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【完結】地上でいちばん可愛い正月旅行 〜天使と悪魔も福来たる、温泉・TOKYO・バタフライ〜  作者: 久茉莉himari


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10/11

【10】虹色の綿あめは恋の味?〜三日月の夜と、金色の瞳〜

その夜の夕食は、和牛のしゃぶしゃぶのフルコースだった。


ロクシーが息を呑む。

「これが……黒毛和牛A5ランクの肉!」


女将にしゃぶしゃぶの食べ方を説明されると、アンジュが「なあ、もう食べて良いのか? まだ?」と子どものようにロクシーを急かす。


ロクシーはニカッと笑うと、「食べていいに決まってるじゃん」と答え、すでに箸を掴んでいた。


ルチアーノは「なんと! 卵が綺麗だ……!」と、卵に感動している。


そして、すき焼きに合うという極上の赤ワインを開け、乾杯を済ませると、賑やかな元旦の夕食が始まった。


アンジュは「美味い~!」を連発し、ロクシーも「日本人はこんなに美味しい牛肉を食べているの!?」と驚きながら、箸が止まらない。


ルシアンも珍しく、普通に食べていた。

――アンジュに感想を聞かれると予想して。


ルチアーノは上機嫌で、今にも踊り出しそうだ。


赤ワインのボトルはすぐに空き、新しい赤ワインが届けられる。

その時、アンジュが「私は水が良い」と言い出した。


ルチアーノが不思議そうに尋ねる。

「なぜだ? この夕食のために揃えた当たり年のワインばかりだぞ? それをお水? 冗談だろ?」


だが、アンジュは水が良いの一点張りだ。


ロクシーが「アンジュちゃん、どうしたの? ここまで来てお水? せっかくだからワインを堪能しようよ」と言っても、聞く耳を持たない。


そして、アンジュは高らかに言った。


「酔ってしまっては、屋台で買ったおやつが食べられない!」


ルシアンがサーッと真っ青になる。

――あんなに甘い物ばかりを……すき焼きの後に……!?

アンジュさまのお腹の具合が……いや、血糖値が……!!

ならば、私は言われなき罪を被るまで!


次の瞬間、ルシアンが炬燵布団を避け、ガバッと頭を下げた。


「アンジュさま……!

申し訳ございません!

私が全部、食べてしまいました……!

ご容赦を……!」


アンジュの青い瞳が見開かれる。

「戦隊ヒーローの綿菓子を五個全部……!?」


「……はい。」


すると、突然ルチアーノが側転した。


ロクシーとアンジュがポカンとルチアーノを見る。


「アンジュちゃん!

ルシアンを許してやってくれ!

ルシアンはこうやって、ロクシーとアンジュちゃんが露天風呂に入ってる間に運動してたんだ!

警備のためにと!

だから腹が減って…!

なっ! ルシアン!」


ルチアーノに目配せされ、ルシアンが立ち上がる。

「……いかにも!」


そして――二人の側転が始まり、

ロクシーが一本三百万円はする赤ワインのボトルを、二人の側転が交わる瞬間に投げつけた。






結局、ロクシーがイレイナに連絡をして、イレイナが部屋を完璧に戻してくれた。


そして、イレイナは水晶玉から冷たく告げた。

「ルチアーノ……世界遺産の日光東照宮に行ってから帰ってきなさい……」


ルチアーノは真っ青になりながら「ハイッ!」と答えると、何事もなかったようにしゃぶしゃぶを食べ出した。


ロクシーが英スコッチウィスキー『マッカラン』をロックで飲みながら、「あんた……本当に強いわ……」とルチアーノを見据える。


「腹が減っては戦は出来ぬ、でございます! ……して、ロクシー先生がウィスキーを召されているということは……?」


ルチアーノの目とロクシーの目が合う。

「もちろん! 脚本通りよ!」





アンジュはルシアンに誘われ、食後の散歩をしていた。

場所は昼間の屋台で賑わった滝へ。


誰もいない夜の滝はライトアップされ、幻想的だ。

そして二人は、女将が用意してくれた“はんてん”を着ている。


金色の髪を編み込みにして、はんてんを着ているアンジュのかわいさ、神聖なる美しさに、ルシアンはくらくらしていた。


アンジュは不思議そうにルシアンを見上げる。


「ルシアン? どうした? 

やっぱり綿菓子五個とすき焼きは食べ過ぎではないか?」


「……アンジュさまが食されようとしておりました」


ルシアンの冷静な答えに、アンジュが笑う。

鈴の音のような声で。


「そうであった! 綿菓子とはどんな味であったか!?」


「甘いですね」


「それだけ!?」


アンジュがぷうっと頬を膨らませた瞬間、足元がふらりと揺れる。

ルシアンがさっとアンジュを支えた。


「ですから下駄ではなく、スニーカーを……」

ルシアンの言葉が途切れる。


アンジュの瞳が潤んでいて――今にも涙が零れ落ちそうで。


「ルシアンよ……! あの三日月を見よ……!」


二人の頭上、夜空には細いナイフのような三日月が星々を彩っている。

「なんと美しい……!」


アンジュは知らない。

ルシアンが三日月を見ていないことを。

腕の中のアンジュを、ただ、ひたすらに見つめていることを。





翌朝。


リムジンに乗って、四人は日光東照宮へと向かった。

イレイナの時空の空間を使えば、一分でそこは日光。


ロクシーが門構えを見ただけで感嘆の声を上げる。

「凄いじゃん! これこそ東洋の神秘ね! なんて偉大な文化なの……! 総額いくら掛かったんだろ……!?」

興奮してスマホで写真を撮りまくっている。


ルチアーノも「私もこのアートは好きだ♪ だけどーー!! 俺様の繊細なお肌が、聖域のせいでチクチクする!!」と愚痴をこぼしながらも、笑顔で自撮りしていた。


アンジュは心から感動していて、ロクシーと一緒に写真を撮ったり――

ルシアンとも一緒に撮りたいと言い出して、二人で何枚も写真を撮った。


「天使達が驚くぞ!」とアンジュはご満悦だ。


昼食には、ロクシーおすすめの原宿にある最高級カフェへ。

盛り付けも美しく、かわいらしい。


だがロクシーの狙いは――綿菓子だった。


ルシアンに原宿で虹色の巨大綿あめを買わせ、アンジュにプレゼントさせたのだ。

「昨日のお詫び」と言って。


アンジュは真っ白なコートに虹色の綿あめを抱え、頬を赤く染めながら笑う。

「ありがとう! ルシアン!」


そして一口食べて、目を輝かせる。

「甘ーい❤️ しかもグレープの味がするぞ! 紫だからか? ルシアン、そっち側の黄色を食べて味を教えろ!」


ルシアンが意に反して赤くなる。

――せ、赤面!? この私が……!?


オロオロしていると、左右から押しくらまんじゅうのような圧迫感を感じた。

ルチアーノとロクシーだ。


背中を使って、ルシアンを綿あめへと押している。

ルシアンはふっと笑うと、綿あめを一口食べた。


「檸檬の味が致します」


ルシアンの答えに、アンジュが嬉しそうにニッコリ笑う。

「では私は赤いところを食べる!」


「では、お持ちしましょう」

ルシアンが綿あめの棒を持つ。

まるで、儚い虹を壊さないようにしながら。


そんな二人を見る男。

金髪、金の瞳――

まるで中世絵画から抜け出してきたような美貌。


「アンジュ、君は本当に甘党だね」


男がそう呟いた瞬間、真っ青な空に、一筋の雷が走った。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

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