ボッチじゃないよ
七年経過、只今勉強、修行中 1に魔法使いの属性適正数ごとの呼び方追加、文は以下 適正が一つだとシングルの魔法使い、二つだとダブルの魔法使いと呼ばれ最大六つセクスタプルまで有る
ノキ村から少し離れた森の中から、澄んだ高い音が響く、木こりのキッタさんと息子のサブロが木を切り倒そうと斧打ちをする音だ。
俺は切り倒された木を薪にする為、手頃なサイズに鋸で切り、斧で割っていく作業をしている。
本当なら豪農計画の為、少しずつ森を切り開き、岩や石を取り除き、畑を広めていきたいんだが、木を斧で切り倒す時に瞬間部分強化の練習をしていて、誤って必要以上に魔力を込めすぎて斧の柄が衝撃に耐え切れず圧し折ってしまい、父ザーインにしこたま怒られた。
瞬間部分強化は魔力を節約するのに役に立つ技術だから前世でも使っていたが、使う時は殆ど槍による全力での攻撃ぐらいだったので微妙な魔力調整が苦手だ。
もう一本斧があるが、それを壊すと薪割り用の斧が無くなるので使えず、壊す前に切り倒した十数本をザーインと俺で木こりをやっているキッタの家まで運んだ。キッタの家の傍には小さいが貯木場が在るので置かせてもらっている、その変わりに場所代として、木を数本を譲っている。
ザーインは斧を直す為にキッタから、斧の柄にするのに良い大きさの木材を場所を貸してもらったおまけに貰い、家に帰り、俺は冬越し用の薪が、まだ少ないからキッタから道具を借りて作るように言われ作業している、道具の方も、おまけで借りている。
ちなみに今日は狩りはお休みである、冬越しの為に食料確保以外にも準備が必要で今日は薪の確保だ。しかし、これで準備中、食事が質素に成る事は無い、母マリスと姉シェッタにプレシャーを懸けられて、事前に準備中の食料(肉)を確保させられた。
借り物の道具なので瞬間部分強化を行わず、身体強化のみで薪作りの作業して、冬越しできる量を確保すると、身体を鍛える為に身体強化無しで作業を始めるがすぐに疲れてくる、自分の身体能力が低い事にイヤになるが、身体能力が低いと身体強化も大きく施せなくなるので我慢して鍛える事にする。
薪作りの作業をして大分時間が経ち、日が昇りお昼の鐘が鳴りそうな時間になると、大きく重たい物が落ちる音が響いた、キッタとサブが木を切り倒した音だろう、暫くするとサブロが俺を呼びに来た。
「おーい、コウセル、切り株を掘り出したいんだ手伝ってくれ」
「わかった、すぐにそっちに行く」
返事を返し、薪を作る作業をやめて、サブロの元へ向かう。
キッタとサブロは朝から作業していたせいか、疲れていた地面に座り込んでいる。
「コウセル、来たか、こいつを掘り出して欲しんだが、出来るか?」
切り株は直径六十センチぐらいある大きな物で、キッタが疑わしそうに聞いてくる。ザーインから魔術で掘り出す事を聞いているんだろうが、どんな風にやるか想像できなくて信用できないんだな。
「大丈夫ですよ、キッタさん、ちゃんと出来ますから」
「あっ、いや、信用してない訳じゃ無いんだが、どんな風にするかわかんねーからよ」
やっぱり、想像出来ないせいか信用されていない、サブロも疑わしそうにこっちを見ている。まあ、やる所を見せればすぐに納得してくれるだろう。
「別にいいですよ、畑を魔術で初めて耕す時も姉ちゃんもどうゆう風にするか分からず疑っていましたから。今から掘り出すんで、サブと離れて見ててください」
キッタとサブロが離れた事を確認し、魔術を詠唱して発動させる。
先ずは(耕作)を使い切り株の周りや奥の固まった土を柔らかくし、(土振動)を使いながら切り株をある程度引っ張り出す、地上に出てきた根を切り落として切り株を退かし、後は地上に出ている根を埋め(整地)で地面を均し固め終了だ。
キッタもサブロも驚きで口を開けたまま固まっている。終わりましたよと声を掛けると、二人とも動き始めた。
「よ、よし、じゃあコウセル、サブロ、切り倒した木、貯木場に持っていくぞ」
俺が片方を一人で持ち、もう片方をキッタとサブロが持ち、貯木場に運び、掘り出した切り株は俺が戻り一人で貯木場に運んだ。
切り倒した木や切り株は大きく重かったが、身体強化を使い簡単に運ぶ事が出来た。
