中層
すみません、遅くなりました。
8/27加筆しました。
「コウセルさん、準備をお願いします」
転移装置の使用の順番が来たので探索者ギルドの職員が俺を呼びに来る。呼ばれた俺は転移室に入る。
転移室の中には魔法陣が床に描かれてその中心に石台が設置している。
転移装置だ。どうやら魔法陣の中に居る者を跳ばすタイプだな。
転移装置には二つのタイプがある。リディアの迷宮にある、対象を跳ばすタイプと、もう一つは転移したい場所に空間を繋げるタイプ。二つとも俺が開発した物だ。
跳ばすタイプは空間を繋げるタイプと比べて設置、起動する時のコストが安いというメリットがあるが、デメリットとして魔物に魔法陣と石台を壊される可能性がある。
だから転移先に必ず兵士何人か駐留させて転移装置の魔法陣と石台を守り、魔物が近付かないように魔物除けの結界を張ったりしている。
リディアの迷宮も十一階層に下りた所に兵士が転移装置を守るために駐留していた。
もう一つの空間を繋げるタイプは壁に特殊な処理が施された石柱を嵌め込み門を作る事で完成する、地上に設置している転移装置の門の出入り口になる部分には転移先を選択するための魔法陣が描かれている。
こちらのメリットは壁に嵌め込んでいるのと素材自体が頑丈な為、意図的に高ランクの魔物が破壊しようとしない限り壊されることが無いのと、空間を繋げる前に転移先を転移装置に映す事が出来き、転移先をどうなっているかを確かめることが出来る。
そしてデメリットだが、空間を繋げるタイプは跳ばすタイプと比べて設置、起動のコストが高く、何十倍にも跳ね上がり、材料が特別貴重な物なので金が有れば手に入るものではない。
転移装置をわざわざ二つのタイプを作ったのは浅い階層と深い階層に使い分ける為だ。
コストの面だけを考えれば跳ばすタイプだけでいいのだが。跳ばすタイプの方は、転移装置を守るのと転移先の安全を守らなくてはならない。迷宮は階層が深くなるほど魔物のランクが高くなり強力なっていき守るのと安全を確保するのが困難になる。
俺が昔、空間を繋げるタイプを設置したのはBランクの魔物が出る階層だったので、そこら辺が区切りになっていると思う。今はどうなっているか分からないが。
リディアの迷宮は跳ばすタイプしか無いのでCランクよりランクが高い魔物はいないみたいだな。最下層に居る、迷宮のボスがBランク以上で有る事を願おう。
転移装置の魔法陣の中に入り、十一階層に転移する。転移した先には転移装置を守るために陣取っている兵士六人がいる。
誰かが転移してきたのに気付いたのか兵士達がこっちを見る。
「よう、坊主、もう潜るのか。もう少し休んだ方が良いじゃねえか」
話し掛けてきた兵士は俺が十階層から降りて来た時に居た兵士だ。
彼は熟練の兵士を思わせる雰囲気を感じさせる。装備も他の兵士と違い装飾を施されているので隊長格なんだろう。
「何時までも休んで要られませんよ」
「何時までもって、1日しか休んでないだろ大丈夫なのか?」
「上層は魔物が枯れていましたから、それほど疲れませんよ。地上に戻ったのは殆んど消耗品の補給の為ですよ」
言った事は本当だ。肉体的な疲れは殆ど無い、暗い洞窟を何日も過ごしていたので精神的に疲れたのもあるが一日、地上で休めば大丈夫だ。
それよりも迷宮でシューバに渡す素材などを集めないと本格的にマズイ。今のところ売れる物が全然集まっていない、数匹からの魔核は迷宮からの持ち出し税で幾つか取られ、少しの鉄鉱石など無いのといっしょだ。
早く売れる物を迷宮から取って来ないと行けない、そろそろ紺狼商店の人が貸倉庫に収めている物を取りに来る筈だ、休んでいる暇がない。
「ふ~ん、そうかい、だけど無理だけはするなよ」
「はい」
「それで、坊主は上がるのか下るのか、どっちだ」
最初に話し掛けてきた兵士とは別の兵士が迷宮を上がるか下るかを聞いてくる。
「地図を作りながら下に潜っていきます」
今のところ方針は変わらない、地図を作りながら迷宮を潜って行くつもりだ。
「おいおい、お前一人だろう、大丈夫なのか。ここからは、まだ魔物の数は少ないが上層より魔物が出てくるぞ、それに偶にCランクも出てくる危ないぞ」
心配してくれてるのかな。魔物が多く出てくるなら好都合だ、魔核が多く取れる、特にCランクなんて絶好にカモだ。
