第一話:プロローグ
最果てと呼ばれる大陸最北端にある常闇の地に対峙する二つの人影があった。
双方共に黒髪黒目の青年ではあるが、片方は黒い禍々しい剣をもち悠然と相手の青年を視界に捉えている。
対するもう一人の青年は神々しい光を纏う白い剣構え、相手を睨み付けていた。
「今代の勇者に一つ助言をやろう」
緊迫する空気がはりつめる中、禍々しい剣をもつ青年が口を開いた。
「魔王を倒した勇者はどうなると思う?」
「・・・・・・」
「簡単なことだ、次の魔王になるのさ」
「・・・・・・」
「勇者の力はこの世界では強大すぎる。最初は感謝されていても次第に戦略兵器として扱われるようになる、なまじ不老なぶん、ね」
「・・・・・・」
「悠久とも言える時の果てで同郷の者に会えた。これで心残りはなくなった、お喋りはここまでにして決着を着けようか」
黒い剣がチャキリと音をならす。
それに伴い白い剣も輝きを増す。
そして、一拍の後白と黒の剣がぶつかった。
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日の光が差し込まないほど分厚い雲が空に停滞し、一年を通して薄暗い地域として人々に知られる土地最果て。
日が差さぬため大地は冷たく、植物が育たない死せる荒野となっていた。
そんな最果ての荒野の真ん中にポツリと地に付きたてられた一本の剣がある。
黒い刀身に巧みを凝らしつつシンプルな塚を持つその剣は見るものを引き付ける魅力があり、同時に手にすれば正気を失うだろうと思わせるほどの禍々しさを纏っていた。
普通ならば半刻もせずに持ち去られてしまうそうなものではあるが、場所が場所だけに今でもこうして剣は地に刺さったままだ。
大陸にその名を馳せた殺戮者も、各国から指名手配を受ける大盗賊も、世界最強と謳われる傭兵でさえもその足を向けることしない。それほどに人々から恐れられる最果ての荒野に一人、青年の姿があった。
迷いのない足取りはまっすぐに剣の元へと向かっている。
しばらくして剣の元へとたどり着いた青年はその場に座り込む。
「よう、久しぶりだな」
座り込んだ青年は徐に、剣へと言葉を投げかける。
それから青年は他愛もない話から近代報告までを済ませると立ち上がり、腰の鞘から剣を引き抜いた。
そして、どこからか取り出した白い石版に剣先で文字を彫ってゆく。
文字を彫り終えた石版を黒い刀身の前に置き、青年が持つ剣もその場に突き立てた。
「今更だが、あんたが最後に言った言葉の意味がわかったよ。それでも俺は・・・・・・」
青年のつぶやきは荒野に吹いた風にかき消されてしまった。
それでも満足そうな顔をした青年は来た時と同様に迷いのない足取りでその場に背を向けて歩き出した。
後に残された白い石版にはこう記されていた。
――三代目が勇者、ハルキ・ミズシマ並びに四代目が勇者、シュウヤ・ツキシマここに眠る――