23話 体術の先生
私達は進学して、二年生になった。
一年生の頃は他のクラスの子から嫌がらを沢山受けていたが、レオと仲良くなってからは格段に減った。レベリオ家の嫡子とは、かなりの権力を持っているらしい。
ベリタスとも仲良くなった。
なんでか彼は私へ好意的に接してくれる。何か困り事があれば、すぐに駆け付けてきてくれる紳士だ。
長い前髪で顔は隠れているが、本当にかっこいい男の子だと思う。
そして、フォルティアとも仲良くしている。二学年初日の今日だって、寮へ迎えに行き、一緒に登校をした。
――いつもと変わらない日常のはずだった。
「セルフィア!一時限目、緊急の全校集会だって!」
だから、いつも通りに私はセルフィアへと話しかけた。
一緒に移動しよう、という意味を込めて話しかけたその言葉に、いつもの反応は返ってこなかった。
「――だから、なんですの?」
「……え?」
冷たい声に、私は頭が真っ白になった。
目の前のセルフィアの顔は、声と同じくらいに冷めきっている。
「え、えっと……セルフィア?」
「……私、先に行きますわね」
戸惑いながら話しかける私を無視して、セルフィアは横を通り過ぎて教室を出て行った。
――何、今の。
今まで見た事のないセルフィアの態度に、私の胸がドクドクと音を鳴らしている。
「……セルフィアちゃん、なんか様子おかしかったね」
「うん。なんか、怒らせるようなことしちゃったかな」
「だとしたら、さっさとお前に言うだろ。アイツはそういう奴だ」
やり取りを見ていたらしいフォルティアとレオの励ますような声に、私は頷きつつも胸に手を当てる。
――なんだろう。なんか、すごくもやもやする。
……とりあえず、今はフォルティアと一緒に移動しよう。
そう決めた私は笑顔を取り繕って、フォルティアと共に教室を出た。
ベリタスが心配そうに私を見ていたのには気付かないふりをした。
緊急の全校集会により、私達は講堂に集められた。
――新学期早々に緊急の集まりだなんて、何かあったのかな。
私の考えている事は、周りも考えている様だ。周りの子達も「何の集会だ」とざわついている。
「なんかあったのかな」
「さぁ……」
フォルティアと横並びで席に座ると、「静かに」という声が聞こえて、壇上を見る。
壇上にはいつも通り微笑んでいるフィデスがいた。
「皆さん、おはようございます。さて、こうして急遽、全校集会を開かれて、皆さん困惑している事でしょう。これからその説明をさせていただきます」
言い切って、フィデスは舞台袖へ視線を向け「こちらへ」と、誰かに話しかけた。
フィデスの声掛けに、舞台袖から誰かが出てくる。
その人物は、背が高く、長い黒髪を低い位置で束ねた美しい男性――。
「――は?」
「皆さん、初めまして。僕の名前はユーリ。今日からこの学校の先生になります。どうぞ、よろしく」
……そこには、人好きのする笑顔を張り付けた私の体術の師匠――ユーリがいた。
――いやいや、待て待て。なんでこの人がいるの?ってか先生?は?