「大丈夫ですよ、伊達にソロで活動しているわけじゃないですよ。それに危なそうなら逃げますよ」
「おう、そうしろよ。見送った奴が帰ってこないのは嫌なもんだ」
彼は長い事、転移装置を守る仕事に勤めているからなのか、上層の魔物が少なくなって中層に行く多くの探索者を見送ったせいなのか、帰ってこなかった探索者を何人も知っているんだろう。
まあ、親しくなくても知っている人が亡くなるのは気分の良い事ではないだろうな。
「分かりました、気を付けます。では、行ってきます」
軽く手を振り、迷宮を進んで行く。
十一階層からは通路が広くなり、一人が武器を振る分には広いが二人並ぶと狭い感じだ。
それと壁からは淡い紫の光を放つ水晶と水晶に絡みついている茨が所々にある。水晶が光っているので真っ暗ではないが薄暗くい。普通の人なら心理的に恐怖を懐きそうだ。
水晶を壁から取ってみると巻き付いていた茨と一緒にサラサラと砂になり消えていく、迷宮に接する事で光、存在できる物みたいだ。魔素で構成されていて壁から取り外すと維持させるのは難しそうだ。
後から知ったことだが、迷宮の水晶は再び出来るまで時間が掛かるので無暗に取ってはいけないらしい。知らなかったんだから一個ぐらいは良いよな。
通路は明かりが無くても十分な視界は確保できるが(照明球)を使って周りを照らして移動する。
十一階層と十二階層は転移装置が設置している階層とすぐ下の階層のせいか、鉱石も魔物も上層と同じように殆ど枯れていて探索は上層の時を変わらず魔物と遭う事が無く、十三階層から少しずつ忙しくなってきた。
十三階層の通路を進んで行く、壁にも掘られている所も少なくなり、一つの部屋が見えてくる。
部屋の中にはコボルトが三匹居る、三匹とも大きさは百五十センチ位だろうか体は細くもなく太くもない、多分、中型のコボルトだろう。
犬頭だから鼻が利くのか探索の魔術を使って反応があった時から(照明球)を消して暗くして足音も消していたが、俺が居る方の通路を三匹とも見ている。
奇襲を掛けようと思っていたが失敗してしまったようだ、今度からは臭いも消す様にしよう。
今は簡単に倒せる魔物としか遭遇していないが何時かは奇襲しないと面倒な魔物とも戦う事もあるだろう、奇襲を出来るよう練習をしておきたい。
さて、部屋の中に居る三匹のコボルトは部屋で待ち構えていて通路には来ないみたいだな。
三匹で連携した襲ってくるつもりなのか、じっと待ち構えている。さすがに部屋の中に入れば襲って来るだろうが、わざわざそれに付き合ってやる、つもりは無い。
腕を横に振って魔術を放つ。放った魔術は風の刃でコボルト三匹の首を切り落とした。コボルトは自分たちの身に何が起こったのか理解できずに死んでいっただろう。
部屋の中に入り、コボルトから魔核を取り出して毛皮があるのだが亜人系の魔物の毛皮は縁起が悪いからと言って買い取りされることは無いので剥ぎ取らず、死体を部屋の端に寄せて埋める。
魔物を倒してから部屋の壁に鉱石が埋まっているか、どうか調べるのだが、魔物とはいえ死体があると気が滅入るから埋める事にしている。誰も居ないなら魔術で簡単に埋める事は出来る。
魔物の死体を埋めてから鉱石が埋まっているかどうか魔術で調べたが、この部屋の壁には鉱石は埋まっていないみたいだったのは残念だが気を取り直して、次に進む事にする。
それからは奇襲の練習の為、遭遇した魔物をすべてに奇襲を行い、魔術で倒していく。
人目が無いので魔術を思いっきり使い、魔物を倒す事が出来る。もともと魔術師だから槍で戦うよりも、こちらの方がしっくりくる。
奇襲は臭いを消す様にしてからは成功率が上がったが必ずとは、なかなかいかない。というか通路が限定されているので隠れようがないので獲物を来るのを見張っている魔物にはどうしても見つかってしまう。
ランクが低いので正面からでも大丈夫だが、何らかの対応は考えていた方がいいかもしれないな。
そんな感じで地図を作り、魔物を倒し、偶に鉱石の反応が有るので掘り出すという事を繰り返した。
まだまだ出てくる鉱石の割合は鉄鉱石が多いが、稀に等級は低いがリディア鉱石も出てくるのでうれしいものだ。
