女性探索者たち
すみません、また遅くなりました。
9/2改修しました。コウセルのアスリラに対する呼び方を変えました。
苦戦している女性探索者のみのパーティを助ける為に投げ槍でコボルト(小型)を一匹仕留めて、部屋に突入する。部屋にいるコボルト(小型)は残り三匹。
女性探索者とコボルトの間に槍を差し込み、薙ぎ払う。薙ぎ払って三匹のコボルトを飛ばし、強引に距離をとり、女性探索者の安全を確保する。
コボルトは三匹とも死んではいないが地面に転がっている、その隙に一匹に近づき槍で突き殺す。
他の二匹が立ち上がり襲って来ようとするが二匹が重なりあっているので、突き殺したコボルトから槍を引き抜き、腰だめに槍を構えて、石突きの水晶の魔力を使い突きの威力を上げて、コボルト二匹を串刺しにして仕留める。
串刺しにしたコボルトが死んでいるのを確認してから槍を引き抜き、槍を振るい付着している血を落とす。
助けた女性探索者達に気付かれないように魔術を使い、部屋にもう魔物が潜んでいないか、倒れている魔物が生きていないか調べる。
調べた結果は潜んでいる魔物は居らず、倒れている魔物は全部、死んでいる。安心できたので助けた女性探索者達に話しかける事にする。
「大丈夫ですか? 特に座り込んでいる方は」
話しかけながら改めて女性探索者達の姿を見る。
剣を振るっていた女性探索者は長い金髪を邪魔にならない様に頭の後ろで纏め上げ、魔力が感じる金属製の鎧等を装備しているにでリディア鋼か魔鋼鉄で作られた物だろう、片方に腕には小盾と一体化しているガントレットを装備している。
鎧のせいでスタイルは分からないが顔は品の有る顔つきをしている。かなり裕福な家の人だろうな、貴族は・・・あり得るか? 貴族の女性が探索者・・・・無いとは言い切れないな。
ローブ姿の女性探索者は薄紫の髪をショートカットにして、杖は杖頭に水晶を取り付けているシンプルな木製の杖だ、幼い感じの顔つきで魔力不足のせいか顔色が悪い、背丈は低めでとってもスレンダーだ。
最後の怪我をして座り込んでいる女性探索者は右腕の二の腕の部分が大きく腫れていて、だらりと下げており、太腿をコボルトの攻撃で切られて血が今も流れているが命には別状は無いみたいだ。
頭にバンダナをしているので長いか短いのか分からないがこめかみあたりから編まれた髪が垂れている、装備は腰にナイフ二本差して左右どちらの手でも抜けるようにしている。動きやすい姿をしているのでスカウトだろう。
スタイルは出るとこは出て、引っ込む所は引っ込んでいる。怪我さえしていなければ良い眺めだと眺めるんだが残念だ。
「リラ、大丈夫ですか」
俺が声を掛けるまで固まっていた三人は声を掛けられると固まっていた事に気付き、動き始め、剣士の女性は怪我をしている女性を心配して声を掛ける。
「大丈夫、大丈夫。痛いけど死にはしないから」
「大丈夫じゃないです。太腿に大きな怪我をしてますし、腕なんて大きく腫れて、骨が折れてるんじゃないですか」
怪我した女性は明るい声で大丈夫だと言うがローブの女性は泣きそうな顔で心配している。
まあ、死にはしないが、あの怪我では今後の探索には支障が生じる。碌に動けないし身を守ることもできないだろう。
「すまない、少し良いかな」
「はい、何でしょうか」
剣士の女性が話掛けてくる。怪我している女性の治療もせずに何の用だろう、倒した魔物の素材の分配じゃないよな、仲間が怪我をしてるのに放っておいて、そんな話はしないだろう。
薬か治療に使える道具が無いか聞きたいとか? 自分達で持ってないとは考えられないが。
「私はクートゥリーゼ・フォン・アルナーレと言う。魔物から助けてくれてありがとう。それで、すまないのだが魔法薬を持っていないだろうか」
珍しすぎるだろ、貴族の女性探索者なんて、めんどくさい事にならないと良いんだが。
魔法薬は持って来ていない、怪我をすれば自分で治すからな、普通の傷薬はダミーで持って来ているけど。
ダミーとしては魔法薬の方が良いかもしれないな、今度からはそうするかな。
「私はコウセルと申します。申し訳ありませんが、魔法薬は持っていません。しかし、骨折は無理ですが太腿の怪我だけでしたら私が治すことが出来ますよ」
「本当ですか!―――けど、魔法薬は無いんですよね、どうやって? 貴方は聖属性の魔法使いか、何処かの神官の方ですか?」
