閑話 父、我が子を思う 2
後編です。
グロい表現あります。
コウセルが冒険者になると言ってから半年ぐらいが経っただろうか。
冒険者になるといい始めてから、早朝、槍の訓練をしている。
未だにコウセルには負けたことが無いが、それは体格差が大きいせいだろう、半年と言う時間を考えればすごい速さで技術を身に付けているが、防御はともかく、攻撃の仕方がお粗末だ。
コウセルと試合をすると防御はすばらしいが、攻撃は大振りばかりで下手だ。何か一つ欠けているみたいに感じるが気のせいだろう。コウセルにも苦手な事があると少し安心した、コウセルも人の子なんだなと。
訓練が終わり、朝食の席でコウセルが今日の予定を聞いてくる、畑を耕すと言うとコウセルが昨日渡したばかりの魔導書の魔術を使えると言う。
失敗しても大丈夫だから言っているんだろうか、少しプレッシャーを懸けてみるか。
冒険者をやっていれば情報不足の中、損してでも退くか、命を懸けてでも進むか選ぶ等の決断を迫られる時がある、決断を勘でする事もあるだろう。
今はそんなに大袈裟じゃあないが、勘を養うにはいいだろう、失敗しても命は取られない。まあ、マリスとシェッタが怖いがな。
コウセルは魔術で耕す事を止めず、する事を決めた。
愚痴では無いが罰を与えてくる事が不思議に思ったのか、質問してくる。私の考えを答えてやると成長が見えず、難しい言ってくる。
だが、それは仕方が無い、後は神様に助けて貰えるように善行を重ねろと言っておく。
まあ、神様が助けてくれた所は見たことが無いが、人が人を助ける所は見たことがある。
悪い事をしていれば人に嫌われ、良い事をすれば人に好かれる、善行を行っていれば道を誤らす人に嫌われる事は無いだろう。コウセルもそう在ってほしい。
朝食が終わり、コウセルとシェッタを連れて畑に行く。
魔術を使うからとコウセルが魔導書を片手に畑に一人でしゃがんで手を付くと、詠唱を始める。
聞こえてくるのは、言葉ではなく音だ、奇妙な音を声に出し始め、最後に(耕作)と意味の分かる言葉で締めくくると、畑に変化が起きる。
コウセルの手の付いた所から土が盛り上がり、柔らかい状態に成っていく、堆肥も混ぜ込まれ鍬で耕す必要は無いだろう。
シェッタは初めて見た光景に驚き、もう一度と強請っている、コウセルも自慢げな顔をしている。
畑を耕しただけだが、昔見た土属性の魔法使いより凄いんじゃないだろうか、やっている事が違うので比べようが無いが、昔見た魔法使いはここまで広い範囲に魔法を使うことが出来たか?
疑問に思うが確かめることが出来ないことを歯痒く感じた。
その後、シェッタは家に帰し、コウセルと木を二本ほど切り倒してから、コウセルは魔導書を持って教会に行き、私は晩になるまで、切り倒した木を薪にできるサイズに切ったり割ったりしてから家に戻った。
コウセルが家に帰ってくると魔導書をリムス神父様に貸した事を言ってくるがリムス神父様なら別にいいだろう、あの人は悪い事をする人じゃない。
それより、夕食の時からコウセルが視線を向けて来ることが気になる。
それから夕食を食べ終え、食休みに矢を作っている時にコウセルが意を決して質問をしてくる。
「お父さんはどうして、冒険者を辞めて、ノキ村に帰ってきたの」
矢を作る手を止めてコウセルの方に顔を向ける。コウセルは私に聞くのが辛そうな顔をしていた。
ノコモ村長に何か言われ気になっているのか、どうせ負け犬とか逃げ帰ってとか言ったんだろう。
それを肯定するような事を言うとコウセルは悲しそうな顔をする、情けない父親でショックだったかな。
その後、私の冒険者だった時の話をした。
本当に今考えれば馬鹿な事をしたもんだ、夢を追いかけて村を出たのに、その夢を忘れていたんだからな。
そういえば冒険者ギルドのサブマスターは元気にしているだろうか、何人か世話になった人もいる、特に剛閃ギウスはどうしているだろうか。
噂では歳で引退したらしいがその後どうしているんだろう、元気にやっていればいいんだが。
話終えるとコウセルはいい教訓になったと言ってくれた、情けない話だったがして良かった。そして、改めて帰る場所がある事が嬉しい事だと思った。