貯木場に運び終えると丁度、昼の鐘が鳴り、外で昼食にする事にした。
キッタは昼食を食べ終えると、昼休み終了の鐘が鳴るまで寝ると言い、家の中に入っていた、サブロと俺は外で座りながら雑談をして昼休みを過ごす。
サブロは一つ年上の数少ない友達だ。俺は文字の読み書きの練習、魔術の習得など、良い子ぶっていると村のガキ大将に思われ、嫌われて仲間外れにされていて、サブロは村に離れた森に住んでいる事でガキ大将にバカにされて、よく喧嘩をしていた。
ガキ大将は子分を引き連れ、サブロは一人だけなので喧嘩によく負けていが、たまたま、喧嘩している所に俺が通りかけて、一人に対して複数で喧嘩しているのが気に入らず喧嘩に乱入、ガキ大将達をボコボコにした。もちろん、子供の喧嘩なので身体強化は使わなかったが、そのせいで何回か殴られ顔などに痣が出来た、喧嘩した事はマリスに怒られ、ザーインには身体強化を使わないように注意を受けた、喧嘩は怒られなっかた。
それから、サブロとは仲間外れ同士、偶に遊ぶようになった、いつも一人で居たせいか両親に心配されていたので助かった。ちなみに遊びの内容は、前世で習っていた護身術―――素手での格闘術―――をサブロに教える事で、前世でモータルセンヌの人、何人かに教えていたが、いまだにモータルセンヌでは馴染みが無いみたいで―――魔物との戦いは武器を使う事が当たり前でそっちばかり発達している―――持っている技術を全部教えても問題ないだろうと思い、サブロに全部仕込んだ。おそらく素手での喧嘩なら勝てる人はそういないだろう。
「なあ、コウセル、お前本当に村を出て行くのか?」
唐突にサブロが質問してきた、どうしたんだサブロは幼い頃から知っているだろ。
「ああ、成人、十五になれば村を出て、冒険者に成るつもりだ。どうかしたのか」
俺がいずれノキ村を出て行く事は、村の殆どの住民が知っている、大半が村を捨てる薄情な奴だと、あまり好ましく思われていない、俺もこういう時期があったなと微笑ましく見守る人―――たぶん街に憧れたか、出て行って戻って来た人―――が少し、残りは無関心だったり、出て行く俺に憧れたり、妬んだりする人が居て、ごく少数出て行くのを惜しむ人がいて、サブは俺が出て行くのを惜しむ、ごく少数の一人だ。
「どうかしたのかて、お前が居れば村を大きく出来るから、もったいないなて思ってるんだよ」
「えっ・・・」
驚いたサブロが村の将来を考えている。
「お前、俺の事、バカだと思ってるだろ。そりゃ、お前みたいに文字の読み書きとかできねーけど、お前が居れば開拓するのが早くなることぐらい分かるぞ」
「いや、そういう訳じゃないんだけど、ずいぶん唐突だな」
「別に唐突て訳じゃねーよ、前々から思ってたんだよ。コウセル、お前、狩りがすごく上手いだろ、お前が狩りを始めてしばらく経つと、木を切るときに不意に遭う、危険な野生動物ががずいぶん居なくなったんだよ。それはお前が大方狩ったからだろ?」
「確かに、かなりの数狩ったな、特に熊と猪、野犬は危ないから見逃す事は無かったな、けど、俺が狩ったからかどうかは別だろ」
畑を荒らす害獣である熊と猪は素材も多く取れる為、積極的に狙っていたし、野犬は肉食動物で下手に大きな群れだと村自体が危なくあんるので魔術を使ってまで群れを探し殲滅した、あまりやり過ぎると生態系を壊す事に成りかねないから加減が難しい、こういう所の知識が無いので欲しいと思う。
「それでも、俺や親父が助かってるて思ってるんだよ、特に野犬を狩ってくれるのはありがたい。野犬の群れに遭うと本当に危ないんだよ、あいつ等逃げていかねーし、囲みながら追い詰めてくるから、俺たちが逃げられなくなる、お前に教えてもらった喧嘩術も効きづらいだろ」
「お父さんに教わった事だけど、魔物ほどじゃなくとも野生の動物は基本人間より強いからな、身体強化術が使えないと素手で倒すのは難しいだろうな」
「そう、身体強化。ノキ村でもお前とザーインさん以外まともに使える人がいないだろ、リムス神父様はお爺ちゃんだから使えても、力仕事させられないからな」
ノキ村及び周辺の村で魔力による身体強化が使える人は少ない、身体強化を使うには魔力を認識し感覚を掴む必要がある。