魔術という答えが出て来ないのは、何か寂しいな、仕方がないのかもしれないが。
「いいえ、私は魔術師です。下級ですが(回復)の魔術を使う事が出来ます、骨折は変にくっ付くかも知れないので下級の(回復)で治すのはお薦めしませんが太腿の怪我なら下級でもきちんと治すことが出来ます」
下級とされている回復の魔術は傷をただ治すだけだからな、骨折とかは変にくっ付く恐れがある。
骨折を魔術で治すなら(復元)の魔術を使う必要があるかな。(復元)なら字のごとく元に戻る。
「魔術・・ですか?本当に使う事が出来るんですか? あ! いえ、その、疑う訳ではないんですが」
「お気になさらないでください、魔術は珍しいですから、お疑いになるのも分かります」
ノキ村を出てから魔術を使う人は一人も居なかった、疑いたくなるのも分かる。アンニーで冒険者として活動し始めた時も酒場なんかで使えるのかと面白半分で良く聞かれたりしたからな。
聞かれるたびにエールや酒を冷やしてやった、酒が進んで、ほどよく酔うとなんでも話してくれて色々と話が聞けて良かった。
シビアに来てからは酒場に行っていないので時間が出来れば情報収集の為に酒場に行くのも良いかもな。
「そうですか・・・・・申し訳ないのですが仲間に確認を取ってから、治療を受けるかどうか決めさせてもらってもいいだろうか」
「分かりました、ここで待っています、ゆっくり相談してください」
「ありがとう」
剣士の女性が礼を言ってから、仲間に確認を取りに俺から離れる。
魔術と聞いて不安に思ったのかな? しかし、魔法薬を持っていた場合どうやって本物か確かめるつもりだったんだ。
聖属性の魔法使いは聖属性の魔法、光を発したりすれば魔法使いという事が証明できる。
方術が使える神官なら必ずと言って良いレベルで信仰している宗教の象徴となる物を持って居る筈だ、わざわざ騙すために迷宮にそんな物を持ってくる奴はいないだろう。
それに、そんな事をしている事がバレれば、その宗教の神官、信者が地の果てまで追いかけてくる、リスクが大き過ぎるのでやろうとするやつはいないだろう。
剣士の女性から魔術の話を聞いたのか残りの二人は俺を怪しんでいるというより、珍しいものを見るような視線を向けてくる。
それから俺に向けている視線を外し、三人で話し合っている。たまに怪我をしている女性を責めるようにローブの女性が声を荒げる。
少しして話し合いに結論が出たのか剣士の女性がこちらに来る。
「すみません、お待たせしました。治療をお願いしても良いですか」
「分かりました。では、怪我をしてる人の元に参りますね」
怪我人の元に行くが剣士の女性は俺の後ろに付く、気配は厳しいものではないが多分見張っているのかな。
初めて会った俺に薬はないかと尋ねたり、治療する俺を見張ったり、なんか警戒心が高いのか低いのか分からないな。
まあ、仲間が怪我して混乱しているだけという線もあるけど。
「初めまして、私はコウセル申します」
「初めまして、私はアスリラ。そんなに丁寧に話さなくても良いよ、私も平民だし。堅っ苦しいのは苦手」
「初めまして、私はラーネルです。私も普通に話してくださっても大丈夫です」
残りの二人は平民なのか。どうして貴族のお嬢様とパーティを組む事になったんだろう。
貴族のクートゥリーゼが庇うくらい親しい仲だ、雇われという感じではないな。まあいいか、それよりも傷の治療だ。
「それじゃあ、お言葉に甘えて。今から足の治療をするから、アスリラさん、まず傷口を洗ってほしい」
「洗うのは良いけど、どうするの? 私たちは水の残りが少ないから使いたくないんだけど」
「別に心配しなくても良いよ、俺が用意するから」
魔法の鞄から木製の桶を出し〈水生成〉の詠唱を始める。
「●●●●●・●●●・●●●(水生成)」
俺の手から魔術で生み出した水が桶の中で跳ねながら溜まっていく。
「おお! すごいね。これ魔法じゃなくて魔術?」
アスリラは素直に驚きの声を上げ、ラーネルは声こそ上げていないが驚き目を見開いている。
「これで、傷口を洗ってもらえる、布が欲しいなら貸すよ」
「あなたは洗ってくれないの?」
「別に俺が洗ってもいいけど、ブーツを脱がしたり色々と触る事になるよ」
「わ、わたしが洗います、あなたは離れてください」
信用されていないのか、仲間に触れさせたく無いのか、ラーネルが焦って言って来る。
心情的なものは理解できるが、そんなに慌てて言わなくても良いだろ、なんか嫌だな。
