シビア
すみません、更新が遅くなりました。
馬車に乗り、揺られながらのんびりしていると町が見え始めた。
シビアだ。アンニーの城門が開くと同時にアンニーを紺狼商店の店員一人と一緒に出発して、日暮れ頃に付く事ができた。
シビアに設けられた検問所で検問を受けてシビアに入市出来た頃には日が完全に沈んでいた。
シビアの検問所の検問は利用者が多いせいか、簡単な取調べだけで済んだ。魔法の鞄は所持している事を言わなければ、知られないまま検問所を越える事が出来ただろう。忙しいのは分かるが検問がザル過ぎるんじゃないだろうか。
俺は疑問に思ったことを一緒に来ていた紺狼商店の店員に聞いてみた所、魔法の鞄は高価な物だから持っていると想定する事が殆ど無いらしいしく。
持っている者は殆どが裕福な者なので黙っている事は殆ど無く自分から申告するらしい、所持している事は一種のステータスなるからだ。
今回は紺狼商店の物として検問官に報告しているので俺が所持しているとはバレいない、一応、外套のフードを深く被り顔が分からないようにしていた。
魔法の鞄を持っていることがバレれば、便利な奴ということで勧誘があるだろう、最悪、盗みに来る奴も出てくる。
少し警戒しすぎなように思うが絡まれるよりはマシだろう、俺の快適な迷宮探索生活の為だ。
その日は紺狼商店がまだ行商していた時に利用していた宿屋(子犬の寝床)で休むため、子犬の寝床を目指して馬車を進ませる。
子犬の寝床はアンニーの泊まっていた宿屋(熊の手亭)と変わらない感じの宿屋だ、かなり可愛らしい名前の宿屋だが宿に入って迎えてくれたのは、ごっつい犬人族のオヤジで他の従業員も子犬と呼べる人は居なかった。
――――きっと昔は子犬と呼べるような感じの人も居たんだろう、時間の流れは残酷だ。
愛でる癒しが有ると思った分ちょっとショックだったが、シューバ達が贔屓にしていただけありサービスは悪くないようなので、地上で寝泊りする時はここを利用しようと決めた。
翌日、紺狼商店の店員と一緒に商業ギルドで貸し倉庫の契約して、俺がリディアの迷宮で取ってきた素材などを置いておき、紺狼商店の者が置いている素材を持って行けるようにした。
一回の探索で持ってこれる素材の量は魔法の鞄があるとはいえ限度がある、冒険者の稼ぎとしては多くても商店の利益を考えると少ない。
そうなると一回の探索で持って来た素材を一々、シビアからアンニーに運ぶと輸送時の手間、護衛代を考えると利益が少なくなるから期限を決めて何日か経つと倉庫に取りに来るようにしている。
まあ、貸し倉庫の使用料も安くは無いし、いずれ支店をシビアに建てると言っていたが遠回しに素材を取って来いとプレッシャーを懸けられているような気がする。
そして、貸し倉庫の契約をした商業ギルドだが、商業ギルドは中小商人の互助会のような組織だギルドに登録していれば色々なサービスを受ける事が出来る倉庫の貸し出しもサービスの一つだ。
大手の商会は商業ギルドとは、あまり関わりは無いが、大きな取引をするときは商業ギルドを第三者として契約したことを証明する立場になる事を依頼することがあるらしい。
貸し倉庫の契約が終わると紺狼商店の店員とは商業ギルドで仕事があるからと別れ、俺は探索者ギルドに行く事にした。
シビアは内区と外区、二つの区に分けられていて、探索者ギルドは内区に在る。
この内区と外区を分けているのは防壁で、防壁の内側が内区、外側が外区に分けている。
防壁は万が一、リディアの迷宮から魔物が溢れた場合、魔物を外に逃がさない為の物で外からの攻撃を防ぐ物ではない。
迷宮は一定の周期で魔物を大量に発生させる氾濫、大氾濫という現象を起す時がある、迷宮の種類によっては発生する事の無いのもあるが、リディアの迷宮は昔は発生する恐れがあった。
今のリディアの迷宮は迷宮の主をある探索者が倒してしまい氾濫などが起こらなくなり、迷宮が広がらなくなっている。
この状態の迷宮を止まった迷宮と言われ、さらに異空間が消滅して、何も生み出さなくなった迷宮は枯れた迷宮と言われ、唯の洞窟になる。まあ、それでも価値が無い事はないが一般的には無価値とされているみたいだ。
こういった迷宮は様々あるが何のために造られたかは分からない、自然に出来たという物もあるだろうが謎のままだ。
俺の予想では上位存在、神様みたいな存在や悪魔みたいなのが娯楽のために作ったと思っている。モータルセンヌは神々や悪魔たちとの距離が近い世界みたいだからな。
防壁を潜り、内区へ入ると舗装された道があり、建物は外区より立派な建物で在ったり、品を感じさせるものが多い。
昔のシビアでは防壁の内側は危険地帯だったが、今では高級地区になっていて内区に住宅や店を構える事はステータスとなるらしい。
