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宇宙大回転マッハシステム ―― 第3象限  作者: 二月三月


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2/21

保健室へ行こうその1、もしくはシンタグマメソドロジーの知識が現実とマッチしないこと、ひるがえってダブルワークはたいへんかも


「はーい、みなさん、おはようございます」


 (しるべ)先生は今日も元気だ。となりには何故か、管理人さんがモジモジしながら立っている。


「新しい先生を紹介します。保健室の先生です」


ーーえ?


 よろしくね、と管理人さん、もとい、保健室の先生(ヽヽヽヽヽヽ)が頭をかいた。照れている。


「というわけで、保健室の先生が赴任されました。みなさん、困ったことがあったら、何でも保健室の先生に言ってください。いいですか? 保健室の先生に言うんですよ。大事なことだから2回言いました。(しるべ)先生に言ってはいけません。そういうめんどくさいことは(しるべ)先生は何にもしません。それではみなさん…」


 自習です。と言って(しるべ)先生は、いそいそとPTA席のほうに移動したのだが…


 PTA席にはパレアナさん(ユータのお母さん)ではなく、シノノメのお父さん(ヽヽヽヽヽヽヽヽヽ)が座っていた。


 シノノメのお母さん(シルベ先生)は、シノノメのお父さんの前の席に着き、うっとりと、自分の夫(最愛の人)の顔を見つめている。


 ベッコウは、恐る恐る、隣に座っているシノノメの顔を見た。能面のような生気のない顔で虚空を睨んでいる。


 初登校以来、もっともスリリングな状況に、ベッコウは膝ががくがくと震えた。




「先生、保健室の先生」


 保健室のドアを開けてベッコウが部屋に転がり込んできた。


「どしたの? ベッコウちゃん、具合悪いの」


「具合悪い、ってか、あんな部屋いられないよ。恐ろしい」


「ええ?」


 先生は驚いているが、彼女は吉祥家の内情なんか知らないわけで、そんなこと、いくら保健室でも愚痴れるような話ではない。


「恐ろしい、って言えば」ベッコウは話題を変えた「この間、オバケ見ちゃって」


「ええええ? 月見台(ムーンゲイザー)にオバケなんていないよ」


 おや? とベッコウは訝しんだ。シンタグマメソドロジー内の学習では、会話の途中で話題が途切れたら、オバケの話が鉄板、と聞いていたのに。


「います、います。ちゃんとこの目で見たし。キンギョ鉢逆さにしたようなガラスの丸いのかぶって、マシュマロマンみたいな空気で膨らませた服着て、空中に引っかかってた。コイントスもいっしょに見た。オバケです」


「なんか、それ宇宙服ぽくない? 宇宙人でしょ、それ」


 宇宙服=宇宙人、て先生もたいがい(ヽヽヽヽ)だ。


「ぜったいオバケですよ。宇宙人なわけない。あんなカッコした宇宙人なんていません。宇宙人はもっとカッコいいし」


「カッコいい、って見たことあるの?」


「パパとママは宇宙人です」


「は?」


「インチさんとリリオンさんです」ベッコウは言った「2人とも宇宙人です」


 もともと、ほとんどパパ、ほとんどママ、と言っていたのだ。でも、赤ちゃんお腹にいるんだし、もうパパとママなんだから、めんどくさいから、ベッコウはパパとママと呼ぶことにしたのだ。


