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僕は雪だるま

作者: 澤子ウシロ

 僕は雪だるま

 いろんなところで僕は作られる

 毎年雪が降って、雪が集められると僕ができる。

 でも、僕はちょっとだけ違った。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「出来た!」


 その年、僕を作ったのはある女の子だった。


 きれいな長い黒髪で、肌の白い、目のぱっちりした女の子


 「こんにちは! 雪だるまさん‼」


 その女の子は、無邪気に僕に話しかけてきた。


 「って、雪だるまがしゃべるわけないかぁ‼」


 ガクッ。


 ……常識がある子だってことかなあ?


 ま、いっか。


 『そんなことないよ』


 「え?」


 ところで、僕が普通の雪だるまと違う理由とは、僕が喋れるということだ。

 何で喋る事が出来るのかはよくわからないし、一番最初に喋ったのがいつのことかも思い出せない。

 とにかく僕は喋れるのだ。


 「今の、誰?」


 『こっちだよ、こっち』


 「ええ?」


 『僕だよ、君が作った雪だるまだよ』


 そういうと、女の子はやっと気づいたように僕のほうを見た。


 『こんにちは。作ってくれてありがとう!』


 …………………………………


 「え~~~~~~~~~~~!?!?!?!?!?」


 女の子はびっくりして腰を抜かしてしまった。

 うん。まあ、僕と初めて会った人は(たいてい初めて会うんだけど)こういう反応をするんだよね。

 こんなファンタジーなこと、大概ありえないから、当然なんだけど。


 『あ、心配しないで。別に危害を加えようってわけじゃないんだ。ただ、話し相手になってほしいなって』


 「話し相手?」


 『僕、こういう姿だから年に一回しか目を覚まさないんだ。だから、溶けるまでの間お話がしたいな』


 他にも、いろんなニュースとかを聞きたいんだけどね。今年の紅白とか。


 「いいよ!」


 『え、いいの?』


 安請け合いしすぎじゃないかと思ったが


 「うん! だって、私も一人ぼっちだもん!」


 『一人ぼっち?』


 「うん。パパは誰かほかの女の人と一緒に出ていっちゃったし、ママは夜遅くまでお仕事なの。だから、私も淋しいの」


 ……わ、割とハードな家庭の子だったのね。


 地雷ふんだかな?


 『うん、わかった。じゃあ、今の時期は丁度冬休みだね。毎日ここにおいで』


 「うん!」


 女の子は笑顔でうなずいた。かわいいなぁ。


 ……いや、べつにロリコンじゃないよ? ていうか何? ロリコン雪だるまって。


 『あ、そうそう。僕のことは誰にも秘密だよ? 友達にも、僕のことは話さないでね』


 見つかってテレビで特集とか、NASAで解剖とかたまったもんじゃないからね(ていうか解剖できるのかなぁ。僕全身ほぼ雪なんだけど)


 「いいよ! どうせ友達もいないし‼」


 あ、また地雷ふんだかな?


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 それから、僕と女の子は毎日話をした。


 今年の紅白のこと


 流行語大賞のこと


 『えっ、東京でオリンピックやるの!?』


 「うん、でも夏だから雪だるまさん見れないね」


 『え~録画しておいてくれない?』


 「駄目だよ、家にそんな機械……っていうか、テレビ自体無いもの」


 『そっか、残念だな』


 すごく楽しかった。今までの人たちは、大方僕を気味悪がるか、無視するか、警察に通報するかだったからだ(その時はただの雪だるまのふりをした)


 「また明日来るね!」


 いつもそういって女の子は帰って行った。


 『楽しいなぁ』


 そう考えて、あの子の笑顔を思うと、何だかにやけてくる(断わっておくけど、僕は雪だるまだ)





























 なのに、なんでこうなるかな





 ある日のことだった。


 「それでね、……だったの!」


 「へえ、そうだったんだ」


 いつものように、僕は女の子と話をしていた。


 いつも通りの、時間の限られた楽しい時間。


 なのに、


 「おい、六花(りっか)


 そいつは、いかにもガキ大将といった男の子だった。


 数人の子分を連れている。


 「お前、その雪だるまに何話しかけてるんだよ、気持ちわりぃな」


 僕はそこで女の子の名前を知った。


 聞かなかったのはわざとなんだけど。


 「別に、竜基(りゅうき)には関係ないでしょ?」


 「見てて嫌なんだよ」


 あんまり理由になってないなぁ。見てていやならみなけりゃいいんだし、好きなのかな? 六花ちゃん、可愛いし。


 『ねえ、あの子誰?』


 「雪だるまさん、しゃべっていいの!?」


 『うん。話したい人にだけ、声が聞こえるみたい。だから、心配しなくていいよ』


 「そうなんだ」


 「おい、何一人でぶつぶつ言ってるんだよ!」


 「うるさい‼ 黙ってて‼」


 おお、六花ちゃん怖いな。


 「あの子はね、私の幼馴染の青田(あおた)竜基(りゅうき)。最近はああやって子分を連れて街を歩くのが趣味なんだって」


 『へぇ』

 