「ネル、ありがと。でも助けてくれる人にそれは酷いよ」
「・・・すみません、失礼な態度を取りました」
「気にしてませんよ」
謝ってきたから取り合えず良いか、許すとか大袈裟ではないが機嫌を直そう、細かい事を気にし過ぎても仕方がないし。
傷を洗っているとはいえ、女性の足をジッと見ている訳にも行かないので視線を外して傷を洗い終わるのを待つ。
「痛い、痛い。ネル、もうちょっと優しくして、水がものすごく沁みるから」
「傷口とか周りをきれいにするんだから、少し我慢して」
部屋の中は物静かで、傷口を洗い流した水が地面を跳ねる音とアスリラの悲鳴、ラーネルの声だけが響く。
傷口を洗い終わるまで、この後どうするかを考える。
元々の予定では十五階層の地図を完成させて十六階層に下りるつもりだったが、予定通りにするとアスリラ達を見捨てる事になるだろう。
アスリラは腕の怪我、あそこまで腫れていると多分、骨が折れているだろう。太腿の怪我は治すが腕の怪我は骨折なら治せないことにしてるので治さないままになる。そうなると戦闘をすることはできない。
ラーネルは格好、装備から魔法使いと予想が出来る。今は魔力が枯渇して、魔法を使う事は出来ないだろう。ローブで体格は良く分からないが杖で戦えるようには見えない、彼女も戦力外。
二人が戦えないとなると戦えるのは一人だけクートゥリーゼだけになる。コボルト(小型)を四匹を一人で相手取れるから弱い訳ではないだろうが、二人を守りながら十一階層まで行くのは無理がある。
魔物、他の探索者達に遭わずに十一階層まで行けると考えるのはお気楽すぎる。迷宮盗賊には格好に獲物だ。
せっかく魔物から助けたんだ、帰り道で死なれるのは嫌だ。護衛して十一階層まで連れて行っても良いのだが、問題は彼女たちが承知するか否かだ。
見ず知らずの俺と一緒に行動したいと思うだろうか、窮地だった所を助けて治療までするんだ信用はされると思うが彼女達はどう考えるのだろう。
「あの、傷口を洗い終わりました。回復の魔術を掛けて貰っても良いですか」
ラーネルに呼ばれて考えるのを止める。後から彼女達がどうするか聞いてみるが先ずは怪我を治そう。
アスリラの太腿の怪我の具合を見る。まだ血が流れるのは止まっていないが周りがきれいにされている。
傷の断面はグチャグチャだ、切り裂いたというより叩き切った感じだな。
「コウセル、いくら私の足が綺麗だからって、そんなに熱心に見詰められると、私、恥ずかしい」
いきなり呼び捨てか、別に構わないけど。
傷口を見ているとアスリラから恥ずかしいと言って来るが。声色はからかっているとしか思えない。まざまざ口元に手を当てて、僅かに顔を背け流し目をする演技も入れている。
今の俺の姿は十五歳の成人したばかりの若造だが、中身は単純な年齢で考えれば中年になる年だ、ただのお色気で慌てるほど青くは無い。
―――――中年と呼ばれる歳であるだけで決して、おっさんではないぞ。
アスリラの言葉に反応したのは他の二人で視線が厳しくなった感じがするぞ。
「はいはい、そうだね傷が無ければ更に綺麗だと思うから治療を始めるよ。傷口を寄せてくっ付けて直りが早いし傷跡も残らないから」
「少しは照れてくれてもいいんじゃない、そこまで流されるのは初めてなんだけど」
アスリラは面白いからとからかっているだけだろうが、反応すると他の二人に警戒される、勘弁してくれ。
アスリラは俺がお色気に反応しなかった事に拗ねて文句を言いながらも、指示通りに傷口を寄せてくっ付ける。
そのアスリラの態度にラーネルは明らかに呆れた表情をして、後ろからクートゥリーゼからは溜め息をつく音が聞こえてくる。
「からかわないでくれ。今から(回復)の魔術を掛けるよ。●●●●・●●●●●・●●●(回復)」
傷口に手を翳して(回復)の魔術の詠唱して発動させる。
下級の(回復)という事にしているので傷が癒えていくのはゆっくりとだが、自然治癒とは比べられないほどの早さで傷が癒えていく。
「なんか変な感じがする」
「コウセルさん、どういう事ですか」
ラーネルから少し鋭い声で質問される。そんなに怒らないで欲しい。
「俺は聖属性の魔法や(回復)の方術を受けた事が無いから人に聞いた事になるけど、魔法と方術と比べて魔術は感じ方が違うらしいから、そのせいで違和感を感じるんだよ」
