なにかな・なにかな~しろねこの坊や ふわふわミルクの冒険
冬の童話祭2025 参加作品です。
ふわふわミルクはしろねこの男の子。
あわだてたミルクにそっくりなふわふわの白い毛につつまれた、金色のひとみをいつもキラキラさせている、元気いっぱいの子ねこです。
ミルクは今日も、こげ茶色の毛に黒いひとみのふたごの妹・ほっこりココアちゃんとおうちの中でたんけんごっこをして遊んでいます。
しゅっぱーつ!
あ、ここはなにかな・なにかな?
ふたりはそぉっと、とびらを開けます。
ひんやりとした空気が流れ出てきました。
「ミルクたいちょう。ここはなにをするところでしょうか?」
隊長で博士であるミルクの助手役・ココアちゃんは、かしこそうな黒いひとみでまっすぐミルクを見つめ、たずねました。
「うむ」
ミルクはすきとおった細いおひげをぴくぴくさせ、もったいぶって答えます。
「ここはおふろ場。体をピカピカにするところだよ。火と水の魔物を閉じこめておゆや水を作らせているから、いつでも気持ちよくおふろに入れるんだ」
「魔物?」
ココアちゃんはびっくりしたようにまばたきをしました。
「ここには魔物が閉じこめられているんですか? こわくないですか?」
「こわくなんかないさ」
ミルクは胸をはって答えます。
「魔物たちはよーく飼いならされてて、ちゃんと言うことを聞くからね。そりゃあ確かに魔物だから、きちんとあつかわないと大あばれしてあぶないこともあるって、マ……じゃなくて、えっと、知り合いの魔女は言ってたけど」
ココアちゃんは深くうなずきました……が。
なぜか首をかしげます。
「魔物たちがおとなしいのはわかりました。でも、じゃあなぜミルクたいちょうは、おふろのたびに泣いているんですか?」
「え?」
ドキッとしながらミルクは、妹の黒いひとみをのぞきこみます。
「ほら、ミルクたいちょうはおふろ場で、よく泣いているじゃないですか。たしか『頭あらうのいやーっ』て……」
「あわわわわ」
ミルクは急にあわてはじめました。
「あああ、あれはその、なんだ。おふろ場の魔物とは別の、ぼくだけにある、おもわず泣いちゃうくらい、きびしいたたかいなんだよ。ココアは妹だから知らないと思うけど、この世にはね。きょうだいの内で一番上のお兄ちゃんだけが、おふろ場でたたかう使命があるんだよ、あははは……」
信じていない顔をしているココアから目をそらし、ミルクはちょっとわざとらしく、せきばらいをしました。
「えっへん、おっほん。あー、それじゃあそろそろ次へ行こうかな。ああ、いそがしい、いそがしい……」
次に開けたとびらのむこうも、おふろ場ほどではありませんが、どことなくひんやりした空気に満たされていました。
「ミルクたいちょう、ここはなにをするところでしょうか?」
「うむ」
ミルクはまた、すきとおった細いおひげをぴくぴくさせ、もったいぶって答えます。
「ここはキッチン。ご飯やおかずを作るところだよ。スイドー大滝やコンロー火山の力をつかって、おいしいものを作るのさ」
「わたしたちだけでも作れますか?」
ココアちゃんがたずねると、ミルクは重々しく首を横にふりました。
「ぼくたちだけじゃ、まだダメだ。おにくやおさかな、おやさいを切り刻む、ほうちょうの剣を使いこなせなきゃといけないし、大滝や火山の力も、自由自在に使えなきゃならないからね。パ……じゃなくて、えっと、勇者、とか、いろんな魔法を使いこなしちゃう魔女とか、えらばれし大人とパーティを組まなきゃ」
「そうですね」
ココアちゃんはうなずきます。
「リーダーに決められたお役目を、パーティの中できちんとはたすのが大事ですよね。……そういえば。ちょっと前にミルクたいちょうは、コンロー火山の上に乗っているおなべへ、かってに手を近づけて……」
「あわわわわ」
ミルクは急にあわてはじめました。
「あああ、あの時は。ママ、じゃなくて、魔女が。すっごいカミナリを落としてくれたおかげで、ぼくはやけどひとつしなかったじゃないか。いやだなあ、ココアくん。きみは、つまらないことばっかりおぼえているんだねえ」
ココアはくいっと、かけてもいないメガネのつるを上げるようなしぐさをしました。
「ええ。わたしはたいちょうの助手で、秘書ですから。たいちょうのことは、いろいろとおぼえておくのがお役目なんです」
「……助手とか秘書って、そんな役目だったっけ?」
ぶつぶつとミルクはつぶやきましたが、ココアちゃんにかるくにらまれると、
「ああ、いそがしい、いそがしい」
といいながら、つぎのとびらへ向かいました。
リビングダイニング。寝室。こども部屋。トイレ。
おうちのいろいろな場所をたんけんしました。
さあ、ついに最後のとびらを開きます!
カチャッ。
わあ、おそとだ!
ひろーい!
「うむ。よーしココアくん。これからさきはおそとのたんけんだ。さあ、あたらしいぼうけんへ、しゅっぱーつ!」
ふたりはなかよく手をつないで、あたらしいぼうけんへと出かけてゆきました。