旅立ち
グロい表現があります。
ノキ村を襲ってきた二体の魔物を討伐してから、ノキ村の自警団とノコモ村長と個人参加の俺とリムス神父で、今後どうするか会議をする事になった。
俺は森の探索と北の方に在る村――ヨル村の調査を提案したが、森の探索は却下されたが、ヨル村の調査というか様子見は採用された。
会議が終わり、領主に魔物の事の報告と陳情する人とヨル村の様子見する人以外はノキ村に残る事になり、俺はヨル村の調査に志願したが他の人よりも戦えるのでノキ村に残る事になる。
ヨル村の様子見と領主からの返事を待つ間は死体の処理をする事になった。
そのまま放置しておくと不衛生になり、病気なんかが発生して蔓延しかねないんで火葬して供養する事になったが、身元が分かりそうな物を付けている死体から物を取らないといけないんだが、嫌がる人がやはり多く時間が掛かった。
普通のレッドアイベアも調べるために解体して腹から出てきた物は咀嚼されてしまい原型を留めているものは殆ど無かったが、超越種の方は喰いちぎった後、丸呑みしたみたいで何だったのか分かる。
超越種は明らかに体積を上回る量を腹に収めていたり、口の大きさから、口から飲み込んだとは思えない大きさの物が有ったので疑問が湧くが燃やして処理してしまったので調べることが出来ず惜しく感じる。
会議をした次の日にヨル村の様子を見に行った人がその日の晩に帰ってきて、ヨル村が壊滅している事が分かった。
ヨル村は壊滅はしているが生き残っている住人がいるみたいだが、野生の動物が血の匂いに誘われて村に住み着いている為、家の中から出られないらしい。
再び会議をする事になり、領主からの返事が着てから助けに行くか、すぐに助けに行くか話し合いになり、「今、すぐ助けに行かないなら俺一人で行く」と俺が言い放ち、強引に、すぐに助けに行く事にした。
ノコモ村長を含めて一部の大人はあまり、いい顔はしなかったが心情的には助けてやりたいという思いがあるんだろう文句を言う人はでなかった。
会議の翌日、早朝に馬車を用意してヨル村に俺と自警団六人が行く事になり出発する。
ヨル村に行く道中、探索用の魔術で魔物がまだ居るか探ったが、調べられる範囲ではいなかった。
ヨル村に着くと、住み着いた野生の動物の駆除と食い荒らされた遺体の処理に一日潰し作業した。
ヨル村で一夜明けてから、生き残った村人を連れてノキ村に戻る事になった、何人かのヨル村の村人が、ヨル村から出る事を拒んでいたので説得するのに苦労した。
ノキ村に戻り、ヨル村の住人はバラバラにしてノキ村の住人の家に泊まらせ、領主からの返事を待つ。
それから三日たった頃に、領主の名代として一人の従士と兵士十人がノキ村にやって来た。
従士はレッドアイベアを焼却したことをしたことに不満を洩らし魔物が出て来たことを疑っていたが、食い殺された人の遺品とヨル村が壊滅した事を聞いて、超越種が出た事は信じなかったが魔物が出た事は信じた。
それから従士の指示により兵士の一人はヨル村が壊滅した事を領主に報告しに戻り、兵士二人とヨル村の生き残った村人を道案内として連れて行きヨル村を調べ行かせ、残りは山狩りならぬ森狩りをを行った。
森狩りを行う事で秘密の森小屋が見つかるんじゃないかと心配したが、調べる範囲に対して人数が少なかったので深いところまで調べず、見つからないまま森狩りは終わる。
森狩りとヨル村の調査が終わると従士と兵士たちは帰ってしまい、ヨル村の住人は当分ノキ村で暮らす事になり、従士の対応に不満を洩らす声が特に元冒険者の人たちから出た。森狩りがキチンとされなかった事に不満があるんだろうが直接、文句を言うわけにもいかず、従士がもう安全だと宣言したのでノキ村の村人も安心しているので掘り返す事はせず、これで魔物の騒動は終わりとなる。
ヨル村の生き残りは冬をノキ村で過ごすことになり、人数が増えたので冬の備えが足りなくなり、急遽、薪と食料の調達をしなければならなくなった。一部は領主から支援されるが最低限しか貰えないので狩りや木を切り倒す事になり、ノキ村で畑仕事が残っている分は特別に俺とコッチ、リムス神父が魔術で手伝い早く終わらせる事になった。
無事に冬越しの薪と食料を確保できてから、俺は秘密の森小屋に行き、作る途中で放りっぱなしにしていた魔導具がどうなっているか調べたが、粉末状にしようと砕いた魔核に籠もっていた魔力が発散されており想定していた物が作れず、炎を纏った投槍程度の物しか作れなかった。
冬を越し、ヨル村の生き残りはヨル村に戻り、領主の支援を受けながら再興する者とノキ村にそのまま移住する者に分かれて、平穏な日常が戻ってくる。