おそらくシビアに左遷された貴族が「限られた土地に屋敷を建てている自分はすごい」とかの自尊心を満足させる為に言い始めたのが原因だと思っている。
リカーゲザが教えてくれたシビアの情報に貴族は内区にしか屋敷を構えていないから内区に行く時は気をつけてるようにとアドバイスを貰ったからな。
町並みを眺めながら舗装された道を歩むと、おそらくシビアで一番大きな建物に辿り着く。
探索者ギルド。シビアの中心にあり一番、大きな建物になる。
リディアの迷宮の入口を覆い、建物の中には様々な部署があり、冒険者ギルドのスペースも探索者ギルドの建物の中にある。
探索者ギルドの中はアンニーの冒険者ギルドのカウンターなどを増設したりと、さらに大きくした感じで迷宮の入口の警備などが特徴的なぐらいであまり変わらない。
探索者ギルに登録しないといけないので探索者ギルドの近くのカウンターで尋ねる事にする。
「すみません、探索者ギルドに登録したいんですが、どちらですればいいんでしょうか」
一番近くのカウンターには、ぱっとしない気だるそうな男が座り、ぼうっとして話しかけるまで俺には気付いていなかった。
「ああ、登録ですか、ここでも出来ますよ。冒険者ギルドのギルドカードはありますか? それなら早く登録をすることができますよ」
おや、冒険者ギルドに登録しているか、どうか聞くのは決りになっているのかな? リカーゲザは聞かれるのは少ないように言っていたが。
「はい、持ってます」
ギルドカードを男に渡し、男は受け取ったギルドカードを|魔導機器(魔導パソコン)に差込、何かを打ち込み、打ち込み終わるとギルドカードを取り出し渡してくる。
「はい、登録は終了しました。これで迷宮に入れますよ」
早いな、十秒も経ってないんじゃないのか。というかこれで終わりか? 迷宮に入る際とかの説明とか注意事項の説明は無いのか。
「あの、迷宮に入る際の注意事項や説明なんかは無いんですか?」
「えっ、ああ説明ですね今から簡単にしますね――――チッ、めんどくっせーな」
おい。今、小言でめんどくさいとか言いやがったなこいつ、アンニーの不真面目ギルド職員サンテ―――俺が勝手に命名―――でも仕事はちゃんとしようとているぞ。仕事が出来ているか、どうかは別だが。
それから、男のおざなりな説明を受けた。迷宮に入る時は探索者ギルドで登録処理したギルドカードを迷宮入口前の係りの者、見せれば入れる。
10階層までは暗い洞窟なのでランプなどの道具を揃えて入らないと何もできないそうだ。そして説明はそれだけで終わった。
文句を言いたい思ったが、やる気の無い職員の男からこれ以上説明を聞いても、ためにならなさそうだし、リカーゲザの話だと探索者ギルドは新人教育は全くしていないと言っていたからな。
探索者ギルドのカウンターを離れてこの後どうするかを考える。
本格的に動くのは明日からにして、これから暇つぶしも兼ねて迷宮に入ろうと思うがどうするかな。
迷宮探索は今世では初めてだし、前世では優秀なベテラン探索者パーティと一緒に数回探索した事はあるが細かい仕事はまかせっきりだったので探索のノウハウを教わっていないので不安だ。
魔術を使えば何とかなるかも知れないが、魔術だけを当てにすれば痛い目に遭いそうだ。魔術も万能ではないからな。
リカーゲザの話では新人指導をしてくれるベテラン探索者を冒険者ギルドで雇う事が出来るとか言っていたな、冒険者ギルドのカウンターに行ってみるか。
しかし、リカーゲザから話を聞いたときは頭が痛くなったな。探索者ギルドは経費をケチって新人探索者の教育しないし、冒険者ギルドが新人探索者の教育しようとすれば越権行為だと探索者ギルドが怒ってくるらしい。
探索者ギルドは冒険者ギルドに探索者に対する影響力を持っていかれるのが嫌で新人の教育をしないように言っているが、それなら何で経費ケチって新人の教育を何でしないんだろうか探索者の支持も得られて得するだろうに。
というか探索者ギルドは自分たちに影響力があると思っているんだろうか、リカーゲザの話だと全くない訳では無いが何もしないから殆ど影響力はないとか言っていたな。
シビアの探索者ギルドの幹部はシビアに住んでいる貴族が中心だったな。あれかアホ貴族に多い身分至上主義者なのか、平民は無条件に自分たちに言う事を聞くとか勘違いしている。
絡まれたらめんどくさそうだ。 貴族だから頭は悪くないが性格が悪すぎるからな、まあ幼い頃から甘やかされて育ったせいかも知れないが救いが無い連中が多いからな。
前世でもプランマ王国にはアホ貴族は居たな、王権と武力で大概のアホ貴族は磨り潰したが、かなりめんどくさかったな。まあ、今世では気にする必要も無いから気楽なものだ。
