【10】虹色の綿あめは恋の味?〜三日月の夜と、金色の瞳〜
その夜の夕食は、和牛のしゃぶしゃぶのフルコースだった。
ロクシーが息を呑む。
「これが……黒毛和牛A5ランクの肉!」
女将にしゃぶしゃぶの食べ方を説明されると、アンジュが「なあ、もう食べて良いのか? まだ?」と子どものようにロクシーを急かす。
ロクシーはニカッと笑うと、「食べていいに決まってるじゃん」と答え、すでに箸を掴んでいた。
ルチアーノは「なんと! 卵が綺麗だ……!」と、卵に感動している。
そして、すき焼きに合うという極上の赤ワインを開け、乾杯を済ませると、賑やかな元旦の夕食が始まった。
アンジュは「美味い~!」を連発し、ロクシーも「日本人はこんなに美味しい牛肉を食べているの!?」と驚きながら、箸が止まらない。
ルシアンも珍しく、普通に食べていた。
――アンジュに感想を聞かれると予想して。
ルチアーノは上機嫌で、今にも踊り出しそうだ。
赤ワインのボトルはすぐに空き、新しい赤ワインが届けられる。
その時、アンジュが「私は水が良い」と言い出した。
ルチアーノが不思議そうに尋ねる。
「なぜだ? この夕食のために揃えた当たり年のワインばかりだぞ? それをお水? 冗談だろ?」
だが、アンジュは水が良いの一点張りだ。
ロクシーが「アンジュちゃん、どうしたの? ここまで来てお水? せっかくだからワインを堪能しようよ」と言っても、聞く耳を持たない。
そして、アンジュは高らかに言った。
「酔ってしまっては、屋台で買ったおやつが食べられない!」
ルシアンがサーッと真っ青になる。
――あんなに甘い物ばかりを……すき焼きの後に……!?
アンジュさまのお腹の具合が……いや、血糖値が……!!
ならば、私は言われなき罪を被るまで!
次の瞬間、ルシアンが炬燵布団を避け、ガバッと頭を下げた。
「アンジュさま……!
申し訳ございません!
私が全部、食べてしまいました……!
ご容赦を……!」
アンジュの青い瞳が見開かれる。
「戦隊ヒーローの綿菓子を五個全部……!?」
「……はい。」
すると、突然ルチアーノが側転した。
ロクシーとアンジュがポカンとルチアーノを見る。
「アンジュちゃん!
ルシアンを許してやってくれ!
ルシアンはこうやって、ロクシーとアンジュちゃんが露天風呂に入ってる間に運動してたんだ!
警備のためにと!
だから腹が減って…!
なっ! ルシアン!」
ルチアーノに目配せされ、ルシアンが立ち上がる。
「……いかにも!」
そして――二人の側転が始まり、
ロクシーが一本三百万円はする赤ワインのボトルを、二人の側転が交わる瞬間に投げつけた。
結局、ロクシーがイレイナに連絡をして、イレイナが部屋を完璧に戻してくれた。
そして、イレイナは水晶玉から冷たく告げた。
「ルチアーノ……世界遺産の日光東照宮に行ってから帰ってきなさい……」
ルチアーノは真っ青になりながら「ハイッ!」と答えると、何事もなかったようにしゃぶしゃぶを食べ出した。
ロクシーが英スコッチウィスキー『マッカラン』をロックで飲みながら、「あんた……本当に強いわ……」とルチアーノを見据える。
「腹が減っては戦は出来ぬ、でございます! ……して、ロクシー先生がウィスキーを召されているということは……?」
ルチアーノの目とロクシーの目が合う。
「もちろん! 脚本通りよ!」
アンジュはルシアンに誘われ、食後の散歩をしていた。
場所は昼間の屋台で賑わった滝へ。
誰もいない夜の滝はライトアップされ、幻想的だ。
そして二人は、女将が用意してくれた“はんてん”を着ている。
金色の髪を編み込みにして、はんてんを着ているアンジュのかわいさ、神聖なる美しさに、ルシアンはくらくらしていた。
アンジュは不思議そうにルシアンを見上げる。
「ルシアン? どうした?
