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地上でいちばん可愛い正月旅行 〜天使と悪魔も福来たる、温泉・TOKYO・バタフライ〜  作者: 久茉莉himari


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4/5

【4】祇園のお座敷遊び、天使の心拍数。〜新しい使命は“ふた“でした〜

その夜は大盛り上がりだった。


まず、イレイナの魔術が発動し、全員の服装が着物に変わった。


ロクシーは淡い朱色を基調とした振袖。

吉兆文様が美しい。黒髪も美しく結い上げられ、べっ甲の簪が輝いている。


アンジュはピンクと白を基調とした振袖。

こちらも吉兆文様が映え、結い上げた金髪と青い瞳を存分に引き立てていた。


それだけでもう、ロクシーとルチアーノのテンションは最大値だ。


ロクシーの「京都を歩きたい」という意見で、四人はホテルから花見小路へリムジンで移動した。

お座敷のある料亭の手前100メートルで車を降り、夜の街を少しだけ歩く。


アンジュは「素晴らしいな!」を連発し、ロクシーもスマホで写真を撮りまくる。

履きなれない草履が、「日本に来たんだ」と実感させてくれる。


料亭に着くと、采配はロクシーがすべて担った(もちろんイレイナの代理として)。


「こんな豪勢なお座敷は、なかなかありませんなあ」


女将の言葉どおり、舞妓五人、芸妓五人――総勢十人が揃っていた。

料理は懐石。舞妓や芸妓にお酌をされながら日本酒を味わい、会話も弾む。


ルシアンでさえ、舞妓や芸妓の簪・着物について質問し、感心している。

ロクシーは言わずもがな満喫。ルチアーノに至っては、可憐で清楚な舞妓と、艶やかな芸妓の魅力に心を鷲づかみにされ、終始デレデレだ。


そして四人を決定的に虜にしたのは、演舞。

地方じかたの演奏に合わせ、舞妓と芸妓が舞い踊る。

初めての体験にくらくらしているところへ、舞妓や芸妓が親しく接してくれるものだから、ルシアン以外の三人はすっかり舞い上がっていた。


やがて祇園ならではの“お座敷遊び”が始まる。

『とらとら』に始まり、『金毘羅船々』、『投扇興』などなど。

ロクシー、アンジュ、ルチアーノは大騒ぎだ。


一方のルシアンは――。

ロクシーに「撮影OKか」を確認すると、許可は取得済み、さらにプロのカメラマンも手配済みとのこと。

それでもなお、こっそりアンジュをスマホで撮りまくっていた。


「おい、ルシアン! プロのカメラマンがいるだろ。写真は彼に任せろ!」


ルチアーノが注意しても、ルシアンは無言で聞き流す。

そうなるとルチアーノも、ルシアン&アンジュのツーショットが欲しくなる。


そして――二人の“静かな戦い”が始まった。


「アンジュさま、こっちを!」

「アンジュちゃん、ルシアンの隣に並んで!」


声のかけ合い合戦だ。

すでに上機嫌のアンジュは、呼ばれれば嫌がらずに向きを変え、時にはウィンクまで。

そのたびに二つのスマホが、連写のシャッター音を響かせた。


通常、舞妓や芸妓は一時間半から二時間でお座敷を上がるが、今夜はイレイナが貸し切り。

深夜まで宴は続いた。最後は全員で記念写真をプロカメラマンが撮影し、お開きに。





ロクシーが表書き「松の葉」のポチ袋を舞妓・芸妓へ配り終えるころ――

ルチアーノが「松の葉ならこれだろ!?」と、本物の松の葉っぱを手渡そうとして、ロクシーの携帯“悪魔撃退スプレー”を噴射されていた。


よろよろと離れたルチアーノは、ルシアンを呼ぶ。


「何だ?」


「お前は当たり前だが、まったく酔ってないな。そこでだ。

アンジュちゃんを連れて、先にホテルへ戻れ。

……もー、アンジュちゃんってば! お酒に弱いのに、あんなに飲んじゃって潰れたんだぞ!?

このあとも“お楽しみ”があるってのに~!

俺様は予定どおりロクシーと“大人の夜”を満喫してくる。ロクシー先生を怒らせられない!」


「分かった。どうやって帰る?」


「タクシーは手配済み。アンジュちゃんを頼んだぞ!」


「もちろんだ」


ルシアンは、畳の上ですやすや寝息を立てるアンジュを支え起こし、料亭を出てタクシーに乗り込んだ。





ホテル。

アンジュが選んだ部屋のダブルベッドに、ルシアンはそっと彼女を横たえる。

冷蔵庫から500ミリのミネラルウォーターを取り出し、サイドテーブルへ。

――着物は脱がせるべきか。寝苦しいはずだ。ルシアンにもそれぐらいは分かる。

逡巡していると、アンジュが薄く瞼を開いた。


「……ルシアン……?」


「はい。アンジュさま、具合はいかがですか?」


「……ん……のど……かわいた……」


ルシアンは枕をクッション代わりにして抱き起こし、ミネラルウォーターを手渡す。

アンジュはペットボトルを見下ろし、「……ん……」とだけ呟いて、ルシアンの手に押し付けた。


「アンジュさま?」


「……ふた……あけろ……」


思わず、ルシアンは声を上げる。


「蓋でございますか!?」


――大天使ガブリエルさまが、私に“ペットボトルの蓋を開けよ”と……新たな使命を……!?


アンジュは無視して、うるんだ上目遣いでじっとルシアンを見つめ、「……ふた……」と繰り返す。

青い大きな瞳は潤み、長い睫毛はしっとり濡れ、目尻はほんのり紅い。


ルシアンの心臓が、どくどく鳴る。

“まずい”。大天使としての理性が警鐘を鳴らす。

彼はすばやく蓋を開け、ボトルを返した。


アンジュは「……ん……」と口をつけたが――

水は唇をつたい、喉から着物へ零れていく。

それでも少しは飲んでいるのか、白い喉が上下する。


日本酒でうっすら赤い唇。

そこからこぼれる透明な水。

白い喉を流れ、着物を濡らす。


ただそれだけのことなのに、ルシアンは目を離せない。

舞妓も芸妓も、たしかに美しかった。だが、その感嘆をすべて吹き飛ばす光景が、目の前にある。


やがてアンジュはボトルから口を離し、「……びちょびちょ……きもちわるい……」とたどたどしく言って、まだ水の残るボトルを放り投げようとする。

それをルシアンがすばやく掴み取った。


アンジュは上目遣いで、またじっと――。


「……ア、アンジュさま? 新しいミネラルウォーターをお持ちしましょうか?」


アンジュは小さく首を横に振り、「……びちょびちょ……きもちわるい……」を繰り返す。


そして、ルシアンはようやく悟る。

――アンジュさまは酔っている。自分が想像していたより、ずっと。


彼女の瞳はさらに潤み、ついに、一粒の涙がぽとりと落ちた。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

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