「ネル、気にしすぎ。そんなに神経質ならなくても良いじゃない。変な感じて言っても何か痒いだけだから」
前世で俺自身が感じて知り得た事でもあり、ノキ村に居た頃にリムス神父と雑談している時に聞いた話でもある。
なぜ感じ方が違うのかは調べていないので何とも言えないが、生まれ持った才能と人が生み出した技術が別物という事だろう。
あと、痒みが感じるのは下級の〈回復〉の魔術は他と比べて治癒速度が遅いせいだ、瘡蓋が痒く感じるのと同じようなものだ。
この事に関しては興味が無いので調べる事はない。
「す、すみません」
「大丈夫、気にしませんよ」
ラーネルは顔を赤くして俯いてしまった。仲間が心配なのは分かるがもう少し警戒を緩めてほしい。
「ねえ、コウセルは普段から一人で迷宮に潜っているの?」
魔術での治療が珍しかったのか受けているアスリラと他の二人も黙って眺めていたが、暇になったのかアスリラが話しかけてくる。
「そうだよ、一人の方が気楽だからな」
「危なくないですか、戦うのもそうですが、きちんと休む事が出来ないんじゃないですか」
ラーネルは基本、優しい人なんだろうな。仲間の為に俺の事をまだ警戒しているが一人で迷宮に潜っている事を心配してくれている。
心配してくれているが本当の事を言う訳にはいかない、誤魔化さないとな。
俺としては魔術を制限なく使えるから、一人の方が安全だ。まあ、偶に迷宮内だと寂しく思う時があるが。
「二、三日は眠らなくも大丈夫だし、少しでも危険と思ったら逃げる事にしているから大丈夫だよ」
「しかし、迷宮盗賊に遭ってしまえば危険だぞ、あいつ等は何処までも追いかけてくるからな」
後ろに居たクートゥリーゼも会話に加わってくる。彼女も暇なんだろう。
「何とかします。一応、逃げる時の奥の手がありますから」
一応、奥の手と言えるものは有るが迷宮盗賊なんかに使うものではない。
使うとすればS、Aランクの魔物ぐらいだ。だけど奥の手を準備もなし使えば、大罪の大魔獣との決戦の時のように命を大きく削るほどの対価が必要となってくるので、出来るだけ遠慮したいものだ。
「そうか、それでも誰かとパーティを組んだ方が良いぞ。それとコウセル殿、周りに人が居るなら困るが、親しい者だけなら普通に話してくれても良いぞ」
「宜しいんですか?」
ずいぶんフランクな、お嬢様だ。まあ、探索者をするほど、お転婆なんだからありなのかな。
貴族教育上、平民とは線引きをする家が多いんだがな。彼女の家はそういうのは無かったのか?
「構わない、貴族と言っても、家はそれほど裕福ではないし、私も堅苦しいのは苦手なんだ。それとリーゼと呼んでくれ本名は長くて言い辛いから」
「分かった、そうさせてもらいます。呼ぶときはリーゼさんで」
「ああ、そうしてくれ」
裕福でないと言っているが、どんな暮らしをしていたかは予想が付かないな。
魔力鉱石で作られた武具を身に着けているんだ、かなり裕福に思えるが今はそうでもないのか?
見栄を張るために豪華な物を買う時が有るから、リーゼが身に着けている装備はそういう時に買った物なのかな。
まあ、あまり深く考えなくても良いか、気軽に接せられるから気楽だ。
話している内にアスリラの太腿の怪我が完治したので翳していた手を放す。傷跡もなく、綺麗な足になっている。
「アスリラさん、傷が治ったよ、違和感とかは無い」
「ホントだ、傷が綺麗に治ってる」
アスリラは不思議そうに傷があった場所を見たり触ったりして確かめて、ラーネルも声こそ出さないが驚いて、アスリラの太腿を眺めている。
かなり不思議そうに眺めているが、治せると言ったのをあんまり信用されてなかったのか?
「ここまで綺麗に治るとは思ってなかったから驚いた。ねえ、コウセル、これなら腕の怪我も治せるんじゃない?」
「リーゼさんには説明したけど、骨折してるなら止めた方が良い。治せるけど骨がキチンとくっ付けることが出来ないかもしれないから、骨折した場所が折れやすくなったりするし、武器を振ったりすると違和感が出てくるかも」
「う~ん、そうか、じゃあダメかな。コボルトに殴られた時、折れた様な感じがしたからな、止めといた方が良いかも」
残念そうにアスリラが溜め息を付いた後、顔は真剣なものになる。この後、どうするかを考えているんだろう。
アスリラのパーティは戦力が大幅に下がり、足手まといが二人もいる無事に地上に帰るのは難しい。
俺が同行すると言えば素直に認めてくれるかな?