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宇宙大回転マッハシステム ―― 第3象限  作者: 二月三月


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11/21

学校へ行こうその8、シンタグマメソドロジーとシノノメの秘密、それから天狗攫い、取り替え子、さいごに伝伝手《でんでんでん》と鳴る太鼓


「おはようございます。本日はアイボリーくんが風邪でお休みです」(しるべ)先生が悲しそうに告げた「授業もお休みにしようかと思いましたが、よく考えたらアイボリーくんは、あまり今日の授業と関係ないので、みなさん、後でアイボリーくんに教えてあげてください」


 どう返答したものか、皆、考えあぐねているうちに、シルベ先生はサクサク授業を始めてしまう。


「今日はシンタグマメソドロジーについてですね。シンタグマ(ヽヽヽヽヽ)は言語の表現単位要素の集合みたいなものです。パラディマと合わせて言語を構成するのだ、とかなんとかいう話しが出てきますが、簡単に言えば意味のない言葉(ヽヽヽヽヽヽヽ)とでも思っていただければよろしい。一方、メソドロジー(ヽヽヽヽヽヽ)ですが方法論などとも言います。ものごと(ヽヽヽヽ)をなすべき時に順序立てて結果を得る方法とでもいいますか。一般的には言語を用いてやり方を伝達するといった感じと思ってください。ここまでの説明を統合しますと、シンタグマメソドロジーは、教育(ヽヽ)から意味(ヽヽ)を抜いたものということになります」


「先生」


「はい、なんでしょう、ベッコウちゃん」


教育(ヽヽ)が一般的な教育の意味からかけ離れているので、そこから説明してください」


「わかりました。教育ですね」シルベ先生は微笑みながら言葉を続けた「ここで言う教育とは、一方的に正解を押し付けることです。機械学習で言うところの教師信号に相当すると考えてもらうとスムーズですね」


「それで、何か不都合が?」


「正解と言われているものが、たいてい間違っているからですね」


「どうして間違っていない正解(ヽヽヽヽヽヽヽヽヽ)を教えないのですか?』


そんなものはない(ヽヽヽヽヽヽヽヽ)からです」


 さて、話しを戻しましょう、とシルベ先生は簡単にベッコウの質問を片づけた。


「シンタグマメソドロジー、具体的には

亜空間(スュードスペース)変調のひとつです。亜空間(スュードスペース)がないと構成できませんから付加価値情報のひとつであり、当然、アレシボリプライにその内容が記述されています。アレシボリプライにはシンタグマメソドロジーなんて言葉は入っていませんから、その効果から命名された後付けの名前です。シンタグマメソドロジーはデザイナーズチルドレン養育のための専用空間です」


「なぜ専用空間が必要なんだ?」


「はい、コーラルちゃん、そこがかんじんかなめ(ヽヽヽヽヽヽヽ)です」


「あ、ども」


「いくら潜在能力の高い幼児がいたとしても、きちんと育てない限り、たいしたものにはならない、ということです。オオカミに育てられた娘が人間になれなかったように…」


「先生、狼少女の話はウソです」


「はい、ウソです。みなさんも簡単に大人の言うことを信じてはいけません」


「ユータの父ちゃんは、もう少し信じやすいことを言う方が良いと思うぞ」


「お父さんは、ウソをつく理由がないんだよ。だからホントのことだけ言ってしまうんだ。最近はおいしい食べ物の話を主にするように勧めてる」そしてユータはコーラルからシルベ先生に視線を移した「シンタグマメソドロジーの本当の機能の説明をお願いできますか? 名前からおおよその検討はつくとはいえ、中に居た(ヽヽヽヽ)人と、外から眺めていた人とは、だいぶ感覚も違うと思うので」


「そうですね。中にいた人がいるのですから、中のことは中の人に訊いてもらって、ここでは外からみたシンタグマメソドロジーについて説明しましょう」


 教壇の黒板がひっくり返ってスクリーンになった。ヴィジョンが展開されて、赤ん坊が泣いている。


「赤ちゃんが泣いていますね。べつに機嫌が悪くて泣いているわけではありませんよ。赤ちゃんはとくに理由もなく泣きます。大事なのは赤ちゃんが泣いていることではなく、周りの反応です」


