【1】日本視察、理にかなっております。〜天使と悪魔のお正月ミッション〜
クリスマスが終わり、世界は平常に戻った。
――はずだった。
大天使ガブリエルに下された、神の新たな使命。
それは「日本の正月を理解せよ」。
恩寵を消されて地上に降りたガブリエルと、
護衛として同行する大天使ルシアン。
そこへ、ある目的を持った悪魔と人間が合流し――
一行は、日本でお正月旅行をすることになる。
温泉、TOKYO、年越し蕎麦に露天風呂。
ふわモコの部屋着で笑って騒ぐ、
天使と悪魔と人間たち。
これは、世界を救う物語ではない。
恋を知らない大天使が、
“知らなくてよかったはずの感情”に触れてしまう、
少し可笑しくて、少し切ないお正月の始まり。
クリスマスが過ぎ、静寂に包まれた天界。
その中心で、大天使ガブリエルは今日も聖務に勤しんでいた。
「うーん! 絶好調! 流石は私、大天使ガブリエル♪」
満足げに書類を閉じた瞬間、
眩い光に包み込まれ、次の瞬間――
ガブリエルは神の玉座の前に跪いていた。
神は、無窮の光の中から穏やかに仰る。
「日本の正月を理解せよ。彼の地は神道なり。
その為、そなたの恩寵は消す。」
「御意。」
ガブリエルは大天使として、即座に恭順の意を示した。
だが――その心の中では、静かに悲鳴を上げていた。
なぜ!? なぜ日本!?
“正月を理解する”!?
恩寵を封じる必要性ッ!!
何をどうすればいいのーーー!?
しかし、大天使として神に問い返すなど論外。
ガブリエルは完璧な姿勢を崩さぬまま、心の中で混乱を押し殺す。
神の御言葉は、さらに続いた。
「だが、恩寵を消したそなたを地上に降ろすのは忍びない。
大天使ルシアンよ。ガブリエルの警護の為に、お前の恩寵は残す。
ルシアン、良き働きをせよ。」
ガブリエルが顔を上げると、
そこにはいつの間にか跪いているルシアンの姿があった。
その瞳は、いつも通り理知的で――そして、どこか誇らしげに輝いている。
「ハイ! お任せ下さい! 理にかなっております!」
神の光が一層まばゆく輝いた。
ガブリエルは――目に見えぬほどの速さで、
ほんの一瞬、心の中で叫んだ。
ど・こ・がーーーッ!?
それから一秒後――。
ガブリエルは否応なしに、ハリウッドの自らの器“アンジュ”の分身と同化していた。
眩い光が収まると、目の前に現れたのはロクシー。
彼女はテーブルいっぱいにネイルの瓶をずらりと並べ、楽しげに声を弾ませていた。
「新年はどれにしよっか〜! あ! 色違いのお揃いとか良いよね♪
私、ネイル塗るの得意なの!」
アンジュが、ため息混じりに答える。
「実は仕事の関係で、正月は日本で過ごさねばならなくなったのだ……」
「日本!?」
ロクシーの目が一瞬で輝く。
「うわ、良いじゃん❤️ 女子二人旅しようよ❤️」
「本当か!? ロクシー、頼む!」
「うん、旅行の計画は私に任せて!」
アンジュが心底安心したように微笑む。
――ロクシーの瞳が、さりげなく“ドル”の記号に輝いていることにも気づかぬまま。
ロクシーは、「旅行の手筈が整ったら連絡するね」と言い残して自宅に戻った。
その足で――イレイナ専用回線のスマホを取り出し、素早く発信する。
電話口から、イレイナの不機嫌そうな声が響いた。
「何よ? 新年の慈善パーティーのはしごの準備で忙しいんだけど!」
ロクシーは怯まない。むしろ、狙い澄ましたような笑みを浮かべていた。
「イレイナ……日本の観光事業に乗り出すって言ってたじゃん?
アンジュちゃんがお正月を日本で過ごすんだって。」
一瞬の沈黙。
そして次の瞬間、受話器の向こうでイレイナが叫んだ。
「アンジュの日本旅行!?
