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十八、悪役登場

 ブリグストンズ最悪の犯罪者にして、邪教ミズダヤスト教(湯ダヤ教をもじって、キリ○ト教とくっつけた最低のギャグ)の教祖であるペテロギウスは、隠れ家にしてチルアウトゾーン支配の根城、かつ地獄の門をひらくための式典場たる、とあるうす暗い洞くつの奥で、大変いきどおっていた。あまりにも説明的文章だが、こんな奴どうでもいいので、必然的に説明もテキトーになる。


 それほどまでに、このペテロギウスという男は、邪悪を絵にかいたようなつらがまえであった。彼は今、いかにも教祖らしい白装束に身をつつみ、このいかがわしさと冒涜的臭気がぷんぷんにたぎるほら穴の土壌に突っ立ってこぶしをにぎり、じだんだを踏んで怒っている。顔中にいくつも走る深い掘りに、どす黒い闇を流しこんだような顔は、不気味さと不吉さを、闇夜のホタルが発光するようにちらちらかもしている。ぶあつい唇から、ときおり野獣の牙のような犬歯がのぞき、刺すように鋭い目は殺意を感じさせてまがまがしく、見る者をすべからく心胆寒からしめた。それは頭に角がはえていないのが不思議なくらいに、悪魔そのものの風ぼうであった。

 彼は今、目の前でこうべをたれる、同じく白装束の部下を指さし、低くドスのきいた声で怒鳴っているところである。


「きさま、これはどういうことだ! アシザワ・カズキが幼い娘をつれて漫遊しているというから、娘を誘かいしてこいと言ったのに、なんだ、これは!」

 手をひろげて指し示した先には、洞くつの壁に両手を鎖でつながれ、座りこんでいる桃香がいた。もう意識は回復しているが、どうやら自分が危険にさらされている事態だと直感し、気を落ちつけようと胸に手をあてたところだった。とたんに違和感がして、すぐに気づく。

(あ、そうか、巨乳だったんだ……)

 バカなことをしてしまったのを思い出したが、今は落ちこんでいるひまはない。目の前で、どう見ても悪人としかいいようがない奴が、自分を監禁して騒いでいるのだ。


「どう見ても、大人の女ではないか! まさか、ひとちがいしたんじゃあるまいな?!」

「とんでもございません、ペテロギウス閣下」

 頭をさげたまま言う部下。その白いあごひげをたくわえた顔は、けっこうな歳のようで、おびえているようすはない。なぜか教祖を「閣下」と呼んでいる。

 彼は顔をあげ、続けた。

「これが、れっきとしたアシザワの娘であることは、調査で判明しております。おそらくなんらかの理由で、ここの魔法使いに大人にしてもらったと思われます」

「さては、我々の計画に勘づいたか。恐ろしい奴だ」とあごをしゃくる教祖。


「しかし、計画がもれたとは思えません。たんなる偶然かと」

「それですむか! 子供をいけにえにささげないと、地獄の門はあかないのだぞ! 無数の死者を呼びこんであやつり、この世界のすべてを支配する計画が、オジャンではないか!」

 そして腕ぐみし、イライラと言う。

「マキゾネのやつめ、ゾンダーから未成年をすべて移動させおって、せっかく子供が手に入ったと思ったら、こんな超グラマーなネエちゃんだと?! だいなしだ!

 そうかアシザワめ、やはり計画に勘づき、マキゾネに子供を隔離するよう進言したにちがいない。どこまで鋭いやつだ。さすがはチルアウトゾーンの救世主と呼ばれるだけのことはある」


「おそれながら、それもございますまい」と部下。「マキゾネ市長が子供を隔離したのは、おそらく地獄の門の言い伝えを知っていたからに過ぎません。我々がゾンダーへ潜入したという情報は、彼らにも入っております。儀式をさせないよう、先手をうったのでしょう」

「『幼き子の身がらをささげしとき、地獄の門はひらかれん……』」

 遠くを見て、ぎょうぎょうしく言うペテロギウス。

「そうだ、なんとしても、いけにえは子供でなくてはならん。こいつの魔法を解く方法はないのか?」と桃香を手でしめす。

「情報では、カツラ横丁の魔法使いで、エスクリックいちの名手と言われるガンダルポッター(ひでぇ名前)の店でかけられた模様です。やつの魔法は、最低でも一日はしないと解けません」

「それまで待てるか! 今が門をひらくには、いちばん良い時間なのだ。俺の体内レーダーが感知しておる。

 儀式の準備だ! ガンダルポッターを連れてこい! 脅してでも、こいつを今すぐガキにもどさせるのだ!」

「その必要はないぞ」


 ふり返った二人の目は、驚きに見ひらいた。だが岩山の桃香のそれは、喜びにかがやいた。

 洞くつのまんなかに、一人の細身の男が立っていた。

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