冒険者ギルドのスペースでは職員が常に動いて働いている、探索者ギルドの気だるそうな男性職員しか見てないが探索者ギルドは組織的に腐ってるんじゃないだろうか、そんな風に思ってしまう。
「いらっしゃいませ、冒険者ギルド、シビア支部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
女性職員がカウンターに俺が近づいて来た事に気付き、声を掛けてくる。
「迷宮の一階層を探索したいんですが初めてなんで、探索者を一人斡旋してくれませんか」
冒険者ギルドは建前でパーティメンバーを斡旋しているだけで探索者の教育をしていない事になっているので直接、指導役の探索者の雇いたいとは言えない。
「分かりました、まずギルドカードの提示をお願いします」
ギルドカードを渡し、受け取った女性職員は|魔導機器(魔導パソコン)に差込、データを読み込む。
「コウセルさんですね。一階層の探索ということですが1日だけでよろしいですか?」
「はい、今から1日だけ探索しようと思ってます」
「そうしますと、仲介料として銀貨三枚三千エルド必要ですがよろしいですか?」
「分かりました」
銀貨三枚出して仲介を頼む事にする。この仲介料は殆どが指導役の探索者の報酬になる、何割かわ冒険者ギルドが持っていくらしいが内訳は知らない。
大々的に動く事が出来るなら、後から指導役の報酬分の金を後から回収する事も出来るが、隠れてしている事なので先に報酬分を支払わないといけない。金が無いと先に幾つかの依頼を受けた後に指導役の探索者を斡旋してくれる。
「では、こちらにどうぞ」
女性職員について行き、大きめの部屋に案内される。部屋の中には何人かの中年の男がいる。彼等が指導役の探索者だな。
女性職員が何かの資料を見ながら名前を言う。
「え~と、次はバラックさんですね。―――バラックさん! お願いします」
「おー、今日は仕事がないと思ってたから良かったよ。仮パーティを組むのは兄ちゃんかい?」
名前を呼ばれて出て来たのは黒髪に白髪が混じり始めた中年のおっさんだ。
「はい、コウセルて言います。よろしくお願いします」
「おう、バラックだよろしくな」
「では、私は戻りますね。バラックさん、コウセルさんをよろしくお願いします」
部屋を出て、女性職員はカウンターに戻り、俺とバラック二人だけになる。
「呼び方はコウセルで言いか?」
「はい、俺はバラックさんと呼ばせてもらいます」
「分かった」
気の良いおっさんみたいだな。俺を見下して舐めている感じはしない。
「それでコウセルお前、探索用の道具は揃えてあるのか?」
「今持ってるのは旅用に物ですから、探索用の道具とは言えませんね、足りない物もあるかも知れません」
「そうか。なら、まずは購買所で足りない物と買い換えた方がいい物とか見てくるか。コウセル行くぞ」
バラックに案内された購買所はなかなか広さで品揃えも豊富みたいだ、盗み防止のため入口には警備が立っており店内は死角が出来ないようになっている。
さて、買い物なんだがすぐに終わってしまった。
「迷宮向きの魔術が使えるのは便利だな、買ったのは地図を描くための道具ぐらいか」
表だって使える魔術でも十分、迷宮探索の役に立つので殆ど荷物は買わなかった。
「それじゃ、今から迷宮に潜るけど大丈夫か?」
「はい」
「色々、注意することはあるが迷宮に入ってから実地で教えていく。それと迷宮が怖くなったら恥ずかしがらずに言えよ、ぜってーに我慢はするなよ」
「分かりました」
閉所恐怖症じゃないけど、どうしても狭くて暗い場所が苦手という人はいるからな。
「何だ、コウセルは適正の事は知っているみたいだな。昔、適正の無い奴を指導した事が有るんだがな、そいつは我慢して奥まで進んだんだが、途中で暴れ始めて最後には倒れやがった」
うわ、すごくめんどくさい状況だな人一人抱えるとかなり行動が制限されるぞ。
「今のみたいに上階層も魔物とかが枯れていなかったからな、それなりに魔物もいて苦労した。まあ、そいつはの場合はパーティを指導してたから何とかなったんだけどな。コウセルみたいにソロの奴はなかなかいないぞ」
やっぱ、ソロで動く奴は珍しいか。
「無理だと思ったら諦めますよ、どうしてもソロで活動したいというわけじゃないですし、やばいと思ったらパーティを組むことも考えます」
「俺もここでは古株になる、何処かのパーティでも紹介してやろうか? コウセルなら引く手数多だぜ、お前の魔術は荷物持ちに最適だからな」
探索者と言わない所にちょっとした意地の悪さを感じる。攻撃用の魔術がないせいかも知れないが。
「困った時にはお願いします」
「おう、任せとけ、銀貨三枚で紹介してやる」
金を取るつもりかよ、ちゃっかりしたおっさんだ。