魔力を持っている人が魔力を認識する為の方法は二つ有る、ひとつは誰かに魔力を身体に流して貰い、感覚を掴む方法、これの利点は持てる魔力を一気に目覚めさせ全て扱えるようになる事と確りと魔力の感覚が掴める事、欠点は感覚を掴むまでまったく進歩が見えず、長い時間が掛かる。
もうひとつは魔力を浴びる事で魔力を徐々に目覚めさせて感覚を掴む方法。この方法は人の魔力は浴びても殆ど効果は無く、魔物の死に際に僅かに放出される特殊な魔力―――おそらく魔力ともう一つ別の力が篭っている、詳細は不明、研究対象の一つ―――が効果的で徐々に魔力が目覚めていき感覚を掴む、利点は少しずつであるが、すぐに成果が実感できる事で、欠点は魔力の掴んでいる感覚が曖昧で精密な魔力操作が出来ない事と魔力を全部目覚めさせるまで、魔物狩りや魔力を使い続ける必要がある。
後者の方法だと魔術は使えない、魔術は正確に魔力の感覚を掴む事が使えるようになる条件の一つである。魔法使いは、最初からある程度、魔力に目覚めており、感覚を何となくで掴んでいて、魔法を使えば使うほど魔力が目覚めていく。
魔力を認識し感覚を掴む方法は魔力を浴びることが主流であるが、ノキ村及び周辺の村に魔物が生息していない為、魔力を浴びて目覚めさせる方法は使えず、魔力を流し込む方法は成功する前に殆どの人が止めてしまう為、魔力を認識し身体強化を使う人がいないから、ザーイン、俺、リムス神父のような使いこなす人はかなり珍しい。他の使える人は魔力の感覚が曖昧であまり強く強化できない。
「ザーインさんとお前で、数人いや、下手すれば十数人分の働けるだろ、おまけにお前は魔術使えるから、もっと多く働けるだろ。普通ありえないぜ一日一人で木を何本も切り倒すなんて、おまけに切り倒した木を楽々運んでくるんだからたまんねーぜ、お前が村に居続けたら村を二、三倍に大きく出来るだろうな」
「ひょっとしたら出来るかもな、まあ、家の畑は出て行くまでに四、五倍にするつもりだ」
魔術を使い本気を出せば、ノキ村の開拓作業自体を全部終わらせる事も出来るだろうな。
「はぁ~、勿体ねーよな、お前が居てくれりゃ―良かったんだけどな」
「なら、お前が魔術と身体強化できるようになるか」
「え、俺がか?」
サブロが心底驚いた顔をしている、そんなに不思議かね、使えないなら使えるようになれば良いと思うんだが。教育が行き届いていないこの世界では難しい考え方なのかな。
「そうそう、冬の間は伐採も毎日やらないだろ、教会に来て勉強と訓練してみろ、今ならリムス神父様と俺が居るし、一人魔術と身体強化を習いに来ている人もいるから、一人で習うて事もない、どうだ」
「あ~ん~、まあ、考えとくよ。ちなみにもう一人て誰だ?」
「コッチさんだよ」
「あー、コッチさんね・・・・・なあ、コウセル、それて勉強とかの為じゃなくて、シェッタさんと一緒になりたくてお前に近づいてんじゃないのか?」
サブロが微妙な顔をしている、別に動機がちょっと不純でも俺は構わないんだけどな、魔術も身体強化も文字の読み書きも手段の一つだ。
「別に構わないよ、使えるようになってくれたら村が助かるし、姉ちゃんと一緒になるなら家族が助かる。特別、応援するつもりは無いけど、頼まれたら間を取り持つくらいはやってもいいさ、お父さんを避けるなら別だけど」
「何だよ、ザーインさん避ける奴は駄目なのか」
「上手く行った場合、義理の親子に成るんだぞ、苦手意識は持つのは仕方が無いけど、避ける奴は論外だ」
サブロは複雑な顔で笑うという変な表情していた、避ける人の事が理解出来るんだろう。鋭い目つきに、表情の変わらない無愛想な顔、普通の男性の二周りは大きい筋肉質な身体、ビビてしまうのは仕方が無い。
俺も笑いがこみ上げてくる、いずれザーインの前に立つ、カチカチに固まったコッチが思い浮かぶ。サブロと一緒に声を出し合い笑う。
一通り笑い合うと、腰を上げて次に仕事の準備を始める。
昼休みの終了の鐘が鳴るとキッタも家から出ていて、昼の仕事を始める、全員で薪作りを始めて少し経つと、鐘の音が聞こえてくる。
聞こえてくる鐘の音は、昼と晩の間に鳴る鐘には早すぎる、それに何時もとテンポが違う。そうなれば鐘の音は行商が来た事を報せる為の物。
ノキ村に行商がやって来た。




