【8】元旦、おせちとふわモコスタイル!?〜神社仏閣に入れない悪魔、恋の脚本にされる〜
花火が終わったあと――
ルチアーノが用意した、赤ワインの最高峰「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)」で、四人は乾杯を交わした。
だが、アンジュは一口飲むなり、「……眠い……」と目を擦り出した。
「目を擦ると赤くなってしまいます!」
ルシアンが慌てて声を上げる。
「ルチアーノ! ロクシー! 私はアンジュさまを寝かせてくる!」
そう言うやいなや、アンジュを抱き上げて寝室へと運んで行った。
その背中を見送りながら――
ルチアーノとロクシーの視線が、バチリと交わる。
「ルチアーノ……あんたの報告メール、読んだわ」
ロクシーがワイングラスをくるくると回しながら、意味深に笑う。
「ありがたき幸せ……!!」
ルチアーノは勢いよく胸に手を当て、感激の声を上げた。
「では、明日の脚本は如何に!?」
ロクシーが妖艶に微笑む。
「――あんた、さっきの花火の二人、見た?」
ルチアーノの瞳がギラリと光る。
「モチのロンでございます!!」
「フフフ……よろしい!」
ロクシーがグラスを軽く掲げ、唇を弧にした。
「そこで、あんたの“神社仏閣に入れない問題”を利用するのよ」
ルチアーノが目を剥いた。
「なんと……!! ピンチをチャンスに変える……!
ロクシー先生……天才ですか!?」
「まあね!」
ロクシーが得意げにウインクする。
「あんたのタブレットに、もう脚本は送ってあるわ。
ルシアンに暗記させて!」
「……御意……!!」
ルチアーノは感動のあまり、瞳を潤ませながらタブレットを胸にぎゅっと抱きしめた。
――ロクシー先生の大作戦、ついに始動である。
ルシアンがアンジュをそっとベッドに横たえると、アンジュはあっけなく眠りについた。
あどけなく、美しい寝顔を見つめながら、ルシアンが静かに呟く。
「お休みなさいませ。アンジュさま」
部屋の灯りを落とし、メインリビングへ戻ると――
入れ違いにロクシーが「お休みー」と言いながら部屋に入って行く。
ソファには、ギラギラと目を光らせたルチアーノが鎮座していた。
「ルチアーノ? お前は寝ないのか?」
ルシアンが問うと、ルチアーノはタブレットから印字した紙の束を突きつけてきた。
「新年初恋成就作戦・第1弾だ!!
記憶しろ! そして、その通りに動くんだッ!」
その叫びと同時に、薔薇の花びらを散らしながら特大クラッカーを鳴らす。
次の瞬間――
「うるさいっ!!」
ロクシーの怒鳴り声と共に、飛んできた缶ビールがルチアーノのこめかみにクリティカルヒット。
「ロクシー先生の愛のムチ……!! ラブ❤️」
ルチアーノはソファの上で転げ回り、完全に悦に入っている。
ルシアンはその様子を見て、これではアンジュが目を覚ましてしまうと判断し、
ルチアーノが差し出した紙の束に手を翳した。
淡い光が瞬き、一瞬で記憶が完了する。
「……完了した。静かに」
「さっすがルシアン!! ズッ友の鑑ッ!!」
ルチアーノが満面の笑みで親指を立てる。
ルシアンは小さくため息をつきながら、
“新年初恋成就作戦”という不穏な言葉を胸の奥で反芻していた。
翌朝、一月一日――元旦。
テーブルの上には、豪華な洋風おせちが並んでいた。
イレイナの計らいで用意されたその料理は、どれも色鮮やかで、まるで宝石箱のようだ。
四人が揃うと、まずは「明けましておめでとうございます」の挨拶。
すぐにルチアーノが張り切ってロクシーにお屠蘇を注いだ。
ロクシーはグイッと飲み干し、
「ヤバいって〜! たまらん!」と豪快に笑う。
ルチアーノも負けじとお屠蘇を飲み、「うまーい!! ロクシー先生、おかわりどうぞ!」と上機嫌だ。
アンジュは緑茶を手に、静かに微笑んでいた。
その時、ルシアンが口を開く。
「新年の挨拶も終わったし、お屠蘇も飲んだ。……質問しても良いか?」
「いいわよ〜! もしかして今年の抱負!?」
ロクシーがアワビに齧りつきながら軽く返す。
「その……」
ルシアンはチラリとアンジュを見て、ロクシーに向き直る。
「日本文化では、お正月は着物が正装ではないのか?
我々が着ている、このモコモコの服は何なのだ?」
そう――今、四人は全員そろって“ふわモコ”のパーカー&パンツ姿である。
しかも、全てロクシー監修のデザインだ。
ロクシーはラベンダーカラーの上下に、金色のドルマークの刺繍。
アンジュはベビーピンクに、金色の天使の羽根。
ルチアーノはショッキングピンクに、某ブランドを彷彿とさせる金刺繍のロゴ。
そしてルシアンは――ベビーブルーに金色のユニコーンの刺繍。
「あのね!」
ロクシーは最高級の冷酒をグビッと飲み干し、ルシアンを真正面から見据える。
「着物は京都で着たでしょ!?
あれ以上の着物は無いの!
あの着物はね、日本の人間国宝の方の手によるもの! 一着数千万円は下らないの!
だ・か・ら♪」
フンフンと鼻歌を鳴らすロクシーに、ルチアーノがさっと冷酒を注ぐ。
「逆にね!
お正月は“ジャパニーズカワイイ”一択なの!
どう? アンジュちゃん、かわいいでしょー?」
ロクシーの目が怪しく輝いた。
今日のアンジュは、金髪を三つ編みにして両サイドに垂らしている。
もちろん、それもロクシー監修だ。
ルシアンは目の前のアンジュを見られず、
「……そうか」とだけ呟いた。
そして――
セレニスで新年の慈善パーティーをはしごしつつ、アンジュ達の様子を完璧にチェックしていたイレイナも、静かに呟いた。
「ロクシーのあのセンス……馬鹿なの?」
そうして、一通りおせち料理を食べ終えると、ロクシーが箸を置き、ニヤリと笑った。
「ルチアーノは悪魔だから、神社仏閣に参拝できないんだよね〜!
でも、せっかくのお正月に一人ぼっちは可哀想だよね?」
アンジュが深く頷く。
「勿論だ! 日本のお正月とは平和祈願なのだから!」
「アンジュちゃん……!!」
ルチアーノが感極まって目を潤ませたその瞬間、
ロクシーの肘鉄がルチアーノの腰にヒットする。
「でね!」
ロクシーが身を乗り出す。
「この旅館には小さいけど滝があるの!
そこで、お正月イベントをするから、みんなで行こうよ!」
「素晴らしいな、ロクシー!
良かったな、ルチアーノ!
ルシアン、楽しみだな!」
アンジュが無邪気に笑う。
その笑顔は、冬の朝の光のように眩しく――
ルシアンは思わず、見惚れた。
そして、そんな二人を見ながら、ロクシーとルチアーノはそっと目配せを交わす。
次なる“作戦”の開幕を告げるように。
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