【6】資格喪失系天使、恋の現場から逃走中!〜悪魔は叫ぶ、普通にしてろ!〜
ルチアーノが上手く言い訳をしてくれたらしく、朝食バイキングを抜け出し、一人リムジンの助手席にポツンと座っているルシアンに、ロクシーとアンジュは「お待たせ〜!」と笑顔で言っただけで、態度も普段と変わらなかった。
アンジュは後部座席からルシアンに祇園の夜について色々と話しかけてくるが、ルシアンは相槌を打つのが精一杯で、アンジュを見ることができなかった。
そんなルシアンに、ルチアーノが運転しながらチクチクと刺さるような視線を送ってくる。
それから五分ほど、海沿いを走る。
ロクシーの選曲を大音量でかけて、ルシアン以外はノリノリだ。
ルシアンも太陽を浴びてキラキラと光る海を眺めた。
その時、アンジュが何かを言った。
ルシアンが振り返る。
だがアンジュはにっこり笑うと、またノリノリのロクシーと一緒に歌を口ずさんでいた。
そして――目の前に、大きな旅館が現れた。
その旅館は離れが四部屋あり、それ以外の客は受け入れないという格式ある老舗旅館だった。
フロントとロビーがある建物も、外観は伝統的な日本家屋。
内装には古美術品がさりげなく飾られ、アンジュは嬉しそうに見て回っていた。
女将自らが離れに案内してくれる。
平屋建ての離れは、和風で統一されたインテリアにツインのベッドルームが二つ、ダブルベッドの部屋が一つ。
リビングには小さなカウンターバーもあり、冷蔵庫にはあらゆる酒や天然水が用意されている。
そして――この離れの目玉は、天然の岩をくり抜いた露天風呂だった。
洗い場は室内にあり、露天の前には小川が流れ、周囲を竹林が囲んでいる。
ロクシーは「すごっ!ここで大晦日を迎えるの!? しかもイレイナの支払い……! ラッキー過ぎる!」を繰り返し、すべての部屋と風呂をチェック。
ルチアーノもそれに付き合って感嘆の声を上げていた。
「じゃあまずは温泉に入るか! 女子の皆さんからお先にどうぞ! 俺様達は大浴場で構いません!」
ルチアーノのその言葉に、ロクシーが満足そうに頷く。
ルチアーノにジロッと見られて、ルシアンも「お先に、どうぞ」と言った。
まずは浴衣に着替えようという話になり、ロクシーがアンジュと部屋に向かおうとした時――
ルチアーノがロクシーの肘をちょん、と押した。
「ロクシー先生……!!」
その声に、ロクシーの目がギラリと光る。
「分かってるわ……!
脚本なら明日から発動よ……!
ルシアンの昨夜の行動、アンジュちゃんの発言、すべてを聞き出し、私のタブレットへ送って!」
「一年の計は元旦にあり、でございますな……!」
「その通り……!!」
二人が頷き合ったその瞬間——
ルチアーノの手元の水晶玉が、わずかに黄金色に揺らめく。
『……ふむ。そなたら、実に面白きことを企んでおるな……』
誰にも届かぬ、上位の呟きだけが滲む。
そしてロクシーがアンジュの待つダブルベッドの部屋に消えると、ルチアーノは赤ワインをグラスに注ぎ、一口飲んで「ん〜!!最高❤️」と高らかに言った。
ルシアンは無言のままだ。
「ルシアン♪ 俺様達も大浴場に行こうぜ!」
「なぜ? 私は汚れない」
「俺様が入りたいのっ! お前、温泉入ったこと無いだろ!?
神の報告書に書けるだろ!?」
「……それは、理にかなっているな」
と、ルシアンが言いかけた時だった。
ロクシーとアンジュの部屋の扉が開き、浴衣姿の二人が現れた。
昨夜の振り袖姿とはまた違う、美しさ。
アンジュの金の髪が一筋、か細い項に垂れていて――ルシアンの目は釘付けになる。
「……ルシアン? どうかしたのか?」
固まっているルシアンの顔を覗き込もうとするアンジュを、ルシアンが必死でかわし、
「何でもございません!!」と答える。
そして、
「私は警護のためにリビングのソファにおります! ルチアーノ! 大浴場ではなく、この露天風呂に入れ!」
と一気に言うと、アンジュに何も言う隙を与えず、三人の目の前からパッと消えた。
ルチアーノが「なんなんだよ……もー!! 大浴場だって良いのにっ……!」とぶつぶつ言いながら、自分の部屋で浴衣に着替えていると――
目の前にルシアンが現れた。
「うわっ! びっくりしたっ! 近すぎるっ!」
浴衣を羽織った状態で怒鳴るルチアーノに、ルシアンが無表情で一歩下がる。
「すまない」
「こんの……大馬鹿者!
何でさっき突然消えたんだよ!?
アンジュちゃんが怪現象だと思うだろ!?
俺様の『ルシアンの趣味はマジシャン♪』が無かったら、どうなってたと思う!?」
「ありがとう、ルチアーノ。
だが……私はあの場にいる資格は無い」
ルチアーノが目を剥く。
「資格!?
昨夜、アンジュちゃんに恩寵を使ったからか!?
そんなくだらない理由なんて必要無い!
もーーー!! 恋に無神経はダメ! 絶対!
ロクシー先生も怒り狂うぞ!!」
ルチアーノの余りの剣幕に、ルシアンが首を傾げる。
「ルチアーノ、なぜそんなに怒るのだ?
だがこれが最善の選択なのだ。
私は昨夜、アンジュさまが酔っているからと、勝手に恩寵を使った。
その罪が心に突き刺さって、アンジュさまを見ることもままならない。
だが――なぜか、見てしまう。
だから、消えたのだ。」
ルチアーノはガクッと肩を落とすと、何とか冷静さを保ち、言った。
「お前の言い分はよーーーく分かった。
と・り・あ・え・ず!!
今夜は大晦日!
明日の新年に向けて、お前は“普通”にしてろ!
明日になったら、ロクシー先生と俺様の共作の脚本を用意するからッ!!」
ルシアンが「ありがとう」と言って部屋を出て行く。
ルチアーノは深いため息をつくと、タブレットを取り出し、凄まじい勢いでキーボードを叩き出した。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
今年もお世話になりましたm(_ _)m
良いお年をお迎え下さい。
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