 ヴィジョンの中に大人が現れた。お父さんとお母さんだ。お父さんが赤ちゃんを抱っこしたり、お母さんがおもちゃのガラガラを振ったりしている。


「泣き止みましたね。抱っこされて揺れていて、何だかいつもと違う。目の前のおもちゃも面白そうです。これを何度か繰り返すうちに、泣けば何か状況が変わる、ということを赤ちゃんは覚えます。とりあえず、状況が不満であれば泣く。でも、何が不満なのかがこの時点では赤ちゃんはわからないのです。おなかが減っている時におもちゃを持ってこられても赤ちゃんは泣き続ける。逆に抱っこしてほしいときに、おっぱいを押し付けられても困るわけです。だから泣き止まない。コミュニュケーションは難しいですね」


「泣いてもなにもしなかったら、どうなりますか?」


「つかれて泣き止みます。泣く、と言う行為は体力を消耗しますからね。赤ちゃんに泣かれるのが嫌なら、泣かれても放っておけば良いです。そうすると泣かなくなります。しばらくすると餓死します」


「できれば、餓死はなし(ヽヽ)の方向でお願いします」


「わかりました。では死なせない方向で。定期的にミルクを与えて泣くのに反応しない場合でも泣かなくなります。ミルクは泣こうがわめこうが時間がきたら与え、一定時間与えて飲まなければ与えるのをやめます。繰り返すと定時にミルクを飲んであとは何もしなくなります。それだけ繰り返すと泣かない赤ん坊になります。でも、抱っこしたり、あやしたりと、いろいろアクションをとると、また泣くようになります。ここで、泣くというのがシンタグマで、状況が変わる、というのがメソドロジーです。メソドロジーとして、ミルクをもらう方法、抱っこしてもらう方法、遊んでもらう方法、いろいろあるわけですが、赤ちゃんのほうは、泣くか、泣かないか、言語が2種類しかないわけです。生まれたては、手足も対して動かないし、泣くしかできないですからね。だからチカラいっぱい泣くのです」


「ほんとかなあ。そんなんで、ほんとに泣かなくなるの?」


「本当です。シノノメ(自分の娘)で試しました」


 え?


 皆、ギョッとして、シノノメのほうを見た。


 シノノメは、すん、として何事もなかったかのごとく正面をむいたままだ。眉ひとつ動かさない。P T A席で気まずそうにガントー(シノノメパパ)さんが苦笑している。


ーー鬼畜かな、この親


「シンタグマソドロジーは、嬰児から幼児、小児まで、シンタグマメソドロジー内に存在する生命に対して有効と考えられるリアクションを全て取ります。そして赤ん坊は選択していく。ですから、シンタグマメソドロジーはデザイナーズチルドレンの育成に欠かせない空間なのです。ただ…」


 シルベ先生はめずらしく言いよどんだ。しばし赤ちゃんを囲んで楽しそうにしている夫婦のヴィジョンを見つめていたが、急にヴィジョンが切り替わり、日本の妖怪が映し出された。


「ベッコウちゃんやコーラルちゃんのいたシンタグマメソドロジーは人工的(アーティフィシャル)なものなのですが、実は天然にシンタグマメソドロジーに相当するものが、いくつかある、もしくはあった(ヽヽヽ)と言われています」


 シルベ先生は手をあげてヴィジョンの妖怪を指した。


「これは天狗です。200年ほど前の日本の少年・寅吉が7歳のときに天狗に攫われて数年後に帰還し、神通力を得たという言い伝えがあります。他にも狐にそだてられた子供、山姥という女鬼に育てられた英雄譚もある。英国では妖精の取り替え子(チェンジリング)の伝承があって、世界各地に異界で育った特異能力を持った子供の話があるのです」


「ただの昔話では?」


「そう、そうかもしれない。ただ、境界を持った空間をその性質、固有値から推定するのはたいへんです」


「ディリクレの太鼓ですか」ユータが朗らかに笑った「あれは、でんでんでん(伝伝手)と鳴るんです」


 どこかで聞いた話だ、ベッコウは思った。どこで聞いたのかはけっして(ヽヽヽヽ)思い出せないけれど。



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