七年経過、只今勉強、修行中 1
5月16日 魔法使いの属性適正数による呼び方を追加記載
人生の指針を決めてから、七年が経過した。
七年間、幼児だった俺は最初にハイハイ出来る様になるため身体を動かし、ハイハイが出来るようになれば、ひたすらハイハイをして足腰を鍛え、早く一人で歩けるようなるまで努力を続けた。疲れて動けなくなっている時は、魔力操作と魔術の訓練を魔力が枯渇するまでひたすら続け、体力と魔力が無くなると、回復する為、眠る。
そんなことを積極的に続けていたせいか、身体の方は大きく成長し他の子供よりも早く歩けるようになり、母親と姉は大喜びして、俺はよく、姉が手伝いが無いときに村中を連れ歩かせられて、姉と姉の友達に遊ばれていた,,,,,,,一緒に遊んで居たのではなく、おもちゃにされて遊ばれていた。中身は成人男性なのでかなり辛かった。
今日も姉は出来る仕事を終わらせて遊びに行くのだが、今回は俺を置いて遊びに出掛けた。
俺も任された仕事を終えて、家の中でテーブルに座りながら父親を待っていた。
父親に文字を教えて欲しいと前々からお願いしていたのだ。母親もまったく文字を読み書きできないわけでわないが、父親が家族の中で一番、文字の読み書きができる。
姉も文字の読み書きができるが母親と同じレベルで、今日、俺と一緒に居ると勉強するはめになるから逃げ出したのだ。どの世界、どの時代も子供の勉強嫌いは共通らしい。
父親のザーインは元冒険者で冒険者ギルドで依頼書などを読んだり、宿屋の宿帳や依頼の報告書を書くときに代筆や代読を頼むと代金を取られる場合が有り、それを嫌い、文字の勉強をしたので、難しい文字も知っている。俺は前世の記憶があるのでモータルセンヌの文字の読み書きが問題なく出来るのだが、大罪の大魔獣についての話をまったく聞かないので、かなり年月が経っていると予想して文字が変わっていないか確認のために教わることにした。
しばらく家で待っていると玄関が開き一人の男が入ってくる。
茶髪の髪を短く切り揃え、立派な顎髭を伸ばし、釣り上がった目は常に鋭い視線を投げかけ、無愛想な顔をしている。体格は筋肉が付き、普通の男性よりも二周りほど大きい。我、父ザーインだ。
片手に持っている斧を片付けながら声を掛けてくる。
「コウセル、砂板は用意しているか?」
砂板は、木の板の上に砂を乗せて均一にして、簡単に零れないように縁を取り付けた物だ。砂板ならば何度でも文字や絵が書けるため、平民が文字を覚えたりする時によく使われている。
「うん、お父さん、準備出来てるよ」
返事を聞いて頷いた、ザーインは教材用の本を一冊持ちながら、対面に座る。
ザーインは自分の子供の前でも無愛想な表情をまったく変えないが、家族思いの良い父親だ。
俺の文字を覚えたいという、お願いを快く引き受けてくれて、時間を作る為に、仕事の量をいつもの倍こなし、勉強を見てくれるし、昔、姉シェッタがこの地域特有の風土病に罹り、特別な薬が必要で、村に無いと分かると町まで買いに飛び出していった、普通なら片道二日、往復四日掛かるのを一日で往復してくるなど、家族の為には平気で無茶をする男である。
最初は母マリスに習ったのを復習して、そこから難しい文字や単語の勉強したが、すぐに終わってしまった。モータルセンヌの文字は殆ど変わっておらず、多少新しい単語が出来たあったぐらいだ。
「コウセル、おまえ、マリス以外の人から文字を習っていたのか?」
流石に、早く覚えすぎたようで、ザーインに疑われてしまった。ザーインは家族思いの父親だが、決して甘い訳ではない、我が姉シェッタが嫌いな野菜を食べ残すと、母マリスより怒り、食べ終わるまで泣き叫ぼうが決して許さないのである。愛の鞭を振るうことに躊躇いは無い。
俺が家族以外の村人に迷惑を懸けているんじゃないかと思ったんだろう。