俺も戻ってきた平穏な日常を過ごし、誕生日を七日前に控えた日、早朝に家族全員が起きて俺とザーインは対峙し、他は見守っている。
俺が冒険者になる条件の一つに、母マリスが出した条件、ザーインに戦い勝つという条件がある。
それを充たしているとマリスに証明する為に、みんなの前でザーインと対峙しているが、この勝負には一つ俺から条件を出している。
それは魔力を一切使わない事だ。魔力有りだと、もうすでに何回もザーインと戦い勝っているが、魔力無しだと、まだ一回も勝つことが出来ていない。
流石に一回も勝てないまま済ますのは悔しい、一度ぐらいは勝ちたい、それも数をこなす練習での勝負ではなく、真剣勝負でだ。
ザーインもこれを了承してくれ、みんなの前でマリスの前で心配ないと照明するために勝負をする事にした。
コッチに開始の合図を任せ、合図を待つ。
ザーインは腰を深く落し、槍を構えている、俺は中段に槍を構え、何時でも動けるように構える。
コッチが腕を上げ、振り下ろす同時に開始を宣言する。
「はじめっ!」
開始と共に速さのみを求めた突きを放つ。ザーインは簡単に弾くが、弾いた勢いを利用し石突きを打ち付ける。
これも簡単に防がれカウンターを放ってくるが、カウンターが来る前に移動し回避して、再び素早い突きを繰り出す。
とにかく動き攻撃を繰り出しザーインの隙を作る。
真正面から勝負しても技術は追いついてきたが体格は大きいままだ、同じ土俵だと力で逆転されてしまう。
だから動き続け攻撃をする、防がれるのは承知の上だ。それでも攻め続け隙を作ってみせる、僅かな隙でも出来れば必ず穿ってみせる。
俺の戦法はザーインも分かっているだろう、防御を固めようとするが、絶妙な間合を維持し向こうからも攻撃をせざる負えない状態にする。
防御が得意なザーインに守りを固められると隙なんて出来ない、だから攻撃をさせる。
この攻撃をさせる絶妙な距離は何年もザーインと槍の訓練をしてきたおかげで分かるものだ、他の相手に使えない技術を使う事に不満を覚えるが、それらを無視してザーインに勝つことのみ考える。
ザーインからの攻撃は受け流し回避中心に受け止めるのと弾くのは最低限にする、力の籠もった攻撃を受ければ体勢を崩され勝負が決まる。
回避を最小限にしていく度に掠り傷が増えていく、攻撃を多くするが、それでも隙は生まれない。
動き回る分、俺の体力の消耗が激しい、冒険者の戦い方としては下だろう、それでもザーインに今勝つには、この方法ぐらいだ。
疲れてきたせいか、槍の操作の精度が落ちてくる、軌道はぶれて、槍を止める時にも僅かに止めきれず流れる、狙った所に放った突きが僅かにだがズレ、外れる。
このまま行けば、動きが雑になり逆に隙を作ってしまい、そこを突かれる。なら、仕掛けるのはここだ。
この試合で様々な攻撃を仕掛けたが、ある攻撃だけは仕掛けていない。別に特別な攻撃じゃない、足元への横薙ぎだ。
しかし、それでも息つく暇なく攻防を続けていた、ザーインはそれには気付いていないだろうし、今までしていない攻撃をするんだ虚を突くことは出来るだろう。
虚を突いた後の対応で勝負が決まる。
ザーインの顔面に放たれる突きを顔を逸らかわす、当たれば怪我だけで済まないような威力が有る、かわすと確信が有るから放ってくるんだろうが肝が冷える。
すかさず足元への横薙ぎを放つとザーインは驚き飛んで回避する。
驚いて飛んで回避したせいか、着地した時の僅かに体勢を崩し隙が出来る、ザーインは槍が届かない範囲だと思っているため、あまり気にしていないが、俺にはようやく出来たチャンスだ逃しはしない。
横薙ぎし終えた格好から槍を肩の高さで構える、ザーインもこちらを見ているがあまり警戒はしていない、突きを放っても届かないと分かっているからだ、だが、それは両手で槍を持った突きだった場合だ。
身体強化を行なわない場合は基本両腕で槍を扱う、片手では鎧を着た敵、人の何倍も強靭な肉体を持つ魔物相手にダメージを与えられないし、槍を正確に扱うことが出来きないからだ。
だが、後の行動を考えなけれが正確で威力のある突きを放つ事は出来る。
地を蹴り、踏み込む、放す方の片腕はギリギリまで槍に手を添え片腕で突きを放つ、踏み込みにより得られた力を逃がさず、この一撃に乗せる。
ザーインが目を見開いて対処しようとするが、それより早く俺の突きがザーインの胸に当たり、仰向けに倒れる。
「そこまで!」
コッチの宣言により勝負が終わる。―――――俺の勝ちだ!
