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商隊到着、看板娘は獣人娘


 晩の鐘が鳴り、俺はキッタの家から仕事を終えて家路に付く。


 作った冬越し用の巻きは大量に有るので、両手に持てる分だけ持ち、残りの薪は後日取りに行く事にして、薄暗くなった帰り道を歩く。仕事終わりの村人とすれ違うが、みんな楽しそうな顔をしている、行商が村に着いたから買い物ができる事が嬉しいんだろう。


 俺も他の村人に洩れず、明日の買い物が楽しみだ。豪農計画に備え新しい農具を買い揃え、行商人から食い物を中心に大量に買い、それと同時に色々な情報を話して貰う、何より家族に秘密でCランクの魔核を手に入れる。


 ああ、楽しみで仕方が無い。


 途中で鼻歌を歌いながら帰り道を歩く、村の広場が見える所まで来ると、広場には馬車が止まっている・・・それは別に問題ない、行商が来た事を報せる鐘が鳴らされたんだから不思議ではないが・・・・数が多い。


 普段なら馬車が一台で、多く荷物がある場合でも馬車の大きさを変えて来るぐらいだ、二台も馬車で引いて来ることは今までなかったが今回は六台停まっている、いつもの六倍だ何があった。


 深刻になる事ではないが異常事態ではある。おそらくザーインが自警団のリーダーとして何か知っているだろう。俺は早足で家に帰ることにした。


 家に帰ると母マリスと姉シェッタが夕食の準備を終えて、テーブルに座り待っていた、しかし、ザーインが家の中にはいなかった。


「ただいま、お母さん、姉ちゃん」


「お帰り、コウ」


「お帰り、コウセル」


「お母さん、お父さんはどうしたの」


 持ち帰って来た薪を家の中の薪置き場に置き、手を洗いながらマリスに尋ねる。


「行商の商人さんがいつもより大人数で来たから、それについてノコモ村長の家で話し合いが有るからザーインは出掛けたは、遅くなるらしいから先に夕食を食べましょ」


 どうやら、ノコモ村長も知らなかったみたいだな、ザーインが帰ってくるまで分からないままか。


 手を洗い終わりテーブルに着くと、ザーイン抜きでの夕食を食べ始めた。


 食事中の会話の話題はノキ村に来た行商人、いや、あの規模なら商隊か、商隊の事が中心で、マリスとシェッタは何を買うか改めて話し合っている。俺はいまだに困惑はしているが商品が多いことはいい事だ。


 前の馬車一台の行商人の時は、何も考えずに大量の物を買うと、他の村人の買う分がなくなるので自制していたが、今回は馬車が六台、いつもの六倍の商品が有り、ある程度、最初から村人に考慮せずとも買い物だ出来るし、他の村人が買い物し終わった後でも、いい商品が残っているはずだ。


 夕食が終わり、食休みをしながら俺は商隊に売る動物の毛皮のチェックし、マリスとシェッタはまだ明日何を買うか話をしている。女性の買い物に対する熱は世界が変わろうとも田舎だろうと都会だろうと時代すら変わっても冷めないものなのかも知れない。


 食休みしてしばらくするとザーインが帰ってきた。


「「おかえり、お父さん」」


「お帰りなさい、ザーイン、夕食はどうしますか?」


「ただいま、夕食はいい、ノコモ村長のところで食べてきた」


 あまり、疲れた感じがしない、重い話じゃなかったみたいだな、けど何を話したのかは気になる。


「お父さん、ノコモ村長の所で何を話してきたの? たぶん村に来た商隊の事だと思ってるんだけど」


「ああ、彼らと話し合って来た、何時も来ている行商人のセースさんの代わりに村に来てくれたんだ。セースさんは怪我をして当分来れないらしく、もしかすると行商自体やめてノキ村にはもう来ないかも知れない」


「そう、わかった、ありがとうお父さん」


 あれ、ひょっとして、確実に魔核が無いんじゃないのか? 


 俺が欲しいのはCランクの魔核で、Cランクの魔核は高価だが比較的簡単に手に入るが、田舎の村で使われる事は無い、魔核を使うとしてもDランクかFランクの物になりCランクの魔核は行商で田舎の村に持ってくることは無い。その為、手に入れるには予約する必要が有る、行商人セースには予約はして有るが今回、来ている商隊の人たちは知っているのだろうか、そして持ってきているのか?・・・魔核が手に入るのはまた今度になりそうだ。


 ちなみに何に魔核が使われているかと言うと、ノキ村では一部の照明器具、粉挽き場に置いてある自動粉挽き機ぐらいだ。異世界モータルセンヌでは文明があまり進んでいないが機械もどきや魔導機械が意外とある。これは前世の俺たち異界の魔術師が齎した物でなく元からモータルセンヌに有ったものだ。一から作り出したのではなく、古代遺跡から掘り出された物を、解体して分析し複製する事で機械もどきや魔導機械を作っている。古代遺跡からの掘り出し物と言うことは、滅びた旧文明の遺産で、おそらく滅びた旧文明の一つは物造りに秀でた文明が在ったんだろう。


「ああ・・・・明日は賑やかになりそうだな」


「それはそうでしょう、行商人さんが多く来て、色んな物がいっぱい有るんでしょ? 私は楽しみ」


「・・・それもあるがな」


 シェッタは商品が多い事に喜んでいるが、ザーインが何か含みのある言い方をしている、商品が多い事意外にも何かあるのか?・・・ まあ、明日になれば分かるか。




 


