プロローグ
初作品、初投稿ですがよろしくお願いします
五月二十日大罪の大魔獣の顕現説明文に書き足し
人の負の感情が一定以上集まると→人の負の感情が一定以上、世界に集まると
夜の王都が紅蓮の炎で燃え上がっていた。
無事な建物は無く、ボロボロに崩れているか、炎により炎上していた。
平時であれば美しくも見るものに畏怖を抱かせる荘厳な王城も炎上し無残に崩れていた。
そんな王城の玉座の間に王都でたった二人の生存者が対面しようとしていた。
「よう、アルクス」
玉座の間に一人の黒髪黒瞳の青年が入ってくる。
入って来る者、誰もが感嘆した玉座の間も無残に崩れているのに、青年は周りの惨状など全く気にせずに玉座の間に居る青年に気楽に声を掛けていく。
「何だ、おまえ、もう死ぬのか」
「よう、コウ。なんだ、最後の一撃で仕留め切れなかったみたいでな、憤怒解放を受けちまったんだ」
玉座の間に居るのは金髪碧眼の青年、若き元国王アルクスは玉座の間の床に倒れており天井を見上げていた。
アルクスの身体は下半身が無くなっており夥しい量の血を流している、いつ命が尽きてもおかしくない状態だ。しかし、黒髪黒瞳の青年コウはあっけらかんとしてアルクスの元へ歩いていく。
コウがアルクスの元に辿り着き、見下ろす形で対面した。
「ほら見ろよ、正面から頭と顔面を真っ二つにしたのに、即死しなかったんだ」
アルクスが指を向けたほうに、コウが視線を向けると、そこには壁を突き破り身体の半分を玉座の間に乗り込んだドラゴンの遺体があった。
コウは溜め息を付きながらアルクスに小言を告げる。
「言っただろ、大罪の大魔獣は受肉した想念体だから肉体の損傷じゃあ死にづらい、霊核ごと急所を消し飛ばせと、切り裂いたところで即死しない。憤怒解放が咆哮という形だったから良い物の、身体を基点とした爆発なら王都が下手すれば更地成ってるぞ」
コウはドラゴンの遺体の反対側に視線を移す、そこには壁が無くなっており、その向こう側に広がる城下町は咆哮の余波で壊滅し、城壁の上部と何十キロも離れている山の中腹部が咆哮の直撃を受けてきれいに消滅していた。
山を吹き飛ばすだけでも相当な威力が有るだろうに、直撃した対象を消滅させている事から憤怒解放の力の質が相当、危険な物だと分かる。
コウは顔をげんなりさせて再び小言を漏らす。
「お前のミスに巻き込まれるのは、ごめんだぞ」
「悪い悪い。けど爆発じゃなくて咆哮だったんだから良いだろ。それに爆発でも結末は変わらないだろ・・・・・・コウ、顔に罅が入っているぞ、お前も、もう長くないんだろ」
「・・・・・・・」
アルクスに指摘されたように、コウの顔には、切り傷でもなく裂傷でもなく、ガラスや陶器等が割れて出来るような罅割れが出来ていた。
「ああ、禁術を使わないと、流石にルシファーは倒せない。時間内に倒せたなら死なずに済んだんだけどな」
コウが使用した禁術は、己の命を燃やし力に変える。そして、燃やす命が尽きたなら、肉体は崩れ去り、塵となって消えていく。
今のコウは燃えカスだ。コウも何時、塵となって消え去っても、おかしくない状態だ。
「まあ、目的は果たしたんだ良しとしておくさ」
コウは己が死ぬことに悲壮感も嘆きもなかった。それはアルクスも同じなのか苦笑を浮かべ同意していた。
コウとアルクスはお互い、この戦いで生き残れるとは考えていなかった。死に逝く覚悟は、すでに終えていて、戦いの後にまた会えたことの方が想定外であった。
コウが玉座の間に来たのは、ドラゴンの、大罪の大魔獣、憤怒のサタンの生死の確認の為であり、アルクスが生きている事は元より、遺体が消滅して残っていないだろうと思っていた。
コウとアルクスは語るべき事は、戦いに赴く前に語り尽くしていたため、後は死を待つだけなのだが。アルクスは浮かべていた苦笑を引き下げ、不安げな表情でコウに問いかけた。