「ザーイン!」
マリスがザーインの元へ駆け寄る。ザーインは仰向けのまま咳き込んでいる。
「おっお父さん・・ハア、ハア・・・大丈夫」
なんとか勝ったがずっと動き回っていたので、疲労困憊だ槍を杖代わりにして縋っていないと今にもくずれ落ちる。
「コウセル君、疲れてるでしょ、とりあえず座って休んで、お義父さんの治療は僕がするから」
ザーインを治療しようと動こうとすると、コッチに止められ休むように言われた。
言葉に甘えて座る、全身汗だくでもう一歩も歩きたくない。
コッチがザーインに回復の魔術を掛けると、ザーインは何事も無く立ち上がる。きれいに突きは入ったが魔力による身体強化をしていたのを知っているので、大きな怪我はしていないと思っていたが何事も無く立ち上がるのは驚いた。
今、この場だけ見れば、汗だくで座り込んでいる俺と息は乱しているが立っているザーイン、勝敗は逆だと思うだろう。
「コウセル」
「ハア・・ハア・・お父さん」
「強くなったな、誕生日は盛大に祝っわないとな、お前の送別会も兼ねるからな」
「ザーイン!」
ザーインが正式に俺の冒険者に成る事を許した事にマリスが怒気を籠もった声を上げる。
「マリス、コウセルはお前が出した条件をクリアしたんだ、冒険者に成る事を許してもいいだろう」
「だけど、あの子は・・・・」
遠くに行く事を寂しがってくれているのか、ノキ村の外で危険な事に巻き込まれないかと心配してくれているのかどちらかは或いは両方か、俺の事を思ってくれているんだな。少しこそばゆい。
前世の母親、両親はどうだったかな。前世とは言え自分の両親が思い出すのが本当に久しぶりだ。 普通の親としても愛してくれたと思うが、魔術師としての愛し方の方が比重は大きかったかな。
異世界に連れ去られそうになる所にいれば、行って来いと無理やり送り出される気しかしない、一応、近坂家の後継者だったが魔術の為ならと色々とヤバ目の事をさせられたな、魔力の感覚を掴む儀式とか。
魔術師の親としての魔術を修めるためにやばい事もされたが、普通の親として偽装ではない普通の生活もさせてくれたか。まあ、我が親ながら魔術師としても親としても色々はちゃけていたかな。
前世の事を思い出し、今世の両親を見る。ザーインがマリスを説得している。
「マリス、コウセルにはこの村は小さすぎる、あの子はこの村に収まるような子じゃない、今縛っていても何時か我慢しきれず飛び出て行くだろう、ならキチンと送り出してやろう、そして何時でも戻ってこれるように待ってやれば良いんだ」
「でも、あの子が外で亡くなってしまうような事があるんじゃないですか」
「無い。あの子は私より賢く強い、そんな事は決してない」
ザーインは信頼して無いと言い切ってくれている、当然、俺も天寿を全うして亡くなる事、以外で死ぬつもりは無い。
「はぁ、分かりました、コウセルが村を出て行く事を許します」
疲れ諦めた顔をして、マリスから、ようやく許可が出た。本当によかった、許可が出なかったら黙って出て行くつもりだった。
「コウセル! 冒険者に成るのはいいですが、偶には手紙を出しなさい良いですね」
「うん、分かった」
少し怒った口調で手紙を出す事を約束させられた、元々出すつもりだったから別に構わない。
「じゃあ、朝食にしましょうか、シェッタ手伝いなさい」
手紙を出す約束をするとマリスは何時もと変らない様子で家に戻っていく。
マリスの中で区切りが付いたんだろうか、俺には分からないが考えても仕方が無い。
さあ、残り少ないノキ村での生活を過ごしていこう。
誕生日当日までは何時もと変らない日常が過ぎていく。
親しい人たちには改めて、ノキ村を出て行くことを話した。みんな別れを惜しんでくれたが、出ていく事を祝福もしてくれた。
ノコモ村長にも正式に村を出ていく事を話すと、すごく睨まれ、そして深い溜め息を付かれ、がんばれとおざなりに声援を貰った。
小物で欲深いが、村長としノキ村の事を考えている人だ俺が出て行くことが色んな意味で惜しんでいるんだろう、嫌いな人では有るが憎めない所もある人だったな。
誕生日は誕生日祝いと送別会を兼ね備えて行なわれるのだが、ノキ村全体で行なわれる事になった。
まあ、半分以上は純粋に俺を祝うというより、これにかこつけて馬鹿騒ぎする為なのだが、まあ別に構わない。
誕生日祝いは晩からする事になり、昼と晩の鐘が鳴ってから準備をする為、それまでは普段通りで、俺は最後の畑仕事を終わらせ荷造りを始める。
