お誕生パーティその6、プレゼントは 天秤《バランス》だったこと、ユータとシノノメの誕生日はよくわからないこと、でもパーティはするらしい
「はあ、食べた、食べた」アイボリーがお腹を両手でポンポン叩いている。
「満足したようでなにより」
ユータが言うと、アイボリーはニヤッと口の端を上げた。
「ぜんぜん、満足してないんですけど。休んだら、また食べる」そしてアイボリーはリリオンさんのところに行くと、隣に立ってお腹を際立たせた「どっちがおなか大きい?」
「マルのほうだよ」リリオンさんが答えた。
「マル?」
「そう、マル。赤ちゃんの名前」
「日本語の名前なんだ。ボクが考えた」インチさんが胸を張った「日本の男の子はマルって名前つけるんだよ」
「ユータはマルじゃないけど?」
「ああ、それはですね」とシノノメ「日本では、太郎丸とか日吉丸とか、名前の最後に丸をつける、そういう古風な名前の付け方があるんです。丸、だけと言うのは珍しいですけどね」
「丸は円って意味もあるからね」ユータも言う「ボクは好きだな。良い名前だと思う」
「マルはいつ生まれるの?」アイボリーが訊ねる。
「わからないよ、もう少し先だね」
「もう少し先、って明日?」
「明日じゃない、もっと、ずっと先」
「やだよ、明日にしようよ。そしたら明日もケーキ食べられる」
「マルは、生まれたばかりじゃ食べられない」
「アイムが代わりに食べてあげるよ。ねぇ、明日にしようよ」
「ケーキならボクが作るよ」たまりかねてユータが言った「明日ケーキ作ってあげるから、マルはマルの好きな日に生まれると良い」
わーい、とアイボリー「じゃあ、今日の分のケーキ、早く食べなきゃ」半分残ったホールケーキを切り出そうとするも、口を押さえた「なんか、出てきそう、そういえばお腹いっぱいだったよ」
「オマエは少し休んどけ」横からコーラルが切り出したケーキを掻っ攫う。コーラルは2口で頬張って、取り分けた小皿からケーキが消えた。
「ひどい、アイムのケーキ」
「食べられないんなら、しょうがないだろう?」
「食べちゃった。アイムのなのに」
「まだ、残ってるだろ。お腹減らしてから食べれば?」
「そうするけど…、もう食べないでね」
わかった、わかった、とコーラルが笑う。アイボリーは半ベソだ。
「じゃあさ、お腹空くまでこれで遊んでて、プレゼントだよ」
ユータが手渡した大きな箱に、アイボリーが目を丸くする。
「何? これなに?」
「開けてごらんよ」
アイボリーは大急ぎで包みを開けると、中には銀ピカの部品が数個と、説明書が入っていた。
「なるほど、これが支柱で、これが竿…、秤量皿を両端に下げて…」
テーブルの上に即席で組み上げたアイボリーは、目をキラキラさせて叫んだ「天秤だ。これは天秤」
「テーブル水平じゃないけど大丈夫なの?」ベッコウが覗き込む。
「支柱に標準器入れてあるから、どこでも置けば使える。あんまり斜めだと天秤落ちちゃうけどね」
「これが分銅だ。わぁ」
アイボリーは、猫のじゃれつく柄の透かし彫りが入った小箱を開け、ピンセットで分銅を取り出した「金色だね」
「まあね。分銅はチタンに金を蒸着してある。錆びたら使い物にならないし」ユータが答えた「分銅は10ミリグラムまでね。天秤は1ミリグラムまで測れるけど、分銅が小さくなりすぎるから使いにくい」
「いいなあ、オレもプレゼント欲しいなあ」コーラルが羨ましそうに天秤を眺めている。竿の彫金細工が気になるようだ。
「コーラルにはちゃんとプレゼントあげたじゃないか」
「もらってないけど?」コーラルは、キョトンとユータを見つめ返す。
「あげたよ。ツリーハウス」
「え? あれ、誕生日プレゼントだったの?」
「そうだよ」
「そっかあ、あれ、オレのなんだ。そっかぁ」
コーラルの頬がゆるむ。オレのなら、後でこっち持ってこないとな、コーラルは、ぼんやりと考えた。バオバブのほうはどうするか? 新たに育てたほうが良いかも。
「ワタシは? ワタシの誕生日プレゼントは?」
ーーまさか、あのハンバーガーじゃないよね
ベッコウは、少しあせっていた。シンタグマメソドロジーから出る途中、ユータと半分こしたハンバーガーは美味しかった。でも、誕生日プレゼントとは、なにか違うと思うのだ。
「ベッコウのは、最初だったし、女の子の好みよくわからなかったんで、シノノメに頼んだんだけど…」
え?