十四階層で一度、結界を張ってから寝て休み、十四階層を地図を完成させてから十五階層に下りる。
中層の中間のせいなのか最初の部屋で魔物と遭遇したが、少し今までと違う感じがした。
視認できる所まで忍んで行くと中央にコボルト(小型)が居る、そして部屋の入り口からの死角に他の魔物が隠れている。
これは油断させて襲う罠なんだろうな。俺は魔術で索敵しているから、すぐにおかしいと気付いたが普通の探索者はどう判断するんだろう。
十五階層の部屋にコボルトが一匹で居る事に、おかしいと感じる人も居るだろうが運が良いと突撃しそうな探索者も居そうだ。
さて、普通に突撃しても倒せるだろうし、少し難しいが魔術を使い、死角に居る魔物を倒す事が出来るが、こっちも少し戦い方を変えてみよう。
腰のポーチから加工した魔核を取り出す。それを部屋の中央に居るコボルトの頭上に投げる。
コボルトも何かが自分の頭上に有ると気付いたのか上を見上げる。
魔核をコボルトに真上まで来ると起動させる。魔核から土が出て来て体を作り上げる、ゴーレムだ。
コボルトの真上に出現させたゴーレムはコボルトを押し潰し、部屋の中央に立つ。
―――――しまった、魔核ごと押し潰したかも。
突然、現れたゴーレムに驚いたのか死角に居た魔物は数秒動かなかったが、慌てって雄たけびを上げてゴーレムに突撃する。
突撃する魔物はコボルト(小型)のみでゴーレムの腕を一振りさせると軽々と吹き飛んでいく。
コボルトの攻撃は石の鎚による打撃だが、ゴーレムに傷を付けることなく石の鎚が壊れるありさまだ。
ゴーレム以外動くものが居なくなると部屋の中に入っていく。一匹ずつ死んでいるのを確認してから魔核を取り出していく。
今まで使う機会もなかったのでゴーレムを使ってみたが問題なく使う事が出来た、傷も付いていないので壁として使っていける。
しかし、もう少し改良などして装備品も付けてみたい、加工した魔核のに収められる量も限られているので考えれないといけないな。
部屋の鉱石探しを行い魔術に反応があるので壁を掘り返す。
途中でめんどくさくなり、ゴーレムに掘らせれば良いんだと思い素手で掘らせた。
スピードは俺がツルハシで掘るとの変わらないがゴーレムが使う用のツルハシを持って来ればスピードが上がるだろうから、今度は持ってこよう。
探索を再開して、もうすぐ十五階層の地図が完成しそうになった時だ、向かう先の部屋で激しく動き回る何かの反応が有る。
魔物か探索者どちらかだけなら殆ど動かないのだが、激しく動き回っているという事は戦闘が起こっているんだろう。
まんまり近付きたくないが地図を完成させるのには、この通路を進むしかない。
仕方なく通路を進み部屋が近付いてきたので再度、探索すると戦闘はまだ終わっていなかった。
多分だが、苦戦しているんだろう。部屋に辿り着いた時に全滅していれば見殺しにしたみたいで後味が悪い。急いで戦闘をしている部屋に向かう。
部屋に向かい通路を走り、部屋が見えてきたので身体強化で視力を強化して中の様子を伺う。
驚いた事に三人全員が女性の探索者パーティだ。一人は怪我をしているのか座り込んでいる。
他は一人が前に出て剣を振るい、もう一人は座り込んでいる仲間の近くで杖を構えている、杖を持ってローブ姿なので魔法使いなんだろうが何もしていない、という事は魔力が切れてしまっているんだろう。
魔物は四匹のコボルト(小型)で剣士は一人で四匹を相手に戦っている状態だ、コボルトは多少、知恵が有るのか疲労させるのが目的の様な戦い方をしている。
時間が経てば経つ程、探索者側が不利になるだろう。早く助けてやらないとマズイな。
「助けは要るか!」
走りながら大声を上げる、助ける為とはいえ獲物を横取りするのはダメなので声を上げて確認を取る。
「はい!お願いです助けてください!」
ローブ姿の女性が返事をしたので、太ももに着けてある投げ槍を回り込んで剣士を攻撃仕様としているコボルトに思い切り投げつける。
投げ槍を受けたコボルトは投げ槍が突き刺さり、投げた勢いが大きいのか吹き飛ぶ。
剣士は突然の事で動きが止まり、コボルトも仲間がいきなり何かに吹き飛ばされたので動きを止める。
投げ槍を投げ終えて再び走り、部屋の中に突入する。
さあ、さっさとコボルトを排除しよう。