コウセルが疲れたら何時でも帰ってこられるように家を守ろう。
それにコウセルと私の夢は違ってしまっているが、もし必要なら代わりに夢を叶えてくれると言う、嬉しいじゃないか親の夢を子が継いでくれるなんて。
それからまた、日々が経ち色々変って行く、コウセルが斧を壊してしまったり、狩りに熱中してケイッコー鳥の赤羽を何枚も採ってきたり、シェッタが結婚してしまったり。
そして二年の月日が流れ、ノキ村最大の事件が起こった。
行商人のシューバから魔物がノキ村の在る地方に迷い込んでいるのを噂を聞いた。
コウセルは噂の事を知っているがあまり危機感を持っていないみたいだ、噂を聞いた後でも変わらず狩りに出掛けていった。
一応、魔物を見つければ一人でどうにかせず報告するように念押しをしたが、ちゃんと守ってくれだろうか。
そんな事を思いながら村で待機していると、北門の方から警戒鐘が鳴り響く。
家の中に居る者は戸締りをして籠もているみたいだが、広場に居る者はやっている仕事片付けながらゆっくり非難している。
「何をしている! さっさと非難しろ!」
広場に居る村の住人は叫んでいる私を見て、呆然としているか、うるさく言われた事に反発している。
魔物の怖さを分かっていない、野生の動物程度にしか考えてないのか。仮に野生の動物と強さが変らなくとも魔物は野生の動物よりも賢く凶暴だ、自分の獲物になる者を躊躇無く襲い掛かる。
モタモタしていると広場に二体、魔物が現れた―――――レッドアイベアか。
現れたレッドアイベア一頭に、すかさず槍を突き刺す。位置的に頭に攻撃できなかったが仕方が無い。
他の自警団の者を集まり討伐を始める。私が相手しているレッドアイベアは普通だが、もう一頭のレッドアイベアは少しおかしい、自警団の者を腕の一薙ぎで蹴散らしている、幸い怪我はしていないみたいだが武器を破壊または弾き飛ばされ逃げる事しかできない。
冒険者時代に使っていた愛槍なら、目の前のレッドアイベアを簡単に倒せるが、今持っているのは唯の槍だ時間が掛かる。こんなに凶暴なのが来るなら愛槍を持ち出しておくべきだった。
情報が不足している中、準備を怠るとは、なんとう言う無様さだ。
武器を破壊された自警団はレッドアイベアと距離を取る事が出来たが、レッドアイベアが狙いを変えて逃げ遅れた子供を狙う。
怯えて動くことが出来ない子供にレッドアイベアが襲い掛かる瞬間、レッドアイベアと子供の間にリムス神父様が飛び込み(結界)だろう、光の壁が子供とリムス神父を守る。
一先ず危機は回避できたが、リムス神父様は結界を維持する事でいっぱいなのか動くことが出来ない、子供も怯えていて未だに動けない。私も今相手しているレッドアイベアがいるから助けに行けない。
レッドアイベアが結界に攻撃を加えるたびに結界に罅が入り壊れていき、リムス神父の体が衝撃に耐え切れず揺れる。一際、大きな雄叫びを上げて振り上げた腕をレッドアイベアが振り下ろそうとした時、レッドアイベアに何かが首を切り裂き、食い込む。
警戒鐘の音を聞きつけてたのだろう、コウセルが広場にやって来た、コウセルならレッドアイベアを相手に安全に時間稼ぎが出来るはずだ、私は目の前のレッドアイベアに集中して討伐をする。
相手にしていたレッドアイベアを討伐してコウセルの方に視線を向けると、無防備なレッドアイベアの後姿が見える。
魔力を出し惜しみなく使い、一突きで頭を吹き飛ばした。
二体のレッドアイベアを討伐し終わり、コウセルに怪我がないか訊ねると、大丈夫だと返事を貰い安堵する。
見張りをしていた者が魔物が二体だと言っていたが一応、村を見回り魔物が居ないか確かめてから広場に戻る。
広場に戻り、二体のレッドアイベアをどうするか話そうとするとコウセルが片方のレッドアイベアが超越種じゃないかと説明してきた。
問題のレッドアイベアを相手した自警団も超越種か分からないが普通ではなかったと言い、調べる為に急遽、解体することになり腹を切り裂くと腹から死体が次々と溢れ出てくる。
人の死体などは見たことがあるが、これはそういったおぞましさとは別の嫌悪感を与える。コウセルもあまりの醜悪さに顔を青くして固まっている。 興味本位で覗いていた者は多くが嘔吐し、気を失う者も出って来る。
