第1話【大極寒】
──それは、唐突に現れた。
夏という季節に訪れた、異常な寒さ……【大極寒】。
突如として現れた寒さから逃れようと、人々は村の外へ逃げようとした。寒さで雪が降り、視界が悪いながらも進んでいったその先に、絶望を見た。
──それは、絶望という言葉とはかけ離れているほど、綺麗で、純粋な、分厚い、大きすぎる氷の壁だった。
人々は氷の壁を迂回しようと奔走したが、村の周囲すべてが壁でおおわれていた。
……逃げ場は、なかった。
それでもあきらめまいと、人々は氷の壁を壊そうとした。
しかしそこで、また絶望を見た。
壁に触れた瞬間、どんなものであろうと瞬時にすべてが凍り付き、割れてしまった。
そのとき、一人の男性が無謀にも壁を殴りつけた。
──それに対する返答は、無情なものだった。
殴りつけたその瞬間、殴った手から次第に凍っていき、声を出す間も、逃げる暇もなく凍り付き、動かなくなった。
人々は理解してしまった。
「このまま死を待つしかない」のだと。
しかし、彼だけは違った。
「ねぇ、気のせいかもしれないけど、とある方向に進むときだけ、寒くなってない?」
全方位の壁は確認した。
しかし、一つだけ確認していない、方角があった。
その方角は、北。なぜ確認しなかったのか、その理由は明確だった。
そこは『無の大地』と言われていた。
ただただ、平らで、木も、草も、石も、命も──なにもない。
ただただ「無」で「大地」だけがそこにあった。
どこまで進んでも、なにも、なにも────ない。
人々はわかっていた。なにもない所に行っても、意味がないと。
絶望の檻は、地図上では三角形の形をしていた。だからこそ、北である無の大地に行っても、壁があるだけだと認識していた。
いや、確認しなかった理由はそれだけではないかもしれない。
疲れてしまったから。どうせ消える希望に縋るのが。
知ってしまったから。逃げ場はないと。
諦めてしまったから。
もう────「助からない」。
だからこそ、人々は止めた。少年が行こうとするのを。どうせ死ぬのならば、せめて弔いはしたいのだと。
それは、人々にとって、最大の良心だったのだろう。
しかし、少年にとってそれは、なんの意味も持たなかった。
「何もしないで死ぬより、何かをしてから死にたい──いや、僕は死にたくない……! 絶対に死にたくない! こんなところで、諦めてたまるもんか!」
──少年の熱い思いが、寒さで凍った村を、溶かそうとしていた。