 そんな趣味があるんだ。変な子だな。


 「おい六花」


 竜基君が六花ちゃんに話しかけた。


 「俺、お前が心配なんだよ。お前の父ちゃんは家を出ちゃうし、母ちゃんは夜遅くまで働いてるだろ? だから、淋しくないかって」


 言う割にはさっき気持ち悪いとか言ってたけどねぇ。


 「さっきは気持ち悪いって言ったくせに」


 「あ、あれは、言葉のあやというか、その」


 「いいわけ?」


 六花ちゃん怖いです。


 「と、とにかく。そんな雪だるまに話しかけるなんて、お前らしくないよ」


  ムッ、誰らしくないとか、その人以外が決めていいものじゃないでしょ。


 「ほら、遊ぼうぜ」


 「ちょ、ちょっと!?」


 そういうと、竜基君は六花ちゃんが嫌がるのを無視して腕を引っ張っていこうとした。


 許せないかな、嫌がる女の子を無理やり腕づくでどうにかしようっていうのは‼


 『止めろぉ‼』


 「え?」


 竜基君にそう叫び、(どうやら聞こえたらしいが)僕は頭突きをぶつけた。


 ズム‼


 当然僕の身体は雪なので簡単にへこみ、竜基君にあんまりダメージはなかったが。


 「え? ……なに? 今の?」


 「今、雪だるまが勝手に動いたような…………ッ!?」


 「ヒ……ヒィ‼」


 僕がひとりでに動いたことのほうが驚きだったらしく、蜘蛛の子を散らすように子分たちは逃げていった。


 「あ、お、おい! お前ら‼待てよ……待てよぉ‼」


 竜基君も驚いたのか、子分たちを追って逃げてしまった。


 「雪だるまさん‼ 大丈夫!?」


 『大丈夫だよ』


 今僕の頭にはへこみができているんだけど、痛覚とかそういうのは僕にはない。


 「待ってて! すぐにへこんだのを治してあげる!」


 すると、六花ちゃんはすぐに僕の凹みに新しい雪をあてがたってくれた。


 『ありがとう六花ちゃん。でも、ごめんね。竜基君に、僕が喋るのばれちゃったかも』


 「ううん、いいの。それより雪だるまさん、痛くなかった?」


 『ああ、大丈夫。僕は痛みとか、そういうのは感じないんだ。だから、乱暴されても大丈夫だよ』


 「そうなんだ……でもね」


 そうつぶやくと、六花ちゃんは僕に抱き付いて


 「雪だるまさんが危ない目に合いそうになったら、私が守ってあげる。約束する!」


 『六花ちゃん……』


 なんだろう? 不思議な気分だ。


 僕の身体は雪なのに身体の真ん中が、ぽかぽかしているようだった。


 『そういえば君、六花ちゃんっていうんだね』


 「そうだよ。あれ? 言ってなかったっけ?」


 『うん』


 「そっか」


 その時僕の身体は、目の周りだけ溶けているようだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 『ぐう……ぐう……』


 その夜、僕はぐっすり眠っていた。


 「おい……やる……か?」


 「あたり……こいつ……せいで六花は……」


 「そっか……じゃ……」


 『? 誰かいる?』


 おぼろげに声が聞こえた。


 よくわからないけど、気にせずに僕はぐっすり寝た。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「雪だるまさーん‼」


 ん、もう朝か。


 なんで起きるのが遅かったんだろう?


 「あれ? 雪だるまさん?」


 あれ、六花ちゃん僕がわからないのかな?


 『此処だよ六花ちゃん‼』


 「雪だるまさん?」


 あれ? まだわからないのかな……っていうか、あれ?


 なんで六花ちゃんの足しか見えないんだ?


 身体もなんだかおかしい?


 というより、意識が……!?


 「あれ? ……雪だるまさん……? …………雪だるまさん!?」


 そう叫ぶと六花ちゃんは僕のほうに駆け寄ってきた。


 「雪だるまさん‼ うそ、誰がこんなこと‼」


 『あれ? ……六花……ちゃん、僕今……どう、なって る の ?』


 おかしい。言葉もなんだか絶え絶えだ。


 「雪だるまさん、ぼろぼろに壊されてるよ!」


 『………………え…………?』


 壊されて……る?


 なんで?


 『り、六花ちゃ「しゃべらないで‼」


 ひょっとしたら まさか、昨日おぼろげに聞こえたのは……!?