豪農計画の成果で、今では家の畑はノキ村一番の広さになり、畑を継げない次男、三男やヨル村から移住してきた人の仕事場に成っている。
ノコモ村長は村人が村から出て行かない事やヨル村の移住者に仕事を与えられる事には安堵しているが、ザーインの立場が上がった事を苦々しく思っているみたいだ。
「コウセル、少し良いか」
俺が荷造りしている所にザーインが一本の槍を持ち持ってくる。
ノキ村最後の驚きだろうか、ザーインが持っている槍に巻いている布を取り払うと、魔力が帯びている事が分かる、約十五年間、家で暮していて、そんな槍がある事に気が付かなかった。
「お父さん、それは魔槍?」
「いや、少し仕掛けが施されているが魔槍と言うほど強力な槍じゃないな。―――この槍は私が冒険者現役の時に使っていた物だ」
様々な思い出があるんだろうか懐かしそうに槍を眺めている。
「魔力の少ない私が上を目指す為に素材を集め、作ってもらった槍だ、ノキ村に残して置いても、この槍が哀れだ、コウセルこの槍を持っていてくれないか」
「いいの? それは思い出の品でしょ」
「構わない、思い出として置いておくより、お前を守る武器として使ってくれる方が私は嬉しい」
あまり拒んでも悪いか、喜んで受け取ろう。
「ありがとう、お父さん」
槍をザーインから受け取る、槍頭は魔鋼鉄、魔鋼鉄の等級は中級ぐらいか、柄は唯の木じゃない木の魔物のブラックトレントを討伐して素材として利用している、石突きは仕掛けを施された水晶を付けていて割れないようにリディア鋼で補強している。
細かい傷が多く付いている、多くの戦いを切り抜けて来たんだろうが、大きな傷は無い、丈夫な槍だ。
「コウセル、その槍に施されている仕掛けは水晶に魔力を溜める事が出来るものだ、お前にはあまり必要の無い仕掛けかも知れないな」
「そんな事は無いよ、お父さん」
ザーインは少ない魔力を補う為に施した仕掛けなんだろう、けど応用が利かない訳じゃない魔力を溜める以外に術式を込める事が出来るし、柄に魔術を施せばある程度、伸縮させることが出来るだろう。
当分は唯の鉄の槍を使う事になり苦労すると思っていたから、この槍は本当に助かる。
晩になり馬鹿騒ぎが始まる。 一部の人が始めの挨拶なんかを待ちきれず勝手に宴を始めてしまったのだ。
まあ、挨拶なんて面倒くさいので助かったという思いもあり、そのまま宴を続ける事にした。
一応、誕生日祝いなので友人や親しい人が来て話し掛けて来るんだが、酒に酔ったサブロが泣いて別れを惜しまれたのには驚き、みんなで笑った。当分これをネタにサブロはからかわれるだろう。
俺はいい友人を持った。
翌朝、広場には酔い潰れて寝転んでいる人がちらほら見かけるが放っておく、暖かくなって来ているので風邪をひくことは無いだろう。
俺の見送りには、家族とリムス神父が来てくれた。
「すみません、リムス神父様、朝早いのに」
「構いませんよ、歳を取ると朝が早くなりますから何時もと変りませんよ。それよりコウセル君、頼まれていた物と、こっちは魔術協会への紹介状です」
リムス神父から地図と一通の紹介状を受け取る。
「もし王都に在る魔術協会の支部に行くなら、紹介状があれば少しは融通を効かしてくれるでしょう、地図の方は私が行ったことのある辺境の村は印をしています、印が無い村はまだ行った事がないところです」
「本当にありがとう御座います」
「いいえ、君が教会に来てくれてからは、私も楽しかったありがとう、君のこれからの旅にシャナン様の光の加護があります様に」
旅の門出をリムス神父が祝福してくれる。見送りに来てくれた家族を見る。
マリスとシェッタは涙ぐんでいる、コッチは寂しそうな顔をして、ザーインだけ表情を変えていなかった、ある意味何時もどうりで安心する。
ノキ村を眺める。この小さな村でも色々あった、十五年過ごしてきたんだ愛着もあるが、今日、俺は出て行く。
まあ、寂しいと思う気持ちもあるが、また帰ってこれるんだ、笑って出て行こう。
「みんな、行ってきます」
そして俺は笑顔で村から旅立った。
ようやく、コウセルがノキ村から旅立ちました。
二、三話でノキ村から旅立つ予定だったんですが、かなり長くなってしまいました、読んで貰った方に展開が遅すぎると思われたかも知れませんが、ここまで読んでいただきありがとう御座います。
これからもモータルセンヌの魔導王をよろしくお願いします。