頭の中がパニック状態になる。
横にいるフォルティアが何か話しかけてきているが、うまく聞き取れない。
そんな私をお構いなしに、フィデスは新しい爆弾発言を投下する。
「ユーリ先生には、これから特待生クラスにのみ新しく追加になる〝体術〟の授業の担当になってもらいます。来週から新しい時間割で授業は行われますから、皆さん、間違えないように。ドクトリーナは、時間割の配布をお願いします」
「体術の授業……!?」
――なにがどうなっているんだ。
ぐるぐると混乱する頭を他所に、ユーリと目が合った。
「ふふっ」
声を漏らし、麗しく微笑むユーリの顔に、女子生徒達の悲鳴が上がった。
――これ、知り合いってバレたら、妬まれたりすんのかな。
こちらを見つめ続ける視線に、私は勢いよく目を逸らした。
隣にいるフォルティアが不思議そうに見てきたが、今は気にしている余裕はなかった。
*
「こちら、体術の担当をするユーリ先生よ!皆、挨拶してー」
「特待生クラスの皆さん、初めまして。ユーリです。よろしくね」
――教室に来た、だと。
私は目の前の現実が受け入れられず、遠い目になってしまった。
いや、嬉しいんだよ?仲の良い知人が学校生活に加わるのだ、そりゃあ嬉しい。
しかし、この人は女子受けが良すぎるのだ。……仲良くしている所を見られてしまえば、鎮火していた嫌がらせがまた多発するかもしれない。正直、それは嫌だ。
――でも、仲良くはしたい。
葛藤が生まれる私を他所に、ユーリはこちらへにこりと微笑んだ。
「リリア、久しぶりだね」
「うっ」
ユーリの言葉に、クラス中の視線がこちらへ向いた。
フォルティアに関してはキラキラとした瞳で、レオは「お前の知り合いか?」とでも言いたげな瞳をしている。……や、やめてくれ。
「……ユ、ユーリさん。本当、お久しぶりですね」
「そうだね。リリアが帰ってこないから、シルワが寂しがっていたよ。長期休暇は顔出してあげてね」
「は、はい」
爽やかな笑みに、私は乾いた笑いで返す。
〝どんな関係なんだ〟とでも言いたげな視線が突き刺さる中、動いたのドクトリーナだった。
「ユーリ先生とリリアって知り合いなんですか?」
「ええ、リリアは僕の体術の弟子でして。彼女のもう一人の師匠、アロウさんとも知り合いです。ここの教員になったのも、アロウさんに勧められて来たんですよ」
「へぇ、そうだったんですか~」
――そうだったのか。
興味津々な様子のドクトリーナと同じリアクションを心の中でしながら、私は溜息を吐いた。
どうせ、体術が授業に組み込まれたのも、アロウの考案なのだろう。
そう思っていると、「先生」と声が上がった。見ると、レオが挙手をしている。
「レベリオ君、なにかしら?」
「俺達、魔法使いを目指してるんですよね?体術なんて必要なんですか?」
「……うーん、それは私も同感なのよね」
レオの指摘に、ドクトリーナは微妙な顔つきで賛同した。
――担当教師であるユーリが目の前にいるのに、この二人は本当に正直だな。
しかしユーリはそれを気にした様子もなく、微笑みを浮かべたまま口を開いた。
「魔法使いというのは接近戦に弱い。魔法使いは生まれつき体が弱いと聞くし、猶更だ。もしそんな魔法使いが、魔法を使えない状況に陥ったら?もし相手の方が格上で、君達より素早く動ける奴だったら?――君達、魔法使いに待っているのは〝死〟だ」
「死……」
ユーリの言葉に、教室は静まり返った。
私は以前、この言葉をアロウから聞いた事があった。
しかし、周りは違う。きっと、こんな事、考えた事もなかったのだ。
空気が重くなったと感じたのだろう、ユーリは「でも」と明るい声で続けた。
「もしかしたら、子供の内から鍛えていれば、それも変わるかもしれない。もちろん良い方に、だ。……君達が将来、どの道を歩むのか、僕には分からない。でも、体術は習っておいて損はないよ?冒険者とか、がんばれば結構、稼げるし」
「冒険者……!」
ユーリが付け加えた一言に、レオが呟く。
良く見れば、その顔はキラキラと輝いていた。……もしかして、冒険者に憧れているのだろうか。
ユーリも、それに気付いたのだろう。
ふっと微笑んで、彼は誰もが見惚れる笑顔を顔に浮かべた。
「――皆、これからよろしくね!」
「はいっ!」
――なんか、テンション上がってない?
ユーリに大きな声で返事をしたレオを見ると、彼は依然、キラキラとした瞳でユーリを見つめていた。
……ちなみに、ユーリの言葉に返事をしたのはレオだけだった。
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