第二話:森の国
「今日も平和だねぇ~・・・・・・」
降り注ぐ日差しが木の葉にさえぎられ、柔らかな木漏れ日となって大地を暖める。
その木漏れ日が作る日溜りの中に寝そべった青年が誰にともなくつぶやくと、何処からともなく声が聞こえてきた。
「何が「平和だねぇ~」ですか、またこんなところでサボってからに。いい加減仕事してくださいと何度も申し上げていると言うのに」
青年は緩慢な動作で目を開くと、声の主をちらりと見やった。
「お~宰相、今日もご苦労。して、今回は何用かな?」
宰相と呼ばれた人物は、尖った耳に深緑の瞳と髪を持つエルフの青年だった。
「ラザフ殿が面会をと着ております陛下」
「あ~・・・もうそんな時期か。分かったすぐ戻ろう」
寝転んでいた日溜りから起き上がり服についた葉を落とすと、聳え立つ大樹目指して歩き始めた。
宰相と呼ばれたエルフの青年もそれに半歩遅れて着いていった。
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人の手がはいる事のなかった大陸一の大森林・神秘の森。
その森の中心に聳え立つ世界樹と呼ばれる直径十数キロ、樹高600メートルにもなる木の洞に造られたユグドラシル城。そこを中心に半円状に広がる王都アルフヘイム。
ふと街の中へ目を向ければそこには多くの種族が暮らしていた。
緑の髪と瞳を持ち、尖った耳をしたエルフや1メートルにも満たない身長にトンボのような透明な羽を持つピクシー、たくましい体躯で身長が低いドワーフなどの精霊属。
ワーフルフやワーパンサーなどの二足歩行で毛皮に覆われた獣顔の獣属。ハーピーのような足が鉤爪状になっており、顔は鳥のままで腕と翼が一体化した鳥属。
さまざまな種族が暮らしているアルフヘイムだが唯一人属の姿だけが見当たらない。そうここは、唯一人属以外の種族が暮らす森の国なのだ。
そんなアルフヘイムを堂々たる足取りで闊歩するのはやはりと言うか先ほどの青年と宰相である。
「国王ともあろうものが護衛の一人もつけずに出歩くなど、万一のことがあったらどうするのです」
「お前もいい加減しつこい奴だな、俺に万一なんてことがないことなんて分かりきったことだろう?」
「しかし!」
なおも反論をしようと宰相が口を開いた瞬間、その口に何かが飛び込んできた。
思わず噛んでしまった後、口に広がるあまりの苦さに吐き出しそうになるのを何とか堪えて飲み込んだあと、実行犯であろう人物を探す。
「誰です! こんなことをするのは!」
「誰って、決まってんじゃねーか。ほら、あそこ」
そう言って指差されたのは街中に点在するコサの木だった。
コサの木は1cmほどの実をつける木で、熟すととても甘い黄色い実になるのだが、熟す前だと気付として使われるほどの苦味を持つことで有名だ。
そんな木の枝に腰掛けた獣属の少年がこちらを見て笑っていた。
「ラスティ! また貴方ですか! 今日と言う今日は許しませんよ!」
宰相が手を前に掲げたところでラスティという名の少年は笑うのをやめ、枝から飛び降りるとさっさと逃げていってしまった。
「さすが猫族、身軽なもんだな」
「逃がしましたか・・・まぁいいでしょう。陛下、急ぎましょうラザフ殿がお待ちです」
「はいよ」
二人は再び城へ向けて歩き出したが、たびたび似たような妨害を受け城に着くまでに宰相の青年はヘトヘトになっていた。