やっぱり綿菓子五個とすき焼きは食べ過ぎではないか?」
「……アンジュさまが食されようとしておりました」
ルシアンの冷静な答えに、アンジュが笑う。
鈴の音のような声で。
「そうであった! 綿菓子とはどんな味であったか!?」
「甘いですね」
「それだけ!?」
アンジュがぷうっと頬を膨らませた瞬間、足元がふらりと揺れる。
ルシアンがさっとアンジュを支えた。
「ですから下駄ではなく、スニーカーを……」
ルシアンの言葉が途切れる。
アンジュの瞳が潤んでいて――今にも涙が零れ落ちそうで。
「ルシアンよ……! あの三日月を見よ……!」
二人の頭上、夜空には細いナイフのような三日月が星々を彩っている。
「なんと美しい……!」
アンジュは知らない。
ルシアンが三日月を見ていないことを。
腕の中のアンジュを、ただ、ひたすらに見つめていることを。
翌朝。
リムジンに乗って、四人は日光東照宮へと向かった。
イレイナの時空の空間を使えば、一分でそこは日光。
ロクシーが門構えを見ただけで感嘆の声を上げる。
「凄いじゃん! これこそ東洋の神秘ね! なんて偉大な文化なの……! 総額いくら掛かったんだろ……!?」
興奮してスマホで写真を撮りまくっている。
ルチアーノも「私もこのアートは好きだ♪ だけどーー!! 俺様の繊細なお肌が、聖域のせいでチクチクする!!」と愚痴をこぼしながらも、笑顔で自撮りしていた。
アンジュは心から感動していて、ロクシーと一緒に写真を撮ったり――
ルシアンとも一緒に撮りたいと言い出して、二人で何枚も写真を撮った。
「天使達が驚くぞ!」とアンジュはご満悦だ。
昼食には、ロクシーおすすめの原宿にある最高級カフェへ。
盛り付けも美しく、かわいらしい。
だがロクシーの狙いは――綿菓子だった。
ルシアンに原宿で虹色の巨大綿あめを買わせ、アンジュにプレゼントさせたのだ。
「昨日のお詫び」と言って。
アンジュは真っ白なコートに虹色の綿あめを抱え、頬を赤く染めながら笑う。
「ありがとう! ルシアン!」
そして一口食べて、目を輝かせる。
「甘ーい❤️ しかもグレープの味がするぞ! 紫だからか? ルシアン、そっち側の黄色を食べて味を教えろ!」
ルシアンが意に反して赤くなる。
――せ、赤面!? この私が……!?
オロオロしていると、左右から押しくらまんじゅうのような圧迫感を感じた。
ルチアーノとロクシーだ。
背中を使って、ルシアンを綿あめへと押している。
ルシアンはふっと笑うと、綿あめを一口食べた。
「檸檬の味が致します」
ルシアンの答えに、アンジュが嬉しそうにニッコリ笑う。
「では私は赤いところを食べる!」
「では、お持ちしましょう」
ルシアンが綿あめの棒を持つ。
まるで、儚い虹を壊さないようにしながら。
そんな二人を見る男。
金髪、金の瞳――
まるで中世絵画から抜け出してきたような美貌。
「アンジュ、君は本当に甘党だね」
男がそう呟いた瞬間、真っ青な空に、一筋の雷が走った。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
明日も17時更新です☆
Xはこちら→ https://x.com/himari61290
自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪
〈ルシアンとガブリエルをもっと知りたいあなたに…〉
【完結】大天使と“ズッ友”になりたい地獄の王。 〜柄物スーツに一目惚れしてから、すべてが始まった件〜
https://ncode.syosetu.com/n5195lb/
【完結】大天使ガブリエル、地上に爆誕!〜神の命がふんわりすぎて、祈ろうとしたら迷子になりました〜
https://ncode.syosetu.com/n2322lc/
【完結】大天使たち、日本昔話に異世界転生する。〜初恋成就作戦を決行するポンコツ地獄の王に振り回されています〜
https://ncode.syosetu.com/n7024ld/
【完結】大天使ルシアン、最強捜査官になる〜神の沈黙と愛の証明〜
https://ncode.syosetu.com/n5966lg/
【完結】大天使と最強捜査官のクリスマス戦線 〜セレニスに集う者たち、愛か使命か〜
https://ncode.syosetu.com/n9868lk/
【完結】大天使と最強捜査官のクリスマス戦線〜聖夜の余白の物語〜
https://ncode.syosetu.com/n9097lm/
を読んで頂けるともっと楽しめます(^^)
こちら単体でも大丈夫です☆
\外伝の元ネタはこちら✨/
『最強捜査官』本編 → https://ncode.syosetu.com/n2892lb/