 翌日、朝は何時もどおり、槍の訓練と仕事を始める。


 ノキ村に来た行商人にはノキ村で決められたスケジュール通りに動いてもらっている。村に着いた翌日の昼に商売を始め、次の日、昼から村人から余った麦や野菜、動物の毛皮等を買い取り、その日か、次の日に村を出て行く。


 これは混乱を避けるためで行商人側も納得している、ザーインも商売開始の時間が変更した事は言っていないので変更は無いだろう。


 槍の訓練を終えると、今日もサブロの所で仕事をする、サブロも今日の買い物は楽しみにしており、サブロは食べ物と、木の枝葉を切り払い用、兼動物撃退用の作りの良い鉈、父親のキッタは酒が欲しいと言っていた。


 昼の鐘が鳴るまで仕事をして、鐘が鳴ると薪を持って家に一旦帰った。帰る途中、広場を遠目で見たが何時も異常に人が集まっている、どうやら好評のようだ。


 家に帰るとザーインが豪農計画の為に買った農具と作りがシンプルな槍を確認していた。


 ザーインには土の魔術を使えるようになってから豪農計画を話しており承諾して貰っている、豪農計画の為の農具の費用を半分出すと言ったら、家の事を子供が心配するなと怒られ自分の好きな物を買えと言われた。


 金は狩りで狩った獣の毛皮や薬草、リムス神父と一緒に作った薬などで収入を得ている、今回も毛皮と薬草を商隊に売るのでさらに金が貯まる。―――薬はリムス神父が管理しているので勝手に売れない。


 ザーインに買い物をする事を告げ出掛け、広場を目指す。


 広場に着くと思ったよりも人が集まっており、一部、村の男衆が固まっている場所がある、何かあるのかな?


 俺も男衆が固まっている所に突入しようとしたが、やめた、何故かって?・・・・・臭い、すげー臭い。


 田舎の村なので風呂など無いし、今は身体を拭き清めるには水が冷たい時期だから、みんな嫌がり、特に村の男衆は匂いに鈍感だ、自分が臭いと気付くまで身体を洗わないからすごく匂う。


 俺は前世の日本での生活を知っているため、身体を洗わないと気が済まず、ザーインも綺麗好きだから身体を積極的に洗う、女性は身嗜みを気にしているので身体をきちんと拭き清めている。


 突入する事を諦めて、遠くから男衆が何に集まっているか魔力で視力を強化して見る。


 中心には女の子が居る、可愛い女の子だ、明るい紺色の長い髪の毛を二つに分けて肩の辺りで結び、白い上着に濃い紺色の短めのスカートと黒いパンストらしき物を履いている、胸が少し大きくスタイルが良い、何より・・・・


『あの獣耳本物か?』


『おい、獣耳がピクピク動いてるぞ』


『おおお、尻尾触りて~」


『モフモフだモフモフ』


『犬か? 犬の獣人て奴か』


 今世で始めて見た獣人だ、色んな意味で珍しい。まずノキ村周辺には住んでいない事、彼女が遠くから来た事になる、もう一つ犬の獣人?が商人をやっている事、頭を働かせて計算などをするより、高い身体能力を使い戦士や猟師になる事の方が多いはず、女の子だから手伝いとかなら何となく分かるが、彼女はきちんと計算をして商売をしている。


 数秒、獣人商人を愛でてから、移動する。村の女性人は獣人商人に鼻の下を伸ばすの男衆が気に入らないのか、冷たい視線で眺めている。その中にビッテもいて不機嫌そうだった、普段男衆にチヤホヤされているが今日は獣人商人に男衆を取られたからだろう。


 移動しながら手の空いている商隊の人を探す。

 

 途中で彼女以外にもう一人、男の獣人を見かけた他の村人と話をしているため話し掛けられなかたのが残念だ。


 端のほうまで移動すると本や文房具を担当している中年商人は殆ど人が来ないのか暇そうにしていたので声を掛けた。


「すみません、ちょっといいですか?」


「いらっしゃい、何かほしい物がありますか?」


「いえ、商品の方は後から見させて貰おうと思います、尋ねたい事が有るんです、前に行商に来ていたセースさんにCランクの魔核を取り寄せて貰える様にお願いしたんですが分かりませんか?」


「う~ん、そういう引継ぎの話は大将じゃないと分からないからな、ちょっと待っててくれ」


 店番を隣のおもちゃを扱っている商人に任せて、中年商人はどこかに行ってしまった。


 俺は本をタイトルを眺めつつ、おもちゃにはしゃぐ子供を窘めながら待つと―――おもちゃ担当の商人が本、文房具店番をしながらだと子供を抑えきれないから手伝った―――中年商人が、移動している途中で見かけた男の獣人を連れて戻って来た。


「始めまして、私は商隊の纏め役シューバと申します 」


「始めまして、私はコウセルと言います」


 驚いた、獣人が商売をやっている事も珍しいのに商隊の纏め役もしている、傭兵や冒険者のパーティーのリーダー役ならば何となく分かる、それらは強さと引張って行動力が求められるが、商人はいかに稼がしてくれるか、強かな交渉相手と、どれだけ有利に交渉できるかの知能が求められる。


 獣人も、ノキ村周辺に住んでいないが、数が少ない訳ではないから商売をする変わり者も居ない訳ではないだろうが、商隊の纏め役をするまで獣人は本当に珍しい、きっと彼は頭がかなり切れるんじゃないだろうか。

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