「違うよ、誰にも教えて貰ってないよ。お父さんが今、持ってる本で一人で勉強してたんだよ」
いちおう、嘘は吐いていない、母マリス以外からは習っていないし、教材用の本をひと通り読んでいる。
「そうか、わかった」
あれ?もっと疑われると思っていたのだが、すぐに納得してくれた。表情がまったく変わらないので、何を考えているのか分からない。
「それで、文字の読み書きを覚えて何がしたいんだ」
きた!ある意味待ちに待った質問だ。
田舎の農村では、文字の読み書きが出来るようになったとしても、殆ど役に立つ事は無い。村長とかなら、領主からの手紙や税の報告書等を書いたり読んだりするが、それ以外だと町への買出しに同行するのに有利になるだけだ。
だから、文字の読み書きを覚える者は、商人や騎士など夢見る若者が多い。七歳で文字を覚えようとする奴はいないが。
「お父さん、僕ね魔法の適正が無かったから、魔術を覚えたいんだ」
異世界モータルセンヌでは、魔法と魔術は別物で、魔法は先天的な才能が無いと、いくら努力しようが覚えることができず、魔術は魔力さえ持っていれば習えば使うことが出来る。殆どの人が量はともかく魔力を持っている。
異世界モータルセンヌに転生したが、この身体には魔法の才能が無かった。魔法の才能が無くても困りはしないが魔術師としてかなり興味は有ったので残念だ。
魔術は誰かに習わなくても、前世の記憶が有るのでいくらでも使えるのだが、誰にも教わらずに魔術を使うのは怪しすぎるので、誰かに習ったという事実が欲しい。
「そうか、なら教会のリムス神父様に習うといい、あの人はいくつか魔術を覚えている、昔は村の人間に魔術を教えようとしていたから、快く教えてくれるだろう」
リムス神父、光の神シャナンの敬虔な信者なのだが、方術の適正がないため方術が使えず、それでも教えに従い、人を救おうと魔術を学んだ高潔な人だ。
こんな信仰深い人なのに、光の神シャナンも融通が利かない。
「うん、わかった!教会に行ってきます」
「待て」
嬉しさのあまり、教会に走って行こうとしたがザーインに止められる。
「授業料代わりに野菜を持っていきなさい、分かっていると思うがお賽銭として渡すんだぞ」
「うん」
父よ、俺は分かるが、普通は七歳の子供は分からないと思うんだが。
「それと、明日からは畑仕事を今までより手伝ってもらうからな」
「えっと、僕まだ身体が小さいから出来ることが少ないよ?」
小さな子供が出来ることなど、小石拾いに、収穫、水遣りぐらいで、収穫が終わっているから、これらはしなくていい物もあるし、すぐに終わってしまう。畑を耕さなければいけないが、この身体の筋力では鍬は持てないぞ。
「魔力操作による、身体強化もリムス神父様から教わってきなさい、おまえは赤ん坊の頃から無意識に魔力操作と魔力放出をやっているみたいだからすぐに覚えられるだろう、鍬を持つのに不自由しないだろう」
どうやら俺は、ザーインを甘く見ていたらしい、秘かに訓練していた魔力操作と魔術の訓練がバレていた。魔術はきちんと理解していないのか、ただの魔力放出と思っているみたいだが、魔術とばれていたらややこしい事に成っていた。
「う、うん、わかった」
顔を引きつらせながら、ザーインが用意してくれた、リムス神父に渡す野菜を受け取りる。
「魔力操作が出来るようになれば、魔力放出を止めなさい、魔力が一箇所に留まり続けると最悪、魔物が生まれかねん」
「うん、そ、それじゃあ行ってきます」
これからは、もっと繊細に魔力操作と魔術の訓練をして、ばれない様にしなければと考えながら教会に向かい走っていた。
俺は、村に一つだけある教会にたどり着いた。
この教会は光の神シャナンを奉っている。教会の中に入り礼拝堂から神父リムスを呼んだ。
「こんにちわ、リムス神父様、いらっしゃいますか」
「ハイハイ、すこしお待ちくださいね」