恐怖した村人が二体のレッドアイベアを焼いて処分して欲しいと頼まれ焼却する事になった。魔物が出た事を領主様に報告すれば事実か確認の為に、ノキ村に使者が来るだろう、その時の為に証拠として残して置きたかったが仕方が無い。
レッドアイベアを焼却し終わるのを見張る自警団メンバー以外はノコモ村長の家で会議する事になった、その会議にレッドアイベアと対峙したコウセルとリムス神父様が特別に参加した。
会議を始めて早々コウセルが森の探索とノキ村の北の方に在るヨル村の調査を提案したが、森の探索は却下されたがヨル村に様子見するだけという条件で採用された、コウセルが積極的に動こうとしているが今はまだ子供だ無茶はさせられない。
会議が終わり、領主様とヨル村の様子見に行った者の報告を待つまでの間、死体の処理と死体が身に着けている身元の分りそうな物を遺品として取り外さなければならないんだが、気味悪がって誰もしたがらないから時間が掛かった、コウセルは手伝ってくれたが何とも思わないのか心配になって聞いてみると。
「亡くなった人には悪いけど、気持ちが悪いと思うし触りたくない。だけどそれ以上に遺体をこのままにするのはイヤだ。もう誰か分からない人もいるけど、埋葬だけはしてやりたい」
普通に死体に嫌悪感を抱いていたが、それ以上に遺体を放置するのがイヤだと言ってくれた、コウセルが優しく強い子でよかったが、初めて見るだろう人の死体にあまり動揺していない、戦う者としては良いのかも知れないが心に歪みがないか少し心配だ。
死体を片付けた次の日の晩に、ヨル村に様子見をしてきた者が戻って来て、ヨル村が壊滅している事が分った。
再び会議する事になり、コウセルが今すぐ助けに行かないなら一人でも行くと言い放ち、流石に強くとも成人していない子供を一人で行かせる訳には行かないし、心情的にも助けに行ってやりたいと皆が思っているため助けに行く事になった。
私も付いて行ってやりたかったが、私は村の守備の為、残る事になりコウセルと自警団六人がヨル村に行く事になった。私情を挟むが自警団の皆にコウセルが無理をしないように注意して欲しいと頼んだ、皆快く聞いてくれたのだ安心だ。
戻って来た後にヨル村に行った自警団の皆にコウセルの様子はどうだったか聞いてみると、すごいの一言だった。
ヨル村に着き、最初は役割分担して村に住みついた野生の動物を駆除していたが、コウセルは身体強化などを使い殆ど一人で片付けてしまい自警団の六人は殆ど駆除をしなかったらしい。
他の食い荒らされてしまった遺体の処理も積極的にし、出来る限り遺族の要望を叶えていたそうだ。
コウセルは自警団のメンバーと比べて自分が強い事を自覚したはずだ、優しい子ではあるがこれだ自分の力に溺れなければ良いんだが。
コウセル達がヨル村から帰ってきてから、ヨル村の生き残りはノキ村の住人の家にバラバラに泊まることになり、我が家でも三人受け入れて過ごすことになった、母親一人と子供が二人で、コウセルとシェッタ、コッチが仕事の合間に子供二人の面倒を見ていた、母親の方はマリスが何かと気に掛け慰めていた。
私は無愛想で怖い顔をしているからと家族から距離を取るように言われた。―――――笑顔の練習でもした方がいいのだろうか。
それから三日経つと領主様の名代として従士様が一人と兵士が十人がノキ村に訪れた。
従士様がレッドアイベアを焼却してしまった事を不満に思っていたが、遺品とヨル村が壊滅した事を聞いて何とか納得された。
その後、従士様の指示で兵士の一人は領主様に報告に戻り、兵士二人とヨル村の生き残り一人を道案内として連れて行きヨル村を調べに行かせ、残りは森狩りを行う事になった。
森狩りは人数が少なく行なわれた日数も短い為、私を含め元冒険者だった自警団のメンバーは不満だったが領主様の名代で来られた従士様逆らうわけにはいかず文句が言えないまま終わってしまい、従士様と兵士は帰り、魔物騒動は終わった。
ヨル村の生き残りは、冬の備えをしていないヨル村に帰す訳にはいかないのでノキ村で過ごす事になった、しかし、突然、人数が増えた為、急遽、冬の備えの足りない分を揃える必要が出ってきた。
