第4話 氷の杭
「それじゃあ、出発だ!」
出発隊の掛け声と同時に、皆が「おー!」と言うので、僕もそれに合わせて「おー!」と言う。この掛け声に合わせるだけで、気持ちが楽になった気がした。
そして、調査隊はやる気満々で出発した。
調査隊の滑り出しは順調だった。暖かい羽毛で包まれた体は、この異常な寒さを一切感じさせず、この異常を解決するんだという皆の思いがその動きに表れている。
寒さをものともせず、自信満々で進む調査隊にいる僕は「これならどんな問題でも解決できる」と感じていた。
自然と歩くスピードは速くなり、どんどん南に進んでいく。
──だからこそ、気づかなかったのだろう。
「さっきから、雪がひどくなってきてないか?」
──静かに迫ってきている『本物』の異常に。
雪が、暴れている──そう思えるほどに、天候は悪化していた。
雪が雨のように降り注ぎ、地面を覆い隠していく。ふと後ろを振り返ると、足跡が完全に消えているのがわかった。
それに……。
「くそっ、視界が悪いな! 前が全然見えねぇ……!」
雪が吹き荒れているせいで、視界が悪く、すぐ近くの人影さえも白く濁って見える。
────人影?
それに気づいた瞬間、周りにいた人間が全く見えないことに気が付いた。
「…………ッ!? みっ、みんなぁっ!」
急激に不安がこみ上げてきて、思わず声をあげてしまった。だが、その選択肢は正解だった。
「どうした! 大丈夫か!?」
声が返ってきて、目の前の白が黒になり、人間の形になって、人が現れたそれに続き、ぞろぞろと調査隊がやってきた。
そのことに安心して、ホッと息を吐きだした。吐いた息が、村にいた時よりも濃くなっていることに気づいた。
「すまねぇ、気づかなかった。想像よりも視界が悪い。悪すぎる…………お前、大丈夫か?」
「ぇ?」
そういわれてやっと気づいた。体が震えていることに。
体が震えているのは、寒さのせい……いや、違う。
これは、怖いんだ。何も見えない中、調査隊という頼りにしていた皆の姿が、一切見えなかったから。一人では、なにもできそうになかったから。
そう、まるで──『無の大地』で、過ごした時のように。
一瞬凍りついていた心を再び点火させ、体の震えを止める。
「だぁ……大丈夫、だよ……」
それを見た調査隊の皆が、少し安心したかのように笑顔を浮かべた。それに合わせて、僕も自然と笑顔が出た。
「もしかしたら、今みたいに見失ったことにすら気づけてない奴がいたら大変だ。点呼をするぞ!」
調査隊はすぐに動き出し、すぐさま点呼を始める。
「……まっしろ」
点呼をしている間にあたりを見回してみると、世界が完全に白く染まっている。降り注ぐ雪が瞬く間に積もっていき、白に白を塗り重ねていく。
──このまま雪が止まらなかったら、村は雪に埋まってしまう。
「…………ッ!」
急いで頭を振って、今の思考を、消す、消え、きえ、ろ、き、き…………。
「よし、全員いるな! それじゃあ、出発するぞ!」
「……ッ」
その言葉でハッと我に返る。
そして、心に刺さった氷の杭を、見ないふりをして歩き出した。深く刺さっているのにも関わらず。
きっと、大丈夫だ。
──そして、その先でまた、氷の杭に刺された。