「なあ、コウ」
「うん?」
「この後、弟たちは大丈夫かな、大罪の大魔獣は、まだ一柱残ってる、アスモデウスに滅ぼされたりしないだろうか」
アルクスは残してきた弟や臣下達が心配だった。自分はここで死ぬ、常に横で肩を並べていた親友であり、戦友のコウも、ここで亡くなる。
もう、自分たちが弟達を助けてやる事が出来ない。何時までもコウとアルクスに負ぶさっている弟達ではないが、それでも心配なのだ。
相手は世界を何度も破壊し、文明をほぼゼロに戻し続けた存在、大罪の大魔獣。
人の負の感情が一定以上世界に集まると七柱、顕現し、感情を持つ生き物を殺していく最悪の魔獣。感情の持つ生き物を九割以上を皆殺しにすると自然と消えていく。
全部で七柱中、六柱は滅ぼした。一柱はコウが作り出した超遠距離からの戦略級大魔術を、さらに改良し一個体のみを対象とした攻撃大魔術で消滅させ、五柱を罠満載の戦場に作り変えた王都に誘き寄せ、コウとアルクスで迎い討った。
最後の一柱の色欲のアスモデウスは位置の関係上、戦場になる王都に辿り着く前に避難所兼新王都を経由するため、コウとアルクスは戦う事が出来ず、新王都に居る、アルクスの弟のファナンスや臣下達に任せる事になったのだ。
コウは苦笑の表情に苦味を増し、無くなった壁の向こう側に広がる、炎に照らされた星空を眺めながら自分の残してきた者達、いや、女性の事を思った。
とある神殿が用意した、大罪の大魔獣が顕現し行動を始めるのを引き伸ばす為に生贄になる筈だった女性。
生贄にされる為に生まれ、生贄にされる為に育てられ、生贄にされて死んでいく事を義務付けされた女性だった。
しかし、彼女は叫んだ。
「私は生贄になる為に生まれたんじゃない!生贄にされる為に生きてきたんじゃない!私はもっと生きていたい!」
大勢の人の前で彼女は叫んだ。彼女の親や育てた人達、親しい人達は顔を歪めていたが誰も庇いも賛同もしなかった。それどころか非難する者が出てきた、そんな事は許されない、義務を果たせと。
コウは知り合った当初は少女と言われる年齢で、彼女を好ましいと思った。明るい笑顔に好奇心旺盛で活発的な少女でコウは彼女から、よく、神殿の外の話をせがまれて話していた。この時は彼女の為に命を懸けて戦おうとは思っていなかった。
彼女はコウや他の人達から神殿の外の話を聞きたがていのは、外の情報を集めるためだったのだ。どうすれば一人で生きて行けるのか、金銭の稼ぎ方、買い物の仕方、旅の注意点などを知るために。
しかし、彼女は集めた情報で出した結論は、自分一人では生きていくことができないだった。神殿から逃げても、街の中に居れば、すぐに神殿関係者に捕まるだろうし、街の外へ出て行っても、魔物に喰い殺されるか、盗賊に襲われるだけ、運良く魔物や盗賊に遭わなかったとしても次の街に着く前に野垂れ死ぬだけだとわかったからだ。
そして、彼女が最後に取った手段が情に訴える事だった。同情だろうが哀れみだろうが何でも良かった、叫び訴える彼女を神殿騎士が取り押さえられても非力な身体で逃れようと生きようと必死に彼女は足搔いていた。
彼女の行動を見苦しい、往生際が悪いと顔を顰める者も出て来たがコウは彼女の行動に驚き、強く惹きつけられた。
生贄になる為に育てられたのに拒否し、運命に抗っている。自分ならば何の疑問も抱かずに生贄に成っていただろう。その抗う姿が綺麗だと思った、そして、この時に彼女に惚れたのだ。
内も外も自分好みの良い女で、自分の物にしたいと考えていたら、気が付けば彼女を取り押さえていた神殿騎士を蹴散らして、彼女を抱き上げていた。
彼女を抱きながら、神殿の人間に交渉を持ちかけた。大罪の大魔獣討伐の為に命を懸けてやるから彼女を寄越せと。
