってでも勝とうとしている。この権力闘争に賭ける思いが伝わってくる。

 けど、俺にはあんまり関係ないよな。リーゼには気の毒にと思うが死ぬ訳じゃない、貴族なら政略結婚は良くある話だ、騎士になっても政略結婚をさせられる可能性はある。


 まあ、今の話は俺にも良い所が無い訳じゃない、大きな恩を売るには良い状態だ。

 後は平民である、俺にどれだけ恩を感じてくれるかだ、情勢次第で自分の娘と約束を破る事もする人だ、どれだけ信用できるかな。


「リーゼさん、条件次第で力を貸しても良いですよ」


「どんな条件だろう、報酬なら分割払いにするなら多くする事は出来るが」


「いえ、そういうのじゃなくて、まず、成功する、しないに関わらず俺が迷宮に潜れなかった期間の迷宮産の資源を俺が専属契約している商店に納めて欲しいんです、良いですか」


「分かった、それは別に構わない」


 他の二人も確認を取ると問題は無いみたいなので了承の返事をもらった。


「それで報酬の方なんですがお金よりも何かあった時に力を貸して欲しいんですよ」


「何か問題を抱えているんですか? 厄介ごとをアルナーレ家に持って来られると困るんですが」


 俺が報酬に何かあれば力を貸して欲しいと言うとラーネルが怒り気味に質問というか苦情を言って来る。

 聞いた話だとラーネルの家はアルナーレ家に仕えている家だったな、仕えている家に問題を持ち込まれるのは嫌なんだろうな。


「問題なんて抱えてませんよ。俺、そろそろリディアの迷宮の下層に挑戦しようと考えているんですよ。下層で一人で探索している奴がいるとなると色々とちょっかい掛けて来そうなんで、その時にフォローをして欲しいんですよ」


「コウセル、下層に行くつもりなの? 大丈夫なの?」


 アスリラが心配して大丈夫かと聞いて来て、他の二人も驚いている。

 

「大丈夫ですよ。ミノタウロスは遭遇した事が無いから何とも言えませんけど、オークなら問題なく倒す事が出来ましたから」


「確かに下層を一人で探索している探索者がいるなら、クランは勧誘、抱え込みをしようとする貴族が居てもおかしくないな」


「貴族のリーゼさんが言うなら、俺の考え過ぎじゃなさそうですね。探索者のクランなら信頼関係の問題があるんで強く拒否すれば勧誘は無くなると思うんですが、貴族の抱え込みは拒否しても止めそうにありませんし、権力を利用した強引な方法を取られると俺じゃあ抵抗出来ないかも知れないんで、そんな時に力を貸して欲しいんですよ。出来ますかリーゼさん」


「大丈夫だ、その時は必ず守って見せよう。傍若無人な振舞いを貴族として見過ごす訳には行かないからな」

 ―――――意外と熱い人だな。


 リーゼは力強く即答してくれたんだけ、本当に信用できるのかが問題だ。リーゼがそのつもりでも彼女の実家がどう判断するか分からない。

 ラーネルも良い顔をしていない。今は問題を抱えていないがすぐにでも抱えそうなんだから仕方がないか。


「そう言って貰えると力強いんですが、本当に信用しても良いんですか? リーゼさんは信用してますけど、お父上の方はリーゼさんとの約束を破っているじゃないですか、俺との約束を守ってくれますか、その時になって知らない何て言われませんか」


「そう言われると辛いな」


 リーゼが黙り込んで悩んでいるが、約束を確約するなリーゼの父親に会わないと無理だろうな。

 仕方がない、確定はしていないが取りあえず、ケイッコー鳥の青羽を取ってきてから直接、リーゼの父親に交渉するか。


「リーゼさん、とりあえずケイッコー鳥の青羽を取りに行ってきます。取れた場合は力を貸してくれるように交渉したいと思うんで、協力してくれますか」


「分かった、その時は必ず約束させてみせる」


「ありがとうございます。それじゃあ、準備するんで失礼しますね」


 これが無駄にならないと良いんだが、約束を取り付けられないと下層には潜れないからな。

 約束できなかったり信用できなかった時の為に何か考えていた方が良いかな。


 問題は一人という事がいけないので、簡単に思いつくのはパーティを作る事だが魔術を秘密にするのが面倒くさいし、他人が居る方が俺には不便だ。

 なら基本、絶対服従の奴隷かと思うが、俺の心情的に嫌なので奴隷を買うのは却下だ。


 どうするか悩むが、今は久々の狩りを楽しむか。

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