「2人ともシンタグマメソドロジーにいたの。第1世代デザイナーズチルドレンも含めて、地球人でシンタグマメソドロジーにいた人なんていない。だから2人とも宇宙人なの」


「ええええ? じゃあ、オバケ本物?」


「え?」


「先生、オバケ苦手なんだけど、ベッコウちゃん、怖くないの?」


「何がです?」


「オバケ、怖くないの」


「オバケいるんですか?」


「いま、いるって言ったじゃない」


「じゃあ、オバケ、ホントにいるんですかぁぁ」


「そう言ったの、ベッコウちゃんじゃないぃぃぃ」


「オバケ、嫌ぁぁぁぁ」


「きゃぁぁぁぁ」


「きゃぁぁぁぁ」




「ベッコウ、いたでしょ」


 保健室に顔を突っ込むなり、コーラルが言う。


「うん、ついさっきまでいたよ」


「悪口言ってたろ」


「えー、言ってないよ」


 いいって、いいって、知ってるから、などと、勝手なことを言ってコーラルは、保健室に入ってくる。


「先生ってさあ、管理人辞めちゃったの?」


「え? 辞めてないけど」


「辞めてないの?」


「昼間はメロちゃんがやってくれてるので」


「最近、メロゴールドが忙しそうにしてるの、それか」


「それだ」


「昼間って、夜は?」


「肥料の仕込みとか、温湿度データの解析とか、酸素量とか、そういう地味なのしかやってないから、それほど負担じゃないよ」


「……死なない程度に頑張ってね」


 でさあ、と患者用のイスにふんぞりかえったコーラルは、無理しなくていいんだよ、と何もかもわかったような口調で言う。


「ベッコウがオレの悪口言ってるのは知ってるから、とにかく、わかってるから」


「ベッコウちゃんは、悪口なんか言わないよ」


「あ、悪口じゃないのか…、なんて言うんだっけ…、とにかく、うるさいんだよ。…靴下履けって」


「靴下? ああ…」


 コーラルは両足を突き出すと、両足指を開いてパーにした。指の隙間がはっきり開いている良いパーだ。


「すてきな足の裏だね」


 ありがとう、コーラルは言うと、にかっ、と笑った。


「でもさ、コーラルちゃん、ダンベルトレーニングしてるでしょ。裸足だと危なくない?」


「トレーニング中は、ちゃんと芯入りのシューズ履いてるよ」


「じゃ、普段も靴下履けば?」


「くすぐったいもん」


「そかー」


「それにベッコウの理屈が変なんだもん」


「そなのか」


「もう、お姉ちゃんになるんだから、ちゃんと靴下履けって、意味わからん」


「ああ、リリオンさんの赤ちゃんね。お姉ちゃんか、まあ、そうだね」


「ベッコウの言い分だと、オレとベッコウが姉妹(きょうだい)ってことになるじゃん」


姉妹(きょうだい)みたいなモンでしょ」


姉妹(きょうだい)みたいなモンと姉妹(きょうだい)は違うっしょ」コーラルは力説した「ま、リリオンの赤ちゃんときょうだい(ヽヽヽヽヽ)なのは構わないけど…」


「育ての親が、結婚したんなら、きょうだい(ヽヽヽヽヽ)でいいんじゃないの?」


「ぜったいヤダ」コーラルは絶拒(ぜったいきょひ)「10日しか誕生日違わないのに、えらそうに説教してくるんだぞ、あんな姉さん、いらない」


ーーあー、2人の間では、そういう関係性なのか


 姉妹(きょうだい)の話はともかく、ベッコウちゃんの言い分もわかるけどなー。先生は、しばし考えたが、ふと気になることがあったので訊いてみた。


「コーラルちゃんてさ、風邪ひいたことある?」


「かぜ?」


「うん、咳出て、熱上がるやつ」


「うーん」コーラルは腕組みして考えている「ないんじゃないかな。シンタグマメソドロジーには、細菌もウィルスもいないから」


「あのね、生まれたばかりの赤ちゃんてね。手足がすぐ冷たくなるんだよ。だから、風邪ひかないように、手袋(ミトン)靴下(ソックス)を履くんだ」


「風邪ひかないように?」


「そう、風邪ひかないように。リリオンさんはシンタグマメソドロジーは使わないつもりらしいし、これから宇宙に行く。宇宙は寒いからねー」


「シンタグマメソドロジーでも、足冷たいことあったよ」


「そのときは、どうしてた?」


「メロゴールドが抱いてあっためてくれた」コーラルは思い出したようだ「そっか、コイントスだと両足あっためるのは無理そうだもんな」


「うん、赤ちゃんは、すぐお兄ちゃんやお姉ちゃんのマネしたがるからねー。くすぐったいのは大変だろうけどさ」


「赤ちゃん、産まれるまでは、まだ時間あるからなー、まあ、頑張ってみっか」


 がんばって、お姉ちゃん。保健室を出ようとするコーラルの背中に応援の声がかかった。



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