「はい、シノノメも、贈り物を差し上げるのは初めてでしたので、気に入っていただけたかどうかは…」
「もらってた」ベッコウは上着のポケットから竹細工の扇を取り出し、少し開くと軽く煽った。柑橘系の匂いがした。大きく開くとサクラの匂いに変わった「要にマイクロカプセルが入っていて、扇の角度で匂いが変わる」
「使ってもらえて嬉しいです」シノノメは優美に笑んだ。
「みんな、ちゃんとプレゼントもらってるんだねぇ」アイボリーはニコニコしながら、ケーキフォークの重さを測っている「でもアイムのプレゼントがいちばんだね。実用的だし。24・8グラムだよ、素晴らしい」
「ユータとシノノメは、どんな誕生日プレゼントもらったの?」
え? と、ユータ、シノノメは顔を見合わせる。
「誕生日にもらうプレゼントのこと?」
「そうそう、ワタシたちはユータとシノノメから貰ったけど、お父さんとお母さんからもらってるよね。それとも2人でプレゼント交換とか?」
ユータとシノノメの2人は、しばらく互いに目配せしあっていたが、ユータが、と声を出さずに口を作ってくり返すシノノメを見て、あきらめたユータが話しだした。
「シノノメとボク、誕生日ないんだよ」
ーーは?
3人に見つめられたユータは、気まずそうに話し出す。
「出産時に、お母さんたちが亜空間の中で産んだから、別に同時出産てわけじゃないんだけど、亜空間自体も別の空間だし…、亜空間は時間概念が希薄だから、どうしても誕生日があいまいになっちゃう」
「はぁ」
「ほー」
「ずいぶん、めんどくさいことするなあ」
「ねんのため、だよ」ユータは強調した「めったにあることじゃないとは思うけど、みんなの場合はシンタグマメソドロジーの滞在限界もあるから、はっきり誕生日を決める必要があったんだ。何かあっても、ボクとシノノメがいるんだから、大丈夫だし…」
「そこまで、気を使わないでも…」
「…いらんピ」
「心配性すぎっしょ、それ」
「うん、まあ…」
あれっ? 突然、アイボリーが頓狂な声をあげた「誕生日ないって、じゃあ、誕生日パーティどうすんの? ケーキ食べる回数が1回減っちゃうじゃない?」
ーーそこかよ
「あ、それは、大丈夫だから、パーティはするから、だいたいの時間はわかるから、だいたい誕生日でパーティはする」
わーい、とアイボリーはご機嫌だ。
それにしても、とベッコウは思う。だいたい誕生日とかほとんどパパとか、そういうのユータ好きだなぁ。
「そろそろ寝る時間だよ」お母さんがケーキ皿を取り上げた。
「あ、アイムの…」
「ちゃんと取っておいてあげるから、今日はもうおしまい。早く寝るの。明日、学校あるでしょ」
はーい、と、みんな寝室のほうに向かった。途中、アイボリーが訊ねてきた。
「ねぇ、学校って何するの?」
みんな一瞬、困った顔をしたが、コーラルがぶっきらぼうに答えた「行けばわかるよ、たぶんな」