教会の奥から返事が返ってくる。
少し待つと、教会の奥から現れたのは簡素な法衣を身に着けた、白髪頭の老人。
「こんにちは、リムス神父様、僕はザーインとマリスの息子、コウセルと言います」
「こんにちは、私はこの教会を預かるシャナン教の神父、リムスと言います。ふふふっ、貴方は幼いのにずいぶん礼儀正しいですね」
やさしい笑みを浮かべながら、頭を撫でてくる、子供扱いされるのは不満なのだが、身体が小さいからどうしようもない。
「はい、ありがとうございます。この野菜は父から教会へお渡しするように言われた物です」
「そうですか、ありがとうございます」
リムス神父は俺から野菜を受け取りそれを横に置くと用件を尋ねてきた。
「それで、コウセル君、今日は何か用事が有るんじゃないですか」
「はい、お父さんに魔術を習いたいと言ったら、リムス神父様がいくつか使えるから、リムス神父様から教わってきなさいと、教えてくれたので来ました」
俺から話を聞くと、リムス神父は少し困った顔をしていた。子供である俺には早いと思ったんだろう、こっちは実際、魔術を教えるぐらい多彩に使えるのに。
「コウセル君、魔術を教えて上げても良いんですが、まず文字の読み書きがキチンと出来ないと教える事が出来ません、文字の読み書きは出来ますか?」
「はい、お父さんと、お母さんに習ってきました、キチンと出来ると合格も、もらっています」
リムス神父は驚いた顔をしている。田舎の農村の住民なら、文字を覚えずに一生を過ごす人も珍しくないので、リムス神父は幼い子供が文字を読み書きできる事に驚いているのだろう。
「そ、そうですか。う~~ん、ではまず、庭に出ましょう、心配ないと思いますが魔力を持っているか確かめ、魔力を認識出来るようになる訓練をしましょう」
「はい、わかりました、リムス神父様」
教会の庭は小さな畑と机と椅子が有り、他は薬草を天日干ししている。
「コウセル君、ココには何度も通うことに成りますから、先に注意して置きますね。畑には薬の元になる薬草を植えていますので悪戯はいけませんよ、干しているのも薬草ですので触らないように」
「はい、リムス神父様」
畑の薬草は低級の物みたいだ。等級の高い薬草は危険な土地にしか生えていないし、特別な施設でない限り、等級の高い薬草は栽培出来ないので仕方が無い。
等級の低い薬草で作った薬では効果も低いのだが、リムス神父の貴重な収入元なのだろう、村の寄付だけでは暮らして生けないからだ、それに、リムス神父が薬を作ってくれないと、町に行き高い代金を支払わなくてはならなくなるので、村の人間としては大変助かる。
「では、あちらに有る椅子に座って待っていてください、魔力の量を測る道具を持ってきます」
「はい」
俺は椅子に座るり、リムス神父を待っているとすぐに、小さな石を持て戻ってくる。
それは魔法の適正が有るかを調べる魔法石だ。
魔法の適正があると属性により様々な色の光を放つ。火は赤、水は青、風は緑、土は黄、聖は白、闇は黒の合計六つの属性がある。
属性が複数あると交互に光る、火と風なら赤と緑の光が交互に光る。魔力があるが魔法の適正が無いと無色の光を放つ。
適正が一つだとシングルの魔法使い、二つだとダブルの魔法使いと呼ばれ最大六つセクスタプルまで有る。
この時の光量で魔力のおおよその量を測る、リムス神父が持ってきた魔法石では正確には測れない。都会にはもっと正確に魔力量を測るための道具がある筈だ、前世で正確に戦力を測るために俺が開発して各国に実物と設計図を渡している。
他国が正確に自国の戦力を測れるようになる為、プランマ王国の大臣や軍人には苦い顔をされたものだ。
「では、コウセル君、この石を握って貰えますか」
「はい」
俺が石を握ると無色の強い光が出てくる、七年前、魔法適正を調べた時よりも少し光量が多い。魔力の量も生まれついて殆ど決まっているが、魔力を使い続ければ僅かながら増えていく、転生してから七年間の努力が実っていて良かった。