当然、ふざけるなと神殿の人間とその他は怒り狂ってきたのだが、ここで思わぬ助け舟が出た、アルクス達がコウの味方をして神殿の人間達を説得したのだ。
アルクス達からしたら、高だか長くて十年、最悪二年ぐらいしか大罪の大魔獣の顕現を伸ばす事ができない儀式よりもコウを味方に付けて、コウの魔道技術を手に入れたほうがいいからだ。
アルクス達の説得により彼女を生贄にせずに済んだのだが、そこからが大変であった。大罪の大魔獣に対抗するための魔道の研究に、他にも出てくる問題を解決する為に世界中を駆けずり周ることになっていく。
多忙の合間に彼女の元にコウは何度も足を運び、会うのだが、なかなか彼女は振り向いてくれなかった。
ようやく彼女を振り向かせた時には、世界の情勢は末期を迎えていた。コウとアルクスの命を対価に決戦をしなければ世界が滅ぶ所まで来てしまっていた。
コウとアルクスは話し合い、自分の命を使い潰す覚悟を決めた。
コウが、その話を彼女に伝えると頬に衝撃を受ける、彼女がコウに平手打ちを食らわしたのだ。
「貴方は私を自分の都合で拾って置きながら、また、自分の都合で私を捨てるつもりですか」
涙が溜まった瞳は潤んでいたが、決して涙は流さずに此方を見上げ睨んでいた。
コウは軽薄な雰囲気を装いながら彼女に話し掛けていく、内心の激情を抑えながら。
「ああ、だから俺のことは気にせずに生きてくれ。・・・・時折、甲なんて奴も居たなって思い出してくれたらそれでいいよ」
コウは彼女が自分に囚われず幸せに生きてほしいと願い、けれど、完全に忘れられるのは寂しいと思い、内心の激情が僅かに洩れてしまった。
彼女の睨みつける眼光が力を増し、言葉を紡ぐ。
「いやです、ずっと貴方を恨み(想い)続けます」
コウは自分が惚れた女が、やっぱり良い女だと惚れ直し、彼女を置いていく悲嘆とそれらを上回る闘志を燃やし彼女と別れた。
罠満載の戦場に作り変えた王都からコウとアルクス以外の人達は避難地兼新王都に移動を開始、コウとアルクスは見送っていく、涙を流す者、笑って行く者様々いたが、最後まで此方をコウを睨んで別れたのは彼女だけだった。
コウは彼女に対する思いを馳せ終え、アルクスの問いに答える。
「大丈夫だよ、アルクス。向こうには友愛の聖女と今代の勇者がいる、対策もしっかり伝えているし、俺が作った魔導具も有る、心配するな」
コウも色欲のアスモデウスを残してきた事が少し心配であった、新王都に被害が出れば彼女も危ない。だから迎撃する作戦を幾つも伝えた、最悪死ぬのは今代の勇者ぐらいだろう、彼女に被害は及ばないようにした。
「そうか、大丈夫なんだな、よかった」
アルクスはコウ気軽な口調でありながら断言する言葉を聞いて心配ないんだと分かり瞳を閉じた。
コウは炎に照らされた夜空に視線を向けて、アルクスが瞳を閉じている事に気付いておらず、アルクスに話しかける。
「それより、俺たちは後の歴史でなんて呼ばれるかな、最古の都を廃墟にしたんだ、俺は愚者、お前は愚王て呼ばれるかもな。どう思うアルクス」
「・・・・・・・」
「おい、アルクス?」
コウは返事の無いアルクスの方に視線を向ける。
何故、返事が無いのか理解した。
「何だ、アルクス、先に逝たのか」
アルクスの死顔は穏やかな物だった、コウが弟達は大丈夫だと言い切ったからだろう。
コウは瞳を閉じながら、様々な事に思いを馳せる。
地球の魔術師だった自分が異世界モータルセンヌに強制召喚された事、同じように召喚された魔術師達、モータルセンヌで出会った人たち、自分の魔術師としての課題、残してきた人達、愛した女性、他にも色々。
後悔や悲しみ、怒りも有るが、だから得られた親友に愛した女性、仲間たち。
もう少しみんなと生きていたかったな。それが最後の思考となり、コウは塵となって消え去った。