それよ、それなのよ!!
広告代理店への最大のスポンサー獲得チャンスじゃないの!!
良いわ! 私が企画を立てる! 旅行代金も私が支払う!
ロクシー、あんたは分析係としてアンジュと同行して!
契約金は――10万ドル! どう!?」
ロクシーの口角がゆっくりと上がる。
「ハイハイ、契約成立〜!」
通話を切ると同時に、彼女は満面の笑みで呟いた。
「イレイナって……意外とチョロいんだよね……」
そして――
新たなる“神のふんわり使命”により、
天と地をまたにかけた“日本お正月ミッション”が、静かに幕を開けた。
ヴェネツィアの夜。
ルシアンは“器”の人間のクローゼットの前に立っていた。
今までは所詮“器の服”であり、柄on柄のスーツに違和感など感じたことは一度もない。
だが――ガブリエルとの日本旅行が決まったその瞬間、胸の奥が微かに疼いた。
アンジュさまに相応しい“装い”をしたい。
そう思ったのは、大天使となって数百年、初めてのことだった。
慎重に選び抜いたのは、グレンチェックの三つ揃えスーツに濃いグレーのコート。
そして茶色のマフラーを首に巻いたその時――
「ルシアン……!! カッコいい!!」
甲高い歓声が背後から響いた。
ルチアーノが、目をキラキラさせて立っていた。
「いつもの柄on柄の狂気のセンスも大好きだが……!!
お前、ヤバいぞ!?」
――ヤバい? 意味が分からない。
だが、悪い響きではない。
無言のまま見返すルシアンに、ルチアーノは顔を真っ赤にして喋り出す。
「水晶玉でイレイナの歓喜の叫びを聞いてしまったぞ!
地獄に響き渡るほどの大音量でな!
何と――アンジュちゃんの日本旅行だと!? お前も行くんだろ!?」
ルシアンは静かに答える。
「ああ。アンジュさまの警護をする」
「だよな!」
ルチアーノが力強く頷く。
「だがな、お前は大天使! 日本の知識は不完全じゃないか!?
俺様はジャパン通だぞ! 伊豆の温泉には毎シーズン行ってるんだ!
一緒に行ってやろうか!?」
ルシアンはわずかに間をおき、真顔で言った。
「なるほど。理にかなってるな」
その一言に、ルチアーノは感極まって拳を突き上げた。
全身でガッツポーズを決めながら、満面の笑みを浮かべる。
「決まりだな! 俺様の完璧なガイドで――
TOKYOラブストリー☆初恋成就、開幕だ!!」
悪魔の王の恋愛脳は、すでに日本の空を覆い尽くす勢いだった。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
明日も17時更新です☆
Xはこちら→ https://x.com/himari61290
自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪
〈ルシアンとガブリエルをもっと知りたいあなたに…〉
【完結】大天使と“ズッ友”になりたい地獄の王。 〜柄物スーツに一目惚れしてから、すべてが始まった件〜
https://ncode.syosetu.com/n5195lb/
【完結】大天使ガブリエル、地上に爆誕!〜神の命がふんわりすぎて、祈ろうとしたら迷子になりました〜
https://ncode.syosetu.com/n2322lc/
【完結】大天使たち、日本昔話に異世界転生する。〜初恋成就作戦を決行するポンコツ地獄の王に振り回されています〜
https://ncode.syosetu.com/n7024ld/
【完結】大天使ルシアン、最強捜査官になる〜神の沈黙と愛の証明〜
https://ncode.syosetu.com/n5966lg/
【完結】大天使と最強捜査官のクリスマス戦線 〜セレニスに集う者たち、愛か使命か〜
https://ncode.syosetu.com/n9868lk/
【完結】大天使と最強捜査官のクリスマス戦線〜聖夜の余白の物語〜
https://ncode.syosetu.com/n9097lm/
を読んで頂けるともっと楽しめます(^^)
こちら単体でも大丈夫です☆
\外伝の元ネタはこちら✨/
『最強捜査官』本編 → https://ncode.syosetu.com/n2892lb/