「凄いですね、魔法適正はありませんが、魔力量はBランクくらい有るんじゃないでしょうか」
前世で付けられたランクもBランクだったから、ランクの基準値は変わっていないようだな。Bランクはなかなか居らず、国が雇うなら、直ぐに騎士見習いに採り立てて、数年勤めれば正式に騎士として雇って貰えるだろう。Aランク位まで行くと一騎当千で直ぐ騎士か、それ以上の地位で雇われ、Sランクなら戦術兵器みたいな扱いになり、爵位を賜ったり、戦時であれば直ぐ王族入りしても、不思議ではない程、希少な存在だ。
「次に行きましょうか」
リムス神父は俺の背中に周り、背中に手を置いてくる。
「今から、私の魔力をコウセル君に流していきます、身体の中に何かが流れ入ってくる感覚を掴んでください。長い時間が掛かる事なのでゆっくりやってい来ましょう」
「はい、リムス神父様」
「では、いきますよ」
俺の体の中に魔力を流し込む為に魔力を練っているのが分かる、自分の身体の中に有る、自分の魔力を始めて感じるのは難しいし、外に有る、他人の魔力を感じるのはさらに難しいため、この時点では何も分かっていないことにする。
前世の魔力の感覚を掴む修業と殆ど変わらないが、だいぶ時間の掛かるやり方だ。
俺が前世の親から、されたやり方は、紫色のドロドロした、どう見ても毒にしか見えない霊薬と、体中に紋様を書かれ、害意を持て魔力を流された。霊薬により魔力に敏感になり感覚を掴みやすくなり、紋様が親の流した魔力の場所を光って、魔力が何処に有るか示していたが、害意を持って魔力を流せれた事により、激痛が駆け巡った。その修行が終わるときには意識が朦朧としており、身体中から体液を漏れ出す醜態を晒し、決して忘れられない記憶になっている。
地球の親のやり方はひどいのでもう少し優しく、リムス神父のやり方は緩すぎるので、もう少し厳しくした方がいいのではないだろうか。
過去の辛く恥ずかしい記憶を思い出し、改良点を考えていると、リムス神父が、魔力を練り終わり、身体の中に流し込んできた、暖かく優しい感じだ。
「あ、今、魔力を流し込んでいませんか?」
「もう、分かったのですか!」
リムス神父が驚いている、たぶんこのやり方で魔力の感覚を掴むには、早くて一ヶ月、長ければ一年以上掛かる、それを一日で魔力の感覚を掴んだのだから驚くだろう。
「で、では、身体の中に有る、私の魔力を外に追い出してください」
「わかりました」
さっさとリムス神父の魔力を外に出す為に魔力操作を行なう。
リムル神父は俺の行なう作業を見て、呆然としている気配を感じた。俺も今、自分と同じ事をする七歳児居れば、驚くが呆然とはしないだろう、地球には居たのだ、このレベルを軽くこなす天才たちは。
「終わりました、リムス神父様。キチンと出来ていましたか?」
完璧にこなしているが、分かっていないように装う。
「ええ、完璧な魔力操作でしたよ、凄いですね、魔力に関しては才能があるんでしょう」
あんまり、初めての事を簡単にこなすのは異常なので、少し言い訳をしておこう、無いよりはマシだろう。
「お父さんが言っていたんですが、赤ちゃんの頃から魔力操作と魔力放出をしていたみたいです。僕は覚えていないので、無意識に行なっていたみたいですが」
「なるほど、魔力量が多い者は、無意識に魔力を垂れ流していると聞きますが、コウセル君もそうだったのか知れませんね。魔力は元は生命力と聞きますし、魔力を外に漏らさないようにするために魔力操作を行い、溜まりすぎた魔力を外に出すのに魔力放出を行っていたという事ですか」
都合がいい事に、一人で勝手に納得してくれている。この感じからすると魔力に関する知識は少ないみたいだな、魔術師ではなく神父だから仕方が無いか。