 「六花」


 また声が加わった。


 聞き覚えのある声、竜基君だ。


 「竜基」


 「六花。わかったろ? それはただの雪だるまだ。壊されればただの雪になるんだ。お前は、そのおかしな雪だるまに騙されてるんだよ!」


 酷いな……まるで他人を悪人扱いだ。


 「うそ……竜基がやったの?」


 「ああ、そうだ。目を覚ましてくれ六花‼ 大体雪だるまがしゃべるわけヘブッ」


 途中で言葉が切れたのは、六花ちゃんが雪を竜基君にぶつけたからだ。


 「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い‼ 竜基なんかもうあっちに行ってよ!」


 大声でそうまくしたて、六花ちゃんは怒りのままに言葉を吐いた。


 「そんなことわかってるよ! 雪 だるまが喋る事ぐらい、おかしいって思うよ! でも、雪だるまさんは私の話し相手になってくれた! 一緒にいて楽しかった! パパが出ていってから初めてだった! だから壊すのは許さない!」


 『六花 ちゃん……』


 そうだったんだ……道理で、すぐにいいって返事してくれたわけだ。


 「冷たっ‼」


 とうとうたまらず、竜基君は退散していった。


 「雪だるまさん‼」


 六花ちゃんは竜基君が退散したのを見届けると、僕のほうに駆け寄ってきた。


 『ありがとう、六 花 ……ちゃん。約束……守る、の、は、えらいこと……だよ……?』


 「雪だるまさん‼苦しいの!?」


 『う   ん。大……丈  夫』


 でもこの感覚には覚えがある。


 何度も経験した、僕が溶ける(きえる)時の感覚だ。


 『ごめんね……六花  ちゃん   。 僕、も  う、いられ ない、み たい』


 「なに言ってるの? また作ってあげるから!」


 『身体を……壊さ れ すぎ た みタい なんだ。 僕 が、目を 覚ま すのは、年に 一度 だけ だし、同じ とこ ろに、行け るかも わか らな いんだ もう、長くは 』


 「そんな、雪だるまさん!? ……うう」


 ポタ……ポタ……


 僕の身体を、熱いものが濡らした。


 『 ……… ……  …   ? …  …  ……』


 それは、六花ちゃんの涙だった。


 「ごめんなさい……守るって言ったのに、約束……守れなかった……」


 『何…… 言ってる、 の ……?  僕が、悪 い 雪だる、ま だっ て、言われ た 時 、 かバって くれた じゃ……ない  ?』


 「でも……!」


 『それに ね ? 六花ちゃん。僕は……嬉し か ったよ? 君とお話し でき て 。 君と 出会えて』


 絶え絶えの意識の中、僕は一生懸命六花ちゃんに話しかける。


 『君の 名 前 聞 かな、かっ たの は 。 お 別れ が 辛く な ると 思っ て 僕も 楽し かった んだよ ?』


 「雪だるまさん……」


 もう、最期かな。


 『六花 ちゃ ん 。 僕と、一緒 に 、遊んで クレて アリ が トう』


 いつも道理、今まで出会った人たちにも言った言葉。


 でも違ったのは、この後だった。


 『また 会 おう ね 』


 つい、としか言いようがない。


 口をついて言葉が出ていた。


 「雪だるまさん‼ 雪だるまさ――――」

 

 その言葉を最後に、僕の意識は闇に溶けた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 三学期が始まり、始業式が終わって、最初の授業の日


 「六花」


 「…………」


 いかにもガキ大将といった風情の子供が、黒髪の少女に話しかけた。

 だが、少女のほうは完全に無視をしている。

 というより、『耳が受け付けない』が正しいか。

 少女は暗く沈んでいた。


 「みなさん、今日は……」


 先生の話ですら、耳が受け付けない。

 机に突っ伏したままだ。


 「初めまして」


 不意に、少女の耳は、言葉を受け付けた。

 思わず少女は黒板の前に立つ少年を見つめる。


 「転校生の須能(すのう)(ゆき)です。よろしくお願いします」


 雪の色の髪をした少年だった。

 いや、それ以上に彼の声に、彼女は驚いていた。

 もう聞くことのないと思っていた声。裏付けるように、ガキ大将のほうも驚いている。


 「じゃあ須能さんは、風音さん……あの、長い黒髪の子の隣ね」


 そういって教師は、開いていた少女の隣の席を指さした。


 「はい」


 少年は席に腰かけると、少女に話しかけた。


 「また会えたね。六花ちゃん」


 聞き覚えのある声


 少女は少年に自分の名前を教えていない。


 つまりはそういうことだろう。














 少女が笑ったのは、久しぶりのことだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 六花ちゃんの心と冬の寒さがうまくリンクして、冬ならではの暖かさもある、素敵なお話でした!
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