畑仕事が残っている家は終えている家に手伝って貰い早く済ませ、村全体で木を切り倒し、狩りを行った。
畑仕事はリムス神父様とコッチ、コウセルが活躍して思っていた以上に早く終わらせ、狩りもコウセルが身体強化などを使い、大量に狩って来たので余裕を持って過ごす事が出来た。
ギリギリだった場合は多分だか、ノキ村の住人とヨル村の生き残りの間に険悪な雰囲気になり喧嘩が絶えない様になっていたのかも知れない。
コウセルも流石に怒涛の日々だったせいか冬越しの備えが確保できてから気が抜けたのか疲れている様子だった・・・・・・しかし、何かが出来ず落ち込んでいるように見えもしたが気のせいだろうか。
そして冬を越え、春が来た頃、ヨル村の生き残りは、ヨル村に帰る者とノキ村に移住する者に分かれた。
我が家で世話をしていた親子はヨル村に帰ってしまった、冬の間も元気に騒いでいたから静かになり少し寂しく思う。
それから日々は過ぎていき、コウセルが成人、十五の誕生日を七日前に控えた日、家族全員の前でコウセルと私は対峙している。
コウセルがマリスに冒険者になる為の条件を満たしている事を証明する為に、槍の訓練をする所を見て欲しいとお願いしたからだ。
マリスは嫌な顔をしながら、コウセルのお願いを聞き入れ、早朝に訓練を見に来た。
私はコウセルと対峙する前にマリスから勝ってくれと懇願された、私は任せろと力強く頷いたが内心、歯痒い思いをしている。
今回の勝負は魔力無しなので勝機はあるが魔力有りだと、力押しで負けてしまうだろう、コウセルをノキ村に留められる期間はコウセルが魔力無しで勝とうと思っている間だけだ。
そう、魔力有りなら情けないがコウセルには勝てないが、魔力無しなら絶対に負けてやるつもりはない。
コウセル、成人しても当分はノキ村に居てもらうぞ。
コッチの合図で試合が始まる。
結果は私の負け。
一切手は抜いていない本気だった、それでもコウセルに負けた。
コッチに(回復)の魔術を掛けてもらい立ち上がる。コウセルは汗だくで座り込んでいる。
コウセルが大きく成長した事を嬉しく思うが、反面、悲しくも思う。もう守られるだけの子じゃないのだな。
私がコウセルに正式に冒険者に成ることを許すとマリスが怒ってくる。
私はマリスを説得し冒険者に成る許可を出させる、外で危険な目に遭い死んでしまうのではないかと心配しているが無いと断言する。
世界には暴力以外にも危険は山ほどある、亡くなってしまうかも知れない、しかし、それでも不思議と無いと言い切れる。
コウセルなら大丈夫だと不思議だが確信を持てる。
マリスは疲れ諦めた顔をして許可を出した。マリスも分っているんだろう、いつかコウセルが出ていく事を。
許可を貰おうとしているのは、あの子なりの優しさだ、本当なら許可など貰わずとも出て行くことが出来るのだから―――――私のように。
そして誕生日当日、コウセルが明日旅立つ為に荷造りしている所に愛槍を持って行きコウセルに渡す。愛槍が私の代わりにコウセルを守ってくれる事を願いながら。
コウセルは驚きながらも受け取ってくれるた。
旅立ちの朝、見送りは家族とリムス神父様。友人のサブロ達は昨日の祝いで別れを済ましていたし、酔い潰れて未だに寝ているだろう。
家族では昨日、家で別れ話をしたからここですることは無い。
マリスとシェッタは涙ぐんでいる、コッチは寂しそうにしている、私はどんな顔をしているだろう、別れが寂しくもあるが、成長して旅立っていくコウセルを誇らしく思い嬉しさもある。
コウセルはリムス神父様と挨拶を交わし終えると、笑顔で「みんな、行ってきます」と言い旅立っていった。
コウセルの姿が見えなくなるまで眺め、見えなくなるとリムス神父様は教会に戻り、私たち家族も家に帰り、仕事を始める。
コウセルは優秀な子だ、すぐに噂になり名が聞こえて来るかも知れない。いや、貴族は恐ろしいと教えたから、あまり目立たないように活動するかもしれないな。
まあ、どっちでもいい生きていれば、そばを離れたコウセルの為に私が出来る事は帰ってくる場所を守ってやる位だ。
何時でも帰って来られるように家を守ろう